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32 賃貸借契約(土地、建物)

2009年10月 9日 (金)

賃貸人の苦悩~家主になるのも大変~【松井】

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*うちの事務所が入っているビルです。9階建てですが、8階のワンフロアーがもう半年以上、空き室です。


 先日、自宅でたまたま某テレビ番組を観ていて、「モーゲージ プランナー」と称する仕事も特化したものとしてあるのかと興味深く思っていたところ、途中から、え!?と驚くような場面を目にしました。
 当初は、定年などの都合で、この先、このままの約定の支払い方法では早晩、住宅ローンの返済に行き詰まるという方のために、より金利の安い住宅ローンの商品を提案し、借金の返済方法を変更することを提案する様子が映されていました。
 それだけだったら、なるほど、確かに弁護士などに相談しても、新たな商品を提案するというかゆいところに手が届くようなサービス提供は出来ないから、ニーズはあるし、役に立つなと思っていました。
 ところが、ある場合には、現金2000万円を貯めている夫婦に対し、うち1000万円でマンションの購入をすすめていて、これに驚いたのです。
 何のためにマンションを購入するのか?
 「人に賃貸すれば月5万円程度の家賃が見込まれる」という大前提のもと、1000万円を銀行預金として眠らせておくよりは1000万円に高い金利がついて、この収入を住宅ローンの返済にまわせるでしょ、という提案でした。
 夫が悩んでいたところ、家賃保証会社を紹介し、それで納得した夫婦はマンションを買っていたようでした。


 いいんですか、それで!?というのが番組をみた限りの感想、というか、驚きでした。 果たして、このご夫婦は、家主になる、賃貸人になるということがどういうことなのか分かっているのかしらん?!、このプランナーと称する方は、それを業とするわけでもない、過去に賃貸人の経験があるわけでもない方に対し、家主となる場合のリスク~危険~をどこまで説明しているのかしらん!?という危惧です。
 危険を織り込み済みで購入しているのであれば問題ないのですが、そうでなかった場合、この夫婦にとっては1000万円の預金債権をもっている方がよっぽど利益だったということが十分に予想されるのです。
 どういうことか?


 家賃収入をあてにして、というのも、「とっても素敵な賃借人さん」が「途切れなく契約」してくれての話しです。
 私が過去、家主さん側の相談にあたったりする限り、そういい話しばかりではありません。
 相続事件を多くしていることもあり、家主さんの事情を聞くことも多いのです。相続でもめるほどの財産を遺されている方がどのようにして資産を築かれたかというと、相続した代々の不動産がある場合や、昭和40年代ころ、先んじて不動産売買を行い、その後、賃貸物件を建設するなどして賃料収入で財を築かれたということが多く、それを引き継いだ方などから、「不動産管理の苦悩」をよく聞くのです。
 
 例えば、あるのは、修繕をしっかりしていなかったばっかりに建物が古ぼけてしまい、賃借人がつかない、というものです。
 賃借人が入らなければ、ただの巨大な粗大ゴミのようになってしまいます。更地に戻すのに数千万円をかえって要するということもあります。
 また、賃借人がついたはいいが、家賃を払ってくれないというものです。追い出すのにも、実は費用と労力を要します。建物の賃貸借契約は借地借家法が適用され、特に住居として使用している場合、プライバシー等の問題もあって家賃を滞納しているからといって大家が勝手に出入りして、鍵を変えて追い出すと、違法です。実力行使は禁止されています。そこで、契約解除、建物から出て行けという訴訟に強制執行をせざるをえません。ただ、これも家賃滞納をしたからといってすぐに認められるわけではなく、契約にもよりますが数ヶ月もの間、滞納していて初めて解除が出来るとされています。
 さらには、家賃が高いので賃料を減額しろといった申し出を家主からされたり、あそこが壊れている、ここが壊れているから修理しろという修繕の要求があったり。
 不動産のオーナー、家主、賃貸人は、たぶんやったことがない人がちょっと想像する以上に、大変だと思います。
 大変だと思い、管理については全部、管理会社に任せようとしたら、やはりそれなりの管理費用を支払う必要があります。
 さらには、処分しようと思ったら、1000万円で買ったものが600万円くらいでしか処分できなかったり。あるいは、誰も買ってくれないような物件になっていたりと・・・。
 そううまくはことは進みません。
 

