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17 研修・講演

2010年1月18日 (月)

相続事件の数字【松井】

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*三重県四日市市の諏訪神社の境内。幼いころ、ここが遊び場でした。屋根に登ったり。。。


 先日、大阪弁護士会主催の「遺言・相続センター研修」の一環での「相続関連事件の手続選択などについて」という研修を受けてきました。講師は、元家庭裁判所の書記官だったという弁護士の方です。実は、以前、途中から代理人となった遺産分割審判事件での相手方代理人をされていた弁護士でもあるので、その方の緻密な仕事ぶりはよく存じ上げている方でした。
 その研修もやはり、非常に緻密なレジュメが配られ、書記官として、また弁護士としても、相続事件全般に経験豊富な弁護士として実務上の事柄が語られていました。
 

 ただ、例えば、私が研修を担当するとしたらどういったことをまず注意するように話をするだろうかと考えたとき、細かいことはさておき、まずこの数字には気をつけて下さいということを言うかと思います。
 □5000万円
 □10か月
 □1年
 □3年
 
 この「5000万円」、「10か月」、そして「3年」というのは要するに、相続税等の税法に関する手続きに気をつけて下さいということです。
 5000万円というのは、遺産総額が、この5000万円に相続人×1000万円を足した金額を超えるようであれば、相続税の申告が必要ですよということです。もっとも気をつけないといけないのは、この「遺産総額」については、相続税法に基づいた「遺産」の範囲に遺産の「評価」があるということです。民法上の考えとは違う点があります。

 そして、「10か月」というのは、相続税の申告が必要な場合、被相続人の死亡を知った後翌日から10か月後が原則的な相続税の申告、納税期限ですよ、ということです。申告だけではなく、納税もしなければならないので、納税原資をどのように調達するのかが問題となります。
 普段から懇意にしている税理士さん、それも相続税に詳しい、あるいは詳しい税理士を紹介できる税理士さんを相続人の方がご存知ならよいのですが、そうでない場合もあります。
 そんなとき、相談を受けた弁護士としては、すぐに相続税法に詳しい税理士を紹介し、相続に関する処理方針を決める必要があります。
 法定の申告納税期限までに遺産分割協議、あるいは遺留分減殺請求に関する処理が合意できていればいいのですが、そうでない場合であっても、税法上は、未分割として法定相続分で相続したものとして申告納税する必要があります。この申告納税をしない場合、10数パーセントの延滞税がかかってきます。依頼者の不要な損害を回避するためには要注意です。

 そしてもう一つ。3年。
 これは、不動産譲渡所得税がらみです。遺産たる不動産を相続し、その売却となった場合、売却が3年以内であれば納税した相続税額が経費たる取得費として控除でき、利益を圧縮できて、結果、納税額を少なくすることに役立ちます。しかし、これが3年を超えているとこの適用は原則的には認められないとされています。
 こういった税法による圧迫があれば、相続人は皆、対税法と言う点ではおおよそ利害を共通にしているので、長期化しそうな紛争も折り合いが付けられて、迅速解決することがなくはありません。
 相談を受けた弁護士としては、こういった情報を依頼者に提供できる、出来ないは事件処理としても大きく違うのではないかと思われます。
 (*上記記述は一般論です。実際の事件における処理の適否、詳細については、必ず税理士にご相談ください。)
 (*国税庁のタックスアンサーは、概要を抑えるのに便利です。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4202.htm

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 そしてもう一つは「1年」。これは普通、相続の相談にあたる弁護士なら皆、確実に知っているものです。遺留分減殺請求権の行使期間です。
 遺留分侵害になるかもしれない「遺言」の存在が分かったら、その遺言の無効を主張する場合でも念のため、ひとまず遺留分減殺請求権を行使しておくのが望ましい処理です。その請求の有無事態が争点となることを避けるためにも、請求は内容証明郵便で行うのが確実です。まだまだ時間があると思って後回しにしているうちに、うっかり1年が経過してしまうということにもなりかねませんので、早め早めに。
 

 さらに私なら、と思ったことは、この遺留分減殺請求に関してです。
 何件か遺留分減殺請求事件を担当してきましたが、私の経験からすれば、これはまず法定外での話し合いを試みて、主張の乖離がひどく合意は難しいということであれば、家庭裁判所への調停申立てはすっとばして、遺留分減殺請求に基づく訴訟を地方裁判所に行った方が解決は早いということです。厳密な調停前置主義はとられていません。
 調停手続きで協議を行っても、このような関係の場合、まず話がまとまるということはありません。
 むしろ、訴訟手続きにおいて、厳密な主張立証手続きを行う中で、しかるべき金額を払うべき側も観念せざるを得ず、私の経験からすれば、和解で終わります。一審判決が出たとしても、控訴審で和解になったこともあります。
 こういった点は、処理方法として何が正しいというものではもなく、各弁護士の経験による実感なのかなと思います。

