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2008年12月17日 (水)

根拠の検証〜考えつづけないと〜【松井】

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 大阪弁護士会主催の研修に参加しました。
 「無実の人がなぜウソの自白をするのか?~アメリカ125の虚偽自白の研究と取調べの可視化、そして弁護実践~」というものです。
 ノースウェスタン大学のスティーブン=ドリズィン教授の講演です。虚偽自白の専門家とされる教授です。


 刑事事件は民事事件とは全然違います。
 刑事事件の場合、弁護士としては、相手はまさに国家権力です。
 民事訴訟も相手は裁判所、国家権力ですが、刑事事件だと、訴訟の前の捜査段階において、警察、検察官、そして裁判所が登場します。
 これらに対し、被疑者、被告人を依頼者として活動します。
 いったん逮捕され身柄を拘束されると、最長48時間+21日間、身柄を拘束されます。
 この間、何がなされるのか。
 捜査活動の一環としての取調べです。警察官から取調べを受け、検察官から取調べを受けます。
 取調べの結果は、調書として書面化されます。
 これが、裁判のときに証拠として検察官から裁判所に提出されます。


 被疑事実を否認している被疑者の弁護活動としての最大のポイントは、自白調書をとられないようにすることだと言われています。
 なぜか。
 やっていなくても、人はウソの自白をしてしまい、それが調書にとられるからです。
 でも、だったら裁判になったときに、あれはウソの自白調書ですといえばいいのじゃないか、裁判所は聞いてくれるはずだ、と多くの人が思っているかもしれません。

 現実は、違います。
 やってもいないことをやったというわけがない、という考えがあります。
 特に、たとえば重大犯罪、重罰がまちうけるような罪に問われているときは、死刑になるかもしれないのに、殺しましたなんていうわけがない、と。


 ドリズィン教授はこの点を研究しました。
 自白をしていたけど、後に、DNA鑑定などによって無実が明白になった被告人達の事例を。
 「虚偽自白事例の81%が、米国では死刑宣告をうけかねない罪である殺人罪に対してなされたものである。
  DNA鑑定により疑いが晴れた最初の200件のうち、強姦・殺人事件の41%、殺人事件の25%に虚偽自白が含まれていた。
  200件のうち7件で虚偽自白をした人が死刑判決を受けていた。
  虚偽自白をした人の大半は、知的障害や精神疾患のない成人だった。」

 統計結果からすれば、「罪を犯していないなら、罪を犯したという自白をするわけがない。だから、つくられた自白調書は信用できる。」という理屈が、実は根拠のないものであることがわかると思います。
 
 ドリズィン教授は、「虚偽自白のタイプとして」として次のように挙げています。
 ・強要されて迎合した自白ー危害を受ける恐れから、または減刑の約束に応じて自白を行う
 ・ストレスによる迎合^法的に妥当な範囲を超えた取調べによる極度のストレスからの逃避のために自白を行う
 ・信じ込まされた/取り込まれたー罪を犯した記憶がないのにもかかわらず、自分がやったに違いないと認め、心から、ただ往々にして一時的に、罪を犯したと信じ込む


 以前、殺人の被疑事実で逮捕された方の弁護をつとめました。否認事件でした。警察官は日々、過酷な取調べを行っていましたが、なかなか自白調書がとれませんでした。
 そこである取調官はこう言って「自白」をするように促しました。
 「あなたの後ろに被害者の霊が見える。被害者がうらめしそうにしている。良心の呵責を感じないのか。」
 取調官もプレッシャーがあります。逮捕勾留中に自白調書をとらなければならない、という。焦りの結果の取調べだったのだと思います。この焦りがいきつくと、自白をとるための被疑者への暴行、拷問になるというのが歴史だと思います。そして、やってもいないことについて、やりましたと言ってしまう。
 司法修習生のとき、刑事弁護についてベテランの弁護士が言っていました。否認事件での捜査弁護活動で一番大事なことは何か?
 毎日、被疑者に会いに接見に行くことだ。
 何を原始的なことを言っているのかと当時は、驚きました。
 しかし。実際に自分が弁護士として初めて否認事件の捜査弁護をしたときに実感しました。自白調書をまずはとられまいと、取調官との戦いです。被疑者を励ます必要があったのです。これが日本の刑事事件の実情でした。
 

 アメリカでは、法律で、取調べ官によるすべての取調べの過程が録画録音するように定められているということです。なぜそのような法律が出来たのか。その法律の立法事実はアメリカに妥当することで、日本には妥当しないといえるのか。
 
 民事裁判でももちろんですが、刑事裁判では特に、その「考え」の「理屈」が本当に検証に耐えうる「科学的な根拠」があるのかどうかということが厳密に検討されないといけないと思います。
 人間心理、経験則に対する、本当の深い理解が必要だと思います。
 「殺人を犯していないのならば、殺人を犯しましたなどと喋り、自白調書が出来るわけがない。」
 この理屈に根拠があるのかどうか。
 何事に対しても、疑いをもってかかる心構えが大事です。考えることをストップしたら、おわりです。
 「まてよ。果たして、本当にそういえるのだろうか。何かあるんじゃないのか。」

 まず、すぐに出来ることは。
 その人の声によく耳を傾けることだと思います。
 「自白していたくせに、裁判になったとたんに否認するなんて。」

 耳を傾けることを止め、考えることを止めたら、おわりだと思います。
 
(おわり)
 
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「おまかせ」ってあまり好きではありません。考えなくていいから楽だけど、考える楽しみを自分で放棄していることでもあり。ただ、敢えて「おまかせします」といって相手を、お店を試している人もいますよね。何て意地悪なと思ったことがあります。

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