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2015年8月

2015年8月18日 (火)

弁護士と相続と税務

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1 2人の元国税審判官によるクロストーク

 

 国税不服審判所において、同じく平成22年7月に任期付国税審判官として採用された佐藤善恵税理士のもと、中央経済社発刊の「税務弘報」という税理士向けの月刊誌にて連載記事を掲載していただいています。

 その名も「視点スイッチで裁決研究ー2人の元国税審判官によるクロストーク」というものです。

 9月号にて連載第6回となりました。

2 小規模宅地の特例

 弁護士が遺言作成や、遺産分割協議に関わる場合、相続税法上、納税者に有利な制度として、小規模宅地の特例があるといったことは比較的よく知られています。不動産の評価に関する特例です。

 しかし、実際に、これを適用するためにはどのような手続きが必要なのかといったことまで考えて、プランを立てる弁護士はまずいないのではないでしょうか。

 

 先日、連載の原稿の打ち合わせをしている中で佐藤税理士から教わった、まさかの手続きがあります。

 小規模宅地の特例の適用対象となる土地が複数あった場合に特例適用に必要な手続きです。

 

 相続税額の計算方法は、いったん遺産総額での税額を計算したうえで、各取得者の取得に応じて、相続税額を割り付けるといったたてつけになります。

 相続人は、相続税法上、相続税の申告は一人一人で当然できますが、たいていは共同での申告です(相続税法27条5項)。

 なぜか。

 申告の書類で、遺産の内容や評価がバラバラとなっていたら、調査の対象となりやすく、誰かか修正申告、あるいは減額更正をせねばならないといったことになりやすいといえるからです。

 相続人の利害が一般的に共通するのが、共同申告です。

 では、小規模宅地の特例適用できる土地が複数あった場合、どれを適用して相続税の申告をするのか

 このときもやはり、原則、各人で申告できるわけですから、各人がバラバラの選択をして申告する可能性が出てくるわけです。

 

 しかし、それではやはり適正な相続税額の計算を税務署の方ではできない状態となってしまいます。そうです、遺産総額でまず税額計算をする必要があるからです。

 そこで、このような場合は、相続人ら全員がこの土地を選んで適用をするといった書類が申告時に必要とされています。

 つまり、この同意がなければ、適用要件を満たさないということです。

3 適用要件を意識した分割協議、遺言書作成

 では、遺言の効力をめぐり争っている相続人間や、あるいは遺産分割協議で争っている相続人間の場合はどうなるか。

 小規模宅地の特例の適用のための手続上、必要なこの同意に協力してくれない可能性が高まります。

 小規模宅地の特例が適用できるか否か、不動産評価額が倍以上も違ってきます。

 このような税法上の特例措置に気をつけるのは当然として、それが本当に適用されるための手続についてまで、相続人らの置かれた心情を想像して、協力を得るためにはどうしておくべきかまで考えて、分割協議、あるいは遺言書作成に関わる弁護士、専門家はプランを練り上げるべきなのでしょう。

 

 相続が専門です、遺言作成をします、遺産分割協議の代理人をしますといったサイトは弁護士のものでも増えてきていますが、本当に相続に関するプランニング、アドバイス、代理人活動をしようと思ったら、弁護士においても手続規定を含めた税法の理解があってこそ、専門家として価値があるのではないかと思います。

 弁護士として税理士の先生方とは、信託税制についての研究会もご一緒させていただいており、相続に関して、民法だけではない、所得税法、相続税法、さらには法人税法といった実務のお話が聞けることが非常に勉強になります。

 こうした知識と経験は、いつも依頼者・相談者の方への利益としてフィードバックし、発展させていただいています。

 相続は深い、突き詰めようと思っても尽きない、だから私は弁護士1年目の時から相続事件にはまり、相続事件が大好きなままなのだと思います。

 税務とともにこれを専門の一つとできていて、本当に幸せだとつくづく思います。

 数々の出会い、神様に日々感謝しています。

                          (おわり)

*阿波座のトマトラーメン信濃路。

 真似できそうで真似できない唯一無二の味。

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2015年8月 7日 (金)

滞納処分免脱罪

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1

 8月7日の日経新聞朝刊での報道。

 「滞納処分免脱罪の告発は8件」。

 国税庁のサイトでの「国税収納状況について」がソースの記事かとサイトを見たのですが、滞納処分免脱罪の告発について触れているものは見つけられませんでした。

 https://www.nta.go.jp/osaka/kohyo/press/hodo/h27/shuno_taino/index.htm https://www.nta.go.jp/osaka/kohyo/press/hodo/h27/shuno_taino/index.htm

 が、間違いないのでしょう。

2

 国税徴収法187条1項 

 納税者が滞納処分の執行を免れる目的その財産を隠ぺいし、損壊し、国の不利益に処分し、又はその財産に係る負担を偽って増加する行為をしたときは、

 その者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 

 とあります。

 3000万円の国税を滞納している、他方で、無抵当の5000万円のをマンションを持っている、このままでは、マンションは差押えられ、公売にかけられます(国税徴収法94条以下)。

 そこで、知人に協力を依頼し、6000万円の金銭消費貸借契約を締結し、これを被担保債権として抵当権を設定してしまう。

 あるいは、知人に協力を依頼し、売ってはいないけど、マンションを知人に売却したことにする。得たことになっている売買代金は、適当に費消したことにする。

 こうした行為が、滞納処分免脱罪の構成要件に該当することになります。

3

 注意すべきは、条文上、「滞納処分の執行を免れる目的」とされており、いわゆる目的犯だということです。

 通貨偽造罪などのように、「行使の目的で」(刑法148条)といった目的犯であって、たとえ、客観的に該当する行為として、一万円札をカラーコピーしたとしても、「行使の目的」があるといえなければ犯罪にはならないということです。

