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判例

2007年4月 6日 (金)

「無効」~特定商取引法~【松井】

1 
 19年4月3日、最高裁判所の判断が明示されました。
 NOVAという英会話学校が定める、途中解約の場合の清算規定の合法性に対してです。
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070403112951.pdf

 結果は、「無効」。


「上告人は、本件使用済ポイントの対価額について、本件清算規定に従って算定すべきであると主張する。しかし、本件清算規定に従って算定される使用済みポイントの対価額は、契約時単価によって算定される使用済みポイントの対価額よりも常に高額となる。本件料金規定は、契約締結時において、将来提供される各役務について一律の対価額を定めているのであるから、それとは別に、解除があった場合にのみ適用される高額の対価額を定める本件清算規定は、実質的には、損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能するもので、上記各規定の趣旨に反して受講者による自由な解除権の行使を誓約するものといわざるをえない。
 そうすると、本件清算規定は、役務提供事業者が役務受領者に対して法49条2項1号に定める法廷限度額を超える額の金銭の支払いを求めるものとして無効というべきであり、本件解除の際の提供済役務対価相当額は、契約時単価によって算定された本件使用済みポイントの対価額とみとめるのが相当である。」

 特定商取引法という法律の49条1項、途中解約権の保障、同条2項1号、解約清算金について法定限度額を定めた規定、これらの趣旨について、最高裁はこう示しました。 

「特定継続的役務提供契約は、契約期間が長期にわたることが少なくない上、契約に基づいて提供される役務の内容が客観的明確性を有するものではなく、役務の受領による効果も確実とはいえないことなどにかんがみ、役務受領者が不足の不利益を被ることがないように、役務受領者は、自由に契約を将来に向かって解除することが出来ることとし、この自由な解除権の行使を保障するために、契約が解除された場合、役務提供事業者は役務受領者に対して法定限度額しか請求できないことにしたものと解される。」
 全く素直な条文解釈だと思います。

 なのに、なぜ、NOVAは途中解約の場合の清算方法について数々の訴訟を提起されながら、強行に自身の清算規定の正当性を主張し続けたのか。
 消費者が絶対に正しいものとは当然、思わないけど、多くの法律家が妥当性を考えればその結論はほぼ明かという条項について、なぜ、すぐに問題を収束させる方向で行動を変えないのか。
 硬直性に陥った企業の強弁に対する最高裁の判断。
 「あなたの言っていることは通らないよ。」

 間違うことは仕方ない。
 自分で判断し、是正していく力が企業を、人を強くする。
 

(おわり)

2007年3月23日 (金)

相続税の脱税事件~刑事判決の読み方~ 【松井】


相続税を脱税したということで逮捕された大阪のトモエタクシーの元社長に対する大阪地裁の判決が3月22日、出たようです。

日経ネットの記事から。
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/39018.html

【2007年3月22日】 相続税巨額脱税でトモエタクシー元社長に懲役4年・罰金7億円──地裁判決(3月22日)  実父の遺産を海外口座に隠し相続税約24億9000万円を免れたとして相続税法違反(脱税)罪に問われたタクシー会社「トモエタクシー」(大阪府守口市)元社長、西井良夫被告(62)の判決で、大阪地裁の川合昌幸裁判長は22日、懲役4年、罰金7億円(求刑懲役5年、罰金10億円)の実刑を言い渡した。相続税の脱税事件の罰金としては過去最高とみられる。

 川合裁判長は「極めて巧妙、計画的犯行で反省もしていない」と指摘した。西井被告側は即日控訴した。西井被告側は公判で「海外送金は父の指示で、脱税の意図はなかった」と無罪を主張していた。川合裁判長は、海外送金は西井被告が主導して行ったと認定。他の相続人にも海外口座の存在を隠していたことなどから「脱税目的の財産隠しだった」と述べた。


 相続税法68条によれば、「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」とあります。そして同条2項によれば、「前項の免れた相続税額又は贈与税額が五百万円を超えるときは、情状により、同項の罰金は、五百万円を超えてその免れた相続税額又は贈与税額に相当する金額以下とすることができる。」とあります。

 この法定刑にてらしてみれば、懲役4年の実刑判決は法定刑の5年に近い量刑であり、相当重いといえます。
 ただ、罰金刑については、相続税法によれば「免れた相続税額・・・に相当する金額以下とすることができる」とあるので、裁判所はしようと思えば、免れたといわれる「相続税約24億9000万円」に近い金額を罰金と課すことも出来たはずです。
 なぜ、免れた相続税額の約3割強の罰金刑なのか。

 公訴事実に対して否認して争っていたようですが、有罪判決でした。
 報道を見る限りでは、亡父に言われるがままの海外送金であって脱税の認識、故意にかけるので無罪という主張を行っていたのではないでしょうか。
 ただ、間接事実としては、亡父が意識を喪失した後も新たに送金を行っていること、他の相続人にも海外口座の存在を秘していたこと、申告にあたり税理士からの助言にもかかわらず海外口座を申告しなかったことといった事実から、故意、違法性を意識しうる事実の認識はあったと認定されたようです。


