2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

最近のコメント

最近のトラックバック

無料ブログはココログ

flickr


12 会社

2010年5月 5日 (水)

弁護士のセカンドオピニオン【松井】

4553235206_f0ea98f09a


 5月3日の日経朝刊で、顧問弁護士を利用する大企業でも要所要所で顧問以外の弁護士に意見を確認するセカンド・オピニオンを利用しているという記事が載っていました。
 11年前、弁護士業を始めたときからずっと思っていたこと、司法修習生のころからずっと思っていたことですが、個人こそ複数の弁護士に意見を聞くようにした方がいいとずっと思っていました。
 個人ですらなのですから、企業であればなおさらだと思います。
 となるといきつくのは、弁護士と「顧問」契約をするというのは実は不合理なのではないかということです。

2 
 セカンド・オピニオンというのは、医師の世界でよく目にするようになっていった単語でした。
 病気になる。医師の診察を受ける。そして治療を受ける。治癒すればいいのですが、一向に治癒しない。医師に対する不信感。別の医師に診察を受ける。違う診断を受け、違う治療を受ける。そして治癒する。
 なぜこれが今までスムースにいかなかったのかというと、最初にかかった医師への義理立てだけだと思います。
 そうした医師に対する気兼ね、壁が低くなってきて、以前よりもセカンド・オピニオンを求めるのが普通のこととなってきたということです。
 他方で、これがいきすぎると、ドクター・ショッピングとも言われたりするようですが。


 これを弁護士についてみると。
 個人の方でよくあるのが、最初に知り合いなどから紹介された弁護士にそのまま依頼してしまうということだと思います。
 しかし、違和感がある。
 この弁護士さんは本当にこの分野について経験があるのかな?
 熱心に私の仕事に取り組んでいるのだろうか?
 などと違和感を感じながらも、紹介者や弁護士への義理立てから、違う弁護士にあたってみることが出来ない。
 しかしテレビ番組「行列が出来る法律相談所」を見てもよく分かるように、一つの問題でも4人弁護士がいたら4つの異なる意見が出てくるのが法律の世界です。
 裁判の世界に絶対はないと思います。なぜなら、裁判は、絶対的真実の探求ではなくて、主張立証の世界だからです。
 勝つ裁判であっても、しかるべき主張立証がなされていなければ当然、負けます。
 
 私が集中的に取り組んでいる相続の分野に限らず、離婚や交通事故、労働事件といった一見、どんな弁護士でも処理できそうな分野であっても、あたる弁護士によって結論が異なることは十分ありえます。
 以前残念ながら見かけたのは、現象と原因を分けて考え、訴訟では原因を主張立証する責任がある建築瑕疵訴訟で(例えば、雨漏りが現象であり、雨漏りが生じる原因は何なのかが原因。)、ひたすら現象だけを主張立証して、最高裁まで争い負けていた事件です。その方は、判決が確定してから、さらにどうにかならないかとようやくセカンド・オピニオンを求めて、建築問題研究会に相談に来られていました。訴訟記録を拝見した相談員たちは、うなだれることしかできませんでした。
 
 医師の世界では、医療過誤訴訟の経緯もあってか、自院では手に負えないと判断すべき症状に対しては、より専門的な病院を紹介すべき責任があると言われています。
 今後、弁護士の世界も同じ注意義務が法的にも認識されていくことになると思います。 
 自分一人では対応できない、自分の経験能力の限界を知り、認めること、それが依頼者への誠実な説明義務になると思います。
 
 弁護士自身、自己の判断以外の判断があり得ると思うのであれば、他の弁護士にもあたってもらっても構わないと敢えていうべきなのだと思います。
 顧問弁護士のメリットは、その企業の業務をよく知ることになることくらいだと思います。しかし、顧問じゃないと対応できないのか。そんなことはないと思います。
 そうであるなら、個人でも、企業でも、個別の案件ごとに当該問題の経験と知識が豊富な弁護士を捜し、その弁護士に相談依頼し、適切なアドバイスを受ける機会を設けるというのが、消費者目線の法律サービスなのだと思います。
 「顧問」という名で、毎月定額の報酬をもらい縛る必要は、一定期間を見る必要のある顧問税理士ならともかく、弁護士の場合はただの慣習に過ぎないということになっていくのだろうと思います。
 弁護士を消費する消費者の選択肢が増えるということだと思います。

 まあ、一方で、自分の聞きたい言葉だけを探し続け、意に添わない意見を言う弁護士を切っていくという、弁護士ショッピングというのもあるのでしょうが。それはその方自身がまったく不幸なことです。誰も助けてはあげられないけど。

追加
 実は、相続がらみで各種訴訟をいくつかせざるをえず、長年にわたって依頼を受けてきた依頼者の方が、以前、方針説明をしていたとき、「ああ、市役所で相談した弁護士さんも同じことを言ってましたわ。」と口にされたことがあります。そうです。私に依頼していた事件について、市役所の無料法律相談で別の弁護士さんに相談されていたのです。確かに、気持ちはがっくり来ました。信頼されていないんだなと。ただ、それを私に無邪気そうに口にされることから特に悪気はないのだろうと思い、苦笑して流したことがありました。苦い思い出です。「そうですか。よかったです。」と答えて流しました。

(おわり) 

4458962621_9d636d5d14


2010年1月 5日 (火)

会社の経営~タリーズコーヒージャパンに何があったのか~【松井】

4168517510_81a7c35cb5


 新年あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願い致します。

 昨年年末は、年末の挨拶をブログでアップできませんでした。
 が、無事に年も明け、気持ちも新たにいこうと思います。
 よろしくお願いします。
 前にも書いたかもしれませんが、今年はもっと気軽に気づいたことなどを考え途中であってもとりあえず文章化してアップしていこうと思います。


 この年末年始は、平成17年に買ってずっと読んでいなかった、松田公太さんの「すべては一杯のコーヒーから」(新潮文庫)を読みました。で、その後、何かずっとひっかかるものが残っています。この点、まだうまくまとめられていませんが、メモがてら記しておきます。
 新年なので、今年の心意気とかもっと新年らしいことを書けないのかと自分でも思うのですが。。。