 いずれにしても、改めて相続事件はまだまだ奥が深いなと思わせられた研修でした。それだけに、今後おそらく、相続、特に遺言作成、執行等に関わった弁護士に対する弁護過誤訴訟が増えるのではないだろうかとの思いを抱いています。気をつけねば。
(おわり) 

*下にいたら見えないことも、上に登って下をみるとその大きなポイントがよく分かることがあります。
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2009年10月 1日 (木)

「国税不服審判所と審査請求手続」の研修【松井】

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撮影 塩澤一洋氏(http://shiology.com/)。勝手に心の師匠。なんと!iPhone3GSで撮影した写真だということです!絵画のような妖艶な一枚。


 昨日、大阪弁護士会主催の「国税不服審判所と審査請求手続」という研修を受けました。
 講師は、大阪国税局不服審判所の所長、本多俊雄さんです。ついこの春までは民事部の裁判官をされていた方です。おそらく2、3年ほど、審判所の所長を務めた後、また裁判所に戻られます。
 そうです、国税不服審判所は「国税庁の中の特別の機関」なのですが、その所長は裁判官という法曹が務めているようです。
 もう12年前になる、司法修習時代の私がいたクラスの民事裁判教官の裁判官も、一時期、東京の国税不服審判所の審判官をされていましたので。
 で、特に守秘義務が厳しいようなのですが、その義務の中で、いろいろと興味深い実務上のお話がきけて面白かったので、ここにまた自分用にメモします。ブログをご覧頂く方にも何か参考になることがあれば。


 国税不服審判所の詳細については、HPが充実しているのでこちらをご覧ください。
 http://www.kfs.go.jp/

 審査請求事件については、平成20年度、発生件数が2835件あったということでした。ちなみに、異議申立ては5313件、訴訟は355件ということです。
 うち、審査請求事件について代理人の状況はどうかというと、これは感覚的なものですがということで、次のような状況らしいです。
 代理人なし・・・・47%
 税理士代理人・・・29%
 弁護士代理人・・・12%
 代理人なしで審査請求手続きをされる方が約半数。驚きでした。また、税理士さんも代理人として約3割がついているというのも予想より多く、活躍されているんだなという印象を受けました。
 ただ、審査請求について、平成20年度の処理のうちで、納税者の主張が何らかの形で受入れられたものの割合は、14.7%だそうです。
 これを狭き門と捉えるのか否か。


 最近の傾向としては、やはり国際税制がらみが多いということでした。
 そういえば、大学の同級生などで国税局に就職したという人が、留学しているらしいという話も聞いたことがあるので、国税局の方も力を入れているのだと思います。
 また、国際税制がらみになると、金額も大きく、専門性も高く、そして争訟性が強いという傾向があるようです。
 企業も、納得出来ないときは国税局に対して争うようになってきたということだと思います。数年前から言われていますが。
 

 審査請求手続に関しては、審判官として多いのはやはり税務所からの出向の人がほとんだということで、手続的保障といった観点、主張と証拠といった観点、あるいは第三者機関としての視点という点で不慣れな面もあり、法曹出身の審判官として、いろいろと協議しているということでした。
 税務所の職員として働いていた方々が、第三者機関として、いわゆる古巣の税務所の判断について改めて審査というのは、これはもう制度的に難しい面があるというのはやむを得ないと思います。
 また、法曹ではないので、実体面と手続面を区別して思考するという訓練を受けているわけでもないので、この思考法はなかなか難しい面もあるのだろうと思います。
 ただ、もちろん税法については税務所の職員出身の方は実務を経験されたプロですので、逆に法曹出身者の方はその面で教わることが多々有るのだろうと思います。
 行政部内の最終判断となる裁決を行う機関としては、よく出来た機関なのだろうと思います。


 ちなみに私は、固定資産税という地方税に関し、地方自治体に対し異議申し立てを行い、自治体の行為が改善されたという経験はありますが、国税に関して、この審査請求手続を利用したという経験はありません。
 ただ、講師が言うには、たとえば税理士が代理人となっている件でも、やはり民法上の観点が重要であって、知識と経験が必要な案件で、弁護士さんに相談に行かれたらどうですか?と言いたくなるような案件もないわけではないということでした。
 また弁護士が訴訟代理人となって訴訟になった事案でも、審査請求手続の方を利用していてれば、もっと早く妥当な解決が導き出せたのではないかと感じる事案もないわけではないということでした。
 

 国税不服審判所の目的は次のようなものです。
 

「税務行政部内における公正な第三者機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資すること。」

 おもしろいのは、納税者の正当な権利利益の救済が目的だけではなくて、税務行政の適正な運営の確保にもある点です。
 そのためか、不当な処分の取消対象は、違法な処分だけではなくて、不当な処分も取消の対象になるようです。

 「違法」「不当」と聞いて思い出すのは、ある裁判官の言葉です。
 「違法判決」と言われたら困るけど「不当判決」と言われる分には仕方ないと思える、というものです。
 裁判ではそういう世界です。
 しかし、この審査請求、裁決においては、「不当」な処分も是正の対象とされるのです。
 