 滞納処分免脱罪も、唯一の引き当てとなる財産を処分等したとしても、「滞納処分の執行を免れる目的」があったことを立証できない限り、犯罪にはあたりません。

 

 犯罪成立のためには結構ハードルの高い罪です。

 そのような犯罪について、年間8件が告発されているということです。

4

 具体的にどのような事案なのか興味がありますが、詳細は分かりません。

 単純に、金額が多額、また手口が「悪質」といわれるようなケースかと思います。

 正当に課税された分については、誠実に払う段取りをつけるのがやはり一番賢いかと思います。

 課税がおかしいといのなら、その時点で処分を争うべきですし。

 徴収、滞納処分段階で争うとなると、その手続き上の違法性くらいしかないかと思います。

 この点、人がやっている手続きですから、まったく違法な手続きがないとはいえません。

 例えば、自分のものではないものをその滞納者の所有物として差押えられたり。あるいは、反論等の機会としての手続保障として、意思確認や送達が適法になされていなかったりといった徴収担当者のミスは十分ありえます。

 そのような時は、真っ向から指摘して法を武器に争えばいいのであって、資産を隠ぺい、処分、損壊などは、単なる嫌がらせにすぎず、傷口を広げるだけかと思います。

 

5 

 たまに見かけるのが、法人を潰してしまえばいいといったパターンです。

 しかし、ちゃんと手当してあり、第二次納税義務といったものが定められてますので、基本、あるのに払わずに逃げ切るというのは無理と考えるのがいいかと思います。

 海外の、追いにくいところに隠しちゃえばうまくいけば見つけられずに済むのかもしれませんが、それを日本に持ち込むことも出来ないでしょう。

 真っ当に生きた方がいいかと思います。

 

                            (おわり)

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2015年8月 4日 (火)

控訴審での訴訟活動

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*先日、阪神ヤクルト戦をバックネット裏、最前列で観戦する機会がありました。ありがたいことです。トラッキーの動きのキレの良さに驚きました。

1

 一審、地方裁判所での裁判は別の弁護士に依頼していたけど、判決が出て、敗訴し、控訴審から別の弁護士を探すというとこで、控訴審からの訴訟代理人の依頼を受けることが稀にあります。

 一審の訴訟代理人の活動の様子は、提出した主張書面、証拠から推し量るしかありません。ただ、そもそもの攻撃防御の事実の対象を間違えていると、せっかく熱心に活動しているのに、ボケた活動となっているといったことがないわけではありません。

 まずは、法令・裁判例の調査が第一ということだと思います。

2

 先日は、近畿弁護士連合会、日本弁護士連合会主催の夏季研修があり、その一つである「控訴審の審理と主張立証のあり方」という、研修講師が現大阪高等裁判所の山田知司判事の研修を受けてきました。

 実感としては。

 訴訟代理人には、証拠に対する粘り強さが必要だと改めて思いました。

3

 研修は2時間だったのですが、ご自身の経験や周りの高裁の裁判官らが話しているという具体例を豊富に、代理人向けに示唆に富む話をしていただきました。

 ちなみに、大阪高裁では、平成25年の既済件数は3717件、全国では1万7072件とのことです。

 

 具体例としては、一審判決がカルテの既済を元に原告、患者側を敗訴としていても、控訴審において、そのカルテの記載の意味内容につき、書いた医師に対して真意を問い、一審判決の解釈とは異なる解釈が真意であったことが明らかにされ、逆転勝訴につながったといった話です。

 結局は、一審で行われるべき代理人活動が行われていなかった、ということではあるのですが。

 医師としては、「聞かれなかったから、言わなかった。」とのことで、弁護士の「質問力」が問われます。

 また、裁判官としては、業界の事情については、一方当事者が話しいるというだけではなく、その裏づけとなる資料があると乗りやすいといった話しもありました。

 それは私自身、審判官を4年間やっていた経験からもそう実感します。業界ではこういうものなんです、書類なんてつくりません、数百万円の契約がまったくの口約束なんですと言われてもにわかには信用できません。

 また、訴訟代理人としても、とある業界の経理の流れや、企業内の横領被害の実態について主張するとき、裏づけとなる統計に基づいた出版物を見つけ、それを書証として提出した瞬間、裁判官の態度か変わったといったことがありました。

 書面、おそるべしです。

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 また、「立証責任を負っている場合は、自分のストーリーの可能性をいうだけではダメ、相手のストーリーを潰さなければ、立証責任を尽くしたことにならない。といった、控訴審に限らない当たり前といえば当たり前の話しもありました。

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 こうした感覚、経験、技術。

 やはり弁護士ならではのものだと思います。

 ふと考えるに、行政不服審査手続き、税務での異議決定や審査請求についても、やはり法律家の舞台だと思います。

 ただ、行政に関しては、審理する方が法律家ではありません国税不服審判所であるなら、国税職員の方々が審理します。事実認定も、法律家ではない方が、証拠を評価し事実認定します。

 そこは、司法、裁判ではない以上、厳密な世界ではなく、曖昧な世界であって、曖昧であるがゆえの良さってなんだろうか、とふと考えました。曖昧であるからこそ、そこは利用者有利でなければ意味がないのではないかと。

 そのための、「違法」のみならず「不当」も取り消す権限が与えられたところであるのかと。

 司法の世界と比べて精緻さが足りないという批判はまとはずれで、曖昧であるがゆえの良さを築いていくのが存在意義かと。

 当事者主義についても、利用者有利、親切にしなと存在価値がなくなるかと思います。

 技巧的なテクニックの世界、司法の世界から、ふと行政の審査手続きを考え、ぼんやりとそんなことを考えました。

 違いを出していかないと。

                            (おわり)

*大阪の京橋界隈です。

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