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03 契約・契約書

2009年9月10日 (木)

契約書の文言/法律用語と一般的な国語の用法〜スズケン対小林製薬〜【松井】

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 平成19年の秋の初めころだっかに、新聞で小さく報道されていた事件、名古屋の医薬品卸売り業者スズケンが大阪の小林製薬に対し、議決権行使禁止の仮処分を求めたという事件がありました。
 その後、新聞報道では認められなかったという結論だけが報道され、いつまでたっても判例雑誌等でその名古屋地方裁判所での仮処分申立の決定書が掲載されることはありませんでした。ネットで検索もしたのですが、自分のブログ記事がヒットするだけで、ひっそりと忘れられた事件になっているのだと思っていました。認められなかった仮処分のあと、スズケンがさらに本訴を提起したという報道も目にすることはありませんでした。


 ところが、今年になってようやく取り上げられるようになり、ついに決定書を目にすることが出来ました。
 金融・商事判例09年7月1号50頁と商事法務09年7月25日号82頁です。
 
 名古屋地裁平成19年11月12日決定(株式交換承認の議決権行使禁止仮処分申立事件)の決定書の全文を読んでみて分かったこと。
 スズケンと小林製薬が締結した契約書の文言に決定的な不備があったため、その間隙を縫ったのかどうかまでは分かりませんが今回の小林製薬の行動となり、裁判所はスズケンの言い分を認められなかったのだということです。
 端的には、「株式の譲渡」というこの言葉を法律用語として解するのか、一般的な国語の用法として解するのかでした。株式の「交換」は、株式の「譲渡」にあたるのか否かが問題とされたようです。

 スズケンの言い分は、一般的な国語の用法としての主張に基づいていると解されました。すなわち、「譲渡」というからには、「交換」も自身の手から株が離れるという意味で「譲渡」だろうと。
 それに対して裁判所は、

「一部上場企業で、過去にM&Aの経験を有する大企業」
であって、そもそものスズケンと小林製薬との契約においても
「薬粧卸売事業を、債権者及びコバショウ間の本件吸収分割及び株式交換の方法によりコバショウに移管することや、それに伴って債権者と債務者の共同出資会社となるコバショウの経営・運営方法を定めたものであること」
「本件合意書上、4条には、債権者がその薬粧卸売事業をコバショウに移管する方法として株式交換が規定され・・・」
と「株式交換」を意味する用語が使い分けられていることからすれば、17条に規定される「保有するコバショウの株式の全部又は一部を他に譲渡してはならない」という「譲渡」は、法律用語としての「譲渡」であって「交換」は含まれない、としてスズケンの申立てにつき、保全の対象となる権利をスズケンは小林製薬に対しもたないという結論を出しました。
 
 そうなんです。
 会社法上、「譲渡」と「交換」は次のように全く異なる性質のものと解されているのです。

 この当初の契約作成に会社法に詳しい弁護士が関与していたのかどうかは分かりません。もしスズケン側の弁護士が作成に関与していた契約書だとしたら大失態と言わざるを得ません。あるいは、法務部門だけで契約したとしたら、安くつけようとして、結局高くついた結果ということになります。
 いずれにしてもスズケンのミスということになるようです。
 だからか、きっと本訴も提起しなかったのだろうと合点がいきました。

 ところで、保全処分では、申立をした者を「債権者」といい、申立ての相手方を「債務者」といいます。法律用語としては。


 「譲渡」と「交換」。判決書は次のように判示しています。
 

「株式交換は、平成11年8月13日法律第125条による改正により、ある会社を他の会社の完全子会社とするため、会社組織法上の行為として新設された制度であり(その際、株式交換を、完全親会社となる会社にとって、完全子会社となる会社の株主の有するその会社の株式の現物出資に対する株式その他の財産の交付とする構成も考慮されたが、合併に類似する組織法的行為として立法された。)、完全子会社の株式は、株式交換の当事会社間で締結された株式交換契約が両者の株主総会の特別決議で承認されることにより、株式交換に反対する株主の意思にかかわらず法律上当然に移転する」

 
「本件株式交換において、株式交換契約の当事者はメディパルとコバショウであって、債務者は当事者ではないし、債務者の保有するコバショウ株式のメディパルへの移転も、法的には債務者の意思基づくものとはいえない。」

 
 そして決定書はこのように結論づけています。
 
「債権者の上記主張は、本件株式交換が、旧商法ないし会社法上の株式交換であることを理解せず、債務者とメディパル間のコバショウ株式の民法上の交換契約であるかのように誤った理解に基づくものであるといわざるを得ず、採用できない。」

 その後、さらに一応、いろいろとスズケンの主張が検討されてはいるのですが、結局はここにいきつきいています。

 残念ながら、スズケンにとっては可哀想だけど、お粗末ともいえる契約と仮処分の申立てだったようです。
 スズケンが小林製薬に対し、仮処分の申立てをせざるを得なかった事情、気持ちを考えると、当時、報道されていたときから「頑張れ、スズケン!」でした。コバショウにおいて、過半数を超える大株主の小林製薬と少数となるスズケンという株主構成の中、そもそもがこの株主構成もスズケンと小林製薬の合意による戦略的なものだったようです。そのことからすれば、小林製薬のやっていることは禁反言の原則に反するようにも思えました。
 しかし、そもそものスズケンと小林製薬の契約書において、コバショウのありかたについて株式交換が規制されていなかったとは。。。
 スズケンのミスと言われても仕方ないのかなと思います。


 なお、この決定書では、株主総会における議決権行使を制約する契約の効力等についても触れられています。
 

「①株主全員が当事者である議決権拘束契約であること、②契約内容が明確に本件議決権を行使しないことを求めるものといえることの二つの要件を充たす場合には例外的に差止請求が認められる余地があるというべきである。」

 ②の要件はともかく、①の要件が「株主全員」の契約であることを要するとしているのですが、ここまで要するのかどうかというのも一つの問題ではないかと思います。
 
 にしても、いずれにしても、スズケン、残念でした。。。

(おわり)
  
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2009年9月 9日 (水)