 裁判と、それ以外の似て非なる制度に手続き。
 いろいろとあります。またどこかでまとめたいと思います。
 相続でよく出てくるので依頼者の方々によく説明するのですが、普通に生活していたら、「裁判所」「裁判官」というひとくくりで、裁判所、家庭裁判所、訴訟手続、審判手続、裁判官、審判官、訴訟事項、審判事項の説明が難しいです。「既判力」って何という話も出てくるし。ホワイトボードに書いて、説明させていただくと、なるほどと納得はしていただけるのですが、その後、本当に腑に落ちているのかどうか怪しいことも多く。
 相続事件だと、下手したら、家庭裁判所と地方裁判所(高裁、最高裁)をいったりきたりということもあります。だから事件解決が長期化することも多く。前にもどこかで書きましたが、離婚訴訟のように、家裁で一元化するか、地裁でも判断可能とした方がいいのにと思います。
 
(おわり)
*京都地裁に行ったらよくよるお店、mamaroのスープカレーです。絶品! 
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2009年7月29日 (水)

民事再生手続の現状と課題【松井】

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 ひさびさのブログです。やはりtwitterを始めてしまうと、そっちで気づきなどをそのまま吐露して、溜めが減るような気がします。
 この間、「遺言と遺留分」について一度、自分でもまとめておきたいなあということを考えつつも、今日は、近畿弁護士連合会の夏期研修として「民事再生手続の現状と課題〜大阪地方裁判所における実務運用を踏まえて〜」というお題で、今の大阪地方裁判所の破産部、民事6部の部総括判事小久保孝雄さんが講師の研修を受講したので、学んだことをメモっておこうと思います。
 ちなみにこの小久保裁判官は、最高裁判所司法研修所の元民事裁判教官をされていました。ということで、基本、教え好き、話し好き、研究熱心という推定が働きます。以前は、大阪地裁では第10民事部、建築専門部にいらっしゃいました。


 時間は2時間だったのですが、みっちりと中身の濃い研修でした。立って話し始められたのですが「私は喋って話が出来ないのです。教官時代も、修習生の座席の間をうろうろ歩いて話していたくらいなので。」と言って、結局2時間、立ちっぱなしで講師を務められました。
  
 民事再生手続きの現状ですが、大阪では昨年度は90件の申立てだったようです。ちなみに、東京は322件。そういった統計資料も豊富につけてくれています。

 以下、気になったことを自分用にメモしておきます。
 いずれにしても、破産申立もそうですが、民事再生も、債権者がいるなかでの力仕事、まさに申立代理人弁護士の力量が問われるものになると思います。
 
 □ 1条をよく依頼者に理解してもらうこと。
 □ 申立て段階から、出来るなら公認会計士と協同すること。
 □ 監督委員は、法の趣旨としては消極的なものかもしれないが、実務では、事案によっては監督委員の積極的な姿勢が求められる、再生手続きの成功をもたらすことになることも多々ある。
 □ 再生債務者の第三者性の議論については、まだ最高裁判決は出ていない。
 □ 事案によっては、監督委員が、事業譲渡、入札に立ち会うことが効果的なこともある。
 □ とにかく、再生債務者代理人、もっとガンバレ。
 □ 申立て段階では、手続きとして、6か月先まで資金繰りを詰めておくこと。
 □ 法85条後段は、明文上、「少額」というのがやはり大前提だろう。
 □ ファイナンス・リースについては、最判三小平20.12.16判決。しかも、肝は、田原睦夫裁判官の補足意見の2以下のところ。「しかし」以下のところだろう。
 □ 担保権消滅請求はあまり使われていない。数件。
 □ 事業譲渡の場合は。
   透明性に注意。
   スポンサーについては、必要性、選定手続き、適格性、契約内容の相当性。
 □ 計画案提出の伸長については、具体的な説明を。別除権協定に時間を要するなど。
 □ 64条、管理型の運用状況。
   東京地裁はほとんどないが、大阪地裁は必要と判断するなら躊躇なく発令する。
   100件中6件くらいの割合。
   抜かない伝家の宝刀は、伝家の宝刀ではない。
 □ 決議は、集会型が9割。続行期日の指定が可能であり、柔軟性あり。
 □ 書記官とコミュニケーションを。書記官から申立代理人弁護士に対する不満。
   勉強不足。指摘に不対応。


 裁判官が講師の研修は、結局は、裁判所として弁護士に苦言を呈するということになります。
 それはそれで、ああ、裁判所はそのように見ているのかということが分かり、非常に勉強になります。弁護士が皆、裁判官を「お上」的に崇め奉っているわけではなく、「司法制度」という一つの制度の役割を担う各当事者からのそれぞれの視点を知るといった感じではないかと思います。
 協議会というのが行われたりして、弁護士の方から、裁判所に対し、運営をもっとこのようにして欲しい、こうするべきだといった苦言が呈されることもあります。
 
