「東京国税局の税務調査で発覚」~そこからツラツラと、まとまりなく~
1 三菱電気元従業員を逮捕ー架空発注10年続ける
見出しの新聞記事が目にとまりました。平成28年6月9日日経新聞の朝刊です。
58歳の元従業員が警視庁に詐欺容疑で逮捕されたようです。
記事によると、手口はこう。
JR東海から新幹線のインターネット予約システムの保守業務を三菱電気が受けたところ、一部を知人が経営する会社に架空発注し、三菱電気がこの会社に支払った代金約2000万円を自分の口座などに環流させていたとのこと。被害者は三菱電気で、詐欺容疑ということです。
こうした事実は2013年の東京国税局の税務調査で発覚、その後、三菱電機の内部調査で被害額が約4億6000万円に上ることが判明したとのこと。
2 自社では発見できずに、税務調査で発覚
税務調査によって企業内での従業員による横領や詐欺が発覚というのはよくある話です。今回は、三菱電機という大企業であるということと、10年間も不正がわからなっかたということ、被害額が4億円を超えていることで報道されいるのだと思います。
実際は仕事をしてもらっていない、にもかかわらず取引に基づくものとして費用を支払った、あるいは経費として計上した、そして法人税法上の損金の額に算入して申告した、これがいわゆる「架空外注費」です。
今回の架空取引の内容は、「インターネット予約システムの保守業務」です。第会社ですので、知人会社との契約書等はしっかりと交わされ、見積書、請求書、領収書などの書類関係は整っていたものと思われます。
また、取引先の会社そのものは、知人の会社とのことなので、実在して稼働している法人、しかも業務内容は、保守業務を請け負えるだけの会社だったのではないかと推測されます。
目に見える物、目に見える作業をめぐる取引であれば、請負業務等の有無は確認しやすいです。仕事がなされたか否か確認しやすいものです。
しかして、インターネット予約システムに関することである、つまり、ネットのプログラム等の世界です。目に見えにくい。さらには、そのソフトの開発ならともかく、保守業務です。何を持って作業をしたと言えるのかが目に見えにくい作業となります。
なので、三菱電気そのものも10年間も騙されていたとこに気づかなかったのでしょう。
それがなぜ、東京国税局の税務調査で発覚したのか。
3 国税の調査
国税の調査については、国税通則法の74条の2以下に規定されています。
「調査について必要があるときは」「質問し」「検査し」「提示若しくは提出を求めることができる。」とあります。
なぜ、この架空発注に気づいたのか。
誤魔化しやすいインターネット関係に的を絞り、外注先とその業務内容を調べていったのか。詳細は分かりません。
いずれにしても、法人税の税務調査としては、申告納税制度のもと、正しい申告納税がなされているか否かです。
架空の取引に係る外注費ということであれば、法人税法22条1項、3項「損金の額」への算入を否認されたということでしょう。
2000万円の対価に見合うサービスの提供等はなかったということでしょう。ということは、この外注先がなくても、JR東海に対するサービスは十分に提供できていたということなのか。分かりません。
JR東海が三菱電気に発注したサービスそのものも、実は、三菱電気からJR東海に提供されていなかったとしたら。
JR東海が支払った外注費の扱いは架空外注費でしょうか。この場合は、単なる三菱電気の債務不履行の問題になります。
4 架空外注費と債務不履行と「仮装」
仮定として。
① JR東海 ー 三菱電機
経費 ⇒ 金
← *役務提供無し
② 三菱電気 ー 知人会社
経費 ⇒ 金 ⇒金…三菱電気の担当者
← *役務提供無し
何が違うのか。
お金の行方?