そのお金に理由はありますか?〜更新料約定無効高裁判決から学ぶこと〜【松井】

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撮影 yuko.K


 先日、新聞などでも大々的に報道されましたが、大阪高裁平成21年8月27日判決でもって、京都地方裁判所での一審判決が覆されて、京都のマンション賃貸業者と元住人との間の訴訟で、1年ごとの契約更新時に支払われていた10万円の更新料支払いの約定が、消費者契約法10条に基づき、無効と判断されました。結果、1年の契約更新ごとに支払われていた40万円の更新料を利息をつけて家主は元住人に返せという判決となりました。
 これは、不動産を所有して、賃貸業を営んでいる方々にとっては、衝撃の判決ではないかと思います。消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降に授受された「更新料」名目の金員について、場合によっては、一括して利息までつけて返済しなければならないということがあり得るからです。
 この判決の一審京都地裁判決と今回の高裁判決を読み比べてみました。
 この裁判はおそらく上告も受理されて、最高裁判所の判断も出るだろうとは思いますが、現時点で賃貸人において気をつけるべきことを示唆するものともいえ、自身のメモがてら記しておきます。


 大きなポイントは、賃貸人が賃借人から受け取るお金について、「そのお金に理由はありますか?」ということを改めて総チェックすべきだろうということです。
 今回の事案で、京都地裁と大阪高裁とで結論が別れたのは、まさに今回の事案での「更新料」について、この点の結論の違いだったようです。

 判決は共に、まず「更新料の法的性質」について検討しています。
 家主側は次のような主張をしていました。
  ① 更新拒絶権放棄の対価
  ② 賃借権強化の対価の性質
  ③ 賃料補充の性質

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 この点、京都地裁判決は、①については、希薄ではあるが、その性質があるとし、②についても、やはり希薄ではあるがとしつつ、これを認め、③については、本件での「更新料約定は、本件賃貸借契約における賃料の支払方法に関する条項であり」として、「賃料の補充の性質を有しているものということができよう。」としました。
 その上で、消費者契約法10条前段にあてはめてみると、

「『賃料は、建物については毎月末に支払わなければならない』と定める民法614条本文と比べ、賃借人の義務を加重しているものと考えられる」
としてその要件を充たすとするものの、10条後段の要件はみたさないとして、10条の適用を否定したのです。
 すなわち、
「本件更新料約定が『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』であること」
について検討し、①1年契約、賃料月額4万5000円という状況で、10万円の更新料は、過大なものではないこと、②更新料約定の内容は明確であり、賃借人は契約締結時に説明を受けているので、賃借人に不測の損害あるいは不利益ではないこと、③希薄とはいえ、更新料が更新拒絶権の対価及び賃借権強化の対価と志手の性質を有しているということ、これらを考慮し、10条後段の要件は充たさないと判断しました。


 以上の京都地裁の判断に対し、大阪高裁は、まず更新料の法的性質について、① 更新拒絶権放棄の対価性を否定しました。そもそも正当事由がない限り、賃貸人は更新拒絶できないこと(借地借家法28条)、契約条項上も賃貸人がそのように考えていたとは認められない、更新拒絶権行使に伴う紛争回避目的と言う点については、その危険は対等に負担されるべきものであって、賃貸人のみが更新拒絶権放棄の対価として更新料を取得すべき理由はないとしています。
 そして、② 賃借権強化の対価の性質についても、否定しました。合意更新により解約申入が制限されることにより賃借権が強化されるといっても、本件賃貸借契約は、契約期間が1年間という借地借家法上認められる最短期間であって、強化といっても無視してよいのに近い効果であることを理由としています。
 最後に、③賃料補充の性質も否定しました。
 契約期間満了前に退去した際、精算をする規定がないこと/更新料が基本的に10万円の定額のままであり、家賃の増減と連動しないこと/更新料不払いであっても、債務不履行解除を認める余地はないといえること/といったことを理由としています。
 さらには、なお書きで次のように判示しています。
 

「なお、賃貸借契約の当事者間においては、賃料とされるのは使用収益の対価そのものであり、賃貸借契約の当事者間で賃貸借契約に伴い授受される金銭のすべてが必ずしも賃料補充の性質を持つと解されるべきではない(そうでなければ、敷金はもちろん、電気料、水道料、協力金その他何らかの名目をつけさえすれば、その名目の実額を大幅に越える金銭授受や趣旨不明の曖昧な名目での金銭授受までも賃料補充の性質を持つと説明できるとかいされかねないからである)。」

 
 そして、大阪高裁判決は、消費者契約法10条後段の要件についても、まず検討にあたっての指針を打ち立てています。
 
「この要件に該当するかどうかは、契約条項の実体的内容、その置かれている趣旨、目的及び根拠はもちろんのことであるが、消費者契約法の目的規定である消費者契約法1条が、消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があることにかんがみ、消費者の利益を不等に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより消費者の利益の擁護を図ろうとしていることに照らすと、」
として、
 
「契約当事者の情報収集力等の格差の状況及び程度、消費者が趣旨を含めて契約条項を理解出来るものであったかどうか等の契約条項の定め方、契約条項が具体的かつ明確に説明されたかどうか等の契約に至る経緯のほか、消費者が契約条項を検討する上で事業者と実質的に対等な機会を付与され自由に検討していたかどうかなど諸般の事情を総合的に検討し、あくまでも消費者契約法の見地から、信義則に反して消費者の利益が一方的に害されているかどうかを判断すべきであると解される。」
としました。

 そして、今回の事案について大阪高裁は検討しました。
 更新料10万円については、賃料月額4万5000円に比すれば、かなり高額とします。
 そして、

「本件賃貸借契約に本件更新料約定が置かれている趣旨、目的及び根拠について検討」
します。
 この点、
「本件更新料約定が維持されるべき積極的、合理的な根拠を見出すことは困難である」

