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13 消費者問題

2010年5月 5日 (水)

弁護士のセカンドオピニオン【松井】

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 5月3日の日経朝刊で、顧問弁護士を利用する大企業でも要所要所で顧問以外の弁護士に意見を確認するセカンド・オピニオンを利用しているという記事が載っていました。
 11年前、弁護士業を始めたときからずっと思っていたこと、司法修習生のころからずっと思っていたことですが、個人こそ複数の弁護士に意見を聞くようにした方がいいとずっと思っていました。
 個人ですらなのですから、企業であればなおさらだと思います。
 となるといきつくのは、弁護士と「顧問」契約をするというのは実は不合理なのではないかということです。

2 
 セカンド・オピニオンというのは、医師の世界でよく目にするようになっていった単語でした。
 病気になる。医師の診察を受ける。そして治療を受ける。治癒すればいいのですが、一向に治癒しない。医師に対する不信感。別の医師に診察を受ける。違う診断を受け、違う治療を受ける。そして治癒する。
 なぜこれが今までスムースにいかなかったのかというと、最初にかかった医師への義理立てだけだと思います。
 そうした医師に対する気兼ね、壁が低くなってきて、以前よりもセカンド・オピニオンを求めるのが普通のこととなってきたということです。
 他方で、これがいきすぎると、ドクター・ショッピングとも言われたりするようですが。


 これを弁護士についてみると。
 個人の方でよくあるのが、最初に知り合いなどから紹介された弁護士にそのまま依頼してしまうということだと思います。
 しかし、違和感がある。
 この弁護士さんは本当にこの分野について経験があるのかな?
 熱心に私の仕事に取り組んでいるのだろうか?
 などと違和感を感じながらも、紹介者や弁護士への義理立てから、違う弁護士にあたってみることが出来ない。
 しかしテレビ番組「行列が出来る法律相談所」を見てもよく分かるように、一つの問題でも4人弁護士がいたら4つの異なる意見が出てくるのが法律の世界です。
 裁判の世界に絶対はないと思います。なぜなら、裁判は、絶対的真実の探求ではなくて、主張立証の世界だからです。
 勝つ裁判であっても、しかるべき主張立証がなされていなければ当然、負けます。
 
 私が集中的に取り組んでいる相続の分野に限らず、離婚や交通事故、労働事件といった一見、どんな弁護士でも処理できそうな分野であっても、あたる弁護士によって結論が異なることは十分ありえます。
 以前残念ながら見かけたのは、現象と原因を分けて考え、訴訟では原因を主張立証する責任がある建築瑕疵訴訟で(例えば、雨漏りが現象であり、雨漏りが生じる原因は何なのかが原因。)、ひたすら現象だけを主張立証して、最高裁まで争い負けていた事件です。その方は、判決が確定してから、さらにどうにかならないかとようやくセカンド・オピニオンを求めて、建築問題研究会に相談に来られていました。訴訟記録を拝見した相談員たちは、うなだれることしかできませんでした。
 
 医師の世界では、医療過誤訴訟の経緯もあってか、自院では手に負えないと判断すべき症状に対しては、より専門的な病院を紹介すべき責任があると言われています。
 今後、弁護士の世界も同じ注意義務が法的にも認識されていくことになると思います。 
 自分一人では対応できない、自分の経験能力の限界を知り、認めること、それが依頼者への誠実な説明義務になると思います。
 
 弁護士自身、自己の判断以外の判断があり得ると思うのであれば、他の弁護士にもあたってもらっても構わないと敢えていうべきなのだと思います。
 顧問弁護士のメリットは、その企業の業務をよく知ることになることくらいだと思います。しかし、顧問じゃないと対応できないのか。そんなことはないと思います。
 そうであるなら、個人でも、企業でも、個別の案件ごとに当該問題の経験と知識が豊富な弁護士を捜し、その弁護士に相談依頼し、適切なアドバイスを受ける機会を設けるというのが、消費者目線の法律サービスなのだと思います。
 「顧問」という名で、毎月定額の報酬をもらい縛る必要は、一定期間を見る必要のある顧問税理士ならともかく、弁護士の場合はただの慣習に過ぎないということになっていくのだろうと思います。
 弁護士を消費する消費者の選択肢が増えるということだと思います。

 まあ、一方で、自分の聞きたい言葉だけを探し続け、意に添わない意見を言う弁護士を切っていくという、弁護士ショッピングというのもあるのでしょうが。それはその方自身がまったく不幸なことです。誰も助けてはあげられないけど。

追加
 実は、相続がらみで各種訴訟をいくつかせざるをえず、長年にわたって依頼を受けてきた依頼者の方が、以前、方針説明をしていたとき、「ああ、市役所で相談した弁護士さんも同じことを言ってましたわ。」と口にされたことがあります。そうです。私に依頼していた事件について、市役所の無料法律相談で別の弁護士さんに相談されていたのです。確かに、気持ちはがっくり来ました。信頼されていないんだなと。ただ、それを私に無邪気そうに口にされることから特に悪気はないのだろうと思い、苦笑して流したことがありました。苦い思い出です。「そうですか。よかったです。」と答えて流しました。

(おわり) 

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2009年10月23日 (金)

商売をするのなら〜法律に無関心ではいられない〜【松井】

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 先日、大阪弁護士会館の方で、司法修習生の方向けの「消費者契約法」についての研修講義を担当してきました。
 この手のことがらに関する私の講師としての出来はともかくとして、2時間の研修のための準備を改めてしなおしていたときに、しみじみと思ったことを自分のメモがてら記しておきます。


 商売をするのであるなら、その売り物に対する思いと同時に、経営者である以上はやはり法律に無関心ではいられない、無関心では駄目だということです。もちろん、簿記・会計(特に、管理会計)の知識も必要だと思います。自分にその知識がないのであれば、詳しい人を雇うか、税理士との顧問契約で補い、あるいは弁護士との顧問契約で補うべきだなと思った次第。範囲が広いです、法律。

 施行が平成13年4月1日の「消費者契約法」という法律があります。これは文字通り、消費者保護を目的とした法律であって、一定の場合、民法で定められた詐欺取消し等の他に、契約の取消しや条項の無効を定めています。
 最近で話題になったのは、建物の賃貸借契約における「更新料」特約の無効判決です。大阪高等裁判所で判決されたものです。

