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2009年9月11日 (金)

侵害額の算定と相続債務の扱い〜遺言と遺留分減殺請求〜【松井】

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*昨日9月10日は新司法試験の合格発表日だったようです。昨年、当事務所にバイトに来てもらっていたMさん、合格だそうです!偶然、裁判所の前でお会いしました。嬉しいです!事務所に戻って他のスタッフや大橋にも伝えたら、皆、大喜びでした。これからまた新たなスタート、頑張ってください!


 この前触れた、遺留分と相続債務に関する最高裁判例です。
 最高裁三小平成21年3月24日判決(判例時報2041号45頁)です。
 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=37455&hanreiKbn=01


 一般の方でもちょっと相続に関心のある方であれば「遺留分」という言葉は知っていると思います。
 そして流行の「遺言」を作る際においても、「遺留分」「遺留分」「遺留分を害することはできない」などという言い方をされます。
 そこで極端なのが、本当は子ども4人のうち、一人に全部をあげたいんだけど、「遺留分があるから」といって他の3名のものに対しては、遺産の遺留分相当額を相続させるといったような遺言です。
 1/2×1/4=1/8 を相続させるといったような遺言です。
 
 実際、相続が発生してから遺留分が問題となる場合、遺留分減殺請求権を行使して、実際に確保できる金額、財産評価額はいくらなのかというと、これを算出するのにいろいろと「算定」方法が定められています。
 実は結構ややこしいのです。
 きちんと算出する場合、「エクセル」は必須です。
 そのため、以前、弁護士会での家庭裁判所の担当裁判官を講師にしての相続研修においては、裁判官は、このように言っていました。
 「相続事件は、実は、弁護士さんは皆さん誰でも出来ると思っているかもしれませんが、実際には、特定の専門分野として複雑な内容なんです。」と。
 要は、きちんと勉強をせずに家裁に遺産分割などの申立てをしている方が結構いらっしゃる、勉強してきてくれということでした。
 またさらには、「相続は、計算方法の問題でもありあす。これは、いまやエクセル表が不可欠ともいえます。若い弁護士さんなら皆、エクセルを使いこなせているでしょう。ご年配で、エクセル表を使っていない方はぜひ若い弁護士さんと組んでされてはどうでしょうか。」
 
 やはり、なるほどと思いました。確か、もう2、3年も前の研修です。

 このように遺留分侵害額の算定といっても算式があります。
 ただ、そんなことはもうとっくに全て、解釈論は解決されているのではないかと思うのももっともだと思います。
 ところが、この前のエントリーでも触れたように、平成10年以降も続々と最高裁判決が出ているのです。
 そして、私自身、あ、こんなこともまだ解決されていなかったのかと驚いたのが、今回の平成21年3月の判決事例でした。


 遺留分については、民法1028条から1044条までの間に規定されています。
 1029条が遺留分の算定です。そして1031条において、遺贈又は贈与の減殺請求として、「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。」としています。
 ここでいう「遺留分」の額を算定するにあたって、相続債務はどのように取り扱われるかです。
 最高裁で問題となったのは、遺言があって、その内容は、相続人のうちの一人に対して財産全部を相続させる旨の内容であり、このとき、被相続人が負っていた金銭債務の法定相続分に相当する額を遺留分権利者が負担すべき相続債務の額として遺留分の額に加算すべきかどうかが争われました。

 なぜ問題になるかというと、相続債務については、民法899条「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する」として、金銭債務のような「可分債務」については、相続人らは被相続人の債務の分割されたものを承継するもの解されていたからです(最判昭和34年6月19日民集12.6.757)。
 
 どういうことかというと、被相続人Aさんは、不動産を含むプラスの財産約4億1000万円を有し、一方で、同じく約4億円の負債を有していました。相続人は子どもXとYです。
 そして公正証書遺言で、Yの相続分を全部として、遺産分割方法の指定として遺産の全部をYに移転する内容を定めました。
 これに対し、XがYに対し遺留分侵害請求をしたのです。
 