 
「この約款は、客観的には、賃借人となろうとする人が様々な物件を比較して選ぶ際に主として月払いの賃料の金額に着目する点に乗じ、直ちに賃料を意味しない更新料という用語を用いることにより、賃借人の経済的出捐が少ないかのような印象を与えて契約締結を誘因する役割を果たすものでしかないと言われてもやむを得ないと思われる。」
とまで判示しました。
 そして、
「端的に、その分を上乗せした賃料の設定をして、賃借人になろうとする消費者に明確に、透明に示すことが要請されるというべきである。」
としています。
 そして、賃借人においては、契約締結時、建物賃貸借契約においては強行規定となる法定更新制度というものがあり、この場合更新料を支払う必要がないことの説明を受けていないということを重視しています。賃借人が契約条件を検討する上で賃貸人と実質的に対等な機会を付与されて自由に検討したとはいえないとするのです。結果、本件更新料約定が賃借人に不利益をもたらしていないということはできないとしました。
 このように
「諸点を総合して考えると、本件更新料約定は、『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものと』ということができる。」
としました。


 この大阪高裁判決から言えることは、当たり前ですが、事案を丁寧に検討した結果のものであって、他の賃貸借契約において、「更新料」名目の契約が即、消費者契約法10条に反し無効ということまでにはならないだろうということです。
 場合によっては、要件を満たさず、有効になるものもあるかと思われます。
 
 ただ、教訓として考えられるのは次のようなことです。
 「受け取るお金、そのお金に理由はありますか?」ということです。
 そのお金は何の対価なのか、営業、商売をする人は、改めて、この問いにどのような答えを用意できるのかを総点検する必要があるかと思います。
 そうでないと。
 消費者契約法10条によって、無効として、利息もつけてまとめて返還せねばならないという事態もありえます。

 先日、賃貸物件を所有する賃貸人の方の代理人となって、簡易裁判所に出廷しました。そうです、元賃借人から訴えられたのです。
 その訴訟は、大事になることを望まない依頼者の方の意向によって、徹底抗戦で判決ということなく和解で終わったのですが、その際、簡易裁判所の裁判官の方や調停委員の方とちょっと雑談をしました。
 曰く。
 やはり、今、簡易裁判所では、弁護士に依頼せずに本人訴訟で、賃貸人を訴えて、敷金などを返還しろという裁判が非常に多いとのことでした。

 更新料の約定というのが、京都で多い契約スタイルなのかどうか、それとも日本各地であるものなのかどうかはよく知りませんが、今一度、今のうちに確認されることをお勧めします。


 そして何よりも。消費者を相手として商売を営む個人、法人についても、金銭の授受がある場合、契約書に何らかの請求権などを明記している場合、そのお金はいったい何の対価として支払請求を定めるのか、「そのお金に理由はあるのか。」「どういう理由なのか。」を今一度、点検し、改めるべきところは早々に改められることをおすすめします。
 訴えられてからでは、さらに時間、弁護士費用といったコストがかかりますので。

 話は違いますが、私が以前、自分の住居を賃借しようとした際、不動産仲介業者の方から支払額の明細を示され「クリーニング料」というものが挙っているに気づいたことがありました。
 「何だこれは?」と思い、実は、仲介業者をすっとばして家主の会社の方に連絡をいれました。家主も知らない金額であり、部屋の清掃はすでにもうしてあるということでした。仲介業者が、家主にも黙って、根拠のない金を賃借人からくすねとろうとしたものでした。

 あれ?コレは何?という素朴な感覚と、それに従い行動することが、食い物にされることを回避する道ですし、業者の方は、突っ込まれたときに弁解できないようなお金は請求しないという基本を今一度、確認するということだと思います。
 不安を覚えるようでしたら、今のうちに早めに弁護士に相談されることをおすすめいたします。過去の事実を変えることはできませんが、将来のさらなる損害の拡大に対し手当はできるかもしれませんから。

(おわり)

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2009年8月19日 (水)

入口を考えるなら、出口も考える  〜マンション電気高圧受電契約と友情婚〜【松井】

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 ある契約をしようかどうしようかというとき、通常、やはりその「効果」に目を奪われがちです。

 婚姻なら、婚姻したことによりどのような効果が生じるのか。
 法律上互いに「配偶者」という立場になり、法定の権利義務が生じます。
 そのことを望み、当事者は、一つの法律行為として「婚姻」届を提出し、婚姻します。

 また、マンション管理組合であるなら、この「契約」をしたら電気代がこれまで関電に支払っていたよりも毎月数パーセント安くなる、というのであればその「効果」を望み、「契約」します。
 
 もちろん、法律行為をするからには、法律効果を狙うものであり、こういった「効果意思」というものが必須とされています。
 
 この「効果」に対して、どういう「対価」が必要なのか、ということも一般には検討します。

 「婚姻」したことにってどのような「対価」が必要なのか。法律上、配偶者に対していろいろな義務が生じます。
 マンション管理組合でいうなら、各住戸が支払う毎月の電気代が安くなることに対して、いくらその会社に支払うことになるのか。結局、その会社は、高圧電力契約によって関西電力に支払う単価が安くなる電気代と住人からの支払いを受ける「電気代」の差額で儲けになって、それが管理組合がその会社に支払う「対価」となります。

 自分が得られる「効果」と自分が支払うその「効果」に対する「対価」「義務」については、検討します。


 しかし、契約を締結するかどうかというときに、もう一つ、さらに大事なことがあります。
 契約を解消するときに、どのような負担が、手続きが必要となるかの確認です。

 これの検討が本当は一番大事なのではないかと思います。
 なぜって、皆、忘れがちだから。

 しかし、業者は考えています。がっちりと一度その手を握ったら離さない、契約を解消されても自分の方だけは損しないようにうまく契約書に条項をもぐりこませています。
 
 また、「婚姻」についていえば、「婚姻」をするときに二人が別れる日がくるなんてことを想定してその際にどうするかというシミュレーションをする人は、ことの性質上、まず多くはいません。
 なので、「解消」するとき、「離婚」するときのこと、そのときにどういうことが問題となるか、手続きはどのようなものなのかということまで考えて「婚姻」することは少ないと思います。

 でも、入口を見て、入ろうかどうしようか悩むときは、出口も考えておいてください。
 出口からの脱出が困難なことが分かれば、それでもあなたはその「効果」「対価」だけを考えて、契約しますか?ということです。