 ただ、実は、消費者の方からの相談において、使うことが多いのは、この消費者契約法ではなくて、特定商取引法と割賦販売法です。
 特定商取引法の場合には、クーリングオフや、契約を途中解約したときの返金についての定めがあります。
 ここで有名なのは、平成20年4月の英会話のNOVAの最高裁判決です。途中解約した場合の精算金の考え方について、NOVAの主張は認められませんでした。3本500円バナナを買ったところ、2本は要らないと返したときに、じゃあ500円÷3本×2本=333円を返してもらえるかというと、NOVAの計算方式は、本当は1本300円のものを3本500円特価で売ったのだから、1本食べたなら300円で、200円しか返さないというものでした。
 このような規定は特定商取引法の清算条項に反するとして無効だとされ、333円返せとされました。
 結局、これがきっかけの一つとものなり、途中解約が相次ぎ、資金繰りに窮して倒産にいたりました。
 そのほかには、割賦販売法です。例えば、NOVAへのお金をクレジットカードを利用して支払っていた場合などです。NOVAに問題があった場合、途中解約をする、じゃあ残るクレジット利用による40万円の債務はどうなるのか?
 有名だったのは30条の4に規定された、抗弁の接続というものです。残る支払いの請求は拒むことができる場合があることを定めています。


 特定商取引法に定められた一定の販売方法、訪問販売、継続的役務の提供などをしている場合、自分の商売が特商法の規制を受けるのかどうかのチェックは必須です。
 また、信販会社の加盟店であって、お客さんがクレジットカードを使う場合、あるいは個品割賦販売を利用している場合も、割販法の知識は不可欠です。
 ところが、たまに驚くことに、自身が特定商取引法の規制を受ける商売を行いながら、社長自身がそのことの自覚がない場合があるのです。
 クーリングオフを意味することを主張されながら、なんでこんな主張を受けるのか?と不思議がっている場合があります。
 いやいや、その商売はこの法律の規制があって、この条項をお客さんは主張しているんですよということになります。

4 
 今後、さらに大事なのは、この12月1日から、新たに改正された特定商取引法と割賦販売法が施行されるということです。
 消費者契約法は従前の特定商取引法や割賦販売法では不都合があった部分をフォローすべく新たに制定された経緯があるのですが、それでもやはり不都合があったということです。
 不都合。
 消費者を食い物にする業者です。本当にこの手の業者の手にかかれば一消費者なんて赤子の手をひねるようなものです。
 そこで、昨年、特定商取引法と割賦販売法が改正され、めちゃくちゃ強化されました。 特定商取引法においては、指定商品制というものが原則撤廃されました。以前は、商品について指定されたものだけが対象だったのです。
 しかし業者は、ここの間隙をついて、みそだとかを売ったりしていました。いたちごっこでした。
 また、割賦販売法においては、抗弁の対抗として、今後の支払いを拒むだけではなく、場合によっては、すでに信販会社に支払った金員についても取り戻せるということを明記しました。
 また信販会社において加盟店の管理についての義務も定めました。売り方等について苦情の多い加盟店を放置しておいて、「知らなかった」と言い逃れすることは出来なくなりました。
 
 また別の項で、この特定商取引法と割賦販売法の改正についてはまとめて記しておきたいと思います。


 経営者は大変です。まっとうな商売でがんばって欲しいと思います。

(おわり)

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2009年9月 9日 (水)

そのお金に理由はありますか?〜更新料約定無効高裁判決から学ぶこと〜【松井】

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撮影 yuko.K


 先日、新聞などでも大々的に報道されましたが、大阪高裁平成21年8月27日判決でもって、京都地方裁判所での一審判決が覆されて、京都のマンション賃貸業者と元住人との間の訴訟で、1年ごとの契約更新時に支払われていた10万円の更新料支払いの約定が、消費者契約法10条に基づき、無効と判断されました。結果、1年の契約更新ごとに支払われていた40万円の更新料を利息をつけて家主は元住人に返せという判決となりました。
 これは、不動産を所有して、賃貸業を営んでいる方々にとっては、衝撃の判決ではないかと思います。消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降に授受された「更新料」名目の金員について、場合によっては、一括して利息までつけて返済しなければならないということがあり得るからです。
 この判決の一審京都地裁判決と今回の高裁判決を読み比べてみました。
 この裁判はおそらく上告も受理されて、最高裁判所の判断も出るだろうとは思いますが、現時点で賃貸人において気をつけるべきことを示唆するものともいえ、自身のメモがてら記しておきます。


 大きなポイントは、賃貸人が賃借人から受け取るお金について、「そのお金に理由はありますか?」ということを改めて総チェックすべきだろうということです。
 今回の事案で、京都地裁と大阪高裁とで結論が別れたのは、まさに今回の事案での「更新料」について、この点の結論の違いだったようです。

 判決は共に、まず「更新料の法的性質」について検討しています。
 家主側は次のような主張をしていました。
  ① 更新拒絶権放棄の対価
  ② 賃借権強化の対価の性質
  ③ 賃料補充の性質

3 
 この点、京都地裁判決は、①については、希薄ではあるが、その性質があるとし、②についても、やはり希薄ではあるがとしつつ、これを認め、③については、本件での「更新料約定は、本件賃貸借契約における賃料の支払方法に関する条項であり」として、「賃料の補充の性質を有しているものということができよう。」としました。
 その上で、消費者契約法10条前段にあてはめてみると、

「『賃料は、建物については毎月末に支払わなければならない』と定める民法614条本文と比べ、賃借人の義務を加重しているものと考えられる」
としてその要件を充たすとするものの、10条後段の要件はみたさないとして、10条の適用を否定したのです。
 すなわち、
「本件更新料約定が『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』であること」
について検討し、①1年契約、賃料月額4万5000円という状況で、10万円の更新料は、過大なものではないこと、②更新料約定の内容は明確であり、賃借人は契約締結時に説明を受けているので、賃借人に不測の損害あるいは不利益ではないこと、③希薄とはいえ、更新料が更新拒絶権の対価及び賃借権強化の対価と志手の性質を有しているということ、これらを考慮し、10条後段の要件は充たさないと判断しました。


 以上の京都地裁の判断に対し、大阪高裁は、まず更新料の法的性質について、① 更新拒絶権放棄の対価性を否定しました。そもそも正当事由がない限り、賃貸人は更新拒絶できないこと(借地借家法28条)、契約条項上も賃貸人がそのように考えていたとは認められない、更新拒絶権行使に伴う紛争回避目的と言う点については、その危険は対等に負担されるべきものであって、賃貸人のみが更新拒絶権放棄の対価として更新料を取得すべき理由はないとしています。
 そして、② 賃借権強化の対価の性質についても、否定しました。合意更新により解約申入が制限されることにより賃借権が強化されるといっても、本件賃貸借契約は、契約期間が1年間という借地借家法上認められる最短期間であって、強化といっても無視してよいのに近い効果であることを理由としています。
 最後に、③賃料補充の性質も否定しました。
 契約期間満了前に退去した際、精算をする規定がないこと/更新料が基本的に10万円の定額のままであり、家賃の増減と連動しないこと/更新料不払いであっても、債務不履行解除を認める余地はないといえること/といったことを理由としています。
 さらには、なお書きで次のように判示しています。
 

