遺産の調査 ~隠された遺産を探す~
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遠く離れたところにいる親御さんが亡くなったというとき、その人自身は親御さんの財産状態についてては、生前、全く知らないというのがよくある状態です。
近くにいた兄弟などが、親御さんの入院時の世話、あるいは亡くなった後の諸手続き等をして、その中で、その近くにいた兄弟が亡くなった親御さんの預貯金口座がどこにあるのか、株式はどこの証券会社て取引していたのかといったことを把握しています。
2
この近くにいた兄弟等が、仮装隠ぺいすることなく、亡くなった父親の遺産は、こことここの口座にこれくらいあったよ、不動産もここに賃貸物件があったよ、賃料はこの口座に振り込まれているよ、といっことを正直に教えてくれたら、相続、なんの問題も生じません。
相続税も課税されない金額の遺産について、相続人もたった二人の兄弟だけ、といった場合でも、遺産分割の協議が当事者間でつかずに、ご相談にこられて、代理人として依頼を受けることが稀ではありません。
なぜ、もめて、弁護士のところまでくるのか。
3
遺産を隠す、嘘をつく相続人がいるからです。
生前、離れていたとはいえ、おおよその状況は分かっているものです。
仮装隠ぺい、嘘の説明をされたときは、直感で不信感を持ちます。
そして、不審に思う点を問いただすど。
仮装隠ぺい、嘘をついている人は、怒りだします。
怒って、相手を黙らせようとするのです。
そのため、他の相続人は弁護士のところへ行くのです。
4
「遺産はこれだけしかありません。」
その説明を真に受けて、それをベースに遺産分割協議を開始するようでは、弁護過誤ともいえるでしょう。
弁護士は、警察官や国税職員のような強力な調査権限はありません。
しかし、弁護士にも、一般の人にはない調査権限が認められています。
それがいわゆる「23条照会」、各弁護士会の会長名義ての照会制度です。
例えば。
金融機関によっては、相続人ということで、相続した者としての権利によって、相続人本人からの照会によっても、その支店等での、被相続人名義の口座の有無から、過去5年分ほどの口座の取引履歴について開示してくれるところもあるとは思いますが、弁護士会の会長名義でこれらを照会し、回答を得ることができます。
どこに照会をかけるのか。
よくあるのが、住居の最寄駅の金融機関、あるいは勤務先近辺の金融機関です。また、「ゆうちょ銀行」は各地区でのセンター管理になりますので、センター宛に照会をすれば、回答を得られます。
こうして、照会をかけて、口座の有無と同時に、不審な動きはないかを確認します。
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そして、これまたよくあるのが。
被相続人が亡くなる直前、直後の解約、出し入れです。
やった本人は、残高証明書だけだせば、バレないと思っているのかもしれません。しかし、痕跡は残ります。
そして。
さらには。
解約等をしている場合、金融機関等に対して提出した書類についても、23条照会によって提出を金融機関に求めることが可能です。
被相続人の署名を偽造していたような場合。
アウトです。
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ここで、さらによくある言い分は。
父に頼まれて、代わって解約して現金の払い戻しを受けただけで、お金は父にそのまま渡したので、あとのことは知らない、という言い分です。
そのような言い分が、例えば、税務調査において通用するでしょうか。
それを認めていたら、相続税の適正な徴収はままなりません。直前の払い戻しについては、皆が皆、そのような言い分をのべて現金を現金のままどこかにほとぼりがさめるまで保管して終わりでしょう。
相続人間での「返還請求訴訟」においても同じです。
払戻の時期、その当時の被相続人の身体的状況、相続時の他の遺産の状況等がポイントとなります。
その他種々のファクターから考えて、経験則上、その払い戻しを受けた金員は、被相続人ではなく、他の相続人が取得しているとの認定がなされ得ます。
場合によっては、違法行為である、不法行為責任が問われます。
7
遺産を隠してしまったら。
早晩、それは必ずばれます。
さっさと、全てをテーブルに並べて、相続分に応じた遺産分割協議をさっさとして自由に使える財産を確保するというのが、一番懸命な対応です。
遺産分割でもめて、長引き、得する人はいません。相続人は皆、一緒に沈んでいくだけです。
弁護士も実際のところ、もめればもめるほど得するわけでは決してありません。飲食店が、回転が速い方が実入りがいいのと同じです。ざっくばらんに言えば。
相続事件において、もっとも経済的に合理的な行動は、
さっさとすべてをオープンにして、協議を成立させることです。
欲を出すと、結局、損をすると思います。損している人を見ていて、心からそう思います。
(おわり)
*真っ直ぐ王道を歩むのが、最も得をする道。
ズルして脇道を通り抜けようとすると結局は痛い目に遭うだけです。
やってしまったら。あとは往生際よく。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
隠された遺産の調査を弁護士の先生にお願いしたい!という気になる記事でした。
でも弁護士の先生に相談したら、いくらかかるのか!と心配になります。
ケースにもよると思いますが、いくら程かかりますか?
投稿: 西野 豊誠 | 2019年11月23日 (土) 22時43分