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相続

2007年6月11日 (月)

異業種の舞台裏~生テレビ番組に出演して~【松井】


 年に1回ほど、何かの拍子で声をかけていただき、テレビ番組に出演することがあります。それもだいたいが生放送の情報番組。
 「弁護士」=専門家ということで、相続や生活に密着した法律情報を語ることが期待されます。
 今年も先日、相続問題についてということで関西ローカルの某番組に出演させていただきました。


 なぜ自分が引き受けるのか。タレント弁護士になりたいから?いやいやもちろん違います。
 打合せ、本番などで、普段接することのない異なる業界、しかもテレビ業界という非常に特殊な業界をかいま見ることが出来て、自身、今後弁護士としてやっていくうえで非常に勉強になることが多いと考えているからです。


 現に、相続問題を多く担当しているということで初めて出演させていただいた日本テレビの「思いッきりテレビ」のときなどは、コーナーの時間も40分近くあったこともあり、担当ディレクターの方と今にしておもえばかなり頻繁に打合せをしました。
 そのとき、自分でも改めて統計を調べたり、どういったら視聴者の方が分かりやすく理解できるのかといったことを集中的に考えました。
 また生放送、しかも司会者はみのもんたさんということで、どんな質問がその場のアドリブで出てきても答えられるよう、知識を総ざらえして行きの新幹線の中でも頭の中で一人リハーサルを繰り返していました。あんなときどうなる、こうなったらどうなる。


 先日、出演させていただいた生放送も久しぶりで非常に勉強になりました。
 放送時間が刻一刻と迫るなか、秒読み状態の中で、ディレクターの方やフロアディレクターの方、制作会社の方はもちろん、司会役の方、質問役の出演者の方も一緒に、リハーサルをしたあと、どこをどうカットするのか、構成をどう変えたらいいのか、私の回答の仕方についても、もっとこういう言い回しをしたら分かり易いのではないかと検討していただきました。

 こんなことは私にとっては非日常なので、秒読みが続く中での検討作業は本当に神経がすり減るような思いであり、出演の度に毎回、直前には吐き気を催すくらいなのですが、こんな仕事を毎日やっているスタッフ、出演者の方はすごいなと改めて尊敬します。
 特に、ゲストの芸人の方。直前に台本をもらって簡単に流れを押さえるだけで、本番では絶妙の間で笑いを呼び込むトークを繰り広げられます。今回は、海原しおり、さおりさんでした。面白かった。
 また司会者の方も、台本の中でこれは視聴者に伝えないといけないという点に話題を流れを阻害することなく場を変調させる。
 私が話しておかないポイントに触れるのを忘れていても、うまくフォローしていただき、その点に流れを持って行っていただく。
 皆、プロの仕事をしているなといつも思います。

 緊張感。

 大変、勉強になりました。
 スタッフ、出演者の方々からの率直で素朴な質問や、その言い回しは分かりにくいといった指摘も非常に勉強になります。

5 
 でも、生放送番組に出演させていただいた直後、毎回思うのは「もう二度と出ない」ということです。相当な緊張感からの開放故ですが。
 でもしばらくすると、声を掛けていただく限りは出演させていただこうという思いにもなります。
 やはりちょっとでも普通の方が知識を付けていただき、余計な紛争がなくなればいい、自分がお役に立ちたいという思いはもちろんですが、やはり勉強になる、刺激になるというメリットの方が大きいからです。


 先日の番組はどうだったのでしょう。少しはご覧になったかたの役にたったのか。
 相談に来られたかたなら、その表情で、納得されて帰られる、喜んでいただいて帰られるというのが表情を見て分かるのですが、テレビの怖いところは視聴者の顔が見えないということです。
 それは本当に怖いことだと思います。テレビ番組の中で言いっぱなしで、間違ったことを言う「弁護士」は世間にとっても百害あって一理なしのこともあるのではないかと思います。「弁護士」を名乗って仕事をする以上、責任は重大です。その自戒がなくなったら弁護士を名乗って仕事をしてはいけないんじゃないかと考えています。テレビに消費されるようになった終わりかと。
 
 竹内まりあの言葉。
 私は音楽をやりたいのであって、芸能人になりたいわけではないと思い至った。それからは宣伝のためとはいえテレビ番組には出ないようになりました。

 何にしてもそうだけど、自分がやりたいことは何なのかという目標を常に見失わないようにすることは、難しいけど大切なことだ。自分を大切にね。

(おわり)

2007年3月23日 (金)

相続税の脱税事件~刑事判決の読み方~ 【松井】


相続税を脱税したということで逮捕された大阪のトモエタクシーの元社長に対する大阪地裁の判決が3月22日、出たようです。

日経ネットの記事から。
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/39018.html

【2007年3月22日】 相続税巨額脱税でトモエタクシー元社長に懲役4年・罰金7億円──地裁判決(3月22日)  実父の遺産を海外口座に隠し相続税約24億9000万円を免れたとして相続税法違反(脱税)罪に問われたタクシー会社「トモエタクシー」(大阪府守口市)元社長、西井良夫被告(62)の判決で、大阪地裁の川合昌幸裁判長は22日、懲役4年、罰金7億円(求刑懲役5年、罰金10億円)の実刑を言い渡した。相続税の脱税事件の罰金としては過去最高とみられる。

