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30 不動産・住宅問題

2009年11月 8日 (日)

設計・施工者等の不法行為責任~基準と解釈と事実認定とあてはめ~【松井】

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 最高裁第2小平成19年7月6日判決の差戻審が、平成21年2月6日、福岡高裁であったようです。判例時報2051号74頁に掲載されていました。

 最高裁の内容は、これです。
 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=34907&hanreiKbn=01

 上記最高裁の判断はなるほど!というものでした。

 ただ、この最高裁の基準を受けての福岡高裁の判断。結論としては、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害されたものということはできない」として、「当該建物の建築工事を請け負った会社及び建築工事の設計・監理を受託した会社の建物の所有者に対する不法行為責任」を否定しました。
 最高裁の基準の解釈と事案での瑕疵の事実認定、あてはめを見て、正直なところ、おやっ?という違和感を感じました。あまり説得的とはいえない、一つの基準をふりまわしてのあてはめによる強引な結論かもしれないという危惧があります。
 まあ、もしかしたらただ単に、やはり原告側の立証が出来ていなかったというだけのことかもしれないですし、証拠を見たわけではないので何とも言えませんが。

 ただ、判例時報の解説も次のように指摘しています。
 

「本判決の結論が本件上告審判決の判断基準を具体的にあてはてめたものとして妥当性があるか否かは今後の議論が予想され、かつ、期待されるところである。」
と締めくくられています。

 この事件の経緯を知ると、ああ、裁判って本当、ギャンブルだわという思いをまた強くするのです。
 自分用に以下にメモ。


 原告Xらは、本件土地・建物をAから購入したもの。Y1は、本件建物の設計・監理を受託したもの、Y2は本件建物の建築工事をAから請け負ったもの。
 Xは本件建物には瑕疵があるとして、約3億5000万円の損害賠償請求。
 なお、上告審とこの差戻審での争点は、瑕疵担保責任ではなく、Yらの不法行為責任に絞られていたようです。

 1審大分地裁平成8年(ワ)385号、平成15年2月24日判決。
 なんと!平成8年に提訴して、判決まで7年を要したようです。やむを得ない事情があったのかもしれないけどひどすぎる。。。
 で、判決は。一審はYらの不法行為責任を認めました。

 しかし次の控訴審。福岡高裁平成16年12月16日判決は。
 Xらの請求を棄却しました。
 解釈として問題とされたのは、この点のようです。
 

「建築された建物に瑕疵があるからといって、その請負人や設計・工事監理をした者について当然に不法行為の成立が問題になるわけではなく、その違法性が強度である場合、例えば、請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵ある目的物を制作した場合や、瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯びる場合、瑕疵の程度・内容が重大で、目的物の存在自体が社会的に危険な状態である場合等に限って、不法行為責任が成立する余地がある」
(上記判例時報77頁。「三 審理経過 (2)差戻前控訴審 イ 不法行為責任について 」)
 で、事実認定としては、Xらが主張する「瑕疵」、Yらの行動はこの基準にはあてはまらないから、Yらに不法行為責任はないとしたようです。
 Xらは本件建物の瑕疵としては、9階の共同住宅につき、もっぱら各所に現れた「ひび割れ」を現象として指摘し、その原因として不適切な施行があったことを指摘したようです。

 そして最高裁。これが上記の平成19年7月6日判決です。
 曰く。
 

「以上と異なる差戻前控訴審の上記(2)イの判断には民法709条の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、差戻前控訴審判決のうち一審原告らの不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。」
としました。
 
 最高裁はどのように解釈したのか?
 
「建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣人、通行人等(以下、併せて「居住者等」という。)の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである。」
とします。
 そのうえで、
 
「そうすると、建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(以下、併せて「設計・施工者等」という。)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。」
として、注意義務を認めました。
 
「そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は不法行為成立を主張する者が上記瑕疵の存在をしりながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情のない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。」


 そして、平成21年2月6日、差戻審となる福岡高裁判決です。
 限定しています。
 

「『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』とは、建物の瑕疵の中でも、居住者等の生命、身体及び財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解され、建物の一部の剥落や崩壊による事故が生じるおそれがある場合などにも、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』が存するものと解される」
としています。
 理由は、
「上告審は、建物は、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである旨判示し、さらに例示として、バルコニーの手すりの瑕疵であっても、これにより居住者等が通常の使用をしている際に転落するという、生命又は身体を危険にさらすようなものもあり得る旨判示している。」
という点から引っ張っています。
 その上で、一審原告の主張に対しては、
「一審原告は、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』について、建築基準法やその関連法令に違反する瑕疵をいうと主張する」
とし、「しかし」と続きます。
 
