日本で暮らす権利~法務大臣の裁量~【松井】
毎日新聞 2007年2月12日 3時00分イラン一家:13日に入管へ出頭 帰国に向けて
不法残留し、最高裁で強制退去処分が確定している群馬県高崎市のイラン人、アミネ・カリルさん(43)が帰国に向けて13日、東京入国管理局(入管)に出頭する。身元引受人が11日夜、明らかにした。アミネさんの妻と2人の娘の身元引受人を務める同県伊勢崎市の中村三省さん(74)によると、アミネさんは今月9日、高崎市の東京入管高崎出張所で一家全員が帰国するという文書に署名し、同所から13日に東京入管に行くよう指示されたという。一家の仮放免期限は16日に迫っていた。
入管側は先月12日、在留特別許可は認められないと改めて通告した。その後、アミネさんは、長女で高校3年のマリアムさん(18)の再入国が認められ、日本で1人で生活できることが確認できれば、一家4人でいったんイランに帰国する考えを明らかにしていた。アミネさんは毎日新聞の取材に「妻と一緒に入管に行くが、詳しいことは今は話したくない」と話した。【杉山順平】
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「外国人の在留の拒否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではなく」とされています。 これは、昭和53年10月4日の最高裁判決(マクリーン事件判決)で出された結論です。この最高裁判例はその後変更されてはおらず、現在でも妥当する解釈ということとなります。 つまり
、「法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲などの諸般の事情をしんしゃくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができにものと考えられる。このような点にかんがみると、出入国管理令21条3項所定の『在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由』があるかどうかの判断における法務大臣の裁量が広汎なものとされているのは当然のことであって、所論のように上陸許否事由又は退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り更新申請を不許可にすることは許されないと会すべきものではない。」
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群馬県のイラン人一家の方の場合、最高裁まで争ったけど、最高裁は、次に述べるように法務大臣の裁量に逸脱は認められないと判断したのでしょう。
そうであるなら、あとはまさに法務大臣の裁量の問題でした。
が、法務大臣は、一家に対する在留許可を認めませんでした。妥協案が、この春進学が決まっていた長女について、留学での在留許可を認めるということだったのでしょう。
このような裁量上の判断については、既成事実をもって違法行為を見逃すわけにはいかないという行政の強い意思を感じます。
不法滞在をしたのはお父さんであって、まさにその子には責任はないはずです。子どもは、日本で育って教育を受けてきており、日本語を日常語としており、日本での教育生活を望んでいるといいます。
例えば、自分の親の都合で逆にイランで育てられたところ10歳くらいになって、突然、日本に帰れと自分がイランにいられなくなるとしたら。
また戻ってきたらいいという案もあり得ますが、親による転居の手間暇、職の不安などからくる生活の不安定さを考えたら、経済的にも精神的にも相当な負担となります。
このようなケースが次々と出てくることを怖れての法務大臣の判断なのでしょうが、今回のケースに限りとしたり、あるいは時限的に不法滞在となる一家に名乗り出てもらい、今回に限り特別な判断を行うといった解決が出来なかったのか。この一家の在留を認めなかったからといって、どれだけの「国益」が守られたというのか。得られるものと失うものを天秤に欠けたら、失ったものの方が多いように思います。まさに「情け」ない。
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もちろん法務大臣の裁量といっても何でも許されるわけではありません。マクリーン事件判決では次のように述べられています。
「それが違法となるかどうかを審理、判断するにあたっては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全くの事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができるものと解するのが、相当である。」
広汎な裁量です。
法務大臣を動かすには、世論・政治の力しかなかったのでしょう。それでも力及ばず。残念です。
(おわり)
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