商売をするのなら〜法律に無関心ではいられない〜【松井】
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先日、大阪弁護士会館の方で、司法修習生の方向けの「消費者契約法」についての研修講義を担当してきました。
この手のことがらに関する私の講師としての出来はともかくとして、2時間の研修のための準備を改めてしなおしていたときに、しみじみと思ったことを自分のメモがてら記しておきます。
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商売をするのであるなら、その売り物に対する思いと同時に、経営者である以上はやはり法律に無関心ではいられない、無関心では駄目だということです。もちろん、簿記・会計(特に、管理会計)の知識も必要だと思います。自分にその知識がないのであれば、詳しい人を雇うか、税理士との顧問契約で補い、あるいは弁護士との顧問契約で補うべきだなと思った次第。範囲が広いです、法律。
施行が平成13年4月1日の「消費者契約法」という法律があります。これは文字通り、消費者保護を目的とした法律であって、一定の場合、民法で定められた詐欺取消し等の他に、契約の取消しや条項の無効を定めています。
最近で話題になったのは、建物の賃貸借契約における「更新料」特約の無効判決です。大阪高等裁判所で判決されたものです。
ただ、実は、消費者の方からの相談において、使うことが多いのは、この消費者契約法ではなくて、特定商取引法と割賦販売法です。
特定商取引法の場合には、クーリングオフや、契約を途中解約したときの返金についての定めがあります。
ここで有名なのは、平成20年4月の英会話のNOVAの最高裁判決です。途中解約した場合の精算金の考え方について、NOVAの主張は認められませんでした。3本500円バナナを買ったところ、2本は要らないと返したときに、じゃあ500円÷3本×2本=333円を返してもらえるかというと、NOVAの計算方式は、本当は1本300円のものを3本500円特価で売ったのだから、1本食べたなら300円で、200円しか返さないというものでした。
このような規定は特定商取引法の清算条項に反するとして無効だとされ、333円返せとされました。
結局、これがきっかけの一つとものなり、途中解約が相次ぎ、資金繰りに窮して倒産にいたりました。
そのほかには、割賦販売法です。例えば、NOVAへのお金をクレジットカードを利用して支払っていた場合などです。NOVAに問題があった場合、途中解約をする、じゃあ残るクレジット利用による40万円の債務はどうなるのか?
有名だったのは30条の4に規定された、抗弁の接続というものです。残る支払いの請求は拒むことができる場合があることを定めています。
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特定商取引法に定められた一定の販売方法、訪問販売、継続的役務の提供などをしている場合、自分の商売が特商法の規制を受けるのかどうかのチェックは必須です。
また、信販会社の加盟店であって、お客さんがクレジットカードを使う場合、あるいは個品割賦販売を利用している場合も、割販法の知識は不可欠です。
ところが、たまに驚くことに、自身が特定商取引法の規制を受ける商売を行いながら、社長自身がそのことの自覚がない場合があるのです。
クーリングオフを意味することを主張されながら、なんでこんな主張を受けるのか?と不思議がっている場合があります。
いやいや、その商売はこの法律の規制があって、この条項をお客さんは主張しているんですよということになります。
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今後、さらに大事なのは、この12月1日から、新たに改正された特定商取引法と割賦販売法が施行されるということです。
消費者契約法は従前の特定商取引法や割賦販売法では不都合があった部分をフォローすべく新たに制定された経緯があるのですが、それでもやはり不都合があったということです。
不都合。
消費者を食い物にする業者です。本当にこの手の業者の手にかかれば一消費者なんて赤子の手をひねるようなものです。
そこで、昨年、特定商取引法と割賦販売法が改正され、めちゃくちゃ強化されました。 特定商取引法においては、指定商品制というものが原則撤廃されました。以前は、商品について指定されたものだけが対象だったのです。
しかし業者は、ここの間隙をついて、みそだとかを売ったりしていました。いたちごっこでした。
また、割賦販売法においては、抗弁の対抗として、今後の支払いを拒むだけではなく、場合によっては、すでに信販会社に支払った金員についても取り戻せるということを明記しました。
また信販会社において加盟店の管理についての義務も定めました。売り方等について苦情の多い加盟店を放置しておいて、「知らなかった」と言い逃れすることは出来なくなりました。
また別の項で、この特定商取引法と割賦販売法の改正についてはまとめて記しておきたいと思います。
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経営者は大変です。まっとうな商売でがんばって欲しいと思います。
(おわり)
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