 川合裁判長は「極めて巧妙、計画的犯行で反省もしていない」と指摘した。西井被告側は即日控訴した。西井被告側は公判で「海外送金は父の指示で、脱税の意図はなかった」と無罪を主張していた。川合裁判長は、海外送金は西井被告が主導して行ったと認定。他の相続人にも海外口座の存在を隠していたことなどから「脱税目的の財産隠しだった」と述べた。


 相続税法68条によれば、「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」とあります。そして同条2項によれば、「前項の免れた相続税額又は贈与税額が五百万円を超えるときは、情状により、同項の罰金は、五百万円を超えてその免れた相続税額又は贈与税額に相当する金額以下とすることができる。」とあります。

 この法定刑にてらしてみれば、懲役4年の実刑判決は法定刑の5年に近い量刑であり、相当重いといえます。
 ただ、罰金刑については、相続税法によれば「免れた相続税額・・・に相当する金額以下とすることができる」とあるので、裁判所はしようと思えば、免れたといわれる「相続税約24億9000万円」に近い金額を罰金と課すことも出来たはずです。
 なぜ、免れた相続税額の約3割強の罰金刑なのか。

 公訴事実に対して否認して争っていたようですが、有罪判決でした。
 報道を見る限りでは、亡父に言われるがままの海外送金であって脱税の認識、故意にかけるので無罪という主張を行っていたのではないでしょうか。
 ただ、間接事実としては、亡父が意識を喪失した後も新たに送金を行っていること、他の相続人にも海外口座の存在を秘していたこと、申告にあたり税理士からの助言にもかかわらず海外口座を申告しなかったことといった事実から、故意、違法性を意識しうる事実の認識はあったと認定されたようです。


 刑事弁護人は、どのように争ったのでしょうか。客観的証拠を十分に検討できていたのでしょうか。客観的証拠からすれば有罪の事実認定は無理だといえる場合はともかく、証拠は十分だと思える場合、依頼者である刑事被告人にはその旨の危険性を当然、説明します。ただ、そうであっても本人が故意の不存在、無罪を主張する場合は、最大限の力を振り絞って戦います。
 控訴審でいったいどのように争うのか。おそらく親族の証言、税理士の証言などが証拠としてもあったことでしょう。おそらくこの点の事実認定を争っていたのだと思います。
 
 報道で注意しないといけないのは、有罪の場合、もっともらしく、「●●といった事実から有罪が認定された」と報道され、この事実認定の●●には疑問の余地はない当然のことだと思いがちです。しかし、刑事事件で争う場合、まさに●●の事実認定が証拠でどのようになされるのか、証人の証言は信用性があるのか否か、物証に検察官が主張するような信用性があるのかといったところが争われるのです。
 トモエタクシーの元社長の相続税脱税事件についても控訴審でひっくりかえるかもしれません。
 有罪判決は、確定するまで有罪ではありません。
 一審判決の当不当は判決全文を読まない限り、分かりません。
 ライブドアの堀江社長らに対する判決も、同じでしょう。
 判決文の全文を読まずに、判決の中身、事実認定について当不当の意見を述べることは、弁護士ならしないと思います。

(おわり)

2007年2月28日 (水)

遺言・相続 個別相談会 実施のお知らせ 【松井】

広報です。

 下記のとおり、事前予約申し込み制による、
遺言・相続に関しての個別相談会を実施いたします。

 日時
    3月15日 木曜日

   1 午後1時30分から
   2 午後3時から
   3 午後4時30分から
 
 費用と相談の時間は、お一人3150円、1時間となります。
 3名の先着順となります。


 今回は試験的な催しとなりますので、平日の日中3枠となりますがご了承ください。
 
 ご希望の方は、プロフィールに掲載の事務所ホームページからメールでご予約いただくか、お電話をお願い致します。

 
 日頃、自身のことに関する遺言について一度専門家の話を聞いて相談してみたい、あるいは相続がおこってしまったけどこれからどういう段取りで進めたらいいのか分からないという方が少なくないかとは思います。
 
 ただ、じゃあ弁護士に訊いてみたいけど、知り合いの弁護士もいない、紹介してもらえる弁護士もいない、市役所などの無料法律相談もあるけど時間は30分しかとってもらえない、というのが実情ではないかと思います。


 最近、弁護士、法律事務所で相談する前に、弁護士でない専門家のところで先に相談をして費用を払っていたりするという方の話をよく耳にします。
 なぜにまず弁護士に相談しようという気持ちにならないのかなぁとつらつらと考えているとやはり、いわゆる「敷居が高い」、いくら払わないといけないのかよく分からない、怖いんじゃないかといった心理的な壁が大きいのだろうと。
 先にこっちに相談に来てくれていればよかったのにと思うようなこともなきにしもあらず。
 ということで、「個別相談会」ということで枠を作ってみました。
 
 
 自分自身を振り返ってみて、専門のところ、専門機関に相談してみたいけどちょっと尻込みするというとき、個別で予約をするよりは、相談会という枠の中で行く方がちょっと気が楽な気がします。
 どうでしょ?