「なお、賃貸借契約の当事者間においては、賃料とされるのは使用収益の対価そのものであり、賃貸借契約の当事者間で賃貸借契約に伴い授受される金銭のすべてが必ずしも賃料補充の性質を持つと解されるべきではない(そうでなければ、敷金はもちろん、電気料、水道料、協力金その他何らかの名目をつけさえすれば、その名目の実額を大幅に越える金銭授受や趣旨不明の曖昧な名目での金銭授受までも賃料補充の性質を持つと説明できるとかいされかねないからである)。」

 
 そして、大阪高裁判決は、消費者契約法10条後段の要件についても、まず検討にあたっての指針を打ち立てています。
 
「この要件に該当するかどうかは、契約条項の実体的内容、その置かれている趣旨、目的及び根拠はもちろんのことであるが、消費者契約法の目的規定である消費者契約法1条が、消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があることにかんがみ、消費者の利益を不等に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより消費者の利益の擁護を図ろうとしていることに照らすと、」
として、
 
「契約当事者の情報収集力等の格差の状況及び程度、消費者が趣旨を含めて契約条項を理解出来るものであったかどうか等の契約条項の定め方、契約条項が具体的かつ明確に説明されたかどうか等の契約に至る経緯のほか、消費者が契約条項を検討する上で事業者と実質的に対等な機会を付与され自由に検討していたかどうかなど諸般の事情を総合的に検討し、あくまでも消費者契約法の見地から、信義則に反して消費者の利益が一方的に害されているかどうかを判断すべきであると解される。」
としました。

 そして、今回の事案について大阪高裁は検討しました。
 更新料10万円については、賃料月額4万5000円に比すれば、かなり高額とします。
 そして、

「本件賃貸借契約に本件更新料約定が置かれている趣旨、目的及び根拠について検討」
します。
 この点、
「本件更新料約定が維持されるべき積極的、合理的な根拠を見出すことは困難である」

 
「この約款は、客観的には、賃借人となろうとする人が様々な物件を比較して選ぶ際に主として月払いの賃料の金額に着目する点に乗じ、直ちに賃料を意味しない更新料という用語を用いることにより、賃借人の経済的出捐が少ないかのような印象を与えて契約締結を誘因する役割を果たすものでしかないと言われてもやむを得ないと思われる。」
とまで判示しました。
 そして、
「端的に、その分を上乗せした賃料の設定をして、賃借人になろうとする消費者に明確に、透明に示すことが要請されるというべきである。」
としています。
 そして、賃借人においては、契約締結時、建物賃貸借契約においては強行規定となる法定更新制度というものがあり、この場合更新料を支払う必要がないことの説明を受けていないということを重視しています。賃借人が契約条件を検討する上で賃貸人と実質的に対等な機会を付与されて自由に検討したとはいえないとするのです。結果、本件更新料約定が賃借人に不利益をもたらしていないということはできないとしました。
 このように
「諸点を総合して考えると、本件更新料約定は、『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものと』ということができる。」
としました。


 この大阪高裁判決から言えることは、当たり前ですが、事案を丁寧に検討した結果のものであって、他の賃貸借契約において、「更新料」名目の契約が即、消費者契約法10条に反し無効ということまでにはならないだろうということです。
 場合によっては、要件を満たさず、有効になるものもあるかと思われます。
 
 ただ、教訓として考えられるのは次のようなことです。
 「受け取るお金、そのお金に理由はありますか?」ということです。
 そのお金は何の対価なのか、営業、商売をする人は、改めて、この問いにどのような答えを用意できるのかを総点検する必要があるかと思います。
 そうでないと。
 消費者契約法10条によって、無効として、利息もつけてまとめて返還せねばならないという事態もありえます。

 先日、賃貸物件を所有する賃貸人の方の代理人となって、簡易裁判所に出廷しました。そうです、元賃借人から訴えられたのです。
 その訴訟は、大事になることを望まない依頼者の方の意向によって、徹底抗戦で判決ということなく和解で終わったのですが、その際、簡易裁判所の裁判官の方や調停委員の方とちょっと雑談をしました。
 曰く。
 やはり、今、簡易裁判所では、弁護士に依頼せずに本人訴訟で、賃貸人を訴えて、敷金などを返還しろという裁判が非常に多いとのことでした。

 更新料の約定というのが、京都で多い契約スタイルなのかどうか、それとも日本各地であるものなのかどうかはよく知りませんが、今一度、今のうちに確認されることをお勧めします。


 そして何よりも。消費者を相手として商売を営む個人、法人についても、金銭の授受がある場合、契約書に何らかの請求権などを明記している場合、そのお金はいったい何の対価として支払請求を定めるのか、「そのお金に理由はあるのか。」「どういう理由なのか。」を今一度、点検し、改めるべきところは早々に改められることをおすすめします。
 訴えられてからでは、さらに時間、弁護士費用といったコストがかかりますので。

 話は違いますが、私が以前、自分の住居を賃借しようとした際、不動産仲介業者の方から支払額の明細を示され「クリーニング料」というものが挙っているに気づいたことがありました。
 「何だこれは?」と思い、実は、仲介業者をすっとばして家主の会社の方に連絡をいれました。家主も知らない金額であり、部屋の清掃はすでにもうしてあるということでした。仲介業者が、家主にも黙って、根拠のない金を賃借人からくすねとろうとしたものでした。

 あれ?コレは何?という素朴な感覚と、それに従い行動することが、食い物にされることを回避する道ですし、業者の方は、突っ込まれたときに弁解できないようなお金は請求しないという基本を今一度、確認するということだと思います。
 不安を覚えるようでしたら、今のうちに早めに弁護士に相談されることをおすすめいたします。過去の事実を変えることはできませんが、将来のさらなる損害の拡大に対し手当はできるかもしれませんから。

(おわり)

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2009年9月 6日 (日)

最高裁判所の裁判官~弁護士活動の方向性~【松井】

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1 
 大阪弁護士会所属の弁護士であり、平成18年まで約4年間、最高裁判所の15人の裁判官のうちの一人を務められた滝井繁男弁護士の著書を読みました。滝井繁男「最高裁判所は変わったか 一裁判官の自己検証」(2009年7月、岩波書店)。
 大橋が購入し、8月末までなら貸してあげるよということだったので、そのまま借りて大橋よりも先に読んでしまいました。
 読了中から、これは自分用にも書き込みできるように一冊、買おうと思う一冊でした。


 判例時報21年8月11号に掲載されていたところによると、平成20年の最高裁民事破棄判決は52件。「既済件数2952件に占める割合は1・9%となる。」ということです。
 つまり、最高裁で、高裁の結論がひっくりかえる確率は、2%未満。
 そもそも、その前の高裁で地裁判決がひっくり返る割合は確か25%くらいだったはず。
 三審制といっても、事実上、一審で決着つく確率がいかに高いことか。
 
