年賀状と離婚事件の元依頼者の方々~「代理人」制度~【松井】
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先日、お年玉くじ付き年賀状の当選番号発表があったようです。昔は、いただいた年賀状からちょと期待しつつ番号チェックをしたものですが結局、記念切手しか当選したことはなく、そのうちに番号チェックもしなくなってしまいました。
この年賀状、知り合いの方々の中では、いろいろと思うところあられて葉書ではださずにメールやウェブで新年の挨拶をされるかたも少なくはありません。
私も、年末の大慌ての事態を迎えると今年でもう止めようかなという気持ちにもなったりします。
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ただ、宛名書きや図柄などは印刷するのですが、一人一人送り先を確認するとき、さらにはひと言添えるとき、その時間が非常に大事だなと思います。
名簿を確認しているときもそうですが、印刷された葉書を手にとり、宛名を確認するとき、その人のことを考えます。そして、その人と自分との間柄、過去の出来事を振り返ります。
年末、twitter上で年賀状のことが話題となったとき、「年賀状」は「感謝状」だと表現されている方がいらっしゃいました。
その人のことを思い、ありがとうという気持ちになる大事な時間が年賀状をしたためるときだと。
そのとおりだと思います。
そして年明け、私にとっていただいた年賀状で毎年、なによりも安心するのは、過去、担当させていただいた離婚事件の当事者の方々からの年賀状です。
元気なお子さんの写真付きのものだったりすると、ああ、あの当時、あれほど小さかった子が小学校に入学し、こんなに大きくなっている、添えて頂いている言葉からも落ち着いた様子がうかがえて、ほっとした笑顔が自然ともれます。
また、ご自身の近況も添えていただいた年賀状をいただいたりすると、これも、「ああ、お元気で働いておられるんだな。」と安心します。
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会社の依頼者の方でも担当者や社長さんから近況をいただいたり、その他多くの終わった事件の依頼者の方々から、ひと言近況が添えられていると、当時の事件や依頼者の方との会話を懐かしく思い出したりします。そして、現在の落ち着いた様子に安心します。
ただ、依頼者の方の中でも、ひときわ安心するのがやはり離婚事件の依頼者の方々です。なぜなら、依頼を受けた事柄として、その方のもっとも重要な人生の岐路に関わらせて頂いたことになるからだろうと思います。
まだ結婚されて1年ほどであったり、30年以上経ってからの離婚の決断であられたり。お子さんはまだ赤ん坊だったり、4歳だったり。
弁護士としてお手伝いさせていただく状況だったということは、やはりご本人だけでは対処しがたい困難な状況に置かれていた方々です。
そこで無事に、調停離婚が成立したり、あるいは裁判となって離婚判決を得たり、和解で終わったり。法定の手続を経て、解決に至っています。
そこにおいては、どうしても「あのときこうだった、このときこうだった」というやりとりが主になります。それは、自身でも後悔する言動であったり、怒りが再燃するような言動も出てきます。
そういった事柄と向き合い、自分の人生は自分で決断して自分で道を拓いていくしかないときりひらいていかれた方々です。
相手は、夫であろうが妻であろうが、そのときいったんは自身で選ばれた道です。その道を否定するかのような選択をするのは、無意識の中においても辛いものがあるだろうとは思います。
そこに「代理人」として関わらせていただき、依頼者の方の荷物を運ぶのを手伝わせていただき、ちょっとでも楽な気持ちになっていただき、対外的な代理人活動をして、ご一緒に新たな道を模索していきます。
正直なところ、わたしは代理人活動をするにしても一番しんどいのが離婚事件の代理人です。
依頼者の方のずっしりと重い思いにまず共感させていただかないと仕事としては進まないものだと思っているからです。
離婚事件については、弁護士のところに相談に来る前に「弁護士以外」の方にお金を払って相談されている方も意外と多いようです。
ただ、そういった「弁護士以外」の方と「弁護士」の一番の違いは、「代理人」として活動できるかどうかです。「代理人」にならない場合は、いわば横からの助言人に過ぎないのではないかと思います。「代理人」になるということは、対外的にその方を代理することであって、いわば一部を引き受けたような重みが生じます。
またそれが、相談者にとっては、「弁護士への依頼」のいいところではないかと思います。
弁護士に依頼することによって、重い荷物を一人で抱えるのではなく、いっしょに下から支えてくれる人が加わったような気持ちなるのではないかと思います。
自分が直接に相手と話をしなくてもいい、これが大きな救いになると思います。それが「代理人制度」。
弁護士法によって、対価をもらって代理人として法的な事柄に関われるのは弁護士だけだとされています。
その制度趣旨の是非はともかくとして、「代理人制度」は素晴らしい制度だと思います。プロ野球選手の契約更改においても、なぜ野球一筋で来た人が自ら、複雑な自身の権利関係に関する交渉に当たらないといけないのか。この点だけでも、別のプロに任せられたら自身は野球に専念に出来るのに、というものだと思います。
自身の事柄は自分一人で解決しないといけない、というものではありません。もちろん、最後の決断をするのは自分しかありませんが、その過程においては一緒に荷物運びを手伝ってくれる人にお金を支払い、助力を依頼してもなんの問題もありません。荷物運びのプロ、その道のプロというものがいます。
利用できるなら利用された方が結局、ご自身にとってプラスだろうと思います。
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今年の年明け一月、大阪弁護士会への登録によって年間で割り振りをされている某市役所への無料相談会の担当者として2回ほど相談担当をしました。
気軽に弁護士に相談に行けるよい制度だと思います。
そこでは一人25分で、7名の方の相談を3時間で受けることになっています。
やはり多いのは、離婚のご相談です。以前は、多重債務の相談が多かったのですが、さすがに最近は減ってきたことを実感しています。
ただ、絶えずあるのが離婚のご相談です。
そこでまず問いかけるのは、「あなたはどうしたいのですか。」ということです。
その上で、助力が必要なら弁護士に依頼すべきです、と。助力が必要というのは、法的な対応の仕方によって結論が異なりそうなときです。もし弁護士に依頼する費用が用意できないというのなら、通常「法テラス」によって立替制度もあることを伝えます。また、大阪弁護士会では弁護士紹介というサービスをしているので、知り合いに弁護士がいなければそのサービスを利用したらよい旨も伝えます。
25分だけの相談です。その中で先の見通しがたってほっとされる表情を見せる方もいらっしゃいますが、その後、その方が弁護士のもとに行っているのか、依頼されているのかは分かりません。
弁護士に相談し、依頼するのかどうか、法律・交渉の専門家である弁護士に代理人活動を依頼し、助力を要請するのかどうか。
それもその人自身の大きな判断・決断の一つです。
そして弁護士に依頼するときに、どういう弁護士に依頼するのか。
すべては自身の選択と決断です。
年末、年賀状を作成したり、年明け、いただいた年賀状を手にとっていると、ああ、この仕事は本当に人ととの出会いだな、いい方々と出会えて幸せだったなと実感します。
相談される方々が、そう思える弁護士に出会われることを祈っております。
また、自分がそう思われる弁護士の一人であるように精進したいと思います。
「あの弁護士、最悪やったわ。」と言われているようなことがあるかと思うとそこはやはり涙が出ます!「ふん、あんな相談者、二度とごめんやわっ。」と思えるくらいならきっと楽なのでしょうが。
(おわり)
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