(おわり)

2007年2月 9日 (金)

アンナ・ニコル・スミスさん、死亡~最良の遺言~【松井】


 今日の夕刊の死亡記事で、「巨額遺産巡り争い」という小見出しのもと、アンナ・ニコル・スミスさんが2月8日、米フロリダ州ハリウッドのホテルで倒れて死去、39歳との顔写真入りの死亡記事を見つける。

2 
 去年、雑誌で、5年以上にわたる法廷闘争において最高裁でアンナ・ニコル・スミスさん側が勝訴したという記事を見かけた。アメリカでも遺産を巡る裁判での紛争がこれほど長期に及ぶのかと興味深く読み、その記事を保存していたところだった。さらに、確かその後、アンナさんの息子がアンナさんの入院先の病院で不審死したという記事を見かけたりしていた。
 その渦中の本人が39歳で死亡。

 夜のテレビニュースでも、ワイドショー的にアンナさんの死亡と遺産紛争と不審死について報道しているのを見た。


 遺産を巡る争いと関係者の相次ぐ死が関連しているのか否かはもちろん定かではない。 しかし、関連を思わずにはいられないのも事実。
 しかも今回の死亡報道に接して分かったことでさらに驚いたことには、アンナさんの訴訟代理人であった弁護士が、アンナさんが去年6月に出産した長女の父を名乗りでており、死亡した滞在先のホテルでも同宿していたということ。
 
 そういえば、ちょっと違うけど、患者が担当医師に多額の遺産を譲り渡すという内容の遺言を作成しており、亡くなった患者の遺族と医師との間で訴訟になったとかいう件があったような。
 
 死後、遺された人のことを思うのなら、単に遺言を作るだけじゃなくって、もめないための種々の「地ならし」が必要だとつくづく思う。
 遺された人が不幸だ。

 ところで、遺言信託が流行のようだけど、最良の法的アドバイスはなされているのだろうか。
 法律事務所でもわざわざ「信託銀行」を作ったところがある。人は、「法律事務所」「弁護士」よりも「信託銀行」という器に信頼を寄せると判断してのことだと思う。
 それはたぶん、人的規模に対する信頼なのか。
 弁護士会で「信託銀行」を作ってしまえばいいのにと思ったりする。
 とにかく、必要とする人が、最良の遺言を残せることが出来るようにするために。
 最良の遺言。
 それは、死後の争いが起こりようがない状態であること。ありとあらゆることを想定して、考え抜かれた遺言。

(おわり)

2006年7月26日 (水)

遺産分割事件 ~どこでもめるかで5年、10年~【松井】


 判例タイムズ1207(2006.6.15)号に、岡部喜代子教授の「遺産分割事件の職分管轄に関する一試案」というものが掲載されていました。
 今、なぜこの時期に一試案なのかというのも不思議な気がしたけど、代理人としてこの問題に身をおいて、事態を切実にとらえられるようになっていたので興味深く読みました。

 この一試案は、端的には、

従前より、遺産分割事件が家庭裁判所に、遺産分割関連訴訟事件が地方裁判所に係属することによる不都合、不便が指摘されてきた。本稿は、この問題を、地方裁判所に遺産分割関連訴訟が提起された場合に遺産分割事件(寄与分を含む)を附帯申立てとして申し立てることを許すという制度によって、改善する方法を提案するものである。(同39頁)
というものです。

 なるほど、確かに実効性のありそうな一試案だと思いました。



 遺産分割申立、寄与分を定める処分の申立の事件で、家庭裁判所が審判をだすとだいたい次のような様子で、事柄、項目を摘示されます。

【主文】

遺産に対する寄与分を○○円と定める

○○は遺産である○○を取得する。

○○は、○○に、遺産取得の代償として、金○○円を支払え。

手続費用のうち、鑑定人に支払った分は、これを○分し、○○負担とし、その余の手続費用を各自の負担とする。


【理由】
 一件記録、審問の結果、証言、鑑定の結果に基づく
 当裁判所の事実認定及び法的判断


①相続の開始
②相続人
③相続分


④遺産
 遺産として預貯金、株式、現金も幾らか存在した旨の主張をしているが、具体的な事実を認めるに足りる証拠はない。


⑤遺産の評価

相続時
審判時


⑥遺産に対する寄与分

 審問の結果、贈与したことが認められる。
 しかし、寄与の時から相続開始時までに相当の年月が経過していることなどを考慮すると、寄与と残存する遺産内容との因果関係は不明確であり、遺産に対する寄与分は、これを認めないのが相当である。


⑦特別受益

 以上の事情を総合し、生計の資本として金○○円程度の贈与を受けたものと推認する。 結局のところ、特別受益の金額を○○円と認める。

 特別受益にあたる金銭贈与の持戻しの場合には、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価しなければならない(最高裁判所昭和51年3月18日民集第30巻2号111頁)。


