ご縁【松井】
1
3年ほど前、突然、相談・依頼を受けました。取引先の会社から弁護士名で内容証明郵便が来た、身に覚えのないことが書かれ、数百万の請求を受けている、と。
自身の会社で対応するよりも、弁護士に相談し、自分の方も弁護士名で対応したほうがいいとの判断をされたとのこと、しかし普段、弁護士との付き合いもなく、どこにどう頼んだらいいか分からない、とりあえずネットで大阪市内の弁護士を検索すると、当時でも既にいくつかの法律事務所がHPを持っている、その中でうちの事務所を選び相談されたものでした。
男性弁護士よりも女性弁護士の方が、何かとしんどい状況でがんばっているにちがいないから、女性弁護士に相談した方があたりの可能性が高い、と判断したという率直なご意見でした。
大阪ふたば法律事務所では、敢えて一見さんお断りといったことをしておりません。この方のように本当に困り、弁護士のサポートが必要な方、しかし弁護士を紹介してくれる知人がいないという個人の方、企業の経営者の方はごまんといると考えているからです。
ただ、なかには単に弁護士名を利用しよう、弁護士をいいように利用しようという方もいなくわないわけで、内容によっては相談段階で、依頼はお断りすることももちろんあります。ほかにも弁護士はいるので、あなたの希望に添える弁護士はほかにはいるかもしれませんが、当事務所ではお断りさせていただきますという方です。
2
相談から、さらに事情をよく聞き、資料等も見せてもらったところ、反論は十分に成り立つと判断しました。その方の主張はもっともでした。
相手方の弁護士には、請求に応じる意思は全くないこと、その根拠事実等について記した書面を送りました。
結果、訴訟を起こされるか否かですが、提訴されることはありませんでした。
証拠、主張が提訴に耐えない、訴えても敗訴すると判断したのか、あるいは何らかの事情があったのかもしれません。それは分かりません。
結果、3年ほどの歳月が流れました。
事務所の保管記録にある当時の記録の背表紙が目に入り、その後何の連絡もないということはよい知らせなんだろうなとぼんやりと当時のことを思い出していました。
すると、現在は東京で新たにお仕事をされているという当時の経営者の方から、新たな件で相談の電話を受けました。
驚きました。
おそらく誰でもそういうことがあるかと思います。同時性?だったかなんとかいう言葉。
3
いずれにしても、過去、ご縁があった相談者の方、依頼者の方から、ご連絡をいただくというのはやはり嬉しいものです。
暑中見舞い、年賀状等で、近況を記したお返事をいただいたり。
終わった事件でも、その後、どうされているのかなとときどき思い返します。
本当は、皆、弁護士などと一度つき合ったら、それっきりがいいに決まっていると思います。
新たな紛争との関わりであれ、あるいはこれから向き合う困難な状況に対するアドバイスを求めるものであれ。
何かトラブル、紛争等の関わりでしか、普通、弁護士との接点なんてあり得ません。
過去の依頼者の方から新たに連絡をもらうとしたら、たいていは新たなトラブルに対する相談です。
それはこの職業上、やむをえないのかもしれません。
ただ、なかには、新たに商売を始める、あるいは新たにこういったビジネスをするけどその際の注意点、アドバイスを求めてご連絡をいただくこともあります。
こういうときは本当に嬉しいです。
がんばって成功して欲しいと思います。
そのためには、紛争予防のため、こういった点を気をつけたらいいといったことをアドバイスできます。だって、弁護士は失敗事例を多く見ているから、多くの人がどういった点でしくじるのかを知っています。ということは、その点について予め対策をたてておけばトラブルを未然に防ぐことにつながります。
新たな紛争の相談であっても、早めにご相談いただくことにより紛争がそれ以上拡大することを防げたり、不安だった気持ちが落ち着いたりして、笑顔で帰っていただけることもあります。
4
因果な仕事だと思うこともありますが、やはり解決したりしてほっとした表情で依頼者、相談者の方と別れるとき、役に立てて良かったなと心から思います。
この仕事のやりがいは、そこにしかありません。
自分のことだったらたいしてがんばらなくっても、人のことだからがんばれる、さらにはその方ご自身が本当に一生懸命とりくんでいたら、なおさらです。自分が人間として役に立っているという実感。
そのために、何か出来ることはないか、何か使える理論はないか、何か使える判例はないか、何か相手の弱点をつけることはないか。
必死で考えます。
理論が先にありきではなくって、結論、価値観が先にありきです。法理論なんて後づけです。
もちろん、法理論のない戦いは、負け戦です。
しかし、「この結論はおかしい!」という価値観が、法理論や証拠を探す原動力になります。
そのことは、何度か書いていますが、弁護士2年目くらいのときに関わらせていただいた、兵庫県の自立支援金不支給の訴訟で学びました。
原告の女性はたった1人で、県を相手に戦いました。
先輩弁護士たちや、サポート団体は、その彼女と一緒に戦いました。
兵庫県の判断はおかしい!との思いで。
理論はあとからついてくる、走りながら考える。
このとき、裁判所は、地方裁判所も、高等裁判所も、応えてくれました。たった1人の原告だった女性は、勝ちました。
「おかしい!」と思うこの気持ちが原動力です。
諦めるのは簡単です。諦めないで追及するということは困難な道のりです。
それを乗り越える原動力は、気持ちしかありません。
依頼者の方は、おかしい!という思い。
そして代理人は、この依頼者の方の気持ちに対する共感です。
そういう意味では、依頼者と代理人弁護士とのご縁は、「類は友を呼ぶ」なのかもしれないなと思っています。共感のないところに代理人関係はあり得ません。
ご縁って不思議だなとときどき思います。
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