 弁護士、検察庁、裁判所と三者三様ながらも、一つの司法制度というものに携わる者として、それぞれがよりよい仕事をしよう、したいと、協同し、そうであっても馴れ合いにならずに適度な緊張感をもって、刺激し合っているというイメージで理解しています。
 裁判所側から弁護士がどう見えているのか。勉強になります。

 とはいえ、たぶんきっと、「バカっ」、「あほっ」と見えているのだと思うし、弁護士も裁判所を「バカっ」、「あほっ」と見ていることもあります。

 適度な緊張感、といったところでしょうか。

(おわり)
 
*坂東英二さん、69歳。天神橋筋商店街、120歳。
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2009年4月22日 (水)

うわあ!上野千鶴子教授がやってくる!【松井】

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 つい最近、遥洋子さんのベストセラー「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」の文庫本を読んでいました。
 実は、発売された当初、通勤途中の梅田のブックファーストにならんでいるのを見かけ、表紙につられて当時、読んでいました。でも中身で覚えていたのは、ハーブティーがリラックスとしていいこと、くらいしかありませんでした。

 それが先日、宇都宮に出張に行った際、地元で開業している同期の弁護士に遊んでもらったところ、その同期は、大学の博士課程に入っていて、今、論文で泣いているという話を聞いたところでした。それだけじゃなくって、その指導教官である大学教授がいかに頭が切れるかといった話も聞いて、刺激を受けていました。触れば切れるような優秀な人に触れる、接するというのは、すごくいい刺激になります!
 それで、遥洋子さんが上野千鶴子教授に鍛え上げられた話である「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」を思い出し、でも初版で買ったものは既にブックオフだかに売り飛ばしていて手元になかったので、改めて文庫版を買って読み直したところでした。


 で、読み直したところ。ああ、言葉ってこんなに刺激的だったんだと改めて思っていたところでした。

 それが、なんと!
 大阪の全弁護士に配られたチラシが私の机の上に。
 
  

講演会開催のご案内 「ジェンダー概念と法」
  〜目からウロコのジェンダー論〜 
  話題の社会学者 上野千鶴子氏が縦横無尽に弁護士の「仕事」を斬る!!

 ああ、これは絶対に行かねば!
 すぐに参加申込をFAXしました。

 今、上野千鶴子さんと言えば、「おひとりさまの老後」の方が有名かもしれないけど、90年代以前、もっと有名な本がいくつかあります。それ以降でも、やはり第三者の視点で上野千鶴子さんの鋭さを描いた遥洋子さんの本は秀逸だと今回、読み直して改めて思いました。

 その上野千鶴子さんを生で見られる!
 もう気分はミーハーです。
 ああ、本にサインが欲しい。差し出したら怒られるかな。
  
 このミーハー気分。ワクワクします。
 「弁護士の『仕事』を斬る!!」いったいどんな風に斬ってくれるのでしょうか。楽しみです。
 大阪弁護士会に入っていて良かったと心底、思えました。
 企画されたかた、GREAT JOB !

(おわり)  
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2008年12月17日 (水)

根拠の検証〜考えつづけないと〜【松井】

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 大阪弁護士会主催の研修に参加しました。
 「無実の人がなぜウソの自白をするのか?~アメリカ125の虚偽自白の研究と取調べの可視化、そして弁護実践~」というものです。
 ノースウェスタン大学のスティーブン=ドリズィン教授の講演です。虚偽自白の専門家とされる教授です。


 刑事事件は民事事件とは全然違います。
 刑事事件の場合、弁護士としては、相手はまさに国家権力です。
 民事訴訟も相手は裁判所、国家権力ですが、刑事事件だと、訴訟の前の捜査段階において、警察、検察官、そして裁判所が登場します。
 これらに対し、被疑者、被告人を依頼者として活動します。
 いったん逮捕され身柄を拘束されると、最長48時間+21日間、身柄を拘束されます。
 この間、何がなされるのか。
 捜査活動の一環としての取調べです。警察官から取調べを受け、検察官から取調べを受けます。
 取調べの結果は、調書として書面化されます。
 これが、裁判のときに証拠として検察官から裁判所に提出されます。


 被疑事実を否認している被疑者の弁護活動としての最大のポイントは、自白調書をとられないようにすることだと言われています。
 なぜか。
 やっていなくても、人はウソの自白をしてしまい、それが調書にとられるからです。
 でも、だったら裁判になったときに、あれはウソの自白調書ですといえばいいのじゃないか、裁判所は聞いてくれるはずだ、と多くの人が思っているかもしれません。

 現実は、違います。
 やってもいないことをやったというわけがない、という考えがあります。
 特に、たとえば重大犯罪、重罰がまちうけるような罪に問われているときは、死刑になるかもしれないのに、殺しましたなんていうわけがない、と。


 ドリズィン教授はこの点を研究しました。
 自白をしていたけど、後に、DNA鑑定などによって無実が明白になった被告人達の事例を。
 「虚偽自白事例の81%が、米国では死刑宣告をうけかねない罪である殺人罪に対してなされたものである。
  DNA鑑定により疑いが晴れた最初の200件のうち、強姦・殺人事件の41%、殺人事件の25%に虚偽自白が含まれていた。
  200件のうち7件で虚偽自白をした人が死刑判決を受けていた。
  虚偽自白をした人の大半は、知的障害や精神疾患のない成人だった。」