 マンション管理組合において、他の「電力」会社と契約して、関電との電気供給契約を変更して各住戸の低圧受電の契約から管理組合として一括で高圧受電の契約とし、各住戸への供給の管理をその「電力」会社に委託することによって、結果、各住戸が支払う電気代を安くするかどうかということが検討されていました。
 同種企業が4社ほどあり、各社の担当者からの説明を受けたり、質問状、要請書を出すなどして、「入口」、契約をするかどうかということを検討してきました。
 結果、見送ることとしました。

 なぜか。
 各社一様に、契約期間が10年間だったからです。
 理由は、高圧受電をするには、現在使われている関電の設備を入れ替えて、その業者が用意した受電設備に入れ替える、その設備費用の消却期間が10年だから10年は契約し続けてくれないと困る、というものでした。
 「知るか、そんなこと」、というのが消費者の声でしょう。
 たとえば、業者の対応が思いのほか悪かったとき、あるいは他に安い電気の契約形態が関電から提供されたとき、「出口」、「解除」「解約」を考えます。 
 このとき、スムースにいくのだろうか。解除、解約したら、その業者は、入れた受電設備を撤去します。その費用負担はどうなるのか。業者に責めのある解除を主張しても、スムースに業者がそれを受入れるのか。
 そんなことを考えたら、初めて取引する相手方の業者と、始めからいきなり、10年の長期契約なんてできません。
 せいぜい2年契約で、更新するかどうかです。
 マンション管理会社との契約でも、2年契約で、自動更新条項はアウトとされています。

 にもかかわらず、各社一様に10年間の契約を主張し、結局、一歩も譲られませんでした。
 消費者がする契約で、10年以上の契約なんて住宅ローンくらいです。それも、最初にお金を借りたら、あとは返すだけという単純な内容。
 それをライフラインに関する電気に関して、どのようなトラブルが発生するか分からない未知の要素が多い中で、いきなり10年。
 
 契約は、無事に見送られました。


 「婚姻」でも、同じです。
 婚姻なんかは、期間の定めがありません。
 そんな契約を、会ってからまだ数か月でよく分からない相手と普通は、しません。
 それを「効果」だけに目を奪われ、「出口」を考えずに「入口」から入ってしまうと、あとで後悔することにもなりかねません。
 こちらが別れたいと思っても、相手が嫌だといったときにどうなるのか、どのような手続きが必要なのか。
 また、お互い、別れようということになっても、相手から法外な財産的要求をされた場合、どのように対応せざるをえないのか、どのような手続きが必要なのか。
 
 便宜上の「婚姻」として、「友情婚」と言われるものがあるようですが、よく「出口」を見据えたうえで、理解して納得して、それでも「入口」をくぐるのか、よくよく考える必要があると思います。

(おわり)
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2009年5月19日 (火)

契約の相手方【松井】

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 契約書のチェックをしました。
 まだ契約締結交渉段階で、契約するかどうかも未定の契約について、相手方が既に用意して、他の契約で使っている契約書を見せてくれと言いました。用意されているものを見せてもらいました。
 自分の弁護士としての業務上のことではなく、まったくプライベートに関する事柄に関してのものでしたが。


 ゲっ!
 という条項がいっぱい見つかりました。
 他の契約当事者の方々は、この契約書でそのまんまハンコを押しているのだろうと思うと、やっぱり業者対消費者ってなんだかなあと思います。
 業者の権利保証や損害賠償の予約についてはしっかり書いてあるのに対し、消費者側のそれは何も記載されておらず、むしろ権利としてあるものが制限されているのではないかと読める文言もあります。
 たとえば、業者が「契約上の地位」を譲渡するときは、原則、承諾するとか。
 えっ!?という感じです。契約の相手方を選べられへんやん!この会社だからと信頼して契約したのだとしても。なんじゃ、こりゃ?!という感じです。
 
 それなりの規模の会社なので、一応、顧問弁護士さんがいて、契約書のチェックをしているのだろうとは思いますが、顧問弁護士がいる会社であっても、こまめに契約書のチェックまではしてもらっていない会社もあります。また、下手したら、名前だけの「法務部」が法的にはまったく意味不明の文言で契約書を作っていたりします。


 プライベートな事柄で、お仕事モードで弁護士スイッチがオンになるのはなんだか気が引けるけど、住まいに関する事柄であり、金額も大きいので、見過ごすわけにはいきません。
 全部突っ込みを入れて、文言の変更等に応じないようだったら、その時点で私はその会社との契約については反対せざるをえません。
 会社の営業も、何事もよくを出しすぎると、80%の得られたものも0%となり失います。
 このへんの事柄が分かっている事業者かどうか。
 そもそもこっちは何もこの新しい契約を締結しなくっても特に大損するわけでもなく、困りもしないという立場であるということを考慮してもらわないと、いい加減バカにしないでよね、消費者を、という気分になります。


 大きな取引、金額や影響が大きなこと、さらには事業上の事柄についてはなおさら、ちょっとしたことでもこまめに弁護士に相談できるなら相談するようにされた方がいいかと思います。
 用意された契約書を弁護士に見てもらって、リスクを教えてもらう、ということです。
 それが「顧問弁護士」契約。
 あ、宣伝っぽくてなんだかイヤらしいですね。

 でも、本当にそう思います。
 なんでこんな契約書を作成したの?という契約書をもってこられて、トラブルが起こってから相談されると後の祭りに近いこともあります。

 民法の基本姿勢は、契約上の当事者は対等、という大前提があります。それが空想であっても。私人と私人は対等。そんななか、ずる賢い私人のカモにならないよう気をつけてください。
 こういう、相手の無知などに乗じるやり方が好きじゃないので、消費者保護委員会に入っています。
 欲をかいてだませられる方が悪い、とは言い切れないという思いがあるので。

(おわり)
*選ぶ方にも責任がもちろんありますけどね。目の前のものに対し、どれを選ぶのか、選ばないのか。 
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2009年2月23日 (月)

