全体を見る、ということ〜弁護士の「仕事」〜【松井】
1
先日、平成9年、司法修習生の時代にお世話になった指導教官と久しぶりにお会いしました。
当然、修習時代の話になり。
今だから分かるけど、当時は、必死に頑張りながらも仕事としては全然、ダメダメでしたという話をしました。
右も左も分からない、要は全体が分からないから、だからこそ無駄な動きをいっぱいしてしまう。
それが実務を何年か経験すると、大橋のブログ日記ではありませんが、事件、紛争のだいたいの解決のしどころ、落としどころのようなものが見えてきます。頑張るべきところ、敢えて頑張らないでおく方がいいところ。
そういったことが、経験がないと、全体が見えないため、そこを頑張ったらかえって事件の解決が遅くなるというところに必死に時間をかけたり、不必要に肩の力の入った処理、動きをしてしまうのです。
それが、働きだして何年かすると、ものごとの緩急がなんとなく分かってきます。働きだしても、今思うと、5年目くらいまではただ単にがむしゃらで青かったなと思います。勤務弁護士であり、ボスがいたからこそ何とか仕事が出来ていたんだと思います。
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司法修習生のとき、それなりに必死で、修習生って大変だと思っていたとき、そんなことを指導担当だった方にエレベーターでの移動中、ぼやいたことがありました。
すると、「いいわよ、修習生は。仕事じゃないんだから。」と言われました。この言葉が司法修習中、ずっと耳を離れませんでした。「仕事」って何だろう。
そう。司法修習それ自体は、研修であって本当の「仕事」ではありません。
「仕事」というのは、自分の全責任をかけて第三者と向き合うことです。
弁護士でも、裁判官でも、検察官でも。法曹三者は、皆、自分の名前を出してその仕事をします。組織に所属しようが、勤務弁護士であろうが。
裁判官 ●●●●、 検察官 ●●●●、そして 「弁護士 ●●●●」。わたしなら、「弁護士 松井淑子」です。
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仕事である以上、単なる自分の自己満足ではなく、依頼者の満足を獲得しなければなりません。結果が全て。そうすると。自ずと、全体像を把握して、今、これをすることに一体何の意味があるのか、どこにどうつながるのかということを常に考える必要が出てきます。
自分の自己満足のために、依頼者の利益にならないことをしても、それは仕事ではない。
裁判って、正直なところ、これは戦ってみたい、訴訟活動をして勝訴判決を勝ち取りにいってみたいと思うものがあったとしても、そのことで、100を取りに行って0になる確率が低くはないのであるなら、60で収めるというのも依頼者の利益を考えたらあり得ることです。
なんでもかんでもイケイケドンドンで裁判をするのって、弁護士の仕事としてはあり得ないと思います。
結局、それは、そういったリスクを説明したうえで、それでもということになるのかどうか。これは、当事者の方の判断、決断になります。
弁護士が、「訴訟にしましょう。」「訴訟にしたらどうですか。」ということはまずないと思います。
どうしてもそうせざるを得ないとき、解決のためにはそれしか選択肢がないときだと思います、訴訟になるのは。交渉を蹴って、訴訟を受けてたつときも。
とりつくしまのない態度って、損です。まずは交渉のテーブルにつかないと。逃げても物事の解決って、あり得ないです。
訴訟になったらどうなるのか。全体を見て、先の先の先を見て、判断して欲しいと思います。その方の利益のために。
まったく不合理な要求であれば、放っておいて、訴訟してもらってそこで片をつけるという選択肢ももちろん、ありますが。
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まあ、どういうことかというと。相手に弁護士さんが就いているときは、就いているときこそ、ぜひ弁護士さんにご相談を、ということ。
自分のことに関して、自分は弁護士ではない以上、訴訟で代理人活動を経験したことがない以上、それを「仕事」にしている弁護士に比べたら、「先の先の先」が見えた判断はなかなか出来ないですよ、ということです。
結局、損する可能性が大です。結論が出てから弁護士に依頼しても後の祭りです。
相手方の方であっても、最後、その結論が見るにしのびないときがないわけではなく。調停のとき、こちらが提案した案にのっていればもっとましだったのに、と。
遺産分割の審判決定が出てから、即時抗告審で弁護士に依頼しても、ひっくりかえることはそうそうないですよ。
交渉段階、調停段階で弁護士さんに相談、依頼されていれば、もっと利益になる合意が得られたのに、ということが多々あります。
その提案がどういう意味をもつかということが、全体が分からないので、適切と思われる判断できないのだと思います。
感情、意地だけで動いたりということがよくあります・・・。
(おわり)
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