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2009年9月 8日 (火)

「目には目を」の対応の不適切さ~建物賃貸借契約に基づく賃貸人の修繕義務と賃借人の問題など~【松井】

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 建物の賃借人と賃貸人との間のトラブルというのもよくうける相談の一つです。この場合、特に多いのが、賃借人が同建物、居室を借りて、営業している商売人の方の場合です。
 借りている建物のトラブルは、自己の営業、売上げに密接に関わってくるだけに、問題も切実だからだろうと思います。
 例えば、漏水や、建物の改修などのために、通常の営業が出来なくなっている、これに対し、賃貸人が適切かつ迅速に対応をしていればトラブルにもならないのですが、放ったらかし、賃借人の言葉に耳を傾けないようなとき、何ができるのか、どうしたらいいのかと弁護士のもとに相談に来られます。



 こういった相談のときに賃借人の方がよく言われるのは、「相手がこっちに対してきちんと対応してくれないのであれば、こっちも同じようにしてやる。」「賃料の支払いをストップしてやる。」ということです。
 
 しかし、賃貸借契約に限らず、こういう問題のときに私なぞがよく言うことは次のようなことです。
 「相手が誠実に対応しない、相手がやるべきことをやらない、そんなときこそこちらは山のように動ぜずに、相手に振り回されることなく、こちらとしてやるべきことをきちんとしましょう。付け入る隙を与えないようにしましょう。」
 ということです。

 つまり、賃料の支払いは賃借人の基本的な義務です。例外的に賃料の減額請求権等が認められているにすぎません(民法611条等)。特段の事情がない限り、賃料は賃料として支払いましょうといいます。
 また、よく法律相談などのときに訊かれるのは、夫婦間の離婚後の問題で、未成年の子がいらっしゃるとき、「元夫の父親が養育費を払ってこないんです。月1回、子どもを父親にあわせる面接交渉のとりきめもあるのですが、払ってこないんだから、こちらも子どもに会わせ必要はないんじゃないでしょうか。」「養育費を払ってきたら、会わせるということはできないのですか。」といったことです。
 
 「あっちがなすべきことAをしないのだら、こちらもなすべきことBをしない。」

 このAとBが法律上、同時履行の抗弁(民法533)にあるといえるような関係であるなら、上記のようにいえます。
 しかし、法律上、賃貸人が一部の修繕義務を尽くさない、誠実さがないからといって、賃料支払いの全額を拒める関係にはありません。
 また、法律上、子どもの父親が養育費を支払わないからといって、子どもに会う権利がなくなるわけではありません。
 それぞれ別々の義務となります。
 そのため、「Aを履行しないなら、Bを履行しない」という行動に出て、かえって紛争を複雑化させ、自分の方が大きなトラブルを抱え込むことにもなりかねません。



 賃貸借契約については、当初、賃借人として、単に修繕をして欲しかった、誠実に対応して欲しかったというだけで、その建物から出るつもりもなかったところ、賃料の滞納を一定程度続けると、賃貸人の方から逆に、賃料不払いを原因として、建物賃貸借契約の解除がなされてしまうのです。
 思いもかけない請求を受けるのです。

 また、面接交渉の拒否においては、養育費を支払わないということと父親と接するという子の福祉の観点においてはレベルのことなる問題であり、他に正当な理由なく、いったん取り決めた面接交渉の機会を奪うと、父親の方から母親の方に対し、不法行為によるものとして父親の精神的苦痛に対する慰謝料請求が100万円単位で認められているというのが実情のようです。
 
 相手が約束を守らなかったとしても、自身に課された責任はよほどの正当な理由がない限り、きちんと果たしましょうというのが法が考えるあるべき姿だということです。
 そうでないと実力行使の世の中がまかりとおり、混乱が混乱を引き起こすだけのことになるのだと思います。
 
 相談者、依頼者の方には、こう言っています。
 「相手が滅茶苦茶なときこそ、自分はきちんとしましょう。胸を張って生きていけるようにしましょう。」と。
 
 例えば、管理組合が適切な対応をとってくれないからといって、管理費の支払いをストップしても何の役にも立ちません。
 「相手を交渉の土俵に引っ張り上げたい?」
 そうであるなら、法的な手続を利用しましょうよ、ちゃんと用意されているんですからと言っています。


 ところで、法律、裁判所はまったく常識的だなと私が思う、気になる最高裁判例がありましたので、建物賃貸人の修繕義務、賃借人のとるべき対応ということでここにメモがてら紹介しておきます。

 最高二小平成21年1月19日判決です。判例時報2032号45頁に紹介されていました。
 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37200&hanreiKbn=01

 事案は、やはり営業目的で、老朽化していた建物の地下部分を借りてカラオケ店を営業していた人と賃貸人の間の、修繕義務と損害賠償債務の問題です。
 賃借人が、賃貸人がしかるべき修繕義務を尽くさなかったためにカラオケ店の営業が出来ず、結果、損害を被ったとして、賃貸に対し、営業利益損失等として損害賠償請求し、原審である名古屋高等裁判所金沢支部では約3100万円の損害賠償義務が認められたというものです。
 しかし最高裁は、これを破棄し、事件を差戻しました。

 原審判決では、重大な漏水事故が起こって賃借人がカラオケ店の営業が出来なくなってから、賃貸人が適切な修繕義務を尽くさなかったとしてその後、4年5か月間にわたる営業損害を損害としました。
 しかしながら、最高裁は、賃貸人が責めを負うべきものとなる損害について定める、民法416条1項は、
 

「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする」
と定め、上記約3100万円の損害は「通常生ずべき損害」にはあたらないだろう、もう少し事実関係を審理しなさいとしたのです。
 どういうことか。

 本件では、賃借人は、重大な漏水事故が起こってから3か月後、損害保険会社との契約に基づき、約3700万円の保険金の支払いをうけていたのです。
 この事実がポイントだったのかと思います。
 
 

「そうすると、遅くとも、本件本訴が提起された時点においては、被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく、本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは、条理上認められないというべきであり、民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上、本件において、被上告人が上記措置を採ることが出来たと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである。」

 しごくまっとうな、常識的な判断だと思います。
 紛争解決にとって、紛争を拡大、複雑化させないために大事なことは、感情を押しとどめて、一歩立ち止まったうえでの常識的な判断ではないかと思います。

(おわり)

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