「上告審の上記判示が建築基準法やその関連法令違反のことを示すのであれば、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』と、一定の幅を持ち、必ずしも一義的明確とはいえない概念を用いる必要はなかったし、建築基準法やその関連法令は、行政庁と建物の建築主や設計・施工者等との関係を規律する取締法規であり、これに違反したからといって、それだけでは直ちに私法上の義務違反があるともみられない。」

 
「また、ささいな瑕疵について、設計・施工者等が第三者から不法行為責任の追及を受けるというのも不合理であるから、一審原告の上記主張は採用できない。」
としています。
 ???
 今年平成21年2月の高裁判決です。何か解釈として違和感を感じます。つまり、建築基準法や関連法令のうち、生命、身体及び財産の安全に関するものも当然あります。そうであれば、最高裁の判示のうち、建築基準法や関連法令の上記な趣旨を持つ条項に反する場合は、それで義務違反といいうる余地もあるのではないかという素朴な疑問があります。あくまで素朴な疑問ですが。ここまで言い切ることも出来ないのではないかと。
 
 そして福岡高裁は、次の事実を大きな間接事実としたうえで、原告らの個別的な瑕疵の主張をばったばったと切っていくのです。
 
「思うに、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』の存否については、現実の事故発生を必要とすべきではないが、一審原告らが本件建物の所有権を失ってから(平成14年6月17日)六年以上経過しても、何らの現実の事故が発生していないことは、一審原告らが所有権を有していた当時にも、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』が存在していなかったことの大きな間接事実であるというべきである。」
とまで前置きしています。
 そして個々の原告の主張に対しては。
 
「一審原告らが所有権を失ってから六年以上経過しながら、何らかの事故が発生したとの報告もないことは前記のとおりであるから、一審原告らが本件建物を所有していた当時に、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性が生じていたとは認められない。」
というのを何度も持ち出して、Yらの不法行為責任を否定しました。


 地震が起きない限り、現に建っていればそれで安全、という議論を思いださずにはいられません。
 上告受理申立てをされているようなので、来年あたり、また最高裁判決が出るでしょうか。
 紛争後、10年以上が経過しておりひどいなという進行状況であると共に、高裁判決もなんだかなあというものです。

(おわり)
 
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2009年9月 2日 (水)

マンション住人、管理組合の理事の憂鬱〜誰を信用したらいいのかしら〜【松井】

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 大阪市内に拠点をもつ、「一般社団法人 マンション問題解決・管理支援センター」という団体が設立されました。
 通称、Agoras(アゴラス)といいます。 
 http://www.agoras.or.jp/

 月2回、建築としてのマンションに詳しい建築士さんたちが無料相談会を開催されています。
 
 私が別のところで10年以上にわたりお世話になっている一級建築士の先生が理事長を務められております。
 私がこのまえTwitterでつぶやいた、「ボル、ボラレル」ということのない、安心して相談出来る機関だと思いますので、マンションで暮らす人、特に、一番悩ましいのが管理組合の理事をしている方々などが、気楽にまずは相談に行かれることをおすすめいたします。
 
2 
 管理組合の理事をしていると、いろいろと自分の知識ではどうしようもない分からないことがいっぱい出てきます。
 例えば、典型は、建築工事、設備工事に関することです。マンションというのは各戸で人が暮らし、その空間を所有する、一方で集団的な機関として管理組合というものが存在し、共用部分等については管理組合が責任を持たねばならない。
 通常の建築、工事問題とはまた異なった視点、知識が必要とされます。
 そしてよく出てくるのが、大規模修繕工事の適否の問題です。端的には、工事代金の適正です。また修繕積立金の過不足の問題です。
 工事業者、管理会社が事実上、組んでいて管理会社は工事業者からキックバックをもらう、工事業者は過大な請求をする、そうして数千万円と積み立てられた修繕積立金からお金を受け取って行くということがなくはないようです。
 これは管理会社、工事業者の企業倫理の問題というのが本当だとは思いますが、それが住人には見えない、分からない、分からない奴ならボッっちゃえ(過大請求)、という構造です。
 依頼している管理会社でさえ、信用できるのか、出来ないのか、疑わしく思えてくることもあるのです。
 