 ということは、それなりの覚悟、自身が勉強して労力をさくという覚悟が必要だと思います。
 あのテレビ番組のご夫婦は、覚悟があったのでしょうか。
 それが心配です。
 また、あのプランナーと称するかたが万が一、業者の方からキックバックをもらったりしているようなら、しかも夫婦に「リスク」を説明していなかったとしたら、まったく罪作りだと思います。
 そうでないことを祈るばかりです。

 また、思うのは、専門家にアドバイスをもとめて、アドバイスをもらったとしても、その「アドバイス」の内容を自分で吟味することなく、その「専門家」を丸ごと信用して、そのことから「アドバイス」の内容について吟味しないというのは、それはやはり不勉強なのではないかということです。
 専門家を利用しながらも、最後は、自分で情報収集して、自分で判断するということが大事だと思います。そうすれば、たとえば自分が思い描いていたような状況でなかったとしても、自分が判断したのだからと諦めがつきます。そこの準備と覚悟ができていないと、ことが思うようでなかったとき、「あそこがこんなものをすすめたからだと」と他者にだけ責任を押し付ける思考法になってしまいがちということになります。

(おわり)

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2009年9月 9日 (水)

そのお金に理由はありますか?〜更新料約定無効高裁判決から学ぶこと〜【松井】

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撮影 yuko.K


 先日、新聞などでも大々的に報道されましたが、大阪高裁平成21年8月27日判決でもって、京都地方裁判所での一審判決が覆されて、京都のマンション賃貸業者と元住人との間の訴訟で、1年ごとの契約更新時に支払われていた10万円の更新料支払いの約定が、消費者契約法10条に基づき、無効と判断されました。結果、1年の契約更新ごとに支払われていた40万円の更新料を利息をつけて家主は元住人に返せという判決となりました。
 これは、不動産を所有して、賃貸業を営んでいる方々にとっては、衝撃の判決ではないかと思います。消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降に授受された「更新料」名目の金員について、場合によっては、一括して利息までつけて返済しなければならないということがあり得るからです。
 この判決の一審京都地裁判決と今回の高裁判決を読み比べてみました。
 この裁判はおそらく上告も受理されて、最高裁判所の判断も出るだろうとは思いますが、現時点で賃貸人において気をつけるべきことを示唆するものともいえ、自身のメモがてら記しておきます。


 大きなポイントは、賃貸人が賃借人から受け取るお金について、「そのお金に理由はありますか?」ということを改めて総チェックすべきだろうということです。
 今回の事案で、京都地裁と大阪高裁とで結論が別れたのは、まさに今回の事案での「更新料」について、この点の結論の違いだったようです。

 判決は共に、まず「更新料の法的性質」について検討しています。
 家主側は次のような主張をしていました。
  ① 更新拒絶権放棄の対価
  ② 賃借権強化の対価の性質
  ③ 賃料補充の性質

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 この点、京都地裁判決は、①については、希薄ではあるが、その性質があるとし、②についても、やはり希薄ではあるがとしつつ、これを認め、③については、本件での「更新料約定は、本件賃貸借契約における賃料の支払方法に関する条項であり」として、「賃料の補充の性質を有しているものということができよう。」としました。
 その上で、消費者契約法10条前段にあてはめてみると、

「『賃料は、建物については毎月末に支払わなければならない』と定める民法614条本文と比べ、賃借人の義務を加重しているものと考えられる」
としてその要件を充たすとするものの、10条後段の要件はみたさないとして、10条の適用を否定したのです。
 すなわち、
「本件更新料約定が『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』であること」
について検討し、①1年契約、賃料月額4万5000円という状況で、10万円の更新料は、過大なものではないこと、②更新料約定の内容は明確であり、賃借人は契約締結時に説明を受けているので、賃借人に不測の損害あるいは不利益ではないこと、③希薄とはいえ、更新料が更新拒絶権の対価及び賃借権強化の対価と志手の性質を有しているということ、これらを考慮し、10条後段の要件は充たさないと判断しました。