以下は、もっぱら「すべては一杯のコーヒーから」の抜き書きです。

松田公太さん
昭和42年生まれ 
筑波大学国際関係学類入学
平成2年 三和銀行入行
平成8年 同銀行退行

平成9年8月 タリーズコーヒー1号店 銀座オープン
平成10年5月 タリーズコーヒージャパン株式会社設立
 資本金2700万円
  ジョイントコーポレーション方式
  松田氏780万円(29%)、
  アメリカのタリーズ(29%)、
  内装担当した会社515万円(19%)、
  ダン215万円(8%)、
  MVC410万円(15%)。

平成11年4月 ベンチャーキャピタル数社を中心に1億2000万円

平成12年4月 会社、大企業の経営者から5億2500万円を調達。

平成13年3月期 売上高約10億8000万円、経常利益9500万円、店舗数23。
平成13年7月 ナスダック・ジャパン(現ヘラクレス)上場。

平成16年1月 フードエックス・グローブ 上場廃止。
「ACキャピタル」というファンド運用会社と共同で新会社を設立。

平成16年8月 200店舗。

平成17年2月 233店舗。(直営店86、FC店147)
平成17年4月 「すべては一杯のコーヒーから」新潮文庫版、出版。

平成18年10月 伊藤園、株式取得、伊藤園グループ下に。
平成19年 松田公太氏、タリーズコーヒージャパン株式会社代表取締役退任。



平成21年8月 「松田公太オフィシャル ウェブサイト」オープン
        http://koutamatsuda.com/?page=column
ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E7%94%B0%E5%85%AC%E5%A4%AA


タリーズコーヒージャパン株式会社
http://www.tullys.co.jp/company/outline.html

ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%92%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%B3


フードエックス・グローブ株式会社
ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%96



 興味深いのは、平成13年7月、現ヘラクレスに上場前に、第三者からの出資をガンガン受け入れていることです。
 上場前の2年間で約6億円もの出資を「第三者割当増資」で受け入れています。
 
 この点、「すべては一杯のコーヒーから」では次のように述べられています。
 上場とは、ということで。
 「会社の成長を期待する投資家に株を買ってもらい、経営者は期待に応えられるように事業を大きくする。そうすれば、株価も上昇して投資家にも喜んでもらえることになる。」(249頁)。

 タリーズコーヒージャパン、その後のフードエックス・グローブ社に一体何があったのか本当のところはよく知りません。知っている人はよく知っているのだろうとは思いますが。ウィキペディアや、ネット上の個人の方のブログでうかがい知るのみです。

 会社を立ち上げ、売上げ、経常利益を大きくしていき、さらに事業拡大を狙えば、上場というのは一つの選択肢になります。
 松田さんも著書では次のように述べています。
 「株式公開の具体的なメリットとしては、知名度、信用力、資金、人材、という四つがあった。」(252頁)。
  
 ただ、公開のデメリットもあるわけですし、公開ではなくても増資の際、誰に株式を割り当てるのかというのも大きな問題になりうるところです。
 伊藤園への株式の売却の意思決定は、やむを得ずにそうしたのか、それとも何か別にやりたいことがあって株と自身の地位を手放したのか。
 実際のところがどうなのか興味があります。

 こういった話は決して珍しいことではないと思います。お金を生み出すシステムを血がにじむような思いで作り出し、無事に離陸して、なんとか水平飛行に移ったと思った途端、その飛行機には操縦桿を奪いとろうとする人が実は乗り込んでいたり、あるいは、給油量が足りなくなってしまっていったん飛行を止めざるを得なかったり、そこで操縦席を第三者に明け渡さざるを得なかったり。
 
 会社経営というのは、離陸時、水平飛行時、そして着陸時と各時点時点でのいろいろな難しさがありそうです。
 タリーズコーヒージャパン、フードエックス・グローブ社、松田公太氏がどういう意思決定をしたのか、興味津々です。

(おわり)
*今年は、自分も含めて、人を撮ってアップしていきたいと思います。

4138139238_2c5993ba40

2009年11月14日 (土)

権利の上に、眠らない!〜消滅時効など〜【松井】

4099651262_3151429926


 民法では、3に記載のような規定があります。
 要は、いつまでも権利行使できるわけじゃないよ!ということです。
 「権利の上に眠るものは保護に値せず」という言い方で、せっかく発生していた権利を行使できないときが定められています。時効消滅と言われるものです。
 ただ、時効は、「時効の中断」というものが認められています(民法147条)。なかにはこの中断が認められないものもあり、それは消滅時効とは別の、除斥期間といわれています。

 なぜこんな規定があるのか?
 自分が請求される側だったらどうでしょうか?忘れたころに請求してこられる。もうそんな昔の書類などは捨てちゃったよ、覚えていないよ、といったことが考えられます。一方で、請求する方は、もっと早く請求しようと思えば請求できたでしょという事情があります。
 だったらこの間の利害を調整して、「権利の上に眠るものは保護に値せず」としても必要性/許容性 OKだろうと考えられます。
 そこで、消滅時効や除斥期間といったものが定められてます。


 最近、不景気だからか売掛金回収の相談を受けることが多いです。踏み倒されるという話。

 1000万円の売掛金だったら迷わずに裁判をするのでしょうが、30万円程度や100万円前後といったように、弁護士に依頼して裁判を起こしてまで回収するのか迷われるような金額のケースが多いです。
 裁判を起こして勝ったからといって、完全に回収するには和解で終わらない限り、強制執行まで要します。差し押さえ、換価手続きです。
 弁護士費用を払って、いったいいくら手元に残るのか。

 経営者の方の決断だと思います。
 ただそうして迷っているうちに、日にちがどんどんすぎて、結局、時効で回収できないということも考えられます。

 裁判を起こし回収作業に着手する、あるいは、税法上、損金で落とせないか検討し諦めてしまう。
 二つに一つの場合がほとんどです。

 どちらにしても、決断できないままに、うっかり「権利の上に」眠ることのないように気をつけて欲しいと思います。

 売掛金の回収に関わらず、中古の家を買ったけど雨漏りがするであったり、交通事故に遭ったけどまだ加害者から賠償金を支払ってもらっていないだとか。
 ぼんやりしているうちに1年、2年は大人になるとあっという間に経ってしまいます。

 皆様、どうぞ気をつけてください。そして。早めに弁護士なら弁護士に相談し、「決断」をされることをおすすめします。



 「権利の上に眠る」ものはメッ!のあんな規定、こんな規定

 

166条1項 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
 167条1項 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。

 さらに、債権の種類等によって細かくわけ、5年、3年、2年、1年の時効期間を定めています。

 

169条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。

 

170条 次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了したときから起算する。
   1号 (省略)
   2号 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
 

 