 とはいえ、年間、最高裁には民事事件で約3000件が係属するということです。
 これを5人の裁判官からなる小法廷3つで審理していくのです。
 記録読みに追われるその激務の様子が描かれています。
 もちろん、裁判官の中でも優秀な人を集めているといわれている最高裁判所調査官の方の下支えがあってのこと。
 それでも、

「私の場合、退庁時間まで七時間半、昼食時を除いてほとんど記録を読み続けているため、この時間になると、気力、体力ともその限界にきているというのが実感であった。」
(43頁)とあります。
「帰宅後は、食事を終えると比較的丁寧に新聞を読むようにはしていたが、疲れているのでさらに机に向かうという気力はなく、早い時間に寝ることにしていた。そして、概ね四時迄には起きて、また記録を読み始めるというのが日常であった。」
(同頁)とあります。
 まさに、文字通り「激務」だと思います。そんな生活が4年近く続くのです。
 
 しかしそのような中で、滝井元判事は、個々具体的な事件の中で「最高裁判所」が果たすべき役割を考え、見落としがあってはならないと、記録を精査し、そして判断し、ときに個別意見を表明していきます。
 
 判断した個々具体的な判決事例についても、かなり突っ込んだ判断経過が記述されており、最高裁裁判官の頭の中の思考過程が記されている、貴重な本だと思います。
 
 訴訟代理人をつとめる弁護士に限らず、企業法務、契約業務、あるいは国政、地方自治にかかわる人は必読だと思います。行政訴訟に関する記述が厚いです。

 以下、自分のメモように、やはりそう考えているのねといった箇所を少し引用しておきます。


 租税法律主義について

 

「最高裁は、租税の賦課は法律の根拠に基づかなければならないとする租税法律主義の趣旨は、私人が予測不可能な課税をされることは許されないというものであって、法がある賦課徴収をなす趣旨であること、あるいは減免を認める趣旨でないことが国民にあきらかであるにもかかわらず、技術上の工夫をこらしたり法文上の不備をついたりして課税を免れようとするものに対して課税をすることは租税法律主義に反するものではないという見解に立つものだと思われる。」
(132頁)。
 私は、この記述を読み、映画フィルムの事件を思い出しました。

 行政庁の裁量について

 足立区医師会の事件に対して(昭和63年7月14日第一小法廷判決、判時1297。29)
 

「原審の東京高裁は都の言うような混乱と障害の生ずるおそれがあるという判断に合理的根拠はないと判断し、都の処分には裁量判断の逸脱があると言ってこれを取り消したのですが、最高裁は、一定の事実を起訴として混乱が生ずるという行政の判断の過程にその立場における判断のあり方として一応の合理性があることが否定できない異常、その判断に裁量の逸脱はないとして原判決を破棄し、請求を棄却する判決をしたのです。混乱するかどうかは、将来のことですから判断の基礎となる事実は評価にわたることになりますが、その捉え方いかんでは、行政の判断が尊重されることになってしまうのではないか、それでよいのだろうか。この事件では本当に混乱がどの程度起こるのか、また、仮に少々の混乱があっても他の要素との衡量、この事件では公益法人設立の利益というものと、混乱の程度との衡量が必要ではないかと思うのです。この辺のことがもう少し、議論されてもいい事件だったのではないかという気がします。」
(169頁)。
 思考を停止させずに、とにかく突き詰めて具体的に根拠を考え抜くということだと読みました。
 「裁量の基礎となる事実をしっかりと認定し、その判断過程に注目すること」
(同頁)。

 民事事件について

 

「公害訴訟なんかでも似たようなことが言えると思うんですが、原告側が被害というものの実像を、それが出てきた原因と関連づけてすごいエネルギーを投じて明らかにしてきた。そのなかで、これは何とか救済しなければならないんじゃないかという判断があって、損害賠償請求が認められ、さらには差止請求権を認めるという考え方が出てきたのではないかと思うのです。」

 
「私は、裁判の正当性が承認されるかどうかは、その判断過程の客観性が認識されるための説得力をどれだけもつかにあると思います。説明義務とか契約上の付随義務として一定の信義則上の義務を認めるような判決がでてきておりますが、こういうものも社会的承認を得るための説得のためのもので、このような考えがどこまで拡がっていくのか、これから司法への期待が高まるなかで、新しい法解釈を迫られたとき、どれだけ説得力のある理由を編み出せるか判例の展開に注目したいと思います。」
(338頁)。

 弁護士一年目のとき、裁判官を説得するのは、根本的には、理屈じゃない、事実だということを教えられたことがあります。

 ローマ市民を前にして、ブルータスがやったこと、その殺人は是か非かが議論されました。是とする派と非とする派とが市民の前で訴えました。
 是とする派は、その殺人はやむを得ないものであって、殺されたものは殺されるべくして殺されたことを理屈で訴えました。
 それに対して。
 非とする派は。
 血染めのシャツを市民の前に差し出しました。
 そして言うのです。
 「見ろ、これがブルータスのしたことだ!」と。
 市民は血染めの残酷なシャツを突き出され、それを是とすることは出来ず、ブルータスの非道に対し一気に怒りで沸き上がるという話しです。

 法律マシーンではなく、感情をもった裁判官です。もう一歩のところで突き動かすのは感情だということなんだと読みました。


 弁護士として向かうべき道が見えてくるように思います。
 その道をどこまで進めるかどうかは別にして。。。努力し続けることが出来るかどうかですね。それも、全ては気力にかかっている。。。
 ま、総論ばっかり語っていないで、各論を実行することですね。がんばります。

(おわり)
 
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2009年8月30日 (日)

相続と相続債務と物上保証~無知の罪~【松井】

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 相続と金融機関というのは結構、密接な関係をもっていることが今でも多いようです。 平成10年前後くらいからよく見かけたのは、日本のバブル経済期、土地をいくつも持っているような資産家、富裕層に対し、誰がもちかけたのか、相続税対策になるということで、数億円単位の借入を敢えておこさせるというものでした。負債がない者、借入れをする必要もない者を敢えて借金漬けにするのです。
 では、借り入れたキャッシュはどうするのか。
 所有する土地の資産価値を低くするということで、借り入れたキャッシュでもって土地上に賃貸マンションを建築させるのです。
 そして、この賃貸マンションの賃料収入でもって、借入れの負債を返済していくのです。
 土地は賃貸マンションという新たな資産を形成し、結果、土地の評価額は低くなり、しかも負債が形成できているので相続税法上、計上できる負債も出来て、税額が低くなるという皆がハッピーなようなスキームでした。