 以上の京都地裁の判断に対し、大阪高裁は、まず更新料の法的性質について、① 更新拒絶権放棄の対価性を否定しました。そもそも正当事由がない限り、賃貸人は更新拒絶できないこと(借地借家法28条)、契約条項上も賃貸人がそのように考えていたとは認められない、更新拒絶権行使に伴う紛争回避目的と言う点については、その危険は対等に負担されるべきものであって、賃貸人のみが更新拒絶権放棄の対価として更新料を取得すべき理由はないとしています。
 そして、② 賃借権強化の対価の性質についても、否定しました。合意更新により解約申入が制限されることにより賃借権が強化されるといっても、本件賃貸借契約は、契約期間が1年間という借地借家法上認められる最短期間であって、強化といっても無視してよいのに近い効果であることを理由としています。
 最後に、③賃料補充の性質も否定しました。
 契約期間満了前に退去した際、精算をする規定がないこと/更新料が基本的に10万円の定額のままであり、家賃の増減と連動しないこと/更新料不払いであっても、債務不履行解除を認める余地はないといえること/といったことを理由としています。
 さらには、なお書きで次のように判示しています。
 

「なお、賃貸借契約の当事者間においては、賃料とされるのは使用収益の対価そのものであり、賃貸借契約の当事者間で賃貸借契約に伴い授受される金銭のすべてが必ずしも賃料補充の性質を持つと解されるべきではない(そうでなければ、敷金はもちろん、電気料、水道料、協力金その他何らかの名目をつけさえすれば、その名目の実額を大幅に越える金銭授受や趣旨不明の曖昧な名目での金銭授受までも賃料補充の性質を持つと説明できるとかいされかねないからである)。」

 
 そして、大阪高裁判決は、消費者契約法10条後段の要件についても、まず検討にあたっての指針を打ち立てています。
 
「この要件に該当するかどうかは、契約条項の実体的内容、その置かれている趣旨、目的及び根拠はもちろんのことであるが、消費者契約法の目的規定である消費者契約法1条が、消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があることにかんがみ、消費者の利益を不等に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより消費者の利益の擁護を図ろうとしていることに照らすと、」
として、
 
「契約当事者の情報収集力等の格差の状況及び程度、消費者が趣旨を含めて契約条項を理解出来るものであったかどうか等の契約条項の定め方、契約条項が具体的かつ明確に説明されたかどうか等の契約に至る経緯のほか、消費者が契約条項を検討する上で事業者と実質的に対等な機会を付与され自由に検討していたかどうかなど諸般の事情を総合的に検討し、あくまでも消費者契約法の見地から、信義則に反して消費者の利益が一方的に害されているかどうかを判断すべきであると解される。」
としました。

 そして、今回の事案について大阪高裁は検討しました。
 更新料10万円については、賃料月額4万5000円に比すれば、かなり高額とします。
 そして、

「本件賃貸借契約に本件更新料約定が置かれている趣旨、目的及び根拠について検討」
します。
 この点、
「本件更新料約定が維持されるべき積極的、合理的な根拠を見出すことは困難である」

 
「この約款は、客観的には、賃借人となろうとする人が様々な物件を比較して選ぶ際に主として月払いの賃料の金額に着目する点に乗じ、直ちに賃料を意味しない更新料という用語を用いることにより、賃借人の経済的出捐が少ないかのような印象を与えて契約締結を誘因する役割を果たすものでしかないと言われてもやむを得ないと思われる。」
とまで判示しました。
 そして、
「端的に、その分を上乗せした賃料の設定をして、賃借人になろうとする消費者に明確に、透明に示すことが要請されるというべきである。」
としています。
 そして、賃借人においては、契約締結時、建物賃貸借契約においては強行規定となる法定更新制度というものがあり、この場合更新料を支払う必要がないことの説明を受けていないということを重視しています。賃借人が契約条件を検討する上で賃貸人と実質的に対等な機会を付与されて自由に検討したとはいえないとするのです。結果、本件更新料約定が賃借人に不利益をもたらしていないということはできないとしました。
 このように
「諸点を総合して考えると、本件更新料約定は、『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものと』ということができる。」
としました。


 この大阪高裁判決から言えることは、当たり前ですが、事案を丁寧に検討した結果のものであって、他の賃貸借契約において、「更新料」名目の契約が即、消費者契約法10条に反し無効ということまでにはならないだろうということです。
 場合によっては、要件を満たさず、有効になるものもあるかと思われます。
 
 ただ、教訓として考えられるのは次のようなことです。
 「受け取るお金、そのお金に理由はありますか?」ということです。
 そのお金は何の対価なのか、営業、商売をする人は、改めて、この問いにどのような答えを用意できるのかを総点検する必要があるかと思います。
 そうでないと。
 消費者契約法10条によって、無効として、利息もつけてまとめて返還せねばならないという事態もありえます。