173条 次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
   1号 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
   2号 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
   3号 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権

 

174条 次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
   1号 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
   2号 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給したものの代価に係る債権
   3号 運送賃に係る債権
   4号 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
   5号 動産の損料に係る債権

 また、契約上の債権ではなくって、事故など契約当事者間でなかったものについての不法行為責任については3年とされています。また、「権利を行使できる時から」という定め方ではなく、「損害及び加害者を知った時から」との文言になっています。

 

724条1項 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。


 その他にも、無過失責任といわれるものなどについては、次のような規定があります。基本、1年です。

 

570条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
 566条3項 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

 
 
637条1項 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
 638条1項 建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡後五年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、十年とする。


 また、離婚の際の財産分与の請求権については、「離婚の時から」2年とされています。

 

768条1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
  2項 前項の規定による財産の分与につちえ、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りではない。


4098896017_9c7b07933d


2009年11月 6日 (金)

年次有給休暇と雇用/就職 【松井】

4034444254_f758b061d9


 11月6日付けの日経朝刊では次のような記事がありました。

 

年休取得、微増47.4% 厚労省調べ、昨年1人平均8.5日

 
 
「調査は常勤の従業員(パート含む)が30人以上の6147社が対象で、4321社から回答を得た。」
とあります。
 
「業種別の取得率は『電気・ガス・熱供給・水道業』が74.7%で最も高く、「宿泊・飲食サービス業」が29.4%で最低だった。規模別では、1千人以上は53.7%だったが、30~99人では40.0%で、小規模企業ほど取得率が低かった。」
とあります。

 厚労省のもとはこれ→   http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/09/gaiyou01.html



 雇用の悪化、失業率の悪化ということが言われています。
 経済学の勉強は挫折しているので、失業率の悪化がいかなるところにどのように影響を及ぼし、それを改善する施策としては現時点で、どのような政策が有効なのかどうかといった点、意見をもてるほどのインプット、知識がありません。
 勉強せねばとは思っているのですが。
 
 そういったことをさておいて。すごくバカな、アホな、短絡的な浅薄な考えであろうことは承知のうえで、この記事を見てこれまたぼんやりと考えたことをメモがわりに記しておきたいと思います。
 雇う側の立場としての考えになることは承知しています。


 うちの事務所がそうであるように、正社員従業員が2名といったような小規模な経営環境の場合、果たしてそこに、労働基準法がそのまま妥当することが実際的なのかどうかということです。
 残業代等の割増賃金を支払うことなく、長時間労働を強いるというは確かに悪だと思います。ただ、それは労働基準法に反するからというよりも、もっと素朴に、搾取に繋がるということになるから悪だと言い切れるとは思います。
 ただ、どうなんだろうかと釈然としない思いでいるのが、「年次有給休暇」です。


 労働基準法では、39条で年次有給休暇が定められています。
 

1項 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない
、とさだめています。

 そして、継続勤務年数が増えるに従い、年次の有給休暇日数が数日づつ増えていく仕組みを定めています。

 前述の新聞報道では、この消化日数が、従業員30人以上の企業で、取得率が47.4%、その取得した際の日数でも平均が8.5日ということです。
 ここでいう「取得率」は、「(取得日数計/付与日数計)×100(%)」ということなので、一応、従業員が皆、それぞれ有給をとっていたとしても、一人当たり8.5日ということなので、もっと多くめいいっぱいとっている人もいればほとんどとっていない人もいるということもありうるのだと思います。

 そこで思うに、たとえば、従業員が10名以下の小さな、小さな会社の従業員さんが、皆がめえいっぱい、毎年、毎年、有給休暇を消化するということが本当に現実的なことなのかどうかということです。
 勤続年数がそれなりの従業員の方が10名いる会社で、10名の人が毎年10日間、有給で休めるようにしなさいということが現実的なのかどうか。


 趣旨としては、「年休制度は、『毎年』『長期間』『連続』して日々の労働から開放されることを、賃金を失うことなく、保障することによって、使用者という他人の指示のもとで(他律的に)働いている労働者に、休養・娯楽・能力開発の機会を確保して、健康で文化的な生活を享受させることを目的としています。」
とあります(149頁「ベーシック労働法」有斐閣、06年)。
 素晴らしい、もっともなことだと思います。まさに労働者と使用者の違いは、「他律的に働いている」か否かが大きいと思います。他律的に働く場合、自律的に働く場合とは異なる気苦労、開放されたい辛さがあると思います。
 4年ほどですが、勤務弁護士として働いてはいたので「勤務」と「経営」の根本的な意識の違いは実感として分かります。
 
 
「第二次世界大戦後に西欧諸国で立法制度として普及し、1970年にILO132号条約で最低3週間(そのうち2週間の連続付与)の年休付与が定められ、今や、国際的な最低労働条件の一つとなっています。」
とあります(同)。
 

 人を雇うということはそれだけの責任があることなのだ、という前提にたてば、お客様のためにの前に、従業員のために、雇い主・使用者は責務があるというのは当然ではあると思います。
 長時間労働をさせないための時間外労働手当ての支給、不合理な理由では解雇はできないということ、まさに従業員の生命、身体といった生活がかかっているものです。
 このような基準は、従業員100人以上であろうが、10人以下であろうが、変わりのない普遍的に妥当するものだとは思います。

 ただ、年次有給休暇はどうなのかなという思いが払拭できません。
 10人の従業員で回している職場で、1人が連続して有給をとりますといったことが何を意味するのか。
 だったらそもそもそんなぎりぎりの人数というのがおかしいのではないか。
 しかし使用者の事情もあります。もう一人を雇うだけの経済的余裕がないのであれば仕方ありません。もう一人を雇わせて、給料未払いで揚げ句の果てに破産、全従業員解雇なのでは意味がありません。
 10人以下の従業員の場合、かつかつでやっているところがほとんどではないでしょうか。
 
 中小企業こそ、福利厚生など労働条件を大企業よりもよくしてこそ、優秀な人材がきて、発展するという言われ方もします。
 本当でしょうか?
 福利厚生を当てにして就職するのでしょうか?
 基本は、労働の内容なのではないでしょうか。そのうえで、週40時間以下の労働時間を前提として、見あった給料が支払われる。
 
 休暇を得たいときは、No Work No Pay の原則では、その企業で働く人はいないのでしょうか。
 

 勤務弁護士の経験があるといっても、気持ちは「弁護士松井淑子」で仕事をしていたし、実家もまさに従業員数名の小規模なハンコ屋自営業で、経営者の親の苦労を見てきて育っているので、気持ちはどうしても自律的な働き方が基本、自営業者というところから離れられません。

