サントリー黒烏龍茶の「周知性」と「著名性」【松井】
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判例時報09/4/21号で紹介されていた東京地裁の裁判例です。
サントリーが、「黒烏龍茶」の真似をしたな等ということで「黒濃烏龍茶」等といったパッケージ商品を製造、販売等した業者を相手におこした裁判です。
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昔、関西の小さな小さな事業者のもとに東京の弁護士名義である日、内容証明郵便がとどきました。 お宅が使っている店名は不正競争防止法に反する、その店名を使うな、と。会社は神戸の会社でした。
びっくりした経営者の方は、法律事務所に相談に来られ、わたしが担当になりました。
曰く、この店名は真似をしたものではない、神戸のそんな会社は名前もしらない、これこれこういう思いでこの店名にしたんです、と。
当時から数年後の今では、宣伝広告にも力をいれたようでその神戸の会社の会社名も知る人は知るといった感じになっていますが、当時、わたしが確認したところでもあまり知られたものとはいえない状況でした。店名の選び方、その店名の意味の経緯からしても、「不正競争」だとは認め難い要素がいくつかありました。
そこで、対決姿勢を全面的に打ち出した内容証明郵便で反論を行いました。
一つ簡単にいうと、「あなたの会社名って、あなたが思っているほど知られてはいませんよ。特に、この地域やこの職種においてはなおさらね。」といった内容です。
刑事事件で、検察官が、公判を維持できない、有罪判決はとれないかもしれないというときは、嫌疑不十分を理由として不起訴処分とし、逮捕をしても、裁判をしないことがあります。
このとき、相手方は、結局、訴えを起こしてくることもなく、また再度、なんらかの通知も送ってくることもなく、そのままこの件は終息を迎えました。裁判をしても勝てない、つまりこちらの反論をそれなりに受入れたということです。
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で、サントリーの「黒烏龍茶」。
やはり損害賠償請求等をするにしても複数の法律上の根拠をたて、結果的にいくつかは否定され、いくつかは認められて、数百万円の損害賠償責任が認められています。
ただ、その裁判所の判断過程において、不正競争防止法上の「周知性」と「著名性」の有無が検討され、黒烏龍茶の商品表示について、平成18年5月売り出し、同年7月の時点で、「周知性」はあるけど、「著名性」はなかったと判断しています。
「著名性」が認められるかどうかで、不正競争防止法2条1項1号の「不正競争」の定義で必要とされる「他人の商品又は営業と混同を生じさせる」という要件が不要になるかどうかという違いが出てきます。
次のように判示されています。
ある商品の表示が取引者又は需要者の間に浸透し、混同の要件(不正競争防止法2条1項1号)を充足することなくして法的保護を受け得る、著名の程度に到達するためには、特段の事情が損する場合を覗き、一定程度の時間の経過を要すると解すべきである。
結局、サントリー黒烏龍茶は、新聞広告、テレビ広告などで、販売後2か月げ周知性は有しているが、短期間で著名性も獲得しているとの特段の事情も認められないので、当時まだ著名性はなかったと判示しました。
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法律って、厳密で、面白いなとも思うのですが、ときどきなんだか重箱の角をつついているだけでばからしいなという気がすることがないでもなく。
ただ、一方当事者の訴えを認めるか否かということは、他方当事者の権利等を制限するかどうかということにもつながるわけだし、条文もそのように丁寧に利益衡量を図って要件を定めているわけだから、これくらいが丁度いいんでしょうね。
でも実際、使う側となると、著作物性もそうだけど、紛争当事者としては、裁判になって裁判官に判断してもらうまでは、「周知性」があるのか、「著名性」があるのか、よく判断できないというのもなんだか法律っぽいなと思います。
数量で、Xが10を超えたら「著名性」あり、5までだったら「周知性」、5もないようなら「周知性」もない、といった風に法律の要件て定義できないところが面白いところでもあり。
ただ、訴えられた方はたまったもんじゃないなということもあると思います。
そんなとき、双方に弁護士がついて、共通言語で検討し、裁判の見通しについて見解が一致するというのが提訴前の解決として社会経済的にも最善なんだろうなと思います。
わたしが以前担当させてもらった上記のケースのように。事業者も、注意しながらも安心して本来の業務に専念できます。無駄な訴訟が一つ回避される。
東京の弁護士さんと共通言語でコミュニケーションがとれてよかったです。内容証明郵便1通ずつのやりとりでしたけど。
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