賃貸人の苦悩~家主になるのも大変~【松井】
*うちの事務所が入っているビルです。9階建てですが、8階のワンフロアーがもう半年以上、空き室です。
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先日、自宅でたまたま某テレビ番組を観ていて、「モーゲージ プランナー」と称する仕事も特化したものとしてあるのかと興味深く思っていたところ、途中から、え!?と驚くような場面を目にしました。
当初は、定年などの都合で、この先、このままの約定の支払い方法では早晩、住宅ローンの返済に行き詰まるという方のために、より金利の安い住宅ローンの商品を提案し、借金の返済方法を変更することを提案する様子が映されていました。
それだけだったら、なるほど、確かに弁護士などに相談しても、新たな商品を提案するというかゆいところに手が届くようなサービス提供は出来ないから、ニーズはあるし、役に立つなと思っていました。
ところが、ある場合には、現金2000万円を貯めている夫婦に対し、うち1000万円でマンションの購入をすすめていて、これに驚いたのです。
何のためにマンションを購入するのか?
「人に賃貸すれば月5万円程度の家賃が見込まれる」という大前提のもと、1000万円を銀行預金として眠らせておくよりは1000万円に高い金利がついて、この収入を住宅ローンの返済にまわせるでしょ、という提案でした。
夫が悩んでいたところ、家賃保証会社を紹介し、それで納得した夫婦はマンションを買っていたようでした。
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いいんですか、それで!?というのが番組をみた限りの感想、というか、驚きでした。 果たして、このご夫婦は、家主になる、賃貸人になるということがどういうことなのか分かっているのかしらん?!、このプランナーと称する方は、それを業とするわけでもない、過去に賃貸人の経験があるわけでもない方に対し、家主となる場合のリスク~危険~をどこまで説明しているのかしらん!?という危惧です。
危険を織り込み済みで購入しているのであれば問題ないのですが、そうでなかった場合、この夫婦にとっては1000万円の預金債権をもっている方がよっぽど利益だったということが十分に予想されるのです。
どういうことか?
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家賃収入をあてにして、というのも、「とっても素敵な賃借人さん」が「途切れなく契約」してくれての話しです。
私が過去、家主さん側の相談にあたったりする限り、そういい話しばかりではありません。
相続事件を多くしていることもあり、家主さんの事情を聞くことも多いのです。相続でもめるほどの財産を遺されている方がどのようにして資産を築かれたかというと、相続した代々の不動産がある場合や、昭和40年代ころ、先んじて不動産売買を行い、その後、賃貸物件を建設するなどして賃料収入で財を築かれたということが多く、それを引き継いだ方などから、「不動産管理の苦悩」をよく聞くのです。
例えば、あるのは、修繕をしっかりしていなかったばっかりに建物が古ぼけてしまい、賃借人がつかない、というものです。
賃借人が入らなければ、ただの巨大な粗大ゴミのようになってしまいます。更地に戻すのに数千万円をかえって要するということもあります。
また、賃借人がついたはいいが、家賃を払ってくれないというものです。追い出すのにも、実は費用と労力を要します。建物の賃貸借契約は借地借家法が適用され、特に住居として使用している場合、プライバシー等の問題もあって家賃を滞納しているからといって大家が勝手に出入りして、鍵を変えて追い出すと、違法です。実力行使は禁止されています。そこで、契約解除、建物から出て行けという訴訟に強制執行をせざるをえません。ただ、これも家賃滞納をしたからといってすぐに認められるわけではなく、契約にもよりますが数ヶ月もの間、滞納していて初めて解除が出来るとされています。
さらには、家賃が高いので賃料を減額しろといった申し出を家主からされたり、あそこが壊れている、ここが壊れているから修理しろという修繕の要求があったり。
不動産のオーナー、家主、賃貸人は、たぶんやったことがない人がちょっと想像する以上に、大変だと思います。
大変だと思い、管理については全部、管理会社に任せようとしたら、やはりそれなりの管理費用を支払う必要があります。
さらには、処分しようと思ったら、1000万円で買ったものが600万円くらいでしか処分できなかったり。あるいは、誰も買ってくれないような物件になっていたりと・・・。
そううまくはことは進みません。
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ということは、それなりの覚悟、自身が勉強して労力をさくという覚悟が必要だと思います。
あのテレビ番組のご夫婦は、覚悟があったのでしょうか。
それが心配です。
また、あのプランナーと称するかたが万が一、業者の方からキックバックをもらったりしているようなら、しかも夫婦に「リスク」を説明していなかったとしたら、まったく罪作りだと思います。
そうでないことを祈るばかりです。
また、思うのは、専門家にアドバイスをもとめて、アドバイスをもらったとしても、その「アドバイス」の内容を自分で吟味することなく、その「専門家」を丸ごと信用して、そのことから「アドバイス」の内容について吟味しないというのは、それはやはり不勉強なのではないかということです。
専門家を利用しながらも、最後は、自分で情報収集して、自分で判断するということが大事だと思います。そうすれば、たとえば自分が思い描いていたような状況でなかったとしても、自分が判断したのだからと諦めがつきます。そこの準備と覚悟ができていないと、ことが思うようでなかったとき、「あそこがこんなものをすすめたからだと」と他者にだけ責任を押し付ける思考法になってしまいがちということになります。
(おわり)
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