 先日、賃貸物件を所有する賃貸人の方の代理人となって、簡易裁判所に出廷しました。そうです、元賃借人から訴えられたのです。
 その訴訟は、大事になることを望まない依頼者の方の意向によって、徹底抗戦で判決ということなく和解で終わったのですが、その際、簡易裁判所の裁判官の方や調停委員の方とちょっと雑談をしました。
 曰く。
 やはり、今、簡易裁判所では、弁護士に依頼せずに本人訴訟で、賃貸人を訴えて、敷金などを返還しろという裁判が非常に多いとのことでした。

 更新料の約定というのが、京都で多い契約スタイルなのかどうか、それとも日本各地であるものなのかどうかはよく知りませんが、今一度、今のうちに確認されることをお勧めします。


 そして何よりも。消費者を相手として商売を営む個人、法人についても、金銭の授受がある場合、契約書に何らかの請求権などを明記している場合、そのお金はいったい何の対価として支払請求を定めるのか、「そのお金に理由はあるのか。」「どういう理由なのか。」を今一度、点検し、改めるべきところは早々に改められることをおすすめします。
 訴えられてからでは、さらに時間、弁護士費用といったコストがかかりますので。

 話は違いますが、私が以前、自分の住居を賃借しようとした際、不動産仲介業者の方から支払額の明細を示され「クリーニング料」というものが挙っているに気づいたことがありました。
 「何だこれは?」と思い、実は、仲介業者をすっとばして家主の会社の方に連絡をいれました。家主も知らない金額であり、部屋の清掃はすでにもうしてあるということでした。仲介業者が、家主にも黙って、根拠のない金を賃借人からくすねとろうとしたものでした。

 あれ?コレは何?という素朴な感覚と、それに従い行動することが、食い物にされることを回避する道ですし、業者の方は、突っ込まれたときに弁解できないようなお金は請求しないという基本を今一度、確認するということだと思います。
 不安を覚えるようでしたら、今のうちに早めに弁護士に相談されることをおすすめいたします。過去の事実を変えることはできませんが、将来のさらなる損害の拡大に対し手当はできるかもしれませんから。

(おわり)

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2009年9月 8日 (火)

「目には目を」の対応の不適切さ~建物賃貸借契約に基づく賃貸人の修繕義務と賃借人の問題など~【松井】

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 建物の賃借人と賃貸人との間のトラブルというのもよくうける相談の一つです。この場合、特に多いのが、賃借人が同建物、居室を借りて、営業している商売人の方の場合です。
 借りている建物のトラブルは、自己の営業、売上げに密接に関わってくるだけに、問題も切実だからだろうと思います。
 例えば、漏水や、建物の改修などのために、通常の営業が出来なくなっている、これに対し、賃貸人が適切かつ迅速に対応をしていればトラブルにもならないのですが、放ったらかし、賃借人の言葉に耳を傾けないようなとき、何ができるのか、どうしたらいいのかと弁護士のもとに相談に来られます。



 こういった相談のときに賃借人の方がよく言われるのは、「相手がこっちに対してきちんと対応してくれないのであれば、こっちも同じようにしてやる。」「賃料の支払いをストップしてやる。」ということです。
 
 しかし、賃貸借契約に限らず、こういう問題のときに私なぞがよく言うことは次のようなことです。
 「相手が誠実に対応しない、相手がやるべきことをやらない、そんなときこそこちらは山のように動ぜずに、相手に振り回されることなく、こちらとしてやるべきことをきちんとしましょう。付け入る隙を与えないようにしましょう。」
 ということです。

 つまり、賃料の支払いは賃借人の基本的な義務です。例外的に賃料の減額請求権等が認められているにすぎません(民法611条等)。特段の事情がない限り、賃料は賃料として支払いましょうといいます。
 また、よく法律相談などのときに訊かれるのは、夫婦間の離婚後の問題で、未成年の子がいらっしゃるとき、「元夫の父親が養育費を払ってこないんです。月1回、子どもを父親にあわせる面接交渉のとりきめもあるのですが、払ってこないんだから、こちらも子どもに会わせ必要はないんじゃないでしょうか。」「養育費を払ってきたら、会わせるということはできないのですか。」といったことです。
 