 統計結果からすれば、「罪を犯していないなら、罪を犯したという自白をするわけがない。だから、つくられた自白調書は信用できる。」という理屈が、実は根拠のないものであることがわかると思います。
 
 ドリズィン教授は、「虚偽自白のタイプとして」として次のように挙げています。
 ・強要されて迎合した自白ー危害を受ける恐れから、または減刑の約束に応じて自白を行う
 ・ストレスによる迎合^法的に妥当な範囲を超えた取調べによる極度のストレスからの逃避のために自白を行う
 ・信じ込まされた/取り込まれたー罪を犯した記憶がないのにもかかわらず、自分がやったに違いないと認め、心から、ただ往々にして一時的に、罪を犯したと信じ込む


 以前、殺人の被疑事実で逮捕された方の弁護をつとめました。否認事件でした。警察官は日々、過酷な取調べを行っていましたが、なかなか自白調書がとれませんでした。
 そこである取調官はこう言って「自白」をするように促しました。
 「あなたの後ろに被害者の霊が見える。被害者がうらめしそうにしている。良心の呵責を感じないのか。」
 取調官もプレッシャーがあります。逮捕勾留中に自白調書をとらなければならない、という。焦りの結果の取調べだったのだと思います。この焦りがいきつくと、自白をとるための被疑者への暴行、拷問になるというのが歴史だと思います。そして、やってもいないことについて、やりましたと言ってしまう。
 司法修習生のとき、刑事弁護についてベテランの弁護士が言っていました。否認事件での捜査弁護活動で一番大事なことは何か?
 毎日、被疑者に会いに接見に行くことだ。
 何を原始的なことを言っているのかと当時は、驚きました。
 しかし。実際に自分が弁護士として初めて否認事件の捜査弁護をしたときに実感しました。自白調書をまずはとられまいと、取調官との戦いです。被疑者を励ます必要があったのです。これが日本の刑事事件の実情でした。
 

 アメリカでは、法律で、取調べ官によるすべての取調べの過程が録画録音するように定められているということです。なぜそのような法律が出来たのか。その法律の立法事実はアメリカに妥当することで、日本には妥当しないといえるのか。
 
 民事裁判でももちろんですが、刑事裁判では特に、その「考え」の「理屈」が本当に検証に耐えうる「科学的な根拠」があるのかどうかということが厳密に検討されないといけないと思います。
 人間心理、経験則に対する、本当の深い理解が必要だと思います。
 「殺人を犯していないのならば、殺人を犯しましたなどと喋り、自白調書が出来るわけがない。」
 この理屈に根拠があるのかどうか。
 何事に対しても、疑いをもってかかる心構えが大事です。考えることをストップしたら、おわりです。
 「まてよ。果たして、本当にそういえるのだろうか。何かあるんじゃないのか。」

 まず、すぐに出来ることは。
 その人の声によく耳を傾けることだと思います。
 「自白していたくせに、裁判になったとたんに否認するなんて。」

 耳を傾けることを止め、考えることを止めたら、おわりだと思います。
 
(おわり)
 
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「おまかせ」ってあまり好きではありません。考えなくていいから楽だけど、考える楽しみを自分で放棄していることでもあり。ただ、敢えて「おまかせします」といって相手を、お店を試している人もいますよね。何て意地悪なと思ったことがあります。

2008年10月23日 (木)

渉外相続の実務に関する研修会【松井】

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 先日、日本連合会主催の「渉外相続に関する実務に関する研修会」13時30分〜17時00に参加しました。
 自分用のメモがてら、ブログにアップしておきます。
 
 第1部 韓国渉外相続の実務 近似の実務上の留意点について
     〜近似の韓国家族法の改正点ほか〜 
     裵 薫 弁護士(大阪)
 第2部 外国人の遺言
     〜外国人遺言作成上の実務上のノウハウ〜
     本間 佳子 弁護士(東京)


 相続事件を多く扱うなかで、被相続人が韓国籍の方の事件をいくつか担当させていただいてきました。
 準拠法が韓国法となるため、それなりに韓国の相続法の事柄は、比較的資料、文献が入手しやすいこともあり、分かっているつもりではいました。

 が、やはり。フォローしきれていませんでした。知らなかった事柄がいくつかありました。

 常時フォローしているわけではない案件を新しく担当する際は、念のためにと常に最新情報をチェックする必要があります。
 ここ数年で怖いのは、出版物でのフォローでは間に合わないことがあるということです。
 出版社による出版物はそれなりに編集作業がほどこされているので情報の精度は信頼できるのですが、スピードがネットに遅れることがあります。
 弁護士も、まずはネットで検索する必要があります。そして文献でチェック。また人のネットワークも重要です。経験者の方に教えてもらうのは早いし確実です。
 ネットの検索は、当然、開設者によって掲載情報の信頼性がまったく異なるのでこの点が注意ですけど。