「私の履歴書」〜Mの腹黒日記〜【松井】

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*昔、つかこうへいの「腹黒日記」という本があり、中学生のころ愛読し、多大な影響をうけたことを思い出して敢えて「腹黒」と言ってみました。アマゾンで見てみたら、もう売られていないんですね。持っていたあの本はどこにいったんだろう。実家からは知らない間にいろいろなものが消えています。たぶんきっと親が処分したのだろうけど。


 なかなかタイムリーで面白いです。
 今の日経の「私の履歴書」。ドトールコーヒー名誉会長の鳥羽博道さんの「履歴書」。


 2月23日付けのものではこんな一文が。
 
 「契約書は当然取り交わすが、それを盾に争った事はない。問題が起きた時は、損得や契約書の文言ではなく、何が正しいかを考える。こちらに非があれば改め、相手に非があれば改めてもらう。その後に初めて利害を考え『どうすれば相手が成功するか』という観点から、最小の費用で解決する方法を一緒に探る。」

 皆が、これを出来れば、契約を巡っての裁判なんてきっと無用の長物。
 それが出来ない会社が多いので、最高裁まで、弁護士費用云百万、云千万円、年数3年なんてかけて紛争解決をする。笑うのは弁護士か。


 またこんな一文が。
 「ある時、日経新聞と日経ビジネスが『フランチャイズチェーンなのにトラブルが起きたとの話を聞いた事がな無いのは何故か』と取材に来た。トラブルはなくて当たり前と思っていたので、一瞬何を聞かれているか分からなかった。」
 
 「なのに」というのがポイントだと思います。
 「フランチャイズチェーン」「だから」、トラブルがおき、「契約書」「を盾に争」う。

 この一文は鳥羽さん流の嫌みなのでしょうか。なかなかしゃれています。


 「『人の不幸を作らない』という思い」「オーナーの喜びが私の喜び」。
 「『相手の成功』考え解決策探る」。
 交渉ごと、紛争ごとの解決の基本だと思います。

 それを分かっていないと、いきなり頭ごなしの高飛車な、脅し文句を連ねた内容証明郵便を送りつける。ひどいのだと、刑事告訴する、なんて言葉も入れたりして。
 それで余計な紛争が一つあぶくのように沸き上がり、世の中のお金と時間と労力が費消されます。
 戦わないといけないこともあるけど、うまくやれば訴訟は回避できたのにということがほとんどなんだろうと思います。

(おわり)

*「swich」と「法学教室」。たくさん雑誌を定期購読していますがその一つ。同時に届くと微妙な気分です。
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2009年2月21日 (土)

商売はやっぱり、共存共栄/三方よし【松井】

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 ここ数日、セブンイレブンに公正取引委員会が立ち入り調査したという報道が新聞紙面を賑わしています。
 
 以前にも二度ほど、セブンイレブンが被告となった訴訟について、興味があり触れていました。
 http://osaka-futaba.cocolog-nifty.com/futaba/2008/07/post_79e3.html

 ついに、「窮鼠猫を噛む」という状態が現実化したということでしょうか。
 訴訟で戦いを挑んでも相手は徹底抗戦。それならば、他に使える手段は!?と。
 今回使われたのは、独占禁止法違反です。


 ここにいたる前に、なぜセブンイレブンは不満に対する火消しをしなかったのか。

 日経新聞の「わたしの履歴書」では、今、フランチャイズ展開をしているドトールの会長さんの連載となっています。
 数日前の記事。
 コーヒーショップ経営の「コンサルタント」をしていた人が、相談者が経営に失敗しても知らん顔で高級車を乗り回している姿を見て、人を泣かすような商売をしては駄目だと思ったといったことが書かれていました。
 ドトールは、フランチャイズ展開をしており、そこで、フランチャイズでコーヒーショップを経営する経営者の人、その人も幸せになってもらいたいといった思いでやっているといったことが書かれていました。
 「会社」といっても、その中身は人です。「会社」が「会社」として頭をもって考え、動くわけではありません、もちろん。会社も人が動かします。
 結局、経営者トップ、経営者の資質の問題なのだろうと思います。


 誰かを泣かせて利益を得ても、いつかどこかでしっぺ返しをくらいます。
 そんな事業の形は、長くは続きません。
 ざまあみろと何人もの人が舌を出しているはず。
 でも、そんな事業が世の中、事欠かない。なぜなんだろう。
 たぶん。
 なぜ、人が人を殺すのか?
 なぜ、人が人のものを盗むのか?
 なぜ、人が人をだますのか?
 といった問いと同じなんだろう、なんて考えます。
 
 公正取引委員会ががんばっても、適確消費者団体ががんばっても、消費者庁が出来ても、なくなりはしない。
 でも、不合理な目に遭って泣く人がちょっとでも減ったら、それは素晴らしいことだと思います。

*こんな本を本屋さんで見つけ、買いました。これから読んでみます。

(おわり)

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2009年2月20日 (金)

弁護士さんへ〜50のじぶんへ〜【松井】

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弁護士さんへ

 相続に関する問題を扱うのならば、相続税法をきちんと勉強してください。
 せめて最低限のこと、手続は押さえてください。
 それを踏まえて、合意書を作成してください。
 お願いします。

