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2010年1月18日 (月)

相続事件の数字【松井】

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*三重県四日市市の諏訪神社の境内。幼いころ、ここが遊び場でした。屋根に登ったり。。。


 先日、大阪弁護士会主催の「遺言・相続センター研修」の一環での「相続関連事件の手続選択などについて」という研修を受けてきました。講師は、元家庭裁判所の書記官だったという弁護士の方です。実は、以前、途中から代理人となった遺産分割審判事件での相手方代理人をされていた弁護士でもあるので、その方の緻密な仕事ぶりはよく存じ上げている方でした。
 その研修もやはり、非常に緻密なレジュメが配られ、書記官として、また弁護士としても、相続事件全般に経験豊富な弁護士として実務上の事柄が語られていました。
 

 ただ、例えば、私が研修を担当するとしたらどういったことをまず注意するように話をするだろうかと考えたとき、細かいことはさておき、まずこの数字には気をつけて下さいということを言うかと思います。
 □5000万円
 □10か月
 □1年
 □3年
 
 この「5000万円」、「10か月」、そして「3年」というのは要するに、相続税等の税法に関する手続きに気をつけて下さいということです。
 5000万円というのは、遺産総額が、この5000万円に相続人×1000万円を足した金額を超えるようであれば、相続税の申告が必要ですよということです。もっとも気をつけないといけないのは、この「遺産総額」については、相続税法に基づいた「遺産」の範囲に遺産の「評価」があるということです。民法上の考えとは違う点があります。

 そして、「10か月」というのは、相続税の申告が必要な場合、被相続人の死亡を知った後翌日から10か月後が原則的な相続税の申告、納税期限ですよ、ということです。申告だけではなく、納税もしなければならないので、納税原資をどのように調達するのかが問題となります。
 普段から懇意にしている税理士さん、それも相続税に詳しい、あるいは詳しい税理士を紹介できる税理士さんを相続人の方がご存知ならよいのですが、そうでない場合もあります。
 そんなとき、相談を受けた弁護士としては、すぐに相続税法に詳しい税理士を紹介し、相続に関する処理方針を決める必要があります。
 法定の申告納税期限までに遺産分割協議、あるいは遺留分減殺請求に関する処理が合意できていればいいのですが、そうでない場合であっても、税法上は、未分割として法定相続分で相続したものとして申告納税する必要があります。この申告納税をしない場合、10数パーセントの延滞税がかかってきます。依頼者の不要な損害を回避するためには要注意です。

 そしてもう一つ。3年。
 これは、不動産譲渡所得税がらみです。遺産たる不動産を相続し、その売却となった場合、売却が3年以内であれば納税した相続税額が経費たる取得費として控除でき、利益を圧縮できて、結果、納税額を少なくすることに役立ちます。しかし、これが3年を超えているとこの適用は原則的には認められないとされています。
 こういった税法による圧迫があれば、相続人は皆、対税法と言う点ではおおよそ利害を共通にしているので、長期化しそうな紛争も折り合いが付けられて、迅速解決することがなくはありません。
 相談を受けた弁護士としては、こういった情報を依頼者に提供できる、出来ないは事件処理としても大きく違うのではないかと思われます。
 (*上記記述は一般論です。実際の事件における処理の適否、詳細については、必ず税理士にご相談ください。)
 (*国税庁のタックスアンサーは、概要を抑えるのに便利です。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4202.htm

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 そしてもう一つは「1年」。これは普通、相続の相談にあたる弁護士なら皆、確実に知っているものです。遺留分減殺請求権の行使期間です。
 遺留分侵害になるかもしれない「遺言」の存在が分かったら、その遺言の無効を主張する場合でも念のため、ひとまず遺留分減殺請求権を行使しておくのが望ましい処理です。その請求の有無事態が争点となることを避けるためにも、請求は内容証明郵便で行うのが確実です。まだまだ時間があると思って後回しにしているうちに、うっかり1年が経過してしまうということにもなりかねませんので、早め早めに。
 

 さらに私なら、と思ったことは、この遺留分減殺請求に関してです。
 何件か遺留分減殺請求事件を担当してきましたが、私の経験からすれば、これはまず法定外での話し合いを試みて、主張の乖離がひどく合意は難しいということであれば、家庭裁判所への調停申立てはすっとばして、遺留分減殺請求に基づく訴訟を地方裁判所に行った方が解決は早いということです。厳密な調停前置主義はとられていません。
 調停手続きで協議を行っても、このような関係の場合、まず話がまとまるということはありません。
 むしろ、訴訟手続きにおいて、厳密な主張立証手続きを行う中で、しかるべき金額を払うべき側も観念せざるを得ず、私の経験からすれば、和解で終わります。一審判決が出たとしても、控訴審で和解になったこともあります。
 こういった点は、処理方法として何が正しいというものではもなく、各弁護士の経験による実感なのかなと思います。

 いずれにしても、改めて相続事件はまだまだ奥が深いなと思わせられた研修でした。それだけに、今後おそらく、相続、特に遺言作成、執行等に関わった弁護士に対する弁護過誤訴訟が増えるのではないだろうかとの思いを抱いています。気をつけねば。
(おわり) 

*下にいたら見えないことも、上に登って下をみるとその大きなポイントがよく分かることがあります。
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