 そしてXは、その遺留分侵害額の算定にあたって次のように主張しました。
 プラスの財産約4億1000万円円から約4億円を差し引いた1000万円の4分の1である、250万円に、相続債務の2分の1に相当する2億円を加算して、Bの遺留分侵害額は2億0250万円に当たると主張したのです。
 これに対し、Aは、いやいや相続債務の2億円は、本件のような相続人の間では当然に法定相続分で分割されるというものではなく、遺言によってAがすべて負担することになるものであって、Bの遺留分侵害額の算定にあたっては加算されず、Bの侵害額は250万円だとして争いました。
 えっらい、おおきな違いになります。

 これは、そりゃあ、最高裁まで争うでしょうという事案だったようです。

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 で、最高裁はどうかというと、次のような判示となりました。直感的に、妥当な常識的な判断だと思えます。法的構成もまあ、そうだよねというものでした。
 こんなことが未だに争われ平成21年3月になって最高裁が判断を示さざるを得ないのが相続の法律の世界なのです。
 違う観点からいえば、あちこちにまだ落とし穴や地雷がありうる世界であって、本当に法律論、条文、最高裁判決、学説、知恵がないと「遺言作成の依頼を受けます」などと怖くて言えない分野なのだと思います。
 事案も平成15年7月に公正証書遺言を作成し、11月になくなってから、遺言の内容が不明確ともいえたために、結局6年もの間、相続人らは弁護士費用や時間、労力をかけて争わざるを得ませんでした。
 遺言を遺した被相続人も不本意ではないかと思います。

 最高裁の判断

「相続人のうちの一人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。」

 
「相続人のうちの一人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。」

 結局、さっきのXさんの場合の遺留分侵害額は、XとYとの間では負債2億円はYのみが負担するものということで、Xの遺留分侵害額算定においては考慮せず、結果、Bの遺留分侵害額は250万円ということで確定しました。


 問題のポイントは、判例時報の解説でも指摘されているように、
 

「本件遺言は、Yの相続分を全部と指定し、その遺産分割の方法の指定として遺産全部の権利をYに移転する内容を定めたものであるが、その効力がAの有していた金銭債務にも及ぶのかどうかが問題となる。」
ものです。
 
 そしてこの問題を考えるにあたっても、過去の裁判例などを敷衍する必要があります。
 
「相続人に対して財産を相続させる旨の遺言などにより遺産分割の方法が指定され、その対象財産の価額が当該相続人の法定相続分を超える場合には、相続分の指定(民法902条)を伴う遺産分割方法の指定であると解するのが一般的な見解である。」
こと、

 

「相続分の指定がされた場合、指定の効力が相続債務にも及び、共同相続人間の内部関係では、各相続人が相続債務についても指定相続分の割合により承継又は負担するものと解されていること。」

 

「相続させる遺言に遺産分割方法の指定の意味がある解するのであれば、遺産全部を一人の相続人に相続させる遺言がされた場合(対象財産の価額が当該相続人の法定相続分を超えることは明らか)には、特段の事情がない限り、相続分の全部が当該相続人に指定され、少なくとも相続人間においては相続債務についてもすべて同人が承継又は負担するものとされたと考えるべきであろう。」

 と指摘されます(判例時報2041号46頁。判例解説。)
 
 可分の相続債務の取扱いについては、債務についても「被相続人の財産に属した一切の権利義務」(民法896条本文)に含まれるものとして法定相続分(民法900条)によって相続開始時に当然に分割されると解されています。当事者間の特段の合意があればともかく、そうでない場合は遺産分割の対象にならないと解されています(民法906条)。既に分割済みだから。家庭裁判所の審判でも、当事者間の合意がない限り、審判の対象にはなりません。
 他方、民法902条では、
「被相続人は、前二乗の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。」
とあります。
 遺言で、相続分を定めることができるので、相続債務についても、相続発生と同時に分割されるとはいえ、その分割の割合を被相続人は遺言で決めることができると考えられるのです。
 そこで、相続債務の負担について、遺言者の意思の解釈という問題となって今回の事例も検討されたのです。


 遺言を作成するとき、前回の生命保険のことはもちろん、債務の負担についても検討することが不可欠だということです。
 本件でも、遺言でそのことが明記されていれば、最高裁判決まで争うという必要もなくて済んだということです。
 少なくともこれからは要注意です。
 検討すべきことが検討されずに、かえって紛争を拡大させるような遺言が作成された場合、遺言作成の依頼を受けたものは助言義務の注意義務違反に問われるということもありえるのかと思います。
 気をつけねば!
(おわり)

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