 大橋にこの思うところをぶつぶつとしゃべっていたけど、ことごとく反論されています。

 昨年、京都の某上場企業の社長さんの一部の発言、「そんなに休みたいなら、辞めてしまえ。」という言葉が一部で非難轟々でしたが、そういうことなんでしょうね。
 
 この意識のギャップについて、うまく表現されているyuichikawaさんという方のブログ記事を見つけました。
 勉強します。

 http://yuichikawa.blog28.fc2.com/blog-entry-1794.html

 幻想を抱いている経営者は、まずその頭を意識改革すべきなんですよ!!
 私の頭もバージョンアップすべきときが来たよう。

 ただ、雇用する側がハードルの高さにしり込みして出てきた雇用スタイルが、同じ仕事内容でありながら時間を短時間にする人を組み合わせることによるパートであったり、派遣であったり、偽装請負なのではないか。そうだとすれば、雇用の創出/失業率の悪化の防止ということからすれば、自治体、政府の「不必要事業の仕分け」じゃないけど、労働基準法の各内容の見直しがあってもいいのではないかと。強制が見合わない項目があるなのではないかと。緩和できる項目があるのではないかと。
 いまいちど労働基準法をみっちりと勉強します。
 
(おわり)


4034441744_9c030ac672


2009年10月23日 (金)

商売をするのなら〜法律に無関心ではいられない〜【松井】

4033687759_89a162de4a


 先日、大阪弁護士会館の方で、司法修習生の方向けの「消費者契約法」についての研修講義を担当してきました。
 この手のことがらに関する私の講師としての出来はともかくとして、2時間の研修のための準備を改めてしなおしていたときに、しみじみと思ったことを自分のメモがてら記しておきます。


 商売をするのであるなら、その売り物に対する思いと同時に、経営者である以上はやはり法律に無関心ではいられない、無関心では駄目だということです。もちろん、簿記・会計(特に、管理会計)の知識も必要だと思います。自分にその知識がないのであれば、詳しい人を雇うか、税理士との顧問契約で補い、あるいは弁護士との顧問契約で補うべきだなと思った次第。範囲が広いです、法律。

 施行が平成13年4月1日の「消費者契約法」という法律があります。これは文字通り、消費者保護を目的とした法律であって、一定の場合、民法で定められた詐欺取消し等の他に、契約の取消しや条項の無効を定めています。
 最近で話題になったのは、建物の賃貸借契約における「更新料」特約の無効判決です。大阪高等裁判所で判決されたものです。

 ただ、実は、消費者の方からの相談において、使うことが多いのは、この消費者契約法ではなくて、特定商取引法と割賦販売法です。
 特定商取引法の場合には、クーリングオフや、契約を途中解約したときの返金についての定めがあります。
 ここで有名なのは、平成20年4月の英会話のNOVAの最高裁判決です。途中解約した場合の精算金の考え方について、NOVAの主張は認められませんでした。3本500円バナナを買ったところ、2本は要らないと返したときに、じゃあ500円÷3本×2本=333円を返してもらえるかというと、NOVAの計算方式は、本当は1本300円のものを3本500円特価で売ったのだから、1本食べたなら300円で、200円しか返さないというものでした。
 このような規定は特定商取引法の清算条項に反するとして無効だとされ、333円返せとされました。
 結局、これがきっかけの一つとものなり、途中解約が相次ぎ、資金繰りに窮して倒産にいたりました。
 そのほかには、割賦販売法です。例えば、NOVAへのお金をクレジットカードを利用して支払っていた場合などです。NOVAに問題があった場合、途中解約をする、じゃあ残るクレジット利用による40万円の債務はどうなるのか?
 有名だったのは30条の4に規定された、抗弁の接続というものです。残る支払いの請求は拒むことができる場合があることを定めています。


 特定商取引法に定められた一定の販売方法、訪問販売、継続的役務の提供などをしている場合、自分の商売が特商法の規制を受けるのかどうかのチェックは必須です。
 また、信販会社の加盟店であって、お客さんがクレジットカードを使う場合、あるいは個品割賦販売を利用している場合も、割販法の知識は不可欠です。
 ところが、たまに驚くことに、自身が特定商取引法の規制を受ける商売を行いながら、社長自身がそのことの自覚がない場合があるのです。
 クーリングオフを意味することを主張されながら、なんでこんな主張を受けるのか?と不思議がっている場合があります。
 いやいや、その商売はこの法律の規制があって、この条項をお客さんは主張しているんですよということになります。

4 
 今後、さらに大事なのは、この12月1日から、新たに改正された特定商取引法と割賦販売法が施行されるということです。
 消費者契約法は従前の特定商取引法や割賦販売法では不都合があった部分をフォローすべく新たに制定された経緯があるのですが、それでもやはり不都合があったということです。
 不都合。
 消費者を食い物にする業者です。本当にこの手の業者の手にかかれば一消費者なんて赤子の手をひねるようなものです。
 そこで、昨年、特定商取引法と割賦販売法が改正され、めちゃくちゃ強化されました。 特定商取引法においては、指定商品制というものが原則撤廃されました。以前は、商品について指定されたものだけが対象だったのです。
 しかし業者は、ここの間隙をついて、みそだとかを売ったりしていました。いたちごっこでした。
 また、割賦販売法においては、抗弁の対抗として、今後の支払いを拒むだけではなく、場合によっては、すでに信販会社に支払った金員についても取り戻せるということを明記しました。
 また信販会社において加盟店の管理についての義務も定めました。売り方等について苦情の多い加盟店を放置しておいて、「知らなかった」と言い逃れすることは出来なくなりました。
 
 また別の項で、この特定商取引法と割賦販売法の改正についてはまとめて記しておきたいと思います。


 経営者は大変です。まっとうな商売でがんばって欲しいと思います。

(おわり)

4034442000_35f0c7f55c


2009年9月15日 (火)

親族会社にありがちかも~取締役会の形骸化~【松井】

3919402378_ef5f9e567f_b


 自分用にメモです。親族会社というわけではないのでしょうが、株式会社の代表取締役が、法律上、取締役会決議が必要なのに、決議なく、自分だけの判断で対外的に第三者と取引をしちゃったというとき、第三者は、その取引は無効だと主張できるかどうかという問題です。
 最近、最高最判例が出ました。
 最判二小平成21年4月17日判決(判例時報2044号142頁)です。
 