 「外国人の遺言」は、上記のとおり、被相続人が韓国籍の方のものについては比較的なじみがあるのですが、それ以外の国の方のものについては、アメリカといった何となくポピュラーな国籍の方のものであっても、経験している弁護士はなかなか少ないのではないかと思います。
 私自身も数えるほどしかありません。
 
 今回の講演の本間佳子弁護士も、アメリカ国籍の方のものは10件程度だと仰っていました。
 
 その際のポイントとしてレジュメで挙げておられたことをメモしておきます。
 
 外国人の遺言作成上知っておきたいこと
  ⑴ 遺言の方式
  ⑵ 遺言の成立と効果
  ⑶ 遺言の内容
  ⑷ 遺言執行者の指定と権限
  ⑸ 外国法に基づく他の遺言との関係
 その他の留意点
  ⑴ 相続税
  ⑵ 遺言執行時の問題(相続人の確定、検認など)

 約90分の講演でのお話は、私にとっては一応、確認作業になり、安堵するものでした。


 講師の弁護士が何度も強調されていたのは、ニーズはあるのだということでした。  
 また、最後に仰ったのは、日本での外国人の遺言作成についてはニーズがあり、しかもやりがいがあるということでした。

 遺言を作成しようとする外国人、アメリカ国籍の方の多くの意識としては、自分の死後、遺された配偶者や家族の方を守るという意識で行動されていることが多く、そのことに弁護士としてサポートし、サポートをしていくなかで信頼をうけるといった点、仕事としてもやりがいを感じると仰っていました。
 講演を聞きながら、1人激しく共感していました。

 日本国籍の方が普通に日本で遺言を作成しようとする場合、確かに、子ども達が紛争にならないように、あるいはこの子には多くを相続させようといった意味で、相続人を守ろうという意識が確かにあります。

 ただ、たまたま今、日本で暮らしているという外国籍の方の場合、もっと切実な思いがあるように思います。
 本間弁護士が仰っていたのは、自身も、アメリカで暮らしたり、立法支援活動としてカンボジアで2年ほど暮らしたことがあるが、言葉に不自由しなかったとしてもやはり異国の地では何かと不安で、心細い思いは常にある、だからこそ、日本で暮らしている外国人が日本で遺言を作っておこうという気持ちは、よく分かる、それは自分の死後、自分の家族に対し出来る限りのことをして守りたいという意識が余計に働くのだろう、ということでした。
 そのとおりだと思います。
 弁護士として不慣れな点はあるかもしれないが、それでも訪ねてもらった以上、弁護士として出来る限りのことをしてサポートしたい、愛する家族を守りたいという思いに応えたいという意識に突き動かされるのだと思います。
 自分が外国で暮らしていたら、同じような思いになるだろうなと思います。そんなときやはり力を貸してくれる、信頼できるプロフェッショナルが欲しい。

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 ただ、アメリカでは、Estate Planning の一環として遺言を作り、さらには信託制度が発展しているので、財産の一部に信託(Trust)を設定することにより、相続税対策が可能という面もあるようです、遺言が利用される理由の一つとして。

 数年前、相続特集で、日本テレビの「思いッきりテレビ」に出演させていただいたとき、ゲストだったダニエル・カールさんが仰っていました。毎年、遺言を作っていると。遺言を作成するというのは、ごく普通のことだったと。そんなもんかと聞いていたのですが、たぶんそうなのでしょう。
 ネットサーフィンをしていると、西海岸にEstate Planning 専門の弁護士のサイトもありました。
 
 ただ、これも以前、アメリカの信託制度に詳しい元金融マンで、現在教授をされている方とお話をしていたときに聞いたのでは、アメリカでは、信託制度といっても個々に非常に詳しい内容の契約を交わしているので、信託制度が発展しているというよりも、契約文化が発展しているのであるといったことでした。

 日本の信託法は、最近、事業承継などとからんで改正、注目されてはいますが、税務上は、やはり信託制度の利用による課税逃れといったことがらはなかなか出来ないような仕組みになっているようで、今後、信託法としてどうこうというよりも、おそらく、ニーズに対応した契約内容、超超超具体的な内容の、ごっつい、分厚い信託契約書を作成するくらいでないとなかなか相続関連については信託制度は使えないのかなという気もしています。
 

 講師の弁護士は、アメリカ留学もされておりニューヨーク州の弁護士資格も持っておられて、英語には不自由しない弁護士のようでしたので、その点、非常に羨ましく思いました。
 以前、ニューヨーク州法の相続関連の内容を調べようとしたのですがうまく文献にたどり着けず、同じくニューヨーク州の弁護士資格をお持ちの大阪の弁護士にお世話になりました。
 ああ。
 せめて読みに不自由しない程度に英語の勉強をしたいと思います。

(おわり)
 
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2008年9月27日 (土)