 が、しかし。大きな大前提がありました。賃料収入でもって巨額の負債を返済し続けることが出来るはず、という大前提です。
 ところが、この大前提が平成3、4年から、大きく崩れてしまい、今に至っています。 この結果、相続が発生すると、月々の返済額に満たない賃料収入のマンションと巨額の負債が残されただけだったという事例をいくつか目にします。
 また建物は、メンテナンスがあってこその価値の維持であって、費用を投じて適切なメンテナンスがなされていないと、駅前の土地の本来、優良物件であっても、ゴーストマンションのようなビルとなってしまいます。テナント、賃借人が入らないのです。これで悪循環となります。 
 分譲マンションでも築後10年程度の大規模修繕の際、14階建て程度で数千万円はかかります。そのため、修繕積立金制度がとられ、毎月、各戸から数万円程度、徴収しているのです。
 マンション、テナントビルのオーナーはどうか。
 従前、それを本業とされていた方であれば、ノウハウがあります。しかしながら、唆されて収益物件所有に手を出したような方の場合、適切なノウハウもないままに素人が素人として所有、管理していたにすぎないという場合がままあります。
 ここでさらに、遺産分割を巡ってマンション、テナント物件所有を巡る熾烈な紛争があると、既存のテナントが解約して明け渡す際の保証金返還債務を巡ってもまた、訴訟になることもあります。
 そしてこんなことが起こると、次のテナントは入ってきません。
 まさに悪循環です。



 ここで問題となるのが、債務の承継です。
 遺言がなくて遺産分割として協議したとしても、それは第三者である債権者には対抗、主張できません。
 法律上、被相続人の債務はどうなっているか。
 借入の金銭債務である限り、相続発生時に、各相続人に対して、当然に法定相続分で分割されていると解されています。
 つまり、負債1億円、相続人が子A~Dの4人の場合、各自が2500万円宛の負債を当然に負ったことになるのです。
 
 では、この1億円の借入金について、この借入で建設したテナントビルの建物と敷地に抵当権が設定されていた場合、どういう関係になるのか。
 このビルをAとBの二人が共有し、代償金をCとDに支払うといった内容の遺産分割が成立したときにどうなるのか。



 最近、未だにこんな金融機関があるのかと驚愕し、これを他でも行っているとしたら、許されないのではないかと怒りすら覚えるようなことがありました。
 差し障りがあるので、多少デフォルメします。
 
 今回、敢えてここに書いて、言いたいことは、自身がとてつもない負債を負うかもしれないという様な事柄に関しては、近くの弁護士会では日々、法律相談を実施しているので、とにかく一度、弁護士、つまり法律が分かっている実務家に相談してください、ということです。

 例えば、上記のようなケースにおいて、被相続人に対して残高1億円を貸し付けていた金融機関は、抵当物件であるテナントビルを遺産分割によって所有することとなったAとBに対し、「所有者になったんだから」という理由でこの抵当権者である金融機関と「1億円の貸付けに対する連帯保証契約を新たにするように。」と要求していたのです。
 
 ええっ!!!???

 抵当物件を所有することになったことと、連帯保証契約を新たにすることとは何の必然性もありません。
 それをさも当然のように、「じゃあ、連帯保証契約を」と言ってきたのです。
 分からない人は、金融機関から要求されればそういうものかと思って、言われるがままに、何もよく分からないままに、出された契約書に署名押印をしていたことだと思います。
 
 しかし、法律上、AさんとBさんは、あくまで抵当物件を所有したに過ぎず、その限りにおいては、負債についての責任もその物件の限度額までという限界があるのです。物件の価値が8000万円だったとしたら、あくまでその範囲の責任であり、最悪はこの8000万円の土地建物を失えば、それ以上の責任追及を受けることはありません。
 また、相続した債務についても、先述のように、負債1億円なら、AさんとBさんは、各自2500万円宛の債務を負っていたに過ぎないことになるのです。
 それ以上のものでも、それ以下のものでもありません。

 ところがなんと。金融機関は、1億円の連帯保証契約を求めました。
 どういうことか。
 最悪、自己の財産を差し出して1億円の負債について責任を負うことになるのです。
 
 相続で、遺産分割で抵当物件を取得したからといって、そのような必要以上の責めを負う理由、必要性は一切ありません。
 
 これはひとえに、まったく金融機関のリスク管理の必要性だけなのです。
 相続人には何の対価もありません。
 
 平成21年、未だに金融機関はこんなことをしているのかと思うと、久々に怒りで体がカッとなる出来事でした。

 担当者は、絶対に、相続周り、さらには担保周りの法律を理解していません。
 「顧問弁護士にも相談したうえでのことか。そちらが何をやっているのか分かっていますか。」との問いに対しては、「支店長決裁です。」との返事。
 支店長も分かっていないのだと驚愕の事態でした。
 
 誰も、勉強していない。。。自分のやっていることの意味を分かっていない。。。だから、平然とやりたい放題のことが出来るのかと腑に落ちた思いもあります。
 金融機関における担当者の無知は、本当に罪だと思います。



 相続で多額の負債があり、金融機関と交渉するような事態となったときは、ぜひ一度、お近くの弁護士に相談してください。
 金融機関が自分に対しそれほど悪いことをするわけがないなんていうのは、いったい何の根拠に基づくのか、もう一度考えてみてください。
 そして、悩むような事態になったのであれば、弁護士に相談を。
 
 書類に署名押印してからでは、残念ながら手遅れのことが多いですから。

(おわり)


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撮影 yuko.k


2009年8月19日 (水)

入口を考えるなら、出口も考える  〜マンション電気高圧受電契約と友情婚〜【松井】

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 ある契約をしようかどうしようかというとき、通常、やはりその「効果」に目を奪われがちです。

 婚姻なら、婚姻したことによりどのような効果が生じるのか。
 法律上互いに「配偶者」という立場になり、法定の権利義務が生じます。
 そのことを望み、当事者は、一つの法律行為として「婚姻」届を提出し、婚姻します。

 また、マンション管理組合であるなら、この「契約」をしたら電気代がこれまで関電に支払っていたよりも毎月数パーセント安くなる、というのであればその「効果」を望み、「契約」します。
 
 もちろん、法律行為をするからには、法律効果を狙うものであり、こういった「効果意思」というものが必須とされています。
 
 この「効果」に対して、どういう「対価」が必要なのか、ということも一般には検討します。

 「婚姻」したことにってどのような「対価」が必要なのか。法律上、配偶者に対していろいろな義務が生じます。
 マンション管理組合でいうなら、各住戸が支払う毎月の電気代が安くなることに対して、いくらその会社に支払うことになるのか。結局、その会社は、高圧電力契約によって関西電力に支払う単価が安くなる電気代と住人からの支払いを受ける「電気代」の差額で儲けになって、それが管理組合がその会社に支払う「対価」となります。