 迷惑です。
 当事者の方々が被害を被ります。
 
 分からないのならきちんと税理士さんに相談してください。
 税理士さんに相談するときは、相続税法の分かっている税理士さんに相談してください。

 自分のミスの尻ぬぐいを当事者の方にさせないでください。

 あちこちで、すすり泣きが聞こえてきます。
 プロなら、恥を知って下さい。
 バカならバカの自覚を。それがプロの賢さ。

 条文の読み方、知っていますか?
 「できる」というのは、義務ではありません。
 勉強、しようよ。

 ~~~~~~
2/23 改訂 「心はホットに、頭はクール」にということで、改訂。

 数年後の自分への、自戒の意味を込めた一文です。
 厚顔無恥な弁護士、といわれないように。
 弁護過誤を扱う弁護士さんに自分が訴えられたりしていないように。

 アンジェラ・アキの「15のきみへ」とかいう歌がありましたが、
 「50のじぶんへ」としておきます。

(おわり)

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2009年2月19日 (木)

分譲マンションと電気〜新しいビジネスモデルと誠実さ〜【松井】

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「kaisekizu.pdf」をダウンロード
 マインドマップで分析してみました。こんな感じか?


 分譲マンションに暮らしています。
 そんな中。

 以前にもこのブログに書いた、分譲マンションと電気の問題が起こりました。
 関電との電気供給契約は、一戸建ての場合と同様、各戸が契約し、低圧契約です。
 ところが、分譲マンションは一個建てと異なり、管理組合が関電と高圧の契約をすることが可能です。
 そこで、分譲マンションとして関電と高圧の契約をするか否かという問題が突きつけられています。

 なんのため?
 各戸が負担する電気代、あるいは管理組合が負担する共用部の電気代を安くすることができるのではないか?という考えからです。
 ただ、何も検討事項なくそうできるのであれば、どのマンションもそうしているはずです。

 何が躊躇させるのか?
 賃貸住宅のオーナーと同様の責任が管理組合にかかってくるからです。
 つまり、電気供給そのものの管理の責任と各戸の検針と請求などです。

 これを管理組合ができるのか?
 また、賃貸住宅のオーナーと違うのは、高圧を低圧にする変電設備については、契約内容を変更すると、関電は、従来、マンションの「電気室」においていた自社の設備を引上げます。そのかわりの設備を入れないといけない、これをどうするのか?です。


 そこで登場するのが、いわゆる新しい電力会社です。
 電力会社といっても、電気を売っているわけではない、というのがポイントです。
 今回、わたしが暮らすマンションでは数社に集会でプレゼンテーションをしてもらいました。
 
 各社は当然、メリットを強調します。曰く、電気代が安くなる、デメリットはありません、万が一我が社が潰れても、電気供給が止まることはありません、事業承継会社が現れます。

 電気供給が止まらないのは当たり前です。
 法律で定められているので、何かがあったら関電が対応します。

 問題なのは、管理組合、区分所有者として、「余計な出費」があるのかどうかです。
 電気代が安くなるといっても、各戸の場合、従前の最大10%です。月1万円だったら、1000円です。
 その1000円は、10年たっても、12万円です。
 12万円のために、たとえば、余計な出費として、また関電に切り替えるための負担費用として、工事費を管理組合に対し、200万円請求されたら?50戸のマンションだったら一戸あたり4万円です。しかも。それが、契約後、3年以内だったら、何のために、新会社との契約を管理組合としてしたのか?ということになります。
 事業承継会社といっても、じゃあ、そこと貴社との契約書はどうなってる?管理組合に新たな負担なしでOKになってるの?
 登場して、まだ数年の新しいビジネスモデルです。
 

 新しいビジネスモデル、スタイルというのは、結局のところ、その債務は何かという観点で分析して、その債務を遂行する能力があるのか、もし債務不履行状態が起こったときにどういう対応がとれるのか、といったことを想定するしかありません。
 破産するんじゃないかという倒産リスクについては、その会社の財務内容はそもそもどの社も上場企業ではないので、監査もなく、粉飾されていたらわかりようがありません。

 双方がいかなる債務を負うのかという点で契約を分析すると、これらの新会社は、マンション管理についての、従前の管理会社と同様、管理組合が自ら出来ない業務を委託するにすぎないということがよく分かります。

 だったらそのように説明して欲しいと思う。
 業務を委託する契約なのに、どの社も定額の料金制ではありません。
 自社がいったいいくらの代金を受領するのかを明確にせずに、住人が、従来のパターンよりも8%得する、管理組合が10%得するといった説明の仕方をしていました。
 我が社は仕事として、これこれこれだけの仕事をする、そのお代は、仕事内容に見合ったこれこれの代金になりますよ、といった形をきちんと示せばいいのに。
 やっぱり信用できない・・・。
 分譲マンションって、いい餌食なんだと思う。
 
 もうすぐ大規模修繕工事の時期。このとき。各社が群がってくる。場合によっては、管理会社もこのときのために手ぐすねひいているとか。
 
 疑心暗鬼、考えすぎ?


 で、わたしはというと。各社が用意している契約書を見せて欲しいと言いました。契約書を見たらその会社の姿勢が分かります。いい加減が、文字通りありとあらゆる手当がされているか。
 営業トークで口だけで、契約書には一切書かれていなくって、あとでトラブルというのがよくあるパターンなので。「大丈夫です!」「迷惑はかけません!」という言葉ほど信用できないものはないので。でも、この言葉だけを信じて、契約してしまう人がなんと多いことか。餌食です。
 でも。
 餌食にされる方が悪いのではなく。餌食にする方が絶対に悪だと思います。
 そういうせこい人間性が大嫌い。恥ずかしくないの?と思います。それが根底。
 だからずっと。大阪弁護士会の消費者保護委員会に入っています。
 儲け話にだまされる消費者が悪いのではなく、騙す業者が悪い、という価値観です。

(おわり) 
 
*美しいものを見て、心を洗わねば。浄化が必要か。
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2008年10月29日 (水)

頑張る経営者の方への想い【松井】

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 よくブログで書くように、実家は有限会社でハンコ屋さんをやっています。