 刑事弁護人は、どのように争ったのでしょうか。客観的証拠を十分に検討できていたのでしょうか。客観的証拠からすれば有罪の事実認定は無理だといえる場合はともかく、証拠は十分だと思える場合、依頼者である刑事被告人にはその旨の危険性を当然、説明します。ただ、そうであっても本人が故意の不存在、無罪を主張する場合は、最大限の力を振り絞って戦います。
 控訴審でいったいどのように争うのか。おそらく親族の証言、税理士の証言などが証拠としてもあったことでしょう。おそらくこの点の事実認定を争っていたのだと思います。
 
 報道で注意しないといけないのは、有罪の場合、もっともらしく、「●●といった事実から有罪が認定された」と報道され、この事実認定の●●には疑問の余地はない当然のことだと思いがちです。しかし、刑事事件で争う場合、まさに●●の事実認定が証拠でどのようになされるのか、証人の証言は信用性があるのか否か、物証に検察官が主張するような信用性があるのかといったところが争われるのです。
 トモエタクシーの元社長の相続税脱税事件についても控訴審でひっくりかえるかもしれません。
 有罪判決は、確定するまで有罪ではありません。
 一審判決の当不当は判決全文を読まない限り、分かりません。
 ライブドアの堀江社長らに対する判決も、同じでしょう。
 判決文の全文を読まずに、判決の中身、事実認定について当不当の意見を述べることは、弁護士ならしないと思います。

(おわり)

2007年2月26日 (月)

まねきTV事件~事実を尊重せよ~【松井】

Tv

 まねきTV事件というものがあります。去年の8月、仮処分決定が出たときは裁判所のホームページでも速報でその却下決定が公開されていました。
 判例時報18年12月11号でもその決定が掲載されています。
 また事件当事者のまねきTV側ではそのホームページで、抗告審の決定も載せています。
 申立人である債権者、テレビ局側が全面的に負けた事件です。

 

 
 先日研修の際に聴いた、元最高裁判所判事であった滝井弁護士の弁でも印象に残っていたのは、「最高裁判例を変えるのであれば事実を変えないといけない」ということでした。
 つまり「事実」が裁判の基礎、要であるということです。
 事実を法律に当てはめる、法律に当てはめるために事実を歪曲することは出来ません。まぁ、確かに事実といっても証拠によって認定できる事実に限られますがもちろん。

 事実認定のための手続きとして、尋問という制度があります。

 先日、「ゆれる」という西川美和監督の映画をDVDで観ました。オダギリジョーと香川照之が兄弟役で出演している映画で、昨年公開され絶賛されていた映画です。
 観てみると、被告人となった香川照之や、弟のオダギリジョーが法廷で尋問を受ける場面がありました。
 弁護人からの質問、それに対する検察官からの質問。

 「事実」はいろいろな角度から光りを浴びせて初めてその立体像が浮かび上がる(完全でないにしても)。尋問手続きにおける反対尋問というものはそういう意味があります。
 かかる手続きを経て、裁判官によって「事実」が認定されます。
 芥川龍之介の小説「藪の中」のように、死霊となって被害者が証言することがあれば別ですが、生きている者、人間の証言はとかくうさんくさいということでしょう(もちろん、死霊の証言も本当かどうか、裏付けはありません。)。
 
 このように裁判は様々な証拠から「事実」を認定し、それを法律に適用して、裁判結果を出します。すなわち、原告の主張に理由があるのか、ないのかです。基本は二つに一つです。


 まねきTVの仮処分事件では、まねきTV社のビジネス行為は、地上波放送の送信可能化行為であって、これはTV局の送信可能化権等の著作隣接権を侵害しているので止めろといった申立てがなさたものでした。

 これに対して、裁判所は事実認定のレベルで決着をつけたといえます。もちろん、法律解釈について、債権者のほうは、かっなぁり無理な解釈を展開していますが、これはもちろん独自の見解であって、裁判所は事実をもって、侵害行為なしと判断しました。

 判例時報の方で改めて決定の全文を読んで驚いたのは、債権者側がいろいろな点で本当に、あぁ、無理な事実主張、法解釈を展開しているなぁという点です。何としても差し止めしたる!という強い意図を感じます。
 そして、事実、法解釈としては、裁判所の認定、解釈の方がやはり自然、経験則に適うと言わざるをえません。
 
 テレビ局側は、「事実」を直視して対応したらいいのにと思います。

 が、しかし、何と、仮処分も認められなかったのに、本訴を提起することにしたようです(まねきTV訴訟代理人の小倉弁護士のブログ 、WINNY訴訟で著名な壇弁護士のブログ  )。
 