⑧本来的相続分の算定

 遺産の相続開始時における評価額合計は○○円である。
 特別受益は○○円
 寄与分は○○円


 みなし相続財産の価額は、○○円+○○円ー○○円=○○円となる。

 法定相続分は○○であるから、各人の本来的相続分は、次のとおりである。

 ●円
 ●円
 ●円


⑨具体的相続分

 遺産の審判時の評価額合計は○○円であり、本来的相続分の合計金額は○○円であるから、各人の具体的相続分は、次のとおりである。

 ▼円
 ▼円
 ▼円


⑩当裁判所の定める分割方法
 遺産の性質、遺産取得者の生活状況等を考慮し、○○。

以上


3 
 審判に不服があれば、高等裁判所に即時抗告できます。
 上記のように、一応、家庭裁判所は遺産の範囲などについても審判書において判断をすることは出来ます。
 しかし、その判断に「既判力」はないとされています。
 「既判力」とは、地方裁判所の判決などには認められています。どういうものかというと、字に現れたごとく、既に判断したことについては争えない効力です。

 この既判力が審判書にないということは、審判手続きにおいて、遺産の範囲について争って裁判所が判断したとしても、文句のある当事者は、改めて地方裁判所に遺産の範囲の確認を求める訴えを提起して、地方裁判所は異なる判断が出来るということです。

 なので、普通は、遺産の範囲に争いがあるとなれば、地方裁判所、高等裁判所で争って判断をもらってきてください、その判断を前提に、改めて家庭裁判所で遺産分割協議をしなさいということになります。二度手間を避けるためです。

 とはいえ、これでは当事者は、地方裁判所で遺産の範囲だけを争い、その結果が出てから改めて一から遺産分割協議を行うことになります。
 これが、先に述べられた「不都合、不便」です。
 
 争点は、遺産の範囲だけではありません。誰が相続人かといったことについて問題となったときも同様です。
 法律上は、訴訟事項、つまり家庭裁判所ではなく、地方裁判所等で通常の一般民事事件として争われるべき事柄は訴訟で解決するのが本筋ですよというものがあり、これについては全て同様です。

4 
 以上のような不便さ、不都合について、岡部教授は、地方裁判所で争われたなら、そのときに遺産分割協議の前提問題だけでなく、「附帯申立」というかたちで遺産分割協議そのものについても一気に地方裁判所で解決したらどうですかと提案するものです。
 
 岡部教授は記します。
 

遺産関係紛争は、多くの一般国民が直面する紛争であり、それは、かなり困難な事件となることがあり、一般国民が最も悩み心痛する事件であろうことは想像に難くない。このような事件について、長期に及び、また、紛争解決の困難性をそのまま放置することは、司法制度としてやはり何らかの欠陥があると思われてしまうのではなかろうか。司法改革の一環として人事訴訟はじめ、多くの改革がなされ、司法が国民により身近に、より使いやすいものになった。遺産関連紛争が従前どおり地裁と家裁で分離しているということは制度上の問題があると指摘されてもやむを得まい。

 
 相続問題が続くなかで自身が関わった弁護士あるいは裁判官に対する不信感を口にされる相談者、依頼者の方々に何人もお会いしました。
 担当した弁護士が知識不十分なのか、説明不足なのか、裁判官が記録を読まないのか、当事者の声に耳を傾けないのか、あるいはまさに制度上やむを得ないことなのか、証拠上、法律上、やむを得ないことなのか、理由はいろいろとあるかとは思います。
 が、理由はともかく、ただただその場に置かれた当事者の方の「心痛」を思うと、こちらも胸が痛む思いがし、なんともいえないやるせない気分になってしまうのです。相続事件で5年も10年も争わざるをえなかった方々の声を聞くと。
 トライ&エラーであっても、この制度上の問題は早急に手を打たれるべき問題だと考えています。
(おわり)

2006年5月24日 (水)

いかに財産を遺すか~合法と違法、そして脱法の狭間~【松井】


 政府税制調査会は、相続税の基礎控除額の減額というかたちで相続税の税収を増やす方向で検討しているらしいです。

東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060512/mng_____kakushin000.shtml

 朝日新聞の紙面ではとってもとっても小さく紹介されていました。


 相続税をいかに納付せずに済むか。つまりいかに財産を多く遺すかは経済合理性として誰もが考えて当然のことだと思います。
 ただ、刑事事件の公判が始まったという大阪のトモエタクシーの元社長の容疑事実はなんだか冴えません。被相続人が床に伏せってから、その資産の何億円という金を外国の金融機関経由でスイスの銀行に送金し、遺産隠しを行ったという容疑です。相続税の申告を担当した税理士ですら、遺産が少なすぎると不審に思ったという報道もされていました。 否認されている様子ですので判決の結果を見守りたいと思います。

 さて、以前、相談を受け調査を行ったときに、ほほう、こんな判例がやっぱりあったのかと思った判例がありますので、自分の備忘録的に記しておきます。

3 
 最高裁平成10年2月13日第2小法廷判決
 民集52.1.38、判例時報1635.49、判例タイムズ970.114

 「不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができないというべきである。」

 どういうことかというと、被相続人甲さんがいて、甲さんは土地を所有していました。しかし一方で、Yに対して、負債を背負っていました。甲には子どもXがいました。甲さんはおそらくこう考えました。
 子であるXにマイナス財産の負債は相続させたくない、でもプラスの財産の土地は相続させたい。
 そこで甲は次のようなことを行いました。その法定相続人である子どもXに対して、自分の土地を贈与する死因贈与契約を行い。さらに念入りに、始期付所有権移転仮登記手続をとりました。
     