企業の取引先から、企業の担当者個人に対して、こっそりキックバック、接待などは珍しくはないでしょう。
ただ、今回は、金額が2000万円と大きい事実、しかも担当者が担当を離れたのちも、という事実を掴んだのが大きかったのではないかと推測されます。
当然、税務調査の一環として、この元従業員の、さらには家族の預金口座も調べられているでしょうか。また、資産状況も調べられています。元従業員は、手に入れたお金を「投資信託に使った」と供述しているようですので、この辺りからボロが出ていると思われます。
流出したお金がどこに行き着いているのかを押さえていれば、その税務調査はしっかりとした調査になのでしょう。
しかし。逆に言えば、そのいわゆる「たまり」を押さえられていないと、査察事件などはまず起訴は見送られるようです。
裁判に耐えられないからです。
関連する用語として、国税通則法68条に重加算税として「仮装」という用語が税法にあります。
ここでの仮装とは。金子宏先生の著書によれば。
「架空仕入・架空契約書の作成・他人名義の利用等、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいう」とされています。
また「仮装行為」としては。「意図的に真の事実や法律関係を隠蔽ないし秘匿して、見せかけの事実や法律関係を仮装すること」とあります。
仮装があったという事実を立証する間接的な事実が、たまりの事実となります。では、それ以外にはどのような事実の立証が必要なのか。
まずは、真の事実として、外注費であれば、外注の契約がなかったという真の事実を立証する必要があります。
なかったことの立証はただでさえ難しいです。
では。契約の必要性がなかったといった事実を立証しいくことになるのでしょう。
では。確かに、外注の契約をして、実在の人物に役務の提供をしてもらっていたが、相手先が虚偽の名前や連絡先を使っていたような場合、それだけで、架空外注費、あるいは、仮装の事実を立証したことになるのか。
要件事実の立証としては残念ながら、不十分でしょう。
そこで、検討されるべきは、発注者側に、取引先の身許まで確認する義務があるような作業だったのか、契約だったかのか否かです。
例えば。法律事務所でも。私が以前、経営していた事務所では、単純作業については学生バイトを雇っていたことがありました。人づてでの紹介です。
単純に、事務所に来てくれて、配達、コピー、整理作業、お茶だしなどを実在して、やってくれたらそれで十分なわけです。
そして、賃金を支払います。締め払いの振込みなら確実ですが、単発ですと、終了時に現金で支払うこともあります。
学生さんは自分で領収書を用意して発行してくれることはありません。そこで。
事務所で先に領収書を用意します。名前や住所は、学生さんを紹介してくれた人から教えられています。その氏名、住所、電話番号をこちらで記載したものを用意します。
そして、賃金の支払いとともに、用意した領収書に押印だけしてもらいます。
が。事務所に税務調査が入り、この領収書をチェックしたところ、学生の氏名、住所、電話番号がつながらず、虚偽だったという場合。
それだけで、架空取引、仮装になるのでしょうか。
税務署が疑わしく思うのはわかります。
しかし、実際に支払っており、そのお金は外に出ていて、こちらには戻ってきていません。
その学生さんには、何度か単発で働いてもらっていますが、その子に連絡する時はは実は、紹介者を介してです。
この時、税務調査職員が反面調査として、その紹介者の元に出向き、紹介者が、「そのような学生を松井弁護士に紹介したことはありません」、と答えた時。
即、架空になるのでしょうか。否。立証できていません。
この場合、この紹介者の供述と、学生にこのような経過で仕事をしてもらっていたという私の供述とどちらが信用できるかという供述の証拠評価の問題になります。紹介者の、学生を紹介した事実はない、との供述の信用性をどのように押さえるか。裏付け証拠が必須となります。
税務調査で、私が知る限り、失敗しがちなのが、この反面調査による利害関係人の供述の裏付け調査です。
つまり。この紹介者には、逆に、虚偽の供述をする動機があるかもしれない、私と利害が相反する立場にあるものだという点が、見過ごされ、確かな証拠での裏付け証拠なく、この、学生を紹介した事実はありませんとの関係者の供述にだけに乗っかり、処分してしまうパターンです。
このようなパターンで思い込みで税務調査をして、国税不副審判所まで来て、結局、立証できていない、真偽不明ということで、重加算税の賦課決定処分が取り消された事案がいくつかありました。
紹介者の方にも隠したいとこ、虚偽の虚実をする動機があることが珍しくはないのです。
紹介者の方で、学生の実在しない住所、連絡先を私に告げていたとしたら尚更です。
ここで確かな事実は、領収書の連絡先の住所と電話番号が虚偽だったということです。しかし、そこから即、取引が架空で、仮装だというのは、飛躍しすぎです。
5 ツラツラと
と。
改めて、自分の場合ならと考えてみたところ、主張立証関係が少し整理できたように思います。
審判所時代を思いだしました。
国税不服審判所で、処分の取り消しとして多いのが、架空外注費や仮装行為と言われる事案です。
課税要件事実に照らしあわせて、まず、確かな事実は何なのか、課税処分をするためには、そこから何をどう立証できて、証拠収集をするのか、あるいはその収集、調査ができるのか、効率的な税務調査が期待されるところかと思います。
税務調査が成功すれば。それは、やはり金額に見あった「たまり」が押さえられている場合になのでしょうが、うまくいけば、今回の三菱電気の事案のような結果になり、「課税の公平」が保たれるのでしょうね。
調査の必要性に基づき、適正かつ合理的な税務調査は、法も認めるところであり、必須だと思います。税務調査がなければ、脱税等やりたい放題の世の中になります。
しかし。不必要かつ、不適切な税務調査、さらには実は法的観点からしたら証拠が揃っていない中での課税処分は、抑制されるべきかと思います。
納税者に対する暴言、反面調査をチラつかせた威嚇的な言動に対しては、法的にも抑止効果ある対応が今後、なされるべきかと思います。
弁護士でも。最後は提訴ですが、交渉段階で提訴や、刑事告訴といった言葉を口にしたり文字にする代理人ってどうよ?という経験則です。
原典は確認していませんが。
エリック=ホッファーというアメリカの哲学者の言葉。
「無礼とは、強者を真似した弱者の態度である。」
うむ。なるほど。
ここまで、書いてみて、書きながら考えてみて。改めて、文章をまとめてもいいのだけど、なんとなく今回はこのままアップしておきます。
自分の思考の過程。Twitterのようにだだ漏れ。
以上
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