 事案はというと簡略化すると次のようなものでした。
 A社がY会社から、利息制限法を越える利率でお金を借りて返済しつづけていたところ、実は2億円ほどの過払いがあり、不当利得返還請求権を有しているということが分かりました。
 そこで、A社は、他の債権者であるXに対し、この2億円の債権を譲渡しました。平成16年12月のことです。
 しかしながら、実はこのA社は、同年5月、約20億円の負債を抱えて、既に事実上倒産している状態でした。
 つまり、A社には、この2億円の過払金返還請求権以外にはめぼしい財産はなかったのです。
 ということは、会社法の規定からいけば、この2億円の債権の譲渡は、会社の「重要な財産の処分」にあたり、取締役会決議を要するとされるものでした(会社法362条4項1号)。しかしA社の代表取締役は役会決議を経ずに、Xにこれを譲渡し、Xも、これがほぼ唯一の財産であること、役会決議がないことも知っていました。
 その後、XがYに対し、2億円の返還請求訴訟を提起しました。Yは、あんたは債権を譲り受けたといっているが、譲渡人のA社において有効な債権譲渡の手続が執られておらず、そのことをあんたは知っていたんだから、A社⇒Xの債権譲渡は無効で、あんたに債権はないよと反論しました。
 原審の東京高裁は、このYの主張を認め、X敗訴判決となりました。


 しかし最高裁は、ひっくりかえしました。
 争点は、A社は無効主張をしていないのに、第三者のYが無効を主張することが出来るか?というものでした。
 面白いです、法律。絶対的無効と相対的無効という考え方です。
 絶対的無効というのは、誰との関係でも無効といこと、相対的というのは、この人とこの人との間では無効だけど、他の人との間では有効という考え方です。

 で、最高裁はというと、相対的無効と考えました。
 会社法362条4項がもうけられた趣旨からの帰着です。

 

「会社法362条4項は、同項1号に定める重要な財産の処分も含めて重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項と定めているので、代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行をすることは許されないが、代表取締役は株式会社の業務に関して一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有することにかんがみれば、代表取締役が取締役会の決議を経ないでした重要な業務執行に該当する取引も、内部的な意思決定を欠くにすぎないから、原則として有効であり、取引の相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限り無効になると解される(最高裁昭和36年(オ)第1378号同40年9月22日第三小法廷判決・民集19巻6号156頁参照)。」

 「そして同項が重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項とさだめのは、代表取締役への権限の集中を抑制し、取締役相互の協議による結論に沿った業務の執行を確保することによって会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものと解される。」

 
「この趣旨からすれば、株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は、原則として会社のみが主張することができ、会社以外の者は、当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、これを主張することはできないと解するのが相当である。」


 感覚的にも妥当な判断だと思います。
 A社と、その取引の相手方X、そして第三者にたるY、それぞれの利害関係の調整が図られているように思います。
 
 このように、本来、取締役会の決議事項だけど、たとえば今回のA社は、行為時、事実上、代表取締役しかいない状況だったのだろうと想像できるし、そうでなくても、親族会社のような場合、そこまで厳密に手続をとっていないことはままありうる話しであって、その度に、相手方以外の人から、「無効」だといわれたのでは取引の当事者はたまったものではないかと思います。
 会社がそれでいいって言っているんだから、いいじゃん、といったところでしょうか。
 よくありそうな話しなのに、今頃、最高裁判決が出ているというのも不思議です。
 
 ただ、まあ、親族会社とはいえ、手続は手続としてきちんとしておいたほうが余計な紛争を招かないと言う意味では、適切だと思います。
 面倒でも、株式会社を経営する以上は、最低限の会社法の手続を押さえておかないと、いざ、相続紛争などが起こったときに足下をすくわれかねないので注意、勉強しておくべきだと思います。

 経営者って、大変です。
税法はもちろん、会社法民法労働基準法といった法律、さらには簿記会計管理会計も知っておく必要が本来あります。
 ここらへんを適当にやっていると、ハッと気づいたら目の前に破産法の適用が待ち受けているということにもなりかねないので気をつけてください。
(おわり)

3918616959_37f7a8d60c


2009年9月10日 (木)

契約書の文言/法律用語と一般的な国語の用法〜スズケン対小林製薬〜【松井】

3839325278_c97ea7e12a


 平成19年の秋の初めころだっかに、新聞で小さく報道されていた事件、名古屋の医薬品卸売り業者スズケンが大阪の小林製薬に対し、議決権行使禁止の仮処分を求めたという事件がありました。
 その後、新聞報道では認められなかったという結論だけが報道され、いつまでたっても判例雑誌等でその名古屋地方裁判所での仮処分申立の決定書が掲載されることはありませんでした。ネットで検索もしたのですが、自分のブログ記事がヒットするだけで、ひっそりと忘れられた事件になっているのだと思っていました。認められなかった仮処分のあと、スズケンがさらに本訴を提起したという報道も目にすることはありませんでした。


 ところが、今年になってようやく取り上げられるようになり、ついに決定書を目にすることが出来ました。
 金融・商事判例09年7月1号50頁と商事法務09年7月25日号82頁です。
 
 名古屋地裁平成19年11月12日決定(株式交換承認の議決権行使禁止仮処分申立事件)の決定書の全文を読んでみて分かったこと。
 スズケンと小林製薬が締結した契約書の文言に決定的な不備があったため、その間隙を縫ったのかどうかまでは分かりませんが今回の小林製薬の行動となり、裁判所はスズケンの言い分を認められなかったのだということです。
 端的には、「株式の譲渡」というこの言葉を法律用語として解するのか、一般的な国語の用法として解するのかでした。株式の「交換」は、株式の「譲渡」にあたるのか否かが問題とされたようです。

 スズケンの言い分は、一般的な国語の用法としての主張に基づいていると解されました。すなわち、「譲渡」というからには、「交換」も自身の手から株が離れるという意味で「譲渡」だろうと。
 それに対して裁判所は、

