渉外相続の実務に関する研修会【松井】
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先日、日本連合会主催の「渉外相続に関する実務に関する研修会」13時30分〜17時00に参加しました。
自分用のメモがてら、ブログにアップしておきます。
第1部 韓国渉外相続の実務 近似の実務上の留意点について
〜近似の韓国家族法の改正点ほか〜
裵 薫 弁護士(大阪)
第2部 外国人の遺言
〜外国人遺言作成上の実務上のノウハウ〜
本間 佳子 弁護士(東京)
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相続事件を多く扱うなかで、被相続人が韓国籍の方の事件をいくつか担当させていただいてきました。
準拠法が韓国法となるため、それなりに韓国の相続法の事柄は、比較的資料、文献が入手しやすいこともあり、分かっているつもりではいました。
が、やはり。フォローしきれていませんでした。知らなかった事柄がいくつかありました。
常時フォローしているわけではない案件を新しく担当する際は、念のためにと常に最新情報をチェックする必要があります。
ここ数年で