遺産隠しに対する武器 ー依頼者の利益を守る武器ー
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弁護士法23条の2というものがあります。
(報告の請求)
第23条の2 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
弁護士会長名で、「公務所又は公私の団体に照会し」、「必要な事項の報告を求めること」ができるのです。
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私の場合、これまで一番多く利用したのは、被相続人名義の資産の有無と履歴等に関する金融機関への調査です。
相続人となる依頼者から遺産分割協議、あるいは遺留分減殺請求の依頼を受けて、その事件に関するものとして、そもそも遺産が少なすぎるのではないか、他の相続人によって遺産隠しが行われているのではないかといった場合です。
これは、23条の2による弁護士照会でなくても、相続人ということであれば、被相続人名義のものは調査をその相続人自身でもちろんできます。
しかし、そもそも弁護士に依頼されている時点で、ご自身でそのような煩雑な手続きをやり遂げるのは時間的にも労力的にも困難という方がほとんどです。
また、弁護士の方で、一相続人の代理人として照会するくらいなら、弁護士会への手数料が一件当たり5000数百円を要しますが、一斉に同じ書式で照会でき、また迅速な回答を得られますので、23条照会を利用しています。
3
23条照会を利用するとして、どこに照会をかけるのか。
必須なのが、被相続人が利用していたであろう郵便局管轄のゆうちょ銀行です。
ゆうちょ銀行の場合、他の金融機関とは異なり、各支店ごとの管理ではないため、照会先も、○○支店などではなく、センターになります。
そのため、口座がある場合、一番ひっかかりやすいといえるものです。
また、たいていの人はゆうちょ銀行を利用しているともいえます。
弁護士が、遺産調査の業務を行う際、ゆうちょ銀行への照会なしで調査をしたということはあり得ない金融機関となります。
相続事案に不慣れな弁護士の場合、こうした観点がないこともあり得るので注意する必要があります。
そして次に検討すべきなのは、住居、それも過去も含めての住居、あるいは職場、通勤経路周辺の金融機関です。
人が金融機関に口座をもつ場合、こうした自身が立ち寄りがちな場所に口座を設けていることが多いからです。
ただ住所・職場については、転々としいてる人は要注意です。現住所近辺とは限らないからです。
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さらにポイントなのが、口座の存在、さらには取引履歴を取り寄せたとして、次の問題として明るみになるのが、被相続人が亡くなる直前、あるいは直後の解約です。
いったい誰が解約したのか。
またその現金はどこへ消えたのか。
こうした金融機関の解約手続きに関しては、痕跡が残ります。
そこで、金融機関に提出された資料、また金融機関が確認した資料を収集することも可能です。
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こうした業務を経て、遺産分割協議、あるいは遺留分減殺請求事件においては、ザクザクと、当初ないといわれていた遺産が見つかることが多々あります。
その場合、次にどのように対応するのか。
不法行為に基づく損害賠償請求訴訟、不当利得返還請求権といったことが問題となります。あるいは、特別受益として計算上、取り込んでしまうのか。
このあたりについても、相続関連については、不慣れな弁護士とそうでない弁護士の差がつくところとなります。
既に10数年前から、裁判所の裁判官が研修の際に言っていましたが、自分である程度、Excelの使える弁護士に依頼すべきでしょう。
要は、本当に、依頼者に有利となる法律上の計算式を知っているか否かということが試されています。
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23条照会の適切、効果的な利用法を知っていることは、依頼者の利益を守るために必要不可欠な知識と経験です。
弁護士会でも、多くの研修が実施されており、多数の書籍が出版されています。常に、勉強をし続け、情報知識をアップトゥーデイトしている代理人に依頼するのが重要です。そしてExcelの使える弁護士。
武器のない人には、守ってもらえませんから。
功を奏しなかった場合、裁判官のせいにする代理人は最悪です。自分の能力不足を顧みずにやってき人である可能性が高いからです。
裁判官にあたり外れはあって当たり前、その中で事案に応じてどう活動するかが弁護士として問われていると思います。失敗した時、そこから何を学びとってどう対応するか、生き様が問われていると思います。
23条照会を使い、その人の権限なき解約を確認し、主張したら、「プライバシー侵害だ!」と言われ、弁護士会に懲戒請求する、と言われていたといったことがありました。法律上根拠のない懲戒請求、提訴行為、場合によっては、違法行為として損害賠償の対象となります。
(おわり)
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