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2006年2月13日 (月)

「アンフェアなのは誰か」~情義的な保証人~【松井】

 「アンフェアなのは誰か」。
 アンフェアなのは、「情義的な保証人」を連れてこさせてお金を貸し付ける業者、かしら。

 1月から始まったフジテレビ系列の火曜夜のドラマ、「アンフェア」が結構、面白い。篠原涼子が主演のサスペンスもので、「アンフェアなのは誰か」が一つのキーワードになっている。
 これにひっかけて考えると、「連帯保証契約を締結する際における金融機関側の調査及び説明につき警鐘を与える事実認定に関する一事例」として(160頁、判タ2006.1.15)取り上げられた東京高裁平成17年8月10日判決は非常に興味深い判決です。
 「金融機関側、あんたがアンフェアなんだよ」と判決が言っているかのような判決です。

 平野裕之教授も大絶賛(100頁、同上)の判決であり、平野教授の解説を読み、私自身も改めて今までの自分の問題発見能力のなさを反省した次第です。

 判決はどのようなものかというと、「融資の時点で短期間に倒産に至る破綻状態にある債務者のために締結した連帯保証契約には動機の錯誤があり 債務者が破綻状態にないことを信じて連帯保証する旨の動機も表示されているとして連帯保証契約が要素の錯誤により無効とされた」ものでした(159頁、同上)。

 原告は、塗装業の会社に2500万円のお金を貸し付けた信用金庫であり、被告は、この会社の連帯保証人をした個人でした。
 この被告は、保証をした当時、71歳であり、資産は自宅の土地家屋のみといえる状態でした。この被告は、会社が金を借りるために、自分のこの土地家屋に信用金庫のために抵当権を設定し、自らも連帯保証人になっていました。
 金を借りた方の会社は、昭和47年創業で、二代目社長夫婦がしきっていた金属機械器具の塗装業を営んでいましたが、マツダ系列の下請けであったところ、系列関係がなくなり、受注量が減っていくとと同時に、あちこちから借り入れをして運転資金をまかなうようになり、平成10年には、「アルファ」「ペガサス」「クイック」「アコレ」「スターコーポレーション」「ハローリース」「日本プロジェクト」といったシステム金融からの借り入れが千万円を超える額になってしまいました。
 本来なら、そもそもの売り上げが見込めないのなら、この時点で会社を閉じてしまうべきだったのでしょう。
 しかし社長夫婦は起死回生を「中小企業金融安定化特別保証制度」の利用を考えました。
 金融機関の担当者は容易にこの状況を知り得る立場にあり、たとえ2500万円の融資を実行したところで、借入金の返済には追いつかず、早晩、破綻必至の状況であることは分かったはずでした。
 しかし、担当者は、連帯保証人と物的担保があれば金を貸せないこともないと言い、このため、社長夫婦は、奥さんの義理のお兄さんで、単身暮らしている被告に頼みに行きました。
 絶対に迷惑はかけない、土地建物に抵当権をつけさせてもらって連帯保証人になってくれたらお金が借りられる、その金があれば事業はやり直せる。
 義理の兄は何度か断った後、信用金庫の担当者とも会い、「大丈夫か」と訊いて、担当者は「大丈夫」と言ったというので、連帯保証人になり、自宅に抵当権を設定しました。 2500万円の融資は実行されました。
 融資から約4か月後、会社は二回目の手形不渡りを出し、倒産しました。

 本件判決は言います 
 「融資の時点で当該融資を受けても短期間に倒産に至るような破綻状態にある債務者のために、物的担保を提供したり連帯保証債務を負担しようとする者は存在しないと考えるのが経験則であるところ」
 「控訴人は、本件保証契約の締結の意思を確認された当時71歳の高齢で、子もなく2500万円支払能力はなかったのであるから、もし控訴人が訴外会社の経営状態について上記のような破綻状態にあり現実に保証債務の履行をしなければならない可能性が高いことを知っていたならば、唯一の土地建物を担保提供してまで保証する意思はなかったものと認めるのが相当である。」

 「およそ融資の時点で破綻状態にある債務者のために保証人になろうとする者は存在しないというべきであるから、保証契約の時点で主債務者がこのような意味での破綻状態にないことは、保証しようとする者の動機として、一般に、黙示的に表示されているものと解するのが相当である。
 加えて、控訴人は、何ら訴外会社と取引関係のない情義的な保証人であり、高齢かつ病弱で、担保提供した自宅が唯一の財産であるというのであり、このことは被控訴人においてその調査により認識していたものである。」

 裁判官の「経験則」!
 
 これが非常識だと、大橋の「マクガワン判決のおかしさ」に指摘されているのと同様、おかしな判決が世にあふれ出します。
 この東京高裁の判決の経験則は、読まれた方は何を当たり前のことに松井は驚いているのかとそのことに驚かれるかもしれません。
 私はこの判決を読み、目から鱗が落ちた思いでした。弁護士として経験を積むということは、ある意味、目に鱗が張り付いてくることなのかもしれません。
 この点、平野教授は鋭く指摘しています。
 「恐らく、これまで保証についての法律家の多くの理解は、『保証契約をすることは、保証債務を引き受けることであり、万が一の場合には支払いをしなければならないことを覚悟しているのであるから、主債務者が支払えず保証人が支払わされることになっても、保証人は文句を言えない』、といったものであったといえよう。」(100頁、同上)。
 まさにそのとおりであり、この判例の当事者の方から相談を受けたとしたら、裁判をしてもまず勝ち目はないですよといった説明をしていたことだろうと思う。
 しかし、しかし、しかし、しかし。
 よく考えてみよう!「義理人情により仕方なく行われる社会生活における助け合いの精神に基づく情義的保証を、債務者自身による抵当権の設定と同視したり、取引法原理で律するのは、誰もが直感的におかしいと感じるはずである。主債務者を利用して義理人情で断れない保証人を獲得し、これに自分が本来負うはずの債権回収のリスクを転嫁する債権者を、勤勉な債権者として無条件に保護し、取引とは異質な無償行為(契約の相手方である債権者のためではなく主債務者のため)をした保証人に、軽率であっても契約は契約だといって諦めさせるが、社会通念に合致するかは疑問である。」

 仰るとおりです。
 まさにアンフェアな取引きなんだろうと思う。東京高裁の判例は、この当たり前の感覚、「おかしい」という違和感を見事に判決に反映させたものだと思います。
 法律はおいておいて、「なんかちょっと変じゃないの!?」という違和感を感じる能力を失わず、大切にしていこうと改めて思いました。理屈は後からついてくる、といったら言い過ぎかもしれないけど。
 
 ところで。ネット銀行の「ソニー銀行」の企業理念を見たことはありますか?

 「フェア」です。
 
 ソニー銀行の役員には、元山一証券の方や三菱銀行の行員さんが確か就いているはずで、うがった見方をすれば、あえて「フェア」を前面に出すからには、「アンフェア」なこともいっぱいある業界だったんだろうなということです。

 最後に。平野教授の提言。
 「このような情義的保証という非近代的な担保方式は、理想としては保険や法人による合理的な保証にとって代わられるべきである。解釈論としても、取引法理とは異なり保証人保護のために、取引を念頭においた法理を修正して運用がされるべきである。」(105頁、同上)。