 そこで必要とされるのが、中立的な第三者の相談機関です。
 倫理、良心に従って、利用者、住人、管理組合の立場にたったアドバイスをしてくれる機関です。

 大規模修繕だけでなくても、マンションの理事を務めたら分かるのですが、日常的にも細々とした修繕、点検工事の費用がかかるといわれ、請求されることがあります。
 果たしてその費用が妥当なのかどうか。
 電気設備系統の点検費用として、点検だけで10万円かかります、といわれたとき、果たしてそれは妥当なのかどうか。
 
 弁護士の私には分かりません。
 電気工事に詳しい人にしか分かりません。

 そこで今回、私としては満を持して登場したと思われるのが、マンション問題解決・管理支援センター、Agorasです(http://www.agoras.or.jp/ )。


 管理会社を信用できるのか、管理会社なんて充てにならない、工事が分かる専門家に相談したいけど、適当な人や事務所、機関が見当たらないという理事者の方は、大阪、京都、神戸においては相当数、いらっしゃると思います。
 
 月2回、無料法律相談が実施されているようですので、ぜひAgorasに一度、相談されることをおすすめいたします。
 契約してからでは、遅いですから。


 ちなみに、さらに法律的な事柄、交渉の仕方などのアドバイスもという方は、ぜひこちらもご利用ください(笑)。
 NPO建築問題研究会
 http://npo-asj.com/

 月1回、3000円ですが、上本町のところで、一級建築士さんのみならず、弁護士もついて、ペアで相談にあたっております(宣伝)。マンション管理組合、現役理事のわたくしも参加しております。任期あと2か月ですが。
 本音のところ、つくづく思うのは、たぶんマンションは買うものではないかと。。。何かと大変です。。。一戸建ても大変なことはあるとは思うけど。

(おわり)

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2009年7月17日 (金)

住宅瑕疵担保履行法【松井】

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 住宅瑕疵担保履行法(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)によって、「資力確保措置の義務づけ」に関する規定がこの平成21年10月1日から施行されます。
 分かりやすいパンフレットなど
  ↓
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/2-pamphlet.htm


 住宅を建てた、買った、住み始めた、雨漏りが止まらない、地盤が緩くて処置がされておらず家が傾いたなどなど、3000万円以上のお金を長期ローンを組んで借り、一生に一度の買い物の家が実はキズものだった、瑕疵があったという問題が実は珍しくはありません。
 買う側の人は、こんなに高い買い物をするのであり、業者も親切にいろいろとすすめてくれる、手抜き工事といった悪いことをすることはないだろう、大手有名業者だしとか、ものごとをいいように、いいように考え、疑うことなく高っかい買い物をします。しかも建売りであっても、たった2、3回しか現物を見えるところだけ確認してという買い方を意外としたりします。
 建築士の方の言葉で印象深いのは、次のような言葉です。「みな、車や靴を買うとき、何度も迷い、調べ、試したりして、確認してから買うのに、何千万の買い物になったとたんになぜ、同じような買い方をしないんだろうか。」。

 買って住み始めたはいいが、キズものだったとき、売主はそれ相応の責任を取らされるのが法律です。でも、それもこれも売主に力あってこそのものです。
 責任を問おうと思ったら、売主の会社がなくなっていた、倒産していたということも、実は、建築業界、珍しくはありません。
 会社を潰して、新たな会社を起こして、同じ仕事をしていたりすることもないわけではなく。
 売主の会社が倒産していたら、そこはもう自分でなんとかするしかありません。
 破産制度って結局は、債権者に泣いてもらう制度ですから仕方ありません。

 こういう問題は以前からよく指摘されていました。
 めちゃくちゃな家を建てて、売りまくって、売り逃げするというパターンです。


 そこで立法の必要性が叫ばれ、出来たのがこの住宅瑕疵担保履行法です。
 業者が、瑕疵担保責任を果たせるよう、保険に加入したり、保証金の供託をさせておくものです。宅地建物主任業者の場合などは、既に同じような制度がありました。
 倒産し得を許さない制度です。
 
 この制度は、業者にとっては金銭面での負担が大きいものだとは思いますが、業界全体の信用を逆にアップさせる制度ともなるのではないかと思います。
 ついていける業者と、ついていけずに落ちこぼれる業者が出てくるかとは思いますが。
 どの業界も、淘汰の時代です。
 
 消費者の立場からしたら、これから家を買おうとする人は要チェックです。
 すでに家を買ってしまった、その家に問題があったという人は、適用場面に注意が必要です。
 パンフレットにあります。
 「施行日と引渡し時期に注意しましょう。」と。
 法律は、基本、遡って適用されることはないので、泣かないといけない人はいるかと思います。
(おわり)


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