      甲 ← Y
      | 
      X

 甲さん、死亡。
 Xは何を行ったかというと、相続について単純承認(プラスもマイナスも相続する)ではなく、限定承認を行いました(マイナス財産を相続するが、その責任財産、返済の引き当てとなる財産は、相続したプラスの財産の範囲内)。ちになみに甲の子である他の相続人の一人は相続放棄(マイナスも相続しない、プラスも相続しない)を行ったようです。 一方、甲の債権者のYは、甲の相続財産の限度内においてその一般承継人であるXに対して強制執行することができる旨の承継執行文の付与を受け、これを債務名義として甲が所有した土地について強制競売の申立をしました。
 このYの行動に対して、Xは、競売申立をされたこの土地は相続財産には含まれないとして第三者異議の訴えを起こしたのでした。
 
 結果、上記の最高裁判決となりました。

4 
 判決理由は、次のとおりであり、ある意味しごくまっとうな分かりやすい公平感覚によるものです。こういう判決を読むと、「最後に正義は勝つ」という言葉を思い出します。ただ、「こんなのって、最後は『信義則』でなんでもありだったら、法律を駆使して財産を遺そうとしても徒労だよね。」というぼやきも聞こえます。
 
 「けだし、被相続人の財産は本来は限定承認者によって相続債権者に対する弁済に充てられるべきものであることを考慮すると、限定承認者が、相続債権者の存在を前提として自ら限定承認をしながら、贈与者の相続人としての登記義務者の地位と受贈者としての登記権利者の地位を兼ねる者として自らに対する所有権移転登記手続をすることは信義則上相当でないものというべきであり、
 また、もし仮に、限定承認者が相続債権者による差押登記に先だって所有権移転登記手続をすることにより死因贈与の目的不動産の所有権取得を相続債権者に対抗することができるものとすれば、限定承認者は、右不動産以外の被相続人の財産の限度においてのみその債務を弁済すれば免責されるばかりか、右不動産の所有権をも取得するという利益を受け、他方、相続債権者はこれに伴い弁済を受けることのできる額が減少するという不利益を受けることとなり、限定承認者と相続債権者との間の公平を欠く結果となるからである。そしてこの理は、右所有権移転登記が仮登記に基づく本登記であるかどうかにかかわらず、当てはまるものというべきである。」

 ちゃんちゃん♪

5 
 おそらく必死に考えたスキーム、 
 
  死因贈与契約+仮登記+限定承認 
 
 は2年以上も争ったうえに最高裁判所の「信義則」によってあっさりと否定されてしまいました。
 法の間隙を突く方策は常にこのようなリスクを背負います。法律でいくらこう解釈できるでしょと言い張ったところで、そのことによりもたらされる結果が当事者の利益調整の衡平に適わないときは、ドラえもんのポケット「信義則」の登場によって、覆されてしまうのです。
 スキームを考えるときはこういったリスクも考慮しないと意味ないですよね。技巧に走りすぎるなという教訓です。

 雑誌に載っていた、企業の法務担当者の声を思い出します。いくら練って契約書を作っても、あまりに不公平ということだと結局、裁判所に覆されちゃうんです。だから練りに練って考えて契約書を作ることにそれほどの意味は認められない。
 
 だから契約書文化が進化しないのでしょうか・・・。適当な契約書でも、最後は裁判所が救ってくれる、不合理がまかりとおるはずはないという確信?盲信?でしょうか。
 
(おわり)

2006年4月14日 (金)

敗因分析~遺言無効確認の訴え~【松井】

 勝った。

 遺言無効確認の訴えの被告事件で先日、判決言渡しがあり、「原告の訴えはいずれも棄却する」との被告依頼者が全面勝訴という判決だった。
 兄弟である原告らが、この遺言は無効だと訴えてきた自筆遺言は無効ではないとされた。原告らの言い分には理由はないという判決だ。

 判決理由を基に、ひとまずざくっと原告らの敗因を分析してみる。

1 医学情報の検討の不十分
 どう見ても、原告よりも裁判所の方が、原告が提出したカルテ・看護記録をよく分析している。原告の主張に対して被告側が反論として主張、指摘した点について、原告は何ら応えていなかった。
 自己に有利な情報だけを見るのではなく、自己に不利な情報をいかにフォローするかということだろう。

2 大きなストーリー(物語)のなさ
 以前、裁判官がこう口にしていた。「弁護士が作った準備書面よりも、当事者名義で提出される『陳述書』を読む方が事件の大きな筋が見えて理解が深まる。やっぱり読み手には『物語』が必要だ。」
 過去10年ほどに遡り、幸いにして被告側は被告側の大きな流れの物語を語ることができた。要所要所に、被告側に不利な事柄があったが、そのような事柄が生まれる原因について、大きな一連の流れの延長線上で説明することができた。
 これに対して、原告側は、合理的なストーリーを展開できていなかった。
 遺言者は、なぜに孫を養子縁組し、そのことを原告らには告げていなかったのか。この事実それ自体が、原告らと遺言者の関係の希薄さを既に物語っている。
 全てはこれが始まりであり、原告らはこのことに対する有効な説明が出来なかった。
 原告らの説明に対し、判決書は、「原告の供述は信用できない」と述べた。