鳥飼重和弁護士の講演と「弁護士」【松井】

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 ↑京都 糺の森。

 今や税務訴訟で超有名な東京の鳥飼重和弁護士が講師の日本弁護士連合会主催の研修を受けました。
 お題は、「弁護士に役立つ税務訴訟の知識」。
 しかし内容はというと、鳥飼弁護士もたった2時間で細々とした話をする気は毛頭なかったようで、もっぱら弁護士に発破をかけるような、威勢のいい経験談といった感じでした。
 私はなかなか面白く聞くことができました。
 備忘録代わりにここにメモ。


 レジュメの一分抜粋
 

 弁護士における課題
 1 受け身の姿勢が変わらない
 2 社会の要望が見えていない
 3 市場を築く気がない
 4 実例 
    相続・事業承継
    内部統制
    中小企業


 租税法率主義と私法重視
 
 タックスロイヤーは、本来、弁護士
 タックスプランニングに必要な要素
 ① 税法・通達に精通・・・・税理士
 ② 税務実務に精通・・・・・税理士
 ③ 契約法に精通・・・・・・弁護士
 ④ 証拠法に精通・・・・・・弁護士

 日本のタックスプランニングに欠けているのは、③と④
 弁護士が加わっていないから。
 日本では、弁護士と税理士との協同が必要。

 

 中小企業、会社経営者の方にとって、身近な相談相手、専門家は、やはり税理士さんになるのだと思います。
 うちの実家の商売でもそうです。父や母は、出先の店を閉めるか否か、融資のこと、兄への事業承継(というほどのものでもないですけど)について、誰に相談しているかというと、顧問の税理士さん、会計事務所です。
 四日市にも弁護士が増えているはずなのですが、弁護士には相談しません。
 さすがに契約トラブルなどについてはたまに私が相談を受けますが。
 でも、「弁護士」に相談するのは、事後の話であって、「事前」の事柄について相談するのは、「身近」な税理士さんです。
 
 なぜか。
 まさに「身近」というこの一言に尽きると思います。
 記帳代行を頼んでいれば、またそうでなくても月に1回は訪問してくれて、話をする機会がある、それが「身近」な税理士さん。
 本来、契約法/証拠法の知識と経験が必要な、まさに弁護士マターであっても、税理士さんが「回答」「アドバイス」をくれます。

 ただ、以前、税理士さんが顧問先からの質問に次のようにアドバイスしたと堂々と発言しているのを見て、椅子からひっくり返りそうになりました。

 Q(経営者) 従業員が、過失か故意か分からないが、現金を紛失し会社に損害を与えた。経営者がとる対応は如何。
 A(税理士さん) 損害分を給与から天引きしたらいい。

 ええええっっ!!!????
 労働法、裁判例をちょっとでも知っていたら、そんなアドバイス、あり得へん!
 税法・通達や、税務実務に精通していることと、経営や労働法、会社法、民法、さらには裁判になったときに大事な証拠法に精通しているとうい担保は何もありません。弁護士は、かろうじて司法試験に合格している、研修所で教育を受けている、訴訟代理人をつとめているという担保があるにすぎませんが。
 
 これが実態の一つなんだと思いました。

 鳥飼弁護士ではないけど、弁護士、社会のためにもがんばらないと。


 それはさておいても、自分が無知であることを知ること、謙虚さが大事だとこのごろつくづく思います。
 謙虚に人に教えを請う姿勢をもって努力していれば、手を差し伸べてくれる人が現れます。
 自分が何もかも分かっている、自分が言っていることが常に正しいといった上から目線の言葉を発していれば、間違っていても誰も糺してはくれません。はっきり言って、損です。人生、損する。
 
 

「『クレジット』レベルが高ければ、多くの人からアクセスされ、より多くのエネルギーを集めることになる。
  結果、あらゆる課題の解決に調達できる材料や使える手段、人生のさまざまな局面での選択の幅が、『クレジット』レベルの低い人より、はるかに豊かになる。
  何かのテーマについて考えるプロセスだけをイメージしてみても、『クレジット』レベルの高い人は、より豊かな広がりで助けを求められるから、他人の思考プロセスまでを拝借できる。
  それは、自然に、いい考えを導き出すことに繋がるだろう。
  もっとも、外見だけを見れば、他人には単に『運のいい人』や『本番に強い人』に見えるだけかもしれないが。
  『クレジット』レベルの低い人には、他人が知恵を貸さないから、狭い世界観での乏しい情報による決断になる可能性がある。視野狭窄に陥る危険も。」

  (196頁、藤原和博「誰が学校を変えるのか 公教育の未来」2008年9月、ちくま文庫)
  ここでいう「クレジット」とは、「信頼と共感」と定義されています。

 経営者も、弁護士も、「クレジット」レベルを高める、「信頼と共感」を高めないと、「狭い世界観での乏しい情報による決断」という愚をおかしかねない。

(おわり)

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2008年4月 7日 (月)