 自分が得られる「効果」と自分が支払うその「効果」に対する「対価」「義務」については、検討します。


 しかし、契約を締結するかどうかというときに、もう一つ、さらに大事なことがあります。
 契約を解消するときに、どのような負担が、手続きが必要となるかの確認です。

 これの検討が本当は一番大事なのではないかと思います。
 なぜって、皆、忘れがちだから。

 しかし、業者は考えています。がっちりと一度その手を握ったら離さない、契約を解消されても自分の方だけは損しないようにうまく契約書に条項をもぐりこませています。
 
 また、「婚姻」についていえば、「婚姻」をするときに二人が別れる日がくるなんてことを想定してその際にどうするかというシミュレーションをする人は、ことの性質上、まず多くはいません。
 なので、「解消」するとき、「離婚」するときのこと、そのときにどういうことが問題となるか、手続きはどのようなものなのかということまで考えて「婚姻」することは少ないと思います。

 でも、入口を見て、入ろうかどうしようか悩むときは、出口も考えておいてください。
 出口からの脱出が困難なことが分かれば、それでもあなたはその「効果」「対価」だけを考えて、契約しますか?ということです。


 マンション管理組合において、他の「電力」会社と契約して、関電との電気供給契約を変更して各住戸の低圧受電の契約から管理組合として一括で高圧受電の契約とし、各住戸への供給の管理をその「電力」会社に委託することによって、結果、各住戸が支払う電気代を安くするかどうかということが検討されていました。
 同種企業が4社ほどあり、各社の担当者からの説明を受けたり、質問状、要請書を出すなどして、「入口」、契約をするかどうかということを検討してきました。
 結果、見送ることとしました。

 なぜか。
 各社一様に、契約期間が10年間だったからです。
 理由は、高圧受電をするには、現在使われている関電の設備を入れ替えて、その業者が用意した受電設備に入れ替える、その設備費用の消却期間が10年だから10年は契約し続けてくれないと困る、というものでした。
 「知るか、そんなこと」、というのが消費者の声でしょう。
 たとえば、業者の対応が思いのほか悪かったとき、あるいは他に安い電気の契約形態が関電から提供されたとき、「出口」、「解除」「解約」を考えます。 
 このとき、スムースにいくのだろうか。解除、解約したら、その業者は、入れた受電設備を撤去します。その費用負担はどうなるのか。業者に責めのある解除を主張しても、スムースに業者がそれを受入れるのか。
 そんなことを考えたら、初めて取引する相手方の業者と、始めからいきなり、10年の長期契約なんてできません。
 せいぜい2年契約で、更新するかどうかです。
 マンション管理会社との契約でも、2年契約で、自動更新条項はアウトとされています。

 にもかかわらず、各社一様に10年間の契約を主張し、結局、一歩も譲られませんでした。
 消費者がする契約で、10年以上の契約なんて住宅ローンくらいです。それも、最初にお金を借りたら、あとは返すだけという単純な内容。
 それをライフラインに関する電気に関して、どのようなトラブルが発生するか分からない未知の要素が多い中で、いきなり10年。
 
 契約は、無事に見送られました。


 「婚姻」でも、同じです。
 婚姻なんかは、期間の定めがありません。
 そんな契約を、会ってからまだ数か月でよく分からない相手と普通は、しません。
 それを「効果」だけに目を奪われ、「出口」を考えずに「入口」から入ってしまうと、あとで後悔することにもなりかねません。
 こちらが別れたいと思っても、相手が嫌だといったときにどうなるのか、どのような手続きが必要なのか。
 また、お互い、別れようということになっても、相手から法外な財産的要求をされた場合、どのように対応せざるをえないのか、どのような手続きが必要なのか。
 
 便宜上の「婚姻」として、「友情婚」と言われるものがあるようですが、よく「出口」を見据えたうえで、理解して納得して、それでも「入口」をくぐるのか、よくよく考える必要があると思います。

(おわり)
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2009年7月 7日 (火)

消費者支援機構関西 【松井】

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 適格消費者団体というものがあります。
 消費者保護法で定められた団体です。
 団体として、業者に対し、差止請求することが認められています。
 この法律の条項がなければ、通常、被告を定めて訴え提起が認められるのは、当事者のみです。

 当事者って?
 当事者じゃないと「訴えの利益」がないとして、請求が認められないという以前の訴えが認められないとして、棄却じゃなくって、却下されてしまいます。

 なぜか?
 判決が出て確定すると、既判力というものが生じて、その紛争はもうそれで争えなくなります。だから、その紛争はなあなあのやらせではできません。一生懸命、その紛争を戦う可能性があるのは、第三者じゃなくって、その紛争の「当事者」です。
 だから、訴え提起は、当事者じゃないと認めてもらえないというのが民事訴訟法です。
 
 あの人が被害に遭っている、可哀想だ、あの人自身は当事者として訴え提起するほどの気力もない、じゃあ、私が代わりにあの人の代わりに原告となって訴えてやろう、といったことは出来ないということです。


 しかし、消費者保護法では例外が認められました。
 なぜか?まさに、消費者となる個人の人は、悪徳業者からの被害を受けていても自ら当事者、原告となってまで争うということが少ないという立法事実が考慮されました。
 でもじゃあ、誰が消費者個人に代わるのか?
 それが、「適格消費者団体」です。
 悪用されることがないよう、内閣府からの認定となっています。また認定後もいろいろと規制を受けます。
 そんな適格消費者団体の一つが、大阪にある、消費者支援機構関西、愛称? KC’Sです。


 KC’S、司法書士さんや、相談員の方々、弁護士などに活動をささえられ、がんばって活躍しているようです。
 http://www.kc-s.or.jp/report/report1/2009/0706.html

 動きがあると、こうしてHPで公表されています。
 
 正義づらして一方的にやりこめるようなのは好きではありませんが、適度な問題提起といったところでしょうか。
 こういった疑問を呈されることによって企業はどのように応えるのか。
 まさに企業の誠実性が問われるいい機会なんだと思います。

(おわり)

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2009年3月 4日 (水)

研修の講師〜消費者契約法ってマイナーかしら〜【松井】

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 先日、所属する大阪弁護士会消費者保護委員会の関係で、登録1年目の弁護士向けの研修の講師を担当しました。
 2時間で消費者契約法について説明するという趣旨のものだったのですが、まったく冷や汗ものになってしまいました。雨の中、わざわざ参加していただいた皆様、もっとよいものが提供できればよかったのですが、ごめんなさい。


 Apple社のプレゼンソフト、Keynote’09を初めて使いました。これがかなり楽しく、紙芝居を作成するかのようでした。これで当日、余裕のある解説ができると思いきや。
 会場でのデュアルディスプレイの設定が思うようにいかず、開始10分前の出来事で目の前が一瞬まっくらになりました。念のためにと用意していた、発表者ノートのプリントアウトシート。これで何とかことなきを得ました。
 一般の方向けに、分かりやすく講演や発表をするという機会は何度かあるのですが、同業者が聴衆というのは初めてで、しかも場所は弁護士会館。さすがにかなり緊張しました。
 無味乾燥に、要件、効果、裁判例の紹介、解説だけではなく、「おおっ!そうだったのか!」と思えるような事柄を二つや三つはお土産にもって帰ってもらえるように、また興味深く経験に即した事柄を散りばめようと思っていたのですが、いかんせん緊張。話そうと思いながら端折った事柄も多く。笑いをとるなんてことは夢のまた夢。


 ただ、いろいろな意味で良い勉強にはなりました。万が一にもここで自己満足に陥ると今後の発展がないので、全く駄目だったと考え、次に生かしたいと思います。ああすればよかった、こうすればよかったということが後からいろいろと出てきます。
 事前にいろいろとアドバイスをいただきました、S樣、K様、リハーサルにつきあっていただいたA様、ありがとうございました。

 「消費者契約法」。
 皆様、ご存知ですか?