 意地?ですかね・・・。
 
 訴訟でバンバン対応するという正攻法でもって邪魔者を排除していくという手段は、以前のエントリーでも触れたように、元シンガポール首相のリー・クアンユー(もともと弁護士でした。)が得意とし、効果を発揮した手法のようですが、これは大企業が小企業に対して行うときは過剰な嫌がらせでしかないと思うのですが(まぁ、シャネルが日本の片田舎のスナック、シャネルを訴え、ディズニーやコカコーラが訴訟でバンバン対応して、ブランドイメージを守っていることからすれば、あながち不当とまではいえないのかもしれませんが。)。
 しかし今回の件は、仮処分で権利がないって言われているのに、なのに本訴。不当訴訟で反訴してしまったらどうでしょ。

 がんばれ、まねきTV。
 創意工夫をしてビジネス、商売を展開する人を押さえ込む動きは、やはりどうしても基本的に好きになれません。需要があるわけだから、双方が利害を調整してハッピーになれる途を模索するのが建設的な考え方、解決の仕方ではないかと思います。もっとベターな対応があるのではないかと、何にしても。

(おわり)

2007年2月14日 (水)

日本で暮らす権利~法務大臣の裁量~【松井】

Fuhoushuurou

毎日新聞 2007年2月12日 3時00分

イラン一家:13日に入管へ出頭 帰国に向けて
 不法残留し、最高裁で強制退去処分が確定している群馬県高崎市のイラン人、アミネ・カリルさん(43)が帰国に向けて13日、東京入国管理局(入管)に出頭する。身元引受人が11日夜、明らかにした。

 アミネさんの妻と2人の娘の身元引受人を務める同県伊勢崎市の中村三省さん(74)によると、アミネさんは今月9日、高崎市の東京入管高崎出張所で一家全員が帰国するという文書に署名し、同所から13日に東京入管に行くよう指示されたという。一家の仮放免期限は16日に迫っていた。

 入管側は先月12日、在留特別許可は認められないと改めて通告した。その後、アミネさんは、長女で高校3年のマリアムさん(18)の再入国が認められ、日本で1人で生活できることが確認できれば、一家4人でいったんイランに帰国する考えを明らかにしていた。アミネさんは毎日新聞の取材に「妻と一緒に入管に行くが、詳しいことは今は話したくない」と話した。【杉山順平】

「外国人の在留の拒否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではなく」
とされています。  これは、昭和53年10月4日の最高裁判決(マクリーン事件判決)で出された結論です。この最高裁判例はその後変更されてはおらず、現在でも妥当する解釈ということとなります。    つまり
、「法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲などの諸般の事情をしんしゃくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができにものと考えられる。このような点にかんがみると、出入国管理令21条3項所定の『在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由』があるかどうかの判断における法務大臣の裁量が広汎なものとされているのは当然のことであって、所論のように上陸許否事由又は退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り更新申請を不許可にすることは許されないと会すべきものではない。」

 群馬県のイラン人一家の方の場合、最高裁まで争ったけど、最高裁は、次に述べるように法務大臣の裁量に逸脱は認められないと判断したのでしょう。
 そうであるなら、あとはまさに法務大臣の裁量の問題でした。

 が、法務大臣は、一家に対する在留許可を認めませんでした。妥協案が、この春進学が決まっていた長女について、留学での在留許可を認めるということだったのでしょう。
 このような裁量上の判断については、既成事実をもって違法行為を見逃すわけにはいかないという行政の強い意思を感じます。
 不法滞在をしたのはお父さんであって、まさにその子には責任はないはずです。子どもは、日本で育って教育を受けてきており、日本語を日常語としており、日本での教育生活を望んでいるといいます。

 例えば、自分の親の都合で逆にイランで育てられたところ10歳くらいになって、突然、日本に帰れと自分がイランにいられなくなるとしたら。
 また戻ってきたらいいという案もあり得ますが、親による転居の手間暇、職の不安などからくる生活の不安定さを考えたら、経済的にも精神的にも相当な負担となります。
 このようなケースが次々と出てくることを怖れての法務大臣の判断なのでしょうが、今回のケースに限りとしたり、あるいは時限的に不法滞在となる一家に名乗り出てもらい、今回に限り特別な判断を行うといった解決が出来なかったのか。この一家の在留を認めなかったからといって、どれだけの「国益」が守られたというのか。得られるものと失うものを天秤に欠けたら、失ったものの方が多いように思います。まさに「情け」ない。


 
 もちろん法務大臣の裁量といっても何でも許されるわけではありません。マクリーン事件判決では次のように述べられています。

 「それが違法となるかどうかを審理、判断するにあたっては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全くの事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができるものと解するのが、相当である。」

広汎な裁量です。
法務大臣を動かすには、世論・政治の力しかなかったのでしょう。それでも力及ばず。残念です。

(おわり)