 祖父が始め、5人兄弟の長男であった父が二代目となり、兄が三代目となります。

 小さい頃、税務署の職員が調査に来たといって、母が、「凄い、帳簿からこんな小さな数字まで拾っていった。5年遡って払わなあかんらしい。」といったことを口にしながら、店舗兼自宅だった家が騒がしかったことを覚えています。
 取引先の倒産、従業員の同士のトラブル、あるいはお客さんから苦情の対応、さらには借入、その借金の返済などなど、否が応でも目に入り、耳に聞こえていました。母曰く、「うちらのような小さい自営業者は借金があって当たり前、借金があるから返済しないといけないと張りが出て、それでがんばって働こうという気になるのだ。」と。「従業員の人は大切にしないといけない。自分たち家族だけではお店はできないんだから。気は心だ。」といって、何かと渡しものしたり。さらには、「自営業はいいよ。やったらやっただけ金銭で評価を受ける。会社の従業員だったら、どれだけがんばっても決まった給与額しかもらえない。自営業の方がやりがいがある。」と母曰く。
 借金の話は、子ども心に「ほんまかいな。借金なんてないほうがいいに決まってるんちゃうん。」と懐疑的だったことを思い出します。


 朝早くから、夜は遅くまで、母は、外回りの営業、配達、ショッピングセンターに出店した店舗の店番の交代、家に帰って来てからは家事に、さらにはまたゴム印の柄付け、帳簿作成といった仕事をしていました。
 父はというと、こちらはまさに職人で、朝から夕方まで、「本店」と言われた店舗兼住宅の店舗部分で、黙々とハンコを彫っていました。で、夜になると「会合」といって飲み歩いていた記憶があります。行った先の雀荘に、母に言われて、電話を架けさせられたりした記憶もあります。そして休みの日には、ひたすらゴルフ。夜も、打ちっぱなし場へ出かける日々。
 まさに、典型的な家族経営の会社。夫は仕事と遊びに精を出し、妻はひたすら働く、といったところでしょうか。


 たぶん、意識していなくても、小さいころ、親のこうした働きぶりを見ていたせいか、自分で仕事をもって奮闘している人、自営業者、中小の会社の経営者の方にお会いすると、「頑張って欲しい、成功して欲しい」という思いが募ります。
 しがない弁護士、町医者ならぬ町弁ですが、何かお役にたてることがあれば最大限のことをしたい、サポートしたいという想いが募ります。
 経営が順調になるまでには、売掛金の回収や、事務所、店舗の賃貸契約のトラブル、あるいは従業員との雇用契約上のトラブル、あるいは顧客とのトラブルといったいろいろなトラブルの発生が考えられます。
 
 法的な知識と作るべき契約書等があれば、たとえトラブルが発生したとしても、紛争の拡大を抑えることができることが多いかと思います。
 ルーティンなところは事前に整備し、マニュアル、書式などを用意し、経営者が経営者として本来、注力しないといいけないところに注力できる環境を作り、本来の事業で安定した成功を収めてほしいと、がんばっている方々をみると思います。


 実家でも、先日、いつも割り引いてもらっていた手形の割引を金融機関に断られた、当てにしていたのにどうしたもんか、という相談がありました。
 支払を手形で受け取るということはどういうリスクがあるのか、手形の流通の現状はどんなもんか、新たな取引先と取引する際の注意点などを母に説明しました。
 母がどこまで分かっているかは分かりません。
 兄がどこまで分かっているかも分かりません。
 うちの実家の会社には、顧問の会計事務所はありますが、顧問の弁護士なんて頼んでいません。

 たぶん多くの自営業者、中小企業は、そうだと思います。
 何かトラブルがあったときに、弁護士に相談しようなんて発想はないんだろなと。
 相談した知り合いから、弁護士を紹介され、弁護士に相談するという選択肢があるという機会がない限り。
 多くは税理士さんに相談し、税理士さんからアドバイスを受けているのだと思います。法的な事柄についても。
 それでうまくいっているならそれでOKだと思います。
 税理士さんに顧問料を支払い、さらには月に1件相談があるかないか分からない弁護士と顧問契約をして顧問料を払うことはないかと思います。


 ただ、自営業者の方や、中小企業の経営者の方などに知っておいてもらいたいのは、経営上のトラブルについて、税理士さんだけではなく、ぜひ、どこかで探すなり、つてを頼るなりして、弁護士に相談して欲しい、その価値はあるということです。
 税理士さんの視点、知識、情報と、弁護士の視点、知識、情報は当然のことながら、レベルというか種類が全く違います。良い、悪いではなくて、単に違います。
 弁護士は、税法の通達なんて知りません。チェックしたりしません。
 税理士さんは、会社法、民法は知っていたとしても、訴訟の場合の裁判官の考え方、立証責任、要件事実について、たぶん知りません。チェックしたりしません。
 そういうことです。
 
 いろいろご縁があって、顧問契約といったことこそしていないものの、何かあると気軽に電話をしてきてれくて相談してくれる経営者の方がいます。もちろん仕事なので無報酬ではありませんが、相談ごと、時間制のフィーを請求させてもらっています。
 頼られると、頑張って応援したくなる。
 そんなものかと思います。
 顧問をつとめさせてもらっている会社では、新しい分野で、法整備、法解釈もままならず、関係省庁に一緒に出向いたりして、まさに一緒に道を切り開いているといったところもあります。そこの会社とのご縁は、私が弁護士1年目のとき、交通事故事件を担当し、その事故車を修理した修理工さんとして出会ったというものでした。その方が数年後、会社を興し、こういう事業をするのだけど力を貸して欲しいと請われ、以前助けてもらったご恩とご縁もあり、では今度は私の番かと、その会社の方々の事業への想いにも共感し、私自身も試行錯誤で活動させてもらっています。
 頑張られている姿を見るから、私も自分が出来ることを頑張ろう、役に立とう思います。

 頑張って欲しいです。
 山あり谷ありで、次から次へといろいろな難題がふりかかってきますが、頑張っている方の成功を目にするまでは応援していきたい、支援していきたいと思っています。
 真面目に、創意工夫をもって地道に商売をしていれば、得難いチャンスも入ってきます。
 それをぜひものにしてください。
 過去のトラブルは笑い話になるほどに成功してもらいたいと思います。

 カナディアン・メープルシロップ、買います! Oさん、頑張ってください!
 べトナムと日本との架け橋、頑張ってください、A社の皆さん!

 ほかにも、自ら奮闘、頑張っている方々、頑張ってください! 
 応援しています!!
 紛争解決、紛争予防に勤め、その方々が本来、注力すべき事柄に注力できるように。
 それが弁護士の使命の一つではないかと思っています。
(おわり)

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2008年10月23日 (木)