 「森のイスキア」の佐藤初女さんに手紙を出し、ご丁寧なお返事をいただいた。
 「神様は全てご存じなので必ず正しいお答えを出してくださいますが、聞こえてもこないし、みえません。でも神様に代わって伝えてくださる方がいます。」

 遺言者は、今回の判決を喜んでくれるだろうか。正しい答えが出ているだろうか。
 遺言者に尋ねない限り、真実は決して分からない。

 しかし裁判所の今回の判決は正しいと私は信じる。遺言者の生前の痕跡がこの答えを導きだしたのである。
 神様に代わって裁判官が正しい答えを出してくれたとは思わない。裁判官は神様ではない。法廷に提出された証拠にだけ基づき判断するにすぎない。
 正しい証拠が提出されても間違った答えを出す裁判官もいる。

 しかし私たちに出来ることは、神様を信じるように裁判官を信じること、正しい答えを出してくれると裁判制度を信じることなのだ。
 
 原告らは間違いなく大阪高等裁判所に控訴するであろう。勝っても喜んでばかりはいられない。高等裁判所の裁判官が正しい答えを出すものと信じて、弁護士の新たな訴訟活動が始まる。
 
おわり

2006年3月21日 (火)

相続分野集中研修第3回~なめたらいかんぜよ、だっけ?~【松井】

1 先日、弁護士会主催の「相続分野集中研修第3回」に出席しました。この日は非常に楽しみにして出席しました。講師二人は、大阪家庭裁判所で遺産分割を担当する現役裁判官だったからです。裁判所のものの見方を改めて探る貴重な機会でした。
 予想に違わず中身の濃い、非常に役立つ研修でした。

2 そして二人の裁判官が共に同じ趣旨のことを言っていたのが気になりました。私のこれまでの経験からしても、やはりそうだよなと大きく頷く発言でした。
 白井裁判官「遺産分割事件は、『常識で考えたらある程度分かる』というものではありません。」「非常に専門的な知識が必要な分野なのです。」
 西垣裁判官「『相続事件は弁護士なら誰でも普通にできる』といわれるような事件ではない。専門知識が要求される分野である。遺産分割事件は、非常に怖い。単に、争点が多い民事事件というのではない。」代理人になる弁護士は、勉強、工夫、努力をする余地がもっともっとある、といった趣旨のことを仰っていました。

3 昭和55年ころ、なめ猫ブームというのがありました。子猫に暴走族の服を着せて、立たせ、「なめんなよ」というフレーズをつけるのです。あの猫の姿が頭に浮かびました。また、何かの映画のセリフだろうと思うのですが、「なめたらいかんぜよ」という言葉も頭に浮かびました。
 そうです!相続事件、遺産分割事件、そして遺言事件をなめたら痛い目に遭うよということです。
 私は弁護士一年目のとき、たまたまですが遺産分割審判事件の即時抗告審を担当したり、公正証書遺言の作成が出来なくなってしまうという経験をしました。即時抗告審を担当したことにより、調停、審判を担当していた各弁護士、裁判官の一連の流れを「あら探し的」に検討する機会を得ました。また遺言についても、いかにそれが重要なもの、内容のみならず、作成過程からしていかに細心の注意を払うべきものかを学びました。そして遺産分割の調停や、遺留分減殺請求訴訟、あるいは遺産の範囲確認の訴え、遺言無効確認訴訟といった事件に多く携わることができました。
 結果、思うのは、確かに、弁護士でももっと努力すべき余地のある分野だということです。

4 審判書を得て、相手方が即時抗告をし、その段階で弁護士が代理人に就きました。書面を読んで冗談かと思ったのは、不動産の分割方法について「共有が原則である」と書き記されていたことでした。遺産の分割方法はまた別の話です!またそもそもその事件は遺産の範囲についても争点となっていたのですが、審判官は敢えて審判をしてくれました。相手方の主張は、貸金債権があるというものでした。この点を即時抗告審でまた主張しているのです。仮に貸金債権であったらな、そもそも可分債権であって相続時、当然に法定相続分によって分割されています。よって、合意がない限り、審判の対象になることはありません。もちろんこちらは合意しません。何のために即時抗告審で熱心に主張されているのかその意味が分かっているのだろうかと悲しくすらなりました。
 また最近では、一人の相続人に全てを相続させるという遺言がありながら、遺産であった土地に法定相続分で相続登記を行った、さらにはその土地について共有物分割請求訴訟をしていた!という方から相談を受けました。この方が費やしたお金の意味を考えると、これもまたやるせない気持ちになりました。

5 今回の集中研修で特別受益のところについて最新の動向を確認することが出来ました。質問タイムはなかったのですが講義終了後、駆け寄って質問させていただくと、ご丁寧に最近の大阪高裁の傾向といったことまでいろいろと教えていただけました。
 白井裁判官が仰っていたように、相続分野は、まだまだ裁判例が少なく、文献もあまり充実していません。ただ、ここ数年でいろいろな最高裁判例が出て、動向がはっきりしてきている面もあります。
 いつもいく美容室の美容師さんと話していて、言われました。「相続なんて、相続分は決まっているんだから、そんなに難しいことはないんじゃないの。」。
 違うんです。まだまだ実際は、舗装されていないでこぼこ道路を走り抜けないといけない状況で、走り抜くためには常に穴ぼこを確認し、給油を怠らず、そして何よりもゴールを見定めていないと走り抜くことは出来ないんです。脇道にそれて谷底に落っこちてしまうんです。専門知識としての技術がいるのです。自分自身、さらにドライビング・テクニックを磨き、安全に、快適に、そして迅速に依頼者を目的地にエスコートできるように精進せねばとの思いを新たにしました。よろよろ運転をしている車に巻き込まれないように気を引き締めて。