そうだったのか、「税理士法」【松井】

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1 
 3月、日本弁護士連合会主催の「租税税訴訟の新たな展開」という研修を受けました。 その際、従前、租税に関して、弁護士はその果たすべき役割を果たしてこなかったのではないかという指摘がありました。
 従前、税務のことは税理士がやるべきことで弁護士が担当すべき事柄ではないといった風潮がなかったのかということでした。
 その際、税理士の役割に関して、税理士法1条の指摘がありました。

 税理士法1条には、「税理士の使命」として次のように記されています。
(税理士の使命)
第一条 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。

 一方、弁護士法1条はというと。
(弁護士の使命)
第一条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。



 つまり、税理士法の規定する税理士の役割・使命としては、決して「納税者の代理人」ではないということです。
 「独立した公正な立場」で、納税者と税務当局との間に入る、調整役的な面が役割と考えられていた面が多分にあったのではないかという指摘でした。

 ところで、課税については、国家権力として抑制の対象たるべきものとされ、憲法でしっかりと定められています。

 憲法84条
 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
 
 租税法律主義です。
 なぜこんなことが憲法で定められているのか。歴史の所産です。


 この点、従前、納税の権利は十分に守られてきたのかということです。
 弁護士が「納税者の代理人」として、租税法律主義に照らし、おかしいことはおかしいとして、交渉あるいは訴訟によって戦ってきたのか否かということです。
 これこそ弁護士の役割・使命ではないかと。
 
 先の研修のタイトルは「租税訴訟の新たな展開」です。まさに「新たな展開」です。
 
 私の中では、入国管理業務についても、法律に則った、予測可能性・平等適用がまだまだ不十分な業界ではないかとの思いがありますが、税法もそうでしょう。
 
 以前、会社法の研究者の方とお話をしていたとき、「ダメ駄目、和解なんてしちゃ。判決もらって白黒つけなきゃ、法律の解釈論が進化しない。」といったことを言われました。
 紛争当事者の代理人としては、判決をもらうよりもよっぽどの事情がない限り、和解の方が当事者の利益に繋がることの方が大きいです。
 しかし、相手が国・行政機関である場合、和解は困難な事が多く、特に、租税訴訟は始めた場合は最高裁までやる覚悟が必要だといわれているように、白黒つけるべき事に対しては、判決をもらって白黒をつける方が利益になるのかもしれません。
 和解でも納得できないのなら、筋を通すべき事に対しては筋をとおす、その事に対して弁護士として役に立てることがあれば、これはまさに弁護士の使命としてやり甲斐を感じることだと思います。

(おわり)

2008年3月21日 (金)

何を売るのか~「無償」のアドバイス~【松井】

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 大阪弁護士会主催の「事業承継」に関する研修を受けてきました。
 弁護士3名に公認会計士の方1名の豪華な顔ぶれの講師陣でした。
 2時間ほどだったので、それほど詳しい話もなかったのですが、公認会計士の方の試算表がレジュメに掲載されており、それを見て話を聞いて考えたことを。



 「単純な持株会社設立について」とし、金融機関から3億円借りてなす、スキームについて。

 取引実施後、何年後にオーナーが死亡したか、またその後、株価がどれほど上昇したのかという点で何パターンが分け、それらと「対策せずに、死亡」した場合とを比較表としていました。

 結論としては、「相対的に『何もしなかった方が良かった』という場合もあります。」としています。試算表上、確かにそのとおりです。
 「要は、健全な『事業』の承継を最大目的に、個別具体的に検討し、長期間の費用対効果を見極めた対策、つまりオーダーメイドの対策を策定する必要があります。」としています。


 思い出したのは、平成前後ころ流行ったらしい、金融機関おすすめの「相続税対策」です。
 不動産を担保にした莫大な借入をし、バブル崩壊後、予定が狂って借入金の返済に困窮し、結局、不動産を失ったという話が多くありました。いくつか訴訟となり争われたことから、結果論かもしれませんが、ひどい話だと印象に残った記憶があります。



 今回の公認会計士の試算に基づく結論付けを見て、考えたのは、よかれと思ってアドバイスしてくれる人が、何を売っている人なのかということをよく見極める必要があるだろうということです。
 自身の商品(貸付け等)を売らんがためのアドバイスを見極める必要があるということです。
 無償のアドバイスほど気を付ける必要があるでしょう。「無償」はありえない。ということは、アドバイス以外の事柄にお金を払っているのです。そのアドバイスは本当に貴方の利益を考えてのものといえるのか。
 利害関係を見極める冷徹な判断が必要でしょう。

 洋服を買おうとお店に入り、試着したところ、どう考えても肩のところがピチピチあるいは、貴方には似合わない服を「よくお似合いですよ。このシャツを中に来たら更に栄えますよ。」とアドバイスしてきも、その言葉を誰が信じるだろうか。
 あなたがそこのその服を買うことと何の利害も有しない昔からの親しい友人の言葉であるなら、信用するだろうけど。
 友人と店員の言葉の違いは何だろうか。
 店員は、アドバイスを売っているのではない、服を売っている人だということ、ただそれだけだろう。

(おわり)
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