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2014年10月15日 (水)

遺産分割協議と代償金債権と相続税

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 前回、「相続と税法」ということで、ざっくりとした記事を書きました。

 国税審判官としての任期付公務員の4年間、日々、気づいたこと、考えたことは自身のノートにメモはしていましたが、以前のようにブログ記事ということでまとめることまではしていなかったので、なかなか具体的にまとめずらく。

 でも、以前のときのように、気づいたこと、考えたことは具体的にここに書いて、オープンにアウトプットしていくようにします。

 前回の「相続と税法」では、大阪地裁平成26年2月20日判決について触れました。

 ネットで裁判所がオープンにしているものも検索したのですが、全文はなぜかヒットしません。ただ、前回の記事を見て頂いた方から、幸いにも、判例検索ソフト ウェストローではヒットするということで、全文を確認できました。ありがとうございました。「出典裁判所ウェブサイト」となっているのですが、これはなぜか見付けられません。

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 大阪地方裁判所平成26年2月20日判決(平24年(行ウ)183号)

 事件自体は、「更正の請求」をして、「理由はない」とした八尾税務署長、国を相手に納税者が、当該処分の取消しを求めた訴訟です。

 自身、4年間の公務員の間、ブログこそ書いていませんでしたが、経験をアウトプットし、ミス回避のために人の役に立てばと、退職後の平成26年7月22日、日本加除出版社さんから「税理士・弁護士のための税務調査の後の不服申立手続ガイド」を出版させていただいているのですが、悔やまれるのは、「更正の請求」についての記述が少なかったことです。

 「更正の請求」が問題になるのは、税務署長等に対して「更正の請求」をしたけど、「理由はない」旨の通知を受けた場合です。この通知が「原処分」として、取消の審理の対象となります。

 更正の請求の総則的な規定は、国税通則法23条にあるのですが、特に問題となりやすいのが、23条の2項の方で、1項の特則的な規定であり、23条1項の規定に関わらず、一定の場合は、1項の規定による更正の請求が出来ると規定されています。

 では、この一定の場合とはどういう場合かということで、「次の各号のいずれかに該当する場合」とてして規定されています。

 たとえば、3号。

 「その他当該国税の法定申告期限後に生じた前2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき」です。

 そして、この「政令」として、国税通則法施行令6条が登場し、「政令で定めるやむを得ない理由は、次に掲げる理由とする」として、1号から5号までが規定されています。

 

 前記の大阪地裁平成26年2月20日判決でも、究極的には、この国税通則法施行令の6条1項2号の「計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと」に当たるか否かが争われ、裁判所は、本件では、いずれにも該当しないとして、請求を棄却したものです。

 納税者の人は、5000万円の代償金請求権を他の相続人に対して取得したものとして、1800万円ほどの相続税を申告納付していました。

 平成6年頃のことです。

 この他の相続人は、遺産の不動産等を単独で相続するものとして、その見返り、代償金としての債権でした。

 そうです。「債権」に過ぎない、というのが最大のミスではないかと思います。

 債権ということは、当然、不履行がありえます。不履行。約束どおりに支払われない、ということです。

 弁護士はよくこのリスクを知っています。ですので、例えば、裁判上での和解で金銭のやりとりをするときは、裁判所の一室で、実際に現金なら現金、昔の株券なら株券のやりとりをします。その上で、和解を成立させ、終わらせます。

 後払いとなる債権での和解をする時でも、不履行を想定して、必ずなんらかの担保をとります。

 

 しかし、この当事者はいい人たちだったのか、当時、お互いきっと信頼関係があったのだろうと推測されますが、違いました。

 「平成6年遺産分割協議では、本件各代償金の弁済期及び弁済方法につき、①堺市αに所在する『Eゴルフセンター』の売却時、又は②本件相続に係る相続税の納付時、のいずれか早く到来した特に、Bが原告らに対し一括して支払うこととされた。」ようです。

 はーーーーーっ、とため息が出ます。

 Bの相続税額は3億5000万円近く。

 

 原告らは、取り敢えず、自身らの相続税1800万円ほどを納付しました。得たのは、Bに対する5000万円の代償金請求権だけで、実際には、何も取得していないに等しいにも関わらず。

 

 結果。ゴルフセンターが売れたのは、平成16年でした。

 そして。Bは、相続税を完納できておらず、原告らには、平成19年となって、税務署長から、相続税の連帯納付義務の履行を求める書面が届けられました。

 悲惨、の一言です。

 ここまでの事実関係で、そもそもどうすればよかったと学べるのか。

 まずはこの3つです。

 1つ 遺産分割協議を代償金で解決するについても、同時履行か担保をとる。

 2つ 遺産が不動産しかなかったとしたら。

    これは私もやったことがありますが、売却を一相続人に委ねない、ということです。コントロールできなくなります。共同売却をするにしても、期限を切ります。

 3つ 相続税額は、自己の課税額だけでなく、他の相続人の課税額につても確認し、それを確実に納税できるか否か、裏付けをとること。これをしておかないと、忘れた頃に連帯納付義務の通知が届きます。

 

 この事件の当事者の方々は、平成6年の相続につき、平成22年となり、当時の遺産分割協議を解約しました。

 5000万円の支払の履行請求は諦めるか、おいておくとしても、ともかく、1800万円ほどの納付した税金の返還と、相続で得た限りでとはいえ、相続税の連帯納付義務だけでもなんとか免れようとしたものと思われます。

 が。

 税務署長、大阪国税不服審判所、さらには大阪地方裁判所の判断は、本件の事情のもとでは、納税者らによる、平成6年の遺産分割協議の解除について、上記の「更正の請求」の要件は満たしませんよ、というのでした。

 このような事案は、金額の多寡こそあれ、決して珍しくはないように思います。

 そもそも、更正の請求の23条2項の要件は、実は、意外と厳しいです。条文の字面を表面的に読む以上に。

 控訴しているようですし、判決書からは分からない特別な事情がまだまだあるのかもしれませんが、どこかで諦めざるを得ない事案かもしれません。

 「遺産分割協議」と「代償金」と「連帯納付義務」。

 気をつけて下い。 


と、今回もさらっとした話しです。

本当は、「更正の請求」や「相続税の連帯納付義務」、さらには「遺産分割協議」のよくある留意点などをもっと具体的にまとめたい(言いたいことがある)のですが、またの機会に。

                           (おわり)

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