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2009年4月24日 (金)

ぱくったな、くらえ3連発!~真似って絶対駄目なの?~【松井】

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 「ぱくる」って、真似するということですが、真似しやがったな!というときによく出てくる法律上の根拠が3つあります。
 商標法、不正競争防止法、著作権法の3つです。


 毎月1回、親しい弁護士ら数名で判例勉強会を実施しているのですが、そこで取り上げられていた判例時報に掲載されいてた裁判例です(判例時報09/03/21号)。
 仙台地方裁判所平成19年10月2日判決。
 確定しているようです。
 仙台地裁。仙台といえば、「福の神~仙台四郎」です。
 私は知らなかったのですが、知っている人は知っている実在の有名人、仙台四郎さん。明治、大正のころ、彼が訪れた商店は繁盛するというのでその昔、仙台地方で「福の神」と言われていた人らしいです。で、彼の写真が一枚、歴史上、残っていて、それらが彼の死後もブロマイドのように商売繁盛の品として流通していたらしいです。

 裁判は、この仙台四郎さんを当て込んだ商品を開発製造販売した企業が、同じようなことを始めた企業を訴えたという事件でした。
 「ぱくったな、3連発」で商標法、不正競争防止法、著作権法をそれぞれ根拠として主張し、2000万円の損害賠償請求を求めました。
 が、しかし。
 すべて認められず、完全敗訴。控訴することなく、確定したようです。
 なぜ認められなかったのか。
 
 中小企業で、モノづくりの企画をし、開発、研究して、製造、販売した場合、その苦労にあとからただのりしてくるような「ぱくりや」さんは許せないと思うのはもっともだと思います。真似すんな!といいたいところだと思います。
 そこで、「ぱくったな、3連発」が検討されるのですが、これが結構、ちゃんと検討しないと無駄打ちになることもあるということです。
 09/04/21号の判例時報では、サントリー社の「黒烏龍茶」を巡っての訴訟の裁判例も掲載されていました。これもサントリーの主張がすべて認められたわけではないようです。
 問題なのは、どこでどう違法な「ぱくり」とそうでない「ぱくり」を見分けるのか、あるいは逃げ切るのか、だと思います。


 仙台四郎判決は、商標権侵害については次のように判示しました。

 

被告会社らによる本件被告標章の使用は、出所表示機能ないし自他商品識別機能を果たしていない態様で使用されている場合に当たると認めるのが相当であり、本件標章を侵害しているとは認められない。

 その前提としての法解釈としては次のように判示しています。
 

商標法は、商標とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(標章)であって、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用するもの若しくは業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用するものをいうと定義する(同法2条1項)。

 
一方で、商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標など、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することが出来ない商標については商標登録を認めないものとし(同法3条)、その上で商標権者は指定商品又は指摘役務について登録商標の使用をする権利を専有するものとし(同法25条)、商標権者に対し、商標権に対する侵害行為の差止め等の権利を認めている(同法36条)。

 
 
このような規定の仕方に鑑みると、商標法は、同法2条1項で定義される商標のうち、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる商標、すなわち商品の出所を表示する機能(以下「出所表示機能」という。)及び自他商品を識別する機能(以下、「自他商品識別機能」という。)を有する商標のみを権利として保護しているものと解される。

 

したがって、商標権者以外の第三者が登録商標と同一又は類似の商標をしようしている場合においても、それが商品の出所を表示し、自他商品を識別する標章としての機能を果たしていない態様で使用されている場合には、これが商標権の侵害に当たるということはできない(同法26条1項参照)

 仙台四郎さんという実物の人物の出回っている有名な写真をもとに商品化されたものという特殊性について、出所表示機能と自他商品識別機能という用語を使ってうまく解決した事例ではないかと思います。


 不正競争防止法違反についても次のように判示します。
 
 

被告会社らによる本件被告標章の使用は、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標章としての機能を果たしていない態様で使用されていると認めるのが相当であるから、かかる使用行為は、同項1号又は同項2号が規定する不正競争行為に該当するとは認められない。

 その理由としては、次のように判示します。
 

不正競争防止法2条1項1号は、「他人の商品等表示・・・として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用」するなどして「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を不正競争行為に当たるものと規定するところ、その趣旨は、人の業務に係る商品等表示について、同表示の持つ標識としての機能、すなわち出所表示機能及び自他商品識別機能並びにその商品等表示が有する顧客吸引力を保護し、もって事業者間の公正な競争を確保するところにあると解される。

 
また、同2号は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用」すること等の行為を不正競争行為として規定するところ、その趣旨は、著名な商品等表示について、その顧客吸引力を利用するただ乗りを防止するとともに、その出所表示機能及び自他商品識別機能が希釈化されることを防止するところにあると解される。

 
 
上記各規定の趣旨に鑑みると、同項1号及び同項2号が規定する不正競争行為に該当するためには、単に他人の周知又は著名な商品等表示と同一若しくは類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず、それが商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で使用されていることを要するものというべきであり、商品等表示が上記のような機能を果たす態様で使用されていない場合には、同項1号又は同項2号が規定する不正競争行為に該当するとは認められないものと解するのが相当である。

 
このことは、同法19条1項1号が、商品の普通名称又は同一若しくは類似の商品について慣用されている商品等表示を普通に用いられる方法で使用する行為については、同法2条1項1号及び2号の規定の適用を除外していることからも明らかというべきである。

 
 条文の規定の仕方、その趣旨から、限定的な解釈を施し、要件を定立し、事案のあてはめをしています。


 そして、著作権法侵害の主張に対しては。

 

本件原告商品は、著作権法の保護の対象である著作物に当たるとは認め難い。

 
 
本件原告商品は、いずれにも創作性を欠くものというべきであって、著作物に当たるとは認め難い。

 
 とにべもない判断をしています。

 曰く、
 

著作権法は、2条1項1号において「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定義し、同法10条において「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を著作物の例示として挙げている(1項4号)一方で、同法2条2項において「美術の著作物」には「美術工芸品を含むものとする。」と規定していること及び意匠法等の知的財産権制度の存在に照らすと、美的創作物のうち、実用に供され又は産業上利用されることを目的とする応用美術については、専ら鑑賞を目的する純粋美術とは異なり、著作権法上は原則としてその保護の対象とはならず、例外的に純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象となりうる程度の美的特性を備えている場合に限り、その保護の対象となるものと解すべきである。

 そして、商品に対しては、
 

本件原告商品が有する上記特性に鑑みると、それが独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとは認め難い。

 
本件原告商品のうち、仙台四郎の容姿を表現した部分又は本件商標部分以外の部分は、いずれも同種商品においてはありふれた形状、図柄等の表現方法というべきものであって、原告の個性が表現されているものとは認め難い


 原告企業は、「パクったな!」と思い、2000万円の損害賠償請求等をし、その根拠として、
 商標法、不正競争防止法、著作権法
 と使えそうなものは全部使ったけど、裁判所は、結局、どの理由も認めませんでした。
  
 福の神 仙台四郎。
 
 そもそもがあまりにも有名すぎて、原告だけがこの有名性を排他的に利用できるような結論はおかしいのではないかというのが根本だったのではないかと思います。
 数年前、企業の破綻の可能性について、あまりに大きな企業だと「大きすぎて潰せない」という言い方がされることがありましたが、仙台四郎については、有名すぎて独占できない、というだったんだと思います。
 というか、仙台の方では、実在人物仙台四郎さんの相続人など利害関係者も特に見当たらず、普通名詞のようになっていたということなんだろうと思います。
 原告企業が費やした、弁護士費用、訴訟のための労力を思うと胸が痛みます。

(おわり)

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