 「あっちがなすべきことAをしないのだら、こちらもなすべきことBをしない。」

 このAとBが法律上、同時履行の抗弁(民法533)にあるといえるような関係であるなら、上記のようにいえます。
 しかし、法律上、賃貸人が一部の修繕義務を尽くさない、誠実さがないからといって、賃料支払いの全額を拒める関係にはありません。
 また、法律上、子どもの父親が養育費を支払わないからといって、子どもに会う権利がなくなるわけではありません。
 それぞれ別々の義務となります。
 そのため、「Aを履行しないなら、Bを履行しない」という行動に出て、かえって紛争を複雑化させ、自分の方が大きなトラブルを抱え込むことにもなりかねません。



 賃貸借契約については、当初、賃借人として、単に修繕をして欲しかった、誠実に対応して欲しかったというだけで、その建物から出るつもりもなかったところ、賃料の滞納を一定程度続けると、賃貸人の方から逆に、賃料不払いを原因として、建物賃貸借契約の解除がなされてしまうのです。
 思いもかけない請求を受けるのです。

 また、面接交渉の拒否においては、養育費を支払わないということと父親と接するという子の福祉の観点においてはレベルのことなる問題であり、他に正当な理由なく、いったん取り決めた面接交渉の機会を奪うと、父親の方から母親の方に対し、不法行為によるものとして父親の精神的苦痛に対する慰謝料請求が100万円単位で認められているというのが実情のようです。
 
 相手が約束を守らなかったとしても、自身に課された責任はよほどの正当な理由がない限り、きちんと果たしましょうというのが法が考えるあるべき姿だということです。
 そうでないと実力行使の世の中がまかりとおり、混乱が混乱を引き起こすだけのことになるのだと思います。
 
 相談者、依頼者の方には、こう言っています。
 「相手が滅茶苦茶なときこそ、自分はきちんとしましょう。胸を張って生きていけるようにしましょう。」と。
 
 例えば、管理組合が適切な対応をとってくれないからといって、管理費の支払いをストップしても何の役にも立ちません。
 「相手を交渉の土俵に引っ張り上げたい?」
 そうであるなら、法的な手続を利用しましょうよ、ちゃんと用意されているんですからと言っています。


 ところで、法律、裁判所はまったく常識的だなと私が思う、気になる最高裁判例がありましたので、建物賃貸人の修繕義務、賃借人のとるべき対応ということでここにメモがてら紹介しておきます。

 最高二小平成21年1月19日判決です。判例時報2032号45頁に紹介されていました。
 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37200&hanreiKbn=01

 事案は、やはり営業目的で、老朽化していた建物の地下部分を借りてカラオケ店を営業していた人と賃貸人の間の、修繕義務と損害賠償債務の問題です。
 賃借人が、賃貸人がしかるべき修繕義務を尽くさなかったためにカラオケ店の営業が出来ず、結果、損害を被ったとして、賃貸に対し、営業利益損失等として損害賠償請求し、原審である名古屋高等裁判所金沢支部では約3100万円の損害賠償義務が認められたというものです。
 しかし最高裁は、これを破棄し、事件を差戻しました。

 原審判決では、重大な漏水事故が起こって賃借人がカラオケ店の営業が出来なくなってから、賃貸人が適切な修繕義務を尽くさなかったとしてその後、4年5か月間にわたる営業損害を損害としました。
 しかしながら、最高裁は、賃貸人が責めを負うべきものとなる損害について定める、民法416条1項は、
 

「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする」
と定め、上記約3100万円の損害は「通常生ずべき損害」にはあたらないだろう、もう少し事実関係を審理しなさいとしたのです。
 どういうことか。

 本件では、賃借人は、重大な漏水事故が起こってから3か月後、損害保険会社との契約に基づき、約3700万円の保険金の支払いをうけていたのです。
 この事実がポイントだったのかと思います。
 
 

「そうすると、遅くとも、本件本訴が提起された時点においては、被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく、本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは、条理上認められないというべきであり、民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上、本件において、被上告人が上記措置を採ることが出来たと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである。」

 しごくまっとうな、常識的な判断だと思います。
 紛争解決にとって、紛争を拡大、複雑化させないために大事なことは、感情を押しとどめて、一歩立ち止まったうえでの常識的な判断ではないかと思います。

(おわり)

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