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 一般向けに改訂したKeynoteのスライドを引っさげて、90分ほどで「0から分かる消費者契約法」というタイトルで講演します。ぜひお声を(笑)。
 尋問と同じで、やはり何事も場数を踏まないと!
 研修義務化の単位取得の関係で、この年度末、知り合いのベテランの弁護士が単位取得のために出席されていて、終わったとき、ニコニコと「分かりやすかったよ」と声をかけていただいたのが救いでした。ありがとうございました、K先生。
(おわり)

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2008年4月 5日 (土)

交通事故の示談交渉【松井】

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 大学時代からの親しい友人が去年、交通事故に遭いました。信号のない横断歩道を歩いていたところ、曲がってきたバンにはねられたということでした。
 はねとばされて頭を打ち、意識不明で救急車で病院に運ばれた、気づいたら病院のベッドにいたということでした。
 その後、幸い2日ほどで退院となりましたがしばらく自宅で静養し、様子を見て、人手不足であったこともありほどなく仕事を再開したということです。
 病院から事故の一報があったときは驚いたのですが、退院したということでひとまず安心していました。



 その友人からまた先日、連絡がありました。

友人 「明日、相手方の担当者と示談交渉があるんだけど、何か気を付けた方がいいこと、ある?」

松井 「ないよ、特に。最初でしょ?だったら、まずは相手の言い分、提示額とその根拠をしっかりと訊いて確認したらいいよ。
 だって、どうせ最初はかなり低い提示額のことが多いから。まずは聴くことだよ。で、ペーパーで提案をもらってね。それをうちにファックスしてくれたら見るから。相手の言い分を聴いてから、それに対する形でこちらの反論なりをしたほうがいいよ。
 ただ、まあ、参考までに、損害として賠償が認められる項目はどんなものがあるか、相場額についての定番本もあるからそれをファックスで送っとくわ。」


 翌々日。

友人 「提示してもらった。紙ももらったけど、金額が滅茶苦茶低いような気がする。ファックスで送るから、見て。」

松井 「はあい。」

 事務所でファックスを受け取る。
 やはり!



 分かっていたけど、こういのは本当にヒドイ話だと思います。
 友人が何も知らなければ、提示された額が相当な金額であると信じ、これを受け入れていたかと思うと。
 ものには相場というものがあります。

 ごまかされやすいのが「慰謝料」です。
 交通事故の場合の「傷害」を受けたことに関する「慰謝料」については、通常、入通院慰謝料という形で、通院期間、入院期間、さらには実通院日数といった要素により、おおよその相場の金額があります。
 これは、つまり、裁判で訴えて請求したら、裁判所がいくら認めてくれるのかという相場です。
 ただ、これももちろん機械的に決まるわけではなく、個々具体的な事情によってもちろん増減額されます。

 が、しかし。それでも。
 ものには相場というものがあります。
 
 友人が提示された額は、事務所でたまたま後ろの席にいた大橋にも一緒に見てもらい、事故の状況、その後の状況もざくっと話したうえでざくっと検討しても、え!?一桁間違っている?そうやんなぁ、この表で見て、増減額して、このくらいの金額でどうかという金額と照らし合わせても、一桁違うよねぇ、と2人でうなずき合うような金額でした。

 加害者の運転手は業務上の運転による事故であり、金額は保険会社の担当者ではなく、会社の担当者が出てきて提示してきたとのことなので、担当者もそれなりに「相場」は知っているはずです。
 
 世の中、こういうことでいっぱいです。消費者被害事件の悪徳業者とおんなじ思考回路に行動パターン。
 相手の情報不足、交渉能力のなさ、経験のなさ等につけこみ、自己の利益のみを図る。 フェアじゃないわ。
 確かに、示談交渉であって、商売とは違うけど、根本は同じ。あさましい。



 消費者契約法には次のように記されています。
 1条「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者の利益の擁護及び増進に関し、消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念を定め、国、地方公共団体及び事業者の責務等を明らかにするとともに、・・・もつて国民の消費生活の安定及び向上を確保することを目的とする。」
 
 まさに損害賠償に関する「情報の質及び量並びに交渉力等の格差」が存在し、業者になめられている。
 許せん!分かってはいたけど。


5 
 ということで、友人と晩、対策協議をすることとなりました。弁護士として代理人交渉するか否か。
 交通事故の示談交渉で、正直なところあまりいい気がしないのが、実際問題、代理人として弁護士が就いて交渉すると、業者の態度が変わるだけでなく、提示金額が変わること。
 だったら初めからちゃんとした対応をすべきだと思うんだけど、この業界もなかなか変わらない。

 ネットで検索すると、行政書士の方々のサイトの情報が非常に充実していることに驚きます。
 示談交渉については、相手方からの提示金額やその根拠について、納得を得られないときは、お近くの弁護士会、市役所等で、弁護士に相談されることをおすすめします。依頼しなくても、相談だけでも。
 交通事故は、事件が多数あることから処理も定型的な面がないわけではありませんが、個々具体的な事案によって異なります。
 ネット相談ではなく、会って話して対面で具体的な事情を専門家に聞いてもらい、対応すべきだと思います。
 「情報の質及び量並びに交渉力等の格差」が存在する以上、それをどこでどう補うか。本当は、業者がその格差を縮める努力、情報提供義務を尽くすべきだとは思うのですが、そうはいかない実際がある以上、自分の身は自分で守っていく努力が個々人にも必要です。

(おわり)