6 ところで。今年になって何かと話題になっている京都のカバン屋さん、「一澤帆布」の相続騒動?について、長男の目的、ゴールは一体なんなのでしょうか。事業承継と遺言のリスク、そしてその回避の仕方について、また考えていることをアップしてみたいと思っています。
以上
*おっ!大橋弁護士がブログをがんばっている!そして、今日はこれからいよいよ「アンフェア」の最終回。黒幕は果たして誰か?!これまでの展開からすれば「安藤」が黒幕でもおかしくない!

2006年3月 7日 (火)

法律は、作られる、変えられる~相続税の連帯納付義務~【松井】

1 以前、会社のことは株主総会で何でも出来るというようなことを書きました。それは国政についてもある意味、いえることです。法律については国民が作ろうと思えば作れて、変えようと思えば変えられるのです、ある意味。

2 相談を受けたとき、そんな条文があるのかと驚き、おかしいんじゃないのかと思っていた条文があります。

 相続税法(連帯納付の義務)第34条 同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる。

 相続人は「互いに連帯納付の責めに任ずる」のです。自分は支払ったけど、他の相続人で支払わない者がいるとき、その者の分についても責任が生じて支払わないといけないのです。
 変だと思いませんか。
 この条文については確か、裁判で争っているグループがあったはずです。大阪高裁では敗訴したようですが、その後の最高裁の判断はどうなっているのでしょうか。

3 日本弁護士連合会では、先日、この条文について「廃止すべき」との意見書を発表しました。
 この動きがもっと大きくなり、条文廃止につながればと願っています。

4 おかしな法律、条文があるとき、確かに一つは裁判で争うという方法があります。最終的には違憲判決をもらうことになります。しかしそもそも法律って、国民の代表者である国会議員からなる議会で作られたものです。
 いったん作っておかしかったら、そこでまた修正するなりしたらいいじゃんというのが基本だと思います。
 国会、議員を動かすのです。そのために必要なもの。それがいわゆる世論です。世論を形成するために必要なもの。それが言論です。
 でも実際のところ、いわゆるロビー活動だったりするのですが。
 さらに議員を動かすのに手っ取り早い手段だと金銭を渡すとこれはまさに犯罪となります。

5 適当な法律を作る、作ってもおかしければ直す、あるいは削除する、これが基本だと思います。
 現在、平成12年に施行された消費者保護法の改正作業が進められています。いよいよ団体訴権制度が導入されます。これがうまく機能するのか否か。改正の法案だけを見ていると、まさに消費者団体規制法のようですが、実は使える条文があるのかもしれません。 法律、条文は使われてこそでしょう。
 ちなみに、最近聞いた話では、平成16年施行で改正された民事執行法の内覧制度について、大阪地裁レベルでは申立があったのはこの2年間でたったの1件だったそうです。まさに制度を用意したけど市場にそっぽをむかれた制度です。
 また大改正としては、いよいよ「会社法」がこの5月から施行されます。弁護士も準備におおあらわというのが実態かと思います。
 inputの勉強を疎かにする弁護士も市場からそっぽをむかれてしまうことでしょう。条文を使えない弁護士は、まさに「使えない弁護士」ってことですかねぇ・・・。

孫引きですが。加藤雅信教授が紹介している言葉です(判例タイムズ1197,25)
「法律学は、
『実現すべき理想の攻究』を伴はざる限り盲目であり、
『法律中心の実有的攻究』を伴はざる限り空虚であり、
『法律的構成』を伴はざる限り無力である」
(我妻榮「近代法における債権の優越的地位」(有斐閣、1953))

「理想の攻究」がなければ、連帯納付の条文も受け入れちゃうんでしょうねぇ。また改正された消費者保護法や新設の会社法の「理想」は何なのか。

おわり

2006年2月 5日 (日)

遺言無効確認請求事件の研究(上)(判例タイムズ’06・1/15号)【松井】


 先週、裁判所を出たところで、障害者学生無年金訴訟の敗訴判決についてのビラを原告・支援者の方から受け取りました。
裁判所の判決に対して、「不当判決」といった言葉を聞く度に思い出すのは、次の出来事です。
 司法試験合格後、修習に入る前、裁判官の方と話す機会がありました。どういう話の流れだったかは忘れましたが、その裁判官が言うには、判決を出した後、「違法判決」と言われると困るけど、「不当判決」と言われるのはある意味、仕方ないといったことでした。敗訴した方は納得していないので、判決のことを「不当」と称するのはある意味、当然のことだろうといった意味だったように思います。
 「違法」と「不当」。違法じゃなければそれでいい、「不当」と誹られようが構わないという趣旨ではもちろんないとは思いますが。