渉外相続の実務に関する研修会【松井】

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 先日、日本連合会主催の「渉外相続に関する実務に関する研修会」13時30分〜17時00に参加しました。
 自分用のメモがてら、ブログにアップしておきます。
 
 第1部 韓国渉外相続の実務 近似の実務上の留意点について
     〜近似の韓国家族法の改正点ほか〜 
     裵 薫 弁護士(大阪)
 第2部 外国人の遺言
     〜外国人遺言作成上の実務上のノウハウ〜
     本間 佳子 弁護士(東京)


 相続事件を多く扱うなかで、被相続人が韓国籍の方の事件をいくつか担当させていただいてきました。
 準拠法が韓国法となるため、それなりに韓国の相続法の事柄は、比較的資料、文献が入手しやすいこともあり、分かっているつもりではいました。

 が、やはり。フォローしきれていませんでした。知らなかった事柄がいくつかありました。

 常時フォローしているわけではない案件を新しく担当する際は、念のためにと常に最新情報をチェックする必要があります。
 ここ数年で怖いのは、出版物でのフォローでは間に合わないことがあるということです。
 出版社による出版物はそれなりに編集作業がほどこされているので情報の精度は信頼できるのですが、スピードがネットに遅れることがあります。
 弁護士も、まずはネットで検索する必要があります。そして文献でチェック。また人のネットワークも重要です。経験者の方に教えてもらうのは早いし確実です。
 ネットの検索は、当然、開設者によって掲載情報の信頼性がまったく異なるのでこの点が注意ですけど。


 「外国人の遺言」は、上記のとおり、被相続人が韓国籍の方のものについては比較的なじみがあるのですが、それ以外の国の方のものについては、アメリカといった何となくポピュラーな国籍の方のものであっても、経験している弁護士はなかなか少ないのではないかと思います。
 私自身も数えるほどしかありません。
 
 今回の講演の本間佳子弁護士も、アメリカ国籍の方のものは10件程度だと仰っていました。
 
 その際のポイントとしてレジュメで挙げておられたことをメモしておきます。
 
 外国人の遺言作成上知っておきたいこと
  ⑴ 遺言の方式
  ⑵ 遺言の成立と効果
  ⑶ 遺言の内容
  ⑷ 遺言執行者の指定と権限
  ⑸ 外国法に基づく他の遺言との関係
 その他の留意点
  ⑴ 相続税
  ⑵ 遺言執行時の問題(相続人の確定、検認など)

 約90分の講演でのお話は、私にとっては一応、確認作業になり、安堵するものでした。


 講師の弁護士が何度も強調されていたのは、ニーズはあるのだということでした。  
 また、最後に仰ったのは、日本での外国人の遺言作成についてはニーズがあり、しかもやりがいがあるということでした。

 遺言を作成しようとする外国人、アメリカ国籍の方の多くの意識としては、自分の死後、遺された配偶者や家族の方を守るという意識で行動されていることが多く、そのことに弁護士としてサポートし、サポートをしていくなかで信頼をうけるといった点、仕事としてもやりがいを感じると仰っていました。
 講演を聞きながら、1人激しく共感していました。

 日本国籍の方が普通に日本で遺言を作成しようとする場合、確かに、子ども達が紛争にならないように、あるいはこの子には多くを相続させようといった意味で、相続人を守ろうという意識が確かにあります。

 ただ、たまたま今、日本で暮らしているという外国籍の方の場合、もっと切実な思いがあるように思います。
 本間弁護士が仰っていたのは、自身も、アメリカで暮らしたり、立法支援活動としてカンボジアで2年ほど暮らしたことがあるが、言葉に不自由しなかったとしてもやはり異国の地では何かと不安で、心細い思いは常にある、だからこそ、日本で暮らしている外国人が日本で遺言を作っておこうという気持ちは、よく分かる、それは自分の死後、自分の家族に対し出来る限りのことをして守りたいという意識が余計に働くのだろう、ということでした。
 そのとおりだと思います。
 弁護士として不慣れな点はあるかもしれないが、それでも訪ねてもらった以上、弁護士として出来る限りのことをしてサポートしたい、愛する家族を守りたいという思いに応えたいという意識に突き動かされるのだと思います。
 自分が外国で暮らしていたら、同じような思いになるだろうなと思います。そんなときやはり力を貸してくれる、信頼できるプロフェッショナルが欲しい。

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 ただ、アメリカでは、Estate Planning の一環として遺言を作り、さらには信託制度が発展しているので、財産の一部に信託(Trust)を設定することにより、相続税対策が可能という面もあるようです、遺言が利用される理由の一つとして。

 数年前、相続特集で、日本テレビの「思いッきりテレビ」に出演させていただいたとき、ゲストだったダニエル・カールさんが仰っていました。毎年、遺言を作っていると。遺言を作成するというのは、ごく普通のことだったと。そんなもんかと聞いていたのですが、たぶんそうなのでしょう。
 ネットサーフィンをしていると、西海岸にEstate Planning 専門の弁護士のサイトもありました。
 
 ただ、これも以前、アメリカの信託制度に詳しい元金融マンで、現在教授をされている方とお話をしていたときに聞いたのでは、アメリカでは、信託制度といっても個々に非常に詳しい内容の契約を交わしているので、信託制度が発展しているというよりも、契約文化が発展しているのであるといったことでした。

 日本の信託法は、最近、事業承継などとからんで改正、注目されてはいますが、税務上は、やはり信託制度の利用による課税逃れといったことがらはなかなか出来ないような仕組みになっているようで、今後、信託法としてどうこうというよりも、おそらく、ニーズに対応した契約内容、超超超具体的な内容の、ごっつい、分厚い信託契約書を作成するくらいでないとなかなか相続関連については信託制度は使えないのかなという気もしています。
 

 講師の弁護士は、アメリカ留学もされておりニューヨーク州の弁護士資格も持っておられて、英語には不自由しない弁護士のようでしたので、その点、非常に羨ましく思いました。
 以前、ニューヨーク州法の相続関連の内容を調べようとしたのですがうまく文献にたどり着けず、同じくニューヨーク州の弁護士資格をお持ちの大阪の弁護士にお世話になりました。
 ああ。
 せめて読みに不自由しない程度に英語の勉強をしたいと思います。

(おわり)
 
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