「一部上場企業で、過去にM&Aの経験を有する大企業」
であって、そもそものスズケンと小林製薬との契約においても
「薬粧卸売事業を、債権者及びコバショウ間の本件吸収分割及び株式交換の方法によりコバショウに移管することや、それに伴って債権者と債務者の共同出資会社となるコバショウの経営・運営方法を定めたものであること」
「本件合意書上、4条には、債権者がその薬粧卸売事業をコバショウに移管する方法として株式交換が規定され・・・」
と「株式交換」を意味する用語が使い分けられていることからすれば、17条に規定される「保有するコバショウの株式の全部又は一部を他に譲渡してはならない」という「譲渡」は、法律用語としての「譲渡」であって「交換」は含まれない、としてスズケンの申立てにつき、保全の対象となる権利をスズケンは小林製薬に対しもたないという結論を出しました。
 
 そうなんです。
 会社法上、「譲渡」と「交換」は次のように全く異なる性質のものと解されているのです。

 この当初の契約作成に会社法に詳しい弁護士が関与していたのかどうかは分かりません。もしスズケン側の弁護士が作成に関与していた契約書だとしたら大失態と言わざるを得ません。あるいは、法務部門だけで契約したとしたら、安くつけようとして、結局高くついた結果ということになります。
 いずれにしてもスズケンのミスということになるようです。
 だからか、きっと本訴も提起しなかったのだろうと合点がいきました。

 ところで、保全処分では、申立をした者を「債権者」といい、申立ての相手方を「債務者」といいます。法律用語としては。


 「譲渡」と「交換」。判決書は次のように判示しています。
 

「株式交換は、平成11年8月13日法律第125条による改正により、ある会社を他の会社の完全子会社とするため、会社組織法上の行為として新設された制度であり(その際、株式交換を、完全親会社となる会社にとって、完全子会社となる会社の株主の有するその会社の株式の現物出資に対する株式その他の財産の交付とする構成も考慮されたが、合併に類似する組織法的行為として立法された。)、完全子会社の株式は、株式交換の当事会社間で締結された株式交換契約が両者の株主総会の特別決議で承認されることにより、株式交換に反対する株主の意思にかかわらず法律上当然に移転する」

 
「本件株式交換において、株式交換契約の当事者はメディパルとコバショウであって、債務者は当事者ではないし、債務者の保有するコバショウ株式のメディパルへの移転も、法的には債務者の意思基づくものとはいえない。」

 
 そして決定書はこのように結論づけています。
 
「債権者の上記主張は、本件株式交換が、旧商法ないし会社法上の株式交換であることを理解せず、債務者とメディパル間のコバショウ株式の民法上の交換契約であるかのように誤った理解に基づくものであるといわざるを得ず、採用できない。」

 その後、さらに一応、いろいろとスズケンの主張が検討されてはいるのですが、結局はここにいきつきいています。

 残念ながら、スズケンにとっては可哀想だけど、お粗末ともいえる契約と仮処分の申立てだったようです。
 スズケンが小林製薬に対し、仮処分の申立てをせざるを得なかった事情、気持ちを考えると、当時、報道されていたときから「頑張れ、スズケン!」でした。コバショウにおいて、過半数を超える大株主の小林製薬と少数となるスズケンという株主構成の中、そもそもがこの株主構成もスズケンと小林製薬の合意による戦略的なものだったようです。そのことからすれば、小林製薬のやっていることは禁反言の原則に反するようにも思えました。
 しかし、そもそものスズケンと小林製薬の契約書において、コバショウのありかたについて株式交換が規制されていなかったとは。。。
 スズケンのミスと言われても仕方ないのかなと思います。


 なお、この決定書では、株主総会における議決権行使を制約する契約の効力等についても触れられています。
 

「①株主全員が当事者である議決権拘束契約であること、②契約内容が明確に本件議決権を行使しないことを求めるものといえることの二つの要件を充たす場合には例外的に差止請求が認められる余地があるというべきである。」

 ②の要件はともかく、①の要件が「株主全員」の契約であることを要するとしているのですが、ここまで要するのかどうかというのも一つの問題ではないかと思います。
 
 にしても、いずれにしても、スズケン、残念でした。。。

(おわり)
  
3838535949_693e3dfd1d


2009年8月10日 (月)

相続と株式〜理想と現実〜【松井】

3797088978_f14884a2d3

 判例時報平成21年6月11日号(2037号)です。
 自分用にここにメモ。
 相続と株式。
 大阪高裁H20年11月28日判決。上告受理申立てをしたけど、不受理で確定しているようです。
 「共同相続人が相続し、共有状態にある株式に関する権利行使者の定め、株主総会における議決権行使が権利の濫用に当たり、許されないとされた事例」。
 この件については、以前も当ブログで呟きました。
 「株式会社と相続と株式」
 これは結構、手続の適正も絡んで重要な裁判例ではないかと考えています。


 事案としては、交渉協議段階から双方、代理人弁護士が就いていて、そのうえで相続後の会社の経営権を巡る株主としての多数派工作の争いがあったというものです。
 当時の代理人弁護士がそのまま訴訟代理人になっているのですが、一方当事者が行った手続きを問題視されたものであるため、原告被告の当事者名は、株式会社甲野、あるいは乙山春雄などと匿名であっても、訴訟代理人名はそのまま掲載されるところ、「被控訴人ら訴訟代理人弁護士」として「丙山五郎」「丁川六郎」と匿名にされている点がちょっと物悲しい判決です。

 事件名は、「総会決議存否確認請求控訴、同附帯控訴事件」です。
 Y株式会社の創業者Aさんが亡くなり、まもなく配偶者の奥さんBも3人の子どもを残して亡くなりました。ただ、子どものうちの一人Cの配偶者DとこのAさん夫妻は養子縁組みをしており、相続人は4名となりました。
 ただ、この奥さんは、遺言を遺しており、自分の財産は、この実子Cと養子Dの二人には一切相続させず、他の2名の実子X1とX2に全部相続させるという遺言でした。
 Y社の株式は、発行済株式総数3万株、うちAが9700株、妻Bが2500株、実子X1が1250株、X2が1750株等という状況でした。
 結果、Y社の株主の状況は、Aが保有した株式については、X1とX2とで、各3/8、C、Dが各1/8という状況でした。
 珍しくはないケースで、C、D 対 X1、X2とで、紛争が勃発し、Y株式会社の経営支配を巡っても紛争の火種は飛び火したというのが本件のようです。
 訴訟としては、このAが保有した株式の準共有状態と権利行使者の指定、そしてY株式会社の株主総会での議決権行使というカタチで争われました。