以下、つぶやき。
弁護士に相談しに行くってやはり、敷居が高いのでしょうか。
もっと早く、先にこちらに相談に来てくれていたら間に合ったのにといったケースがたまにあります。
大阪府知事になってしまったタレントの橋下弁護士ではないけど、敷居を低くしようとの一貫でこのブログを始めました。
普段、こんなことを考えている、こんな思いで仕事をしているという、見えざるベールを少しずつ、チラミででも剥がせたらと。
今は、弁護士ブログもいっぱいできています。真面目な感じのものが多く、お馬鹿なものはまださすがに見かけないのですが、うちのブログや事務所も模索中。
個人的には、肩の力の抜けた、シニカルなお笑いが好きです。ぶつぶつぶつ。
 あ、そうそう。弁護士による代理人交渉がそうじゃない場合と何が違うかというと、弁護士の場合、交渉が決裂したら、次には提訴があるということです。訴訟代理人として裁判所に提訴し、訴訟遂行をして、判決をもらうということが控えている蓋然性が高い点、交渉の重みが違ってきます。裁判になったらどういう結論がありうるかをある程度わかっているということ。
 弁護士法72条。非弁護士の法律事務の取り扱いの禁止を定めた規定。
 この規定がなかったら?
 個人的にはなくってもいいんじゃないかと。誰が淘汰されていくのか。三百代言の跳梁跋扈の防止が趣旨とは言われていますが、どうなんだろう。それこそ利用者・消費者の選択の幅を広げてみるという余地もあるのではないかと。
 
 

2008年1月26日 (土)

鍛えられる~消費者問題~【松井】

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 平成11年、大阪弁護士会に登録した当初から、いろいろある委員会の中でも消費者保護委員会に所属しています。
 その年、モニター商法のさきがけのいわゆるダンシング事件が発生し、弁護団に加入しました。ちなみに、全面解決に至るまでに5年ほどを要しました。
 消費者保護委員会では、消費者センターの相談員の方々との情報交換、勉強会などを定期的に開催しています。またセンターの方で開催される事例研究会などにも参加させていただいています。
 私もこの2年ほど、定期的に参加させていただいています。


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 相談員の方々は、相談の最前線にいます。相談者の方との話しはもちろん、企業、あるいは信販会社、クレジット会社の担当者とのやりとりを幅広く行っています。
 そこでの生の知識、具体的な使える知識、技術は、弁護士を上回るものがあります。
 いつも大変、勉強させてもらっています。
 皆さんが、相談に来られる方を何とか助けたいとの情熱をもって相談業務に取り組んでおられます。

 そのようななか相談員の方から、弁護士として相談を受けるのですが、法的な結論としては、どうしようも出来ない、裁判になっても勝訴するのは困難であるとこたえざるを得ないケースもあります。
 現行法ではどうしようもできません、業者の法的責任追及は困難です、と。


3 
 ダンシング事件のとき、弁護団で協議していて問題となったのが、クレジット会社・信販会社の加盟店管理責任です。

 ダンシングという布団販売店が、ある時期をさかいに爆発的に売上げを伸ばしていくのです、信販会社との信販利用件数が急増する、その「異常」事態において、原因を確認すれば明らかになったことが、「モニター商法」でした。信販を組んで40万円の布団を購入すると月々の信販会社への支払いは、信販手数料を入れても1万円前後。一方で、布団を買ってモニターとして、レポートを出せば、1万円の支払いを上回るモニター料が手に入る、その差額がお小遣いになるというふれこみでした。
 じゃあ、買った人はみな小遣いに心惹かれたのかというと、意外にもそうとばかりはいえず、むしろ知人に強く勧められ断りきれず、「損はしない」ということでやむを得ず契約したのだという方が結構いました。
 これが実情だと思います。ところが裁判になると、相手方からは欲に目が眩んだとか評されるわけです。

 ダンシング社には信販会社から立替金がまとまって入金されますが、モニター料を支払う必要があります。会員が増えれば増えるほど、支払いも巨額となり、破綻必至商法、蛸が自分の足を食べるような商法でした。
 そしてダンシング社は倒産し、モニター料は支払われず、残ったのは信販会社に対する債務だけでした。

 このような状況において、信販会社は何の責任も問われないのか。
 もちろんいわゆる騙す、悪徳商法を行う企業が一番悪いに決まっています。そこで他に登場する人物が、消費者と信販・クレジット会社です。
 消費者は、信販・クレジットの利用によるメリットを受けているのではないか。
 信販・クレジット会社は、加盟店契約による手数料収入というメリットを受けているのではないか。
 悪徳業者の登場によるリスクについて、消費者が負担すべきなのか、信販・クレジット会社が負担すべきなのか、公平なリスク負担はどうあるべきなのか、という問題にいきつくのだと思います。
 
 

 最近、クレジット・カードを利用した悪徳業者が目に付くとのことです。携帯電話、PCでは、クレジット・カード番号を入力すれば、ものの購入が可能です。
 例えば、利用限度額というものが確かにありますが、例えば10万円が限度であっても、小口の1万円程度の買い物を多数、重ねれば、決済までのタイムラグによって10万円を超える買い物が可能となり、業者に利用されるがままに総額数十万円の買い物をする結果になるとか。
 
 消費者の側においても、防御は重要です。20歳未満の未成年なら、親の同意がなければ取消しは基本的には可能ですが、大人の場合、一度契約したものについてはそう簡単に取消、無効、解除等は認められにくいの通常です。
 「金額」については自分がいった、トータルでいくらの買い物をしているのか、それくらいは把握するようにしてください。
 自分がいったいいくらの負債を負っているのか。
 信販契約、クレジットを利用されている方については、払えなくなってから相談に来られ、そこでトータルの金額を訊いても答えられない方が多いです。
 
 一方で、業者。
 加盟店と消費者の二者間の契約で、たとえ業者が偽物を売っている、詐欺的な商売をしていたとしても、当社は一切関係ございません、と言い切れるのか。

 今年の夏の消費者夏期研修のテーマは、クレジット・カードを巡る諸問題です。
 先日、相談員の方々から海外の事情はどうなのかと問われました。
 すみません、不勉強で。

 現行法を学ぶのはもちろんですが、現行法を超えた法制度論を研究し、構築する能力が必要です。
 そうした努力が、最高裁判決を変更させたりすることに結びつきます。
 法律では、それはダメ、これはダメという回答しか出来ないような業務はしたくない、創造的な仕事を行う余地がある仕事です。弁護士は。
 ただ、あまり創造的になりすぎて現行法からかけ離れ過ぎると裁判所や、相手方弁護士から相手にされなくなるだけですが・・・。
 

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 ところで。事務所のホームページを初めて改訂しました(http://www.osaka-futaba.com/)。
 載せてある写真は素人っぽくて、自分でもどうかとは思うのですが、いかにもという綺麗なページも柄ではなく。
 これくらいがいいのかなということで。
 
 法律に振り回されるのではなく、法律をどう使うのかという発想を生かしていきたいと思います。
 そういう点でも、消費者センターの相談員の方々からの相談、勉強会では鍛えられます。いつもありがとうございます_(_^_)_。
(おわり)