 月2回発行されている判例雑誌、判例タイムズの今年の1月15日号では、大阪地方裁判所の若手裁判官ら10名による「遺言無効確認請求事件の研究(上)」が掲載されていました。

 過去の遺言無効確認請求事件を研究した結果の報告です。
 なぜまたこの時期にこのような研究、発表になったかというと、もちろん、
「当該遺言によって不利益を受ける相続人ら原告となり、当該遺言によって利益を受ける相続人らが被告となる遺言無効確認請求事件もまた増加することが容易に予想できる。」(43頁)からです。

 1月、関西の地元情報テレビ番組に出演させてもらい、「遺言と相続」について話をさせてもらいましたが、本当に世間の人に一番言いたかったことは次のことです。

 「遺言を作るなら、弁護士に支払う費用がかかっても、弁護士に相談してください。」

 ということです。ちまたのネット社会では、弁護士以外でも遺言・相続相談に応じる旨が広告されています。内容は確かに充実しているし、資格を持たれた方が費用をとって相談に応じる以上、間違ったアドバイスなどはしていないかもしれません。

 遺言無効確認請求事件の訴訟代理人を経験する弁護士として強調したいことは、遺言というのは単に作ればいいというものではないということです。
 亡くなってから、相続人らの間で無効確認請求訴訟が起こされるなんて、何のために遺言を作ったのか分かりません。かえって紛争を一つ余計に増やしただけのことになってしまうのです。遺産分割協議だけで済んだのが、へたな遺言があったばかりに無効確認の訴えが起こってしまう、無効になったら、ここから遺産分割協議です。

 遺言を作るにあたっては、後日、無効とされないように、また内容面で解釈等について余計な紛争が起こることのないように確実に準備をせねばなりません。
 例えていうなら、契約交渉をふまえ、ありとあらゆる場面を想定して、対策を考え、契約書の文言を練り上げる作業ともいえます。

 書店のあんちょこ本をちょろっと見て勉強して本当に完璧に遺言書が作れるのなら、遺言無効確認請求事件なんて起きません。
 しかし、裁判所は、今後、遺言無効確認請求事件が「増加することが容易に予想できる。」と言い切っているのです。

 弁護士・法律事務所はやはり行きづらい、敷居が高いのでしょうか。
 費用をふんだくれられるんじゃないかといった不安もあるのでしょうか。
 最初の相談は時間制での費用請求ですし、昔は紹介者のいない方からの相談はお断りしている事務所が多かったようですが、現在はうちのようにホームページを持ち、ネットからの相談予約も受け付けているようなところも増えています。

 裁判で争われることのないよう、紛争予防のためには、裁判のプロの弁護士を活用して欲しいと思います。
 本当は、これをテレビで言いたかったです。

 テレビ番組での相続の紛争再現VTRとそのコメントでは、行政書士の方が相続のプロとしてコメントされていて、正直なところ不思議な気がしました。でも、あれは私のところへ出演の話しが来る前に、番組製作の方がすでに行政書士さんから相続問題の取材、撮影をしていたので、私が、「相続人が増える事例は、いったん起こった相続について協議をきちんとしないままにしていて、その間にまた相続が起こってしまったような場合がほとんどですよ」、あるいは、「筆跡鑑定って裁判ではそれほど信用性は確立していませんよ」などと水を差すことはできませんでした。番組製作の方もなぜ最初に弁護士に取材に行かないのか、不思議でした。敷居が高い?!



 さて。遺言無効確認請求事件において、「当該遺言が無効であるか否かについて判断するためには、遺言者の遺言時における精神上の障害の有無、内容、程度といった医学上の評価から、遺言者の遺言時の年齢、遺言時及びその前後の状況、遺言をするに至る経緯、遺言の内容、遺言の効果等までを子細に検討する必要があり、裁判所は困難な事実認定をせまられる。」とあります(44頁、前記)。「しかも、当事者の関係は良好でないことが多く、争点とは必ずしも関連しない事実をめぐって当事者が激しく対立する場面も見受けられる」(同上)とあります。

 メモ用に以下、項目だけ、上記研究報告から引用しておきます。

事実認定上の問題点
1 遺言書の成立要件
   自筆証書遺言
    作成者が争点となった裁判例
     遺言の内容
      以前にした遺言の内容との整合性
      遺言者の従前の発言・意向との整合性
      遺言者と相続人との関係との整合性
      遺言の目的である財産内容との整合性
      その他
     筆跡の類似性
     筆跡の特徴
     自書能力
     作成可能性、偽造可能性
     遺言者の言動、被告の言動
     遺言書発見の経緯
    遺言書が判読できないことが争点となった裁判例
    作成日付の誤記が争点となった裁判例
    遺言書の加除その他の変更方法が争点となった裁判例
    遺言書への署名押印方法が争点となった裁判例
    共同遺言であることが争点となった裁判例

   公正証書遺言
    証人の立会が争点となった裁判例
    口述が争点となった裁判例
     口述の不存在が争点
     遺言書又は原案が口述以前に作成されていた場合
     遺言者が受動的に応答したにすぎない場合
    読み聞かせ、承認が争点となった裁判例
    署名が争点となった裁判例
    公正証書の作成状況を認定するに当たっての証拠方法

2 遺言内容の確定

以上