 高裁の判断です。
 

「株式会社の株式の所有者が死亡し複数の相続人がこれを承継した場合、その株式は、共同相続人の準共有となる(民法898条)ところ、共同相続人が共有株式権利を行使するについては、共有者の中から権利行使者を指定しその旨会社に通知しなければならない(会社法106条)。この場合、仮に準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することができないとすると、準共有者の一人でも反対すれば全員の社員権の行使が不可能になるのみならず、ひいては会社の運営に支障を来すおそれがあるので、こうした事態を避けるために、同株式の権利行使者を指定するに当たっては、準共有持分に従いその過半数を持ってこれを決することが出来るとされている(最高裁平成5年(オ)第1939号同9年1月28日第三小法廷判決・集民181号83頁、最高裁平成10年(オ)第866号同11年12月14日第三小法廷判決・集民195号715頁参照)。」

 
 
「もっとも、一方で、こうした共同相続人による株式の準共有状態は、共同相続人間において遺産分割協議や家庭裁判所での調停が成立するまでの、あるいはこれが成立しない場合でも早晩なされる遺産分割審判が確定するまでの、一時的ないし暫定的状態に過ぎないのであるから、その間における権利行使者の指定及びこれに基づく議決権の行使には、会社の事務処理の便宜を考慮しても受けられた制度の趣旨を濫用あるいは悪用するものであってはならないというべきである。」
 「そうとすれば、共同相続人間の権利行使者の指定は、最終的には準共有持分に従ってその過半数で決するとしても、上記のとおり準共有が暫定的状態であることにかんがみ、またその間における議決権行使の性質上、共同相続人間で事前に議案内容の重要度に応じしかるべき協議をすることが必要であって、この協議を全く行わずに権利行使者を指定するなど、共同相続人が権利行使の手続の過程でその権利を濫用した場合には、当該権利行使者の指定ないし議決権の行使は権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。」


 本件では、結局、この権利行使者の指定の手続きがマズかったとして、それは権利の濫用とされてしまいました。
 曰く、

「被控訴人らにおいてわずか400株の差で過半数を占めることとなることを奇貨とし、控訴人の経営を混乱に陥れることを意図し、本件抗告審決定で問題点を指摘されたにもかかわらず、権利行使者の指定について協同相続人間で真摯に協議する意思をもつことなく、単に形式的に協議をしているかのような体裁を整えただけで、実質的には全く協議をしていないまま、いわば問答無用的に権利行使者を指定したと認めるのが相当である。」

 事案としては、一方的にFAXを送りつけて、一方的な要求を突きつけ、明日の午後5時までにこれを受諾するか否か「のみ」の返事をFAXでしてこいとした方法が評価されてのことのようです。


 数人の弁護士と定期的に行っている勉強会で、この裁判例について話をしました。
 裁判所がいうのはもっともだ、条文の趣旨をよく吟味している立派な判決書だ。
 
 ただ。
 自分が実際、このような当事者間の紛争の代理人となった場合、「真摯に協議」する「場」「手続」をとるというのはちょっと難しいよねということで意見が一致しました。
 法律事務所などで一同に解したら、荒れるのが目に見えています。
 じゃあ、どこかの会議室を借りて一同に集まるのか。
 暴れだされたり、殺傷事件が起こる危険性を裁判官は分かっていないよね、と皆でうなずきあいました。
 方策としては、今回、ダメだったのは、FAX送りつけて翌日5時までにという期間の短さがダメだったのではないか。この点、何も一同に会して協議をとまではいかなくて、余裕のある協議を書面ででも積み重ねたら違ったのではないかということになりました。
 どうなんでしょうか?

 裁判所は、権利行使者の指定のための手続きとしては、やはり対立関係にある当事者が、一同に会しての実質的な協議が行われることを求めているのでしょうか。
 それは。。。血の目を見ることもおそれぬ怖さがあります。実際のところ。。。
 それほど、親族間の対立、会社経営を巡るものは深刻なものが少なくはありません。
 集まるにしても、人目のあるところか、万が一の事態にそなえて警備員などの準備ができるところでしょうね。
 
 理想を語る裁判官と、現実を知る弁護士との温度差が分かる裁判例でした。

(おわり)
  
3796231115_8c201a2e40


2009年4月17日 (金)

法人と個人〜取締役の責任〜 【松井】

3441188872_e0d06f9a09


 法人と個人って、法律上は「別人格」という言い方をされます。
 これを利用して、会社をつくって、個人が責任を負わないようにする。この点、このように責任を分離することを認めることには積極的な意味があったりします。
 なんの為に法人制度が作られているのか。
 株式会社なら簡単です。株式という形でひろく出資を募り、お金を集めて、それを元手に商売をし、利益を生み出し、株主には配当をして利益を還元する。取引行為はあくまで会社が、法人格をもって取引の主体となり得るようにする。
 そうすることによって個人のお金と会社のお金を分離する。
 そうすることによって、万が一、会社が背負ったその負債を返済できない状態になったときでも、個人の方、出資した人、運営していた人には原則、とばっちりがいかないようにする。それが、法人と個人は別人格、ということです。
 会社を潰せばそれで、おわり、です。法律上は。ただ、実際は、経営者が会社の借入金の連帯保証人にならざるをえず、なっていたりするから社長も破産、というケースがほとんどなだけで。
 会社にお金を貸していた人、売掛金のある取引先、その会社に出資していた人、みんなの債権は全額戻ってくることはありません。破産手続きにおいて配当が数パーセント出ればましなほう。


 こういった法人の人格の制度は、これを悪用するという人も当然、出てきます。
 たとえば、いまのは、個人/法人というものですが、法人/法人というパターンも出てきます。すなわち、会社運営をしながら、自分の会社にとばっちりがこないように別法人を作る、あるいは事実上、支配して、汚いことは別法人にやらせるというやり方です。
 そして何かトラブルがあったとき、自分や自分の法人Aは何も関わっていません、悪いことをしていたのは別法人のBなんです!というやり方、逃げ方です。


 裁判所がこんなの認めるわけがありません。
 ただ、こういうことを考える人は頭のいい人で、しっぽをつかませないようにいろいろと工夫しています。親族でも何でもない人をB会社の代表取締役に据えたりして、事実上のB会社としての活動の痕跡を残します。
 何かあっても、B会社がやったことだ、悪いのはB会社の代表取締役だ、と逃げます。
 
 が、しかし。
 司法修習中、東京地検の特捜部で脱税事件などを担当されていた検察教官が仰っていました。
 「脱税には『たまり』が必ずある。」
 ごまかすようなことをしても、それはあくまで「ごまかし」なので、必ずどこかにその「ごまかし」の痕跡としての「たまり」が出てくるという話です。
 書類でも、人の証言でも。その人の行動の結果がどこかに現れて、「たまり」として形になります。

 これを探し出し、収集し、証拠として法廷に出す。
 証拠から見えてくる実態は、法人格の濫用の実態。
 法人/法人 だからといって杓子定規な判断を裁判所はしていません。


 法人/個人 でも同じです。
 個人の人が、それは法人の行為だから、取引相手はあくまで法人だから、といって逃げ切れるとは限りません。
 旧商法は266条の3という条文をもうけていました。
 会社法は、429条として、役員等の第三者に対する損害賠法責任を定めています。
 

429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

 「取引の当事者は法人だから、代表取締役個人の責任の追及はできないよ」という回答は、不正確です。

 例外的な場合を想定し、その要件を満たす事実の有無を精査すること。弁護士としては当たり前のことがらだと思います。
 その代表者の責任追及が出来ないという結論に何か違和感を感じるというとき、その「違和感」の理屈を突き詰めるのが弁護士の仕事だと思います。
 「違和感」が大事だと思います。
 「できませんよ、あきませんよ」というのは、簡単。場合によっては、自分の無知の吐露、技術力がないことの自白を意味します。
 頭を常にフル回転させていないと!違和感センサーが鈍ります。
 そのためには、リラックスが大事。
 ニコちゃんマークでリラックス。
(おわり)

3440375973_5d8523e1d4


2008年8月27日 (水)

でた!最高裁の「信義則」!〜民事再生法の不認可事由〜【松井】

2654597401_1a36fc84e4
*壮大な計画も、シャボン玉。虚像では無意味。


 私は会社の代表者。息子二人も取締役。
 会社の資産はテナントビル一棟。これで不動産賃貸業を営み収益を得ているわ。
 でも、バブルの平成元年ころ、富士銀行から4億円を借りたの。
 もちろん担保は差し出したわ。そうよ、このビルよ。
 根抵当権を設定したの。極度額4億円。
 
 それと私は、もうひとつ会社を経営しているの。
 この会社も、ABCキャビたる有限会社からお金を借りてるワ。
 で、私の会社が連帯保証をしているの。


 事業は順調だった、はず。
 だけど、平成11年、株式投資に失敗してしまったの。
 こまったわ。
 債権者は富士銀行だったけど、いつのまにかあの整理回収機構になってしまったわ。
 返済の話し合いをするけど、まとまらない。厳しい!
 ああ、どうしたらいいのかしら。

 そうだわ!
 民事再生法という法律が出来たワ。
 事業を継続させるためにはこのビルが必要なのよ!ということであれば、
 抵当権を消滅させてくれるわ、裁判所の許可があれば。
 そうよ、この制度を使って立ち直るのよ。
 このままでは、ビルを取られて、会社を潰すしかない。
 でも、民事再生法なら・・・。

3 
 あら、再生計画案の可決の要件とやらがあるわ。
 えっと。
 民事再生法172条の3 第1項。
 1号ね。 議決権者の過半数の同意。
 そして、2号。 議決権者の議決権の総額二分の一以上の議決権を有する者の同意。

 えっと。
 債権者は、1 整理回収機構でしょ、2 ビルのテナントさん。これは保証金返還債権ね。3それともう1社、テナントさん。
 あとはあ。 4 私個人でしょ。 5 そして、私のもう一つの会社。 6 あ、この会社の連帯保証をした分で、ABCキャピタルね。
 きっと、整理回収機構にテナントさんらは反対する。
 すると、あら!「議決権者の過半数の同意」は得られないわ。
 他の3社で、債権総額の2分の1以上はあるのに!

 きーっっ。どうしましょ、どうしましょ。
 このままではビルを取られて、会社も潰れるワ。


 そうだわ!閃いたわ!
 冴えてるわ!私。

 頭数が足りないなら、増やせばいいのよ。
 債権者数を増やすといえば。
 らん、らん、らん、らん。
 
 息子、息子。息子甲男、ABCキャピタルさんから債権をもらっておいで。
 ABCキャピタルさんに損になる話はできないだろうから、うまく交渉するのよ。
 
 母さん、母さん、債権をもらってきたよ。

 じゃあ、あなた、その債権の一部を息子の乙男に譲りなさい。
 はーい。
 はい、どうぞ。

 これで、債権者ABCキャピタルだけだったのが、息子甲男に、息子乙男と増えたワ。

 債権者、RCCにテナント2社の3者 VS  私、私の会社、息子甲男に、そして息子乙男の4者。

 そうよ、3対4 !
 これで過半数を超えるわ!
 
 ふふふふ。民事再生法よ!
 
 そして、甲男と乙男が債権者となってから1ヵ月後、民事再生の申立てをしました。
 


 こんな事案に対して、最高裁は。
 同様の事案に対する判断が、平成20年3月13日最高裁第1小法廷の決定としてありました。
 (判例時報7月1号)

 不認可事由が定められた民事再生法174条2項3号所定の
 「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」に、
 再生計画案が信義則に反する行為に基づいて可決されたときが含まれるとし、
 本件のような事案は、
 民事再生法172条の3、1項1号の趣旨を潜脱し信義則に反する再生債務者らの行為に基づいて再生計画案が可決されたとして、不認可事由にあたるとされました。

 法172条の3、第1項1号の頭数要件は、少額債権者保護をその趣旨としています。
 上記のようなケースで怒ったのは、RCCとテナント債権者でした。
 再生計画案が可決され、再生裁判所はその日に、不認可事由はないとして認可したのですが、怒った債権者らが即時抗告をしたのです。
 そしてこの最高裁の決定となりました。

 社長の目論みははかなくも崩れ去りました。
 
 再生申立てをしたあと、この会社は、有限会社XYZインベストメントから2億円の融資を受け、再生債権額の1%を弁済すると再生計画案を出していました。
 でも、RCCらにしたら、破産してもらったほうがより一層、回収できた場合でした。

 ある意味、正面突破を狙い、見事に砕け散りました。

 法の間隙を狙うような姑息とも言える表面的なやり方では、最高裁までは突破できないというケースではないかと思います。ワイルドサイドを歩いても、ダークサイドには近寄らないのがベター。結局、損する。粘る、ということも大事なときはあるけど。
(おわり)
 
ランチタイム。そば屋で窓の外を眺めながら侘び寂びを考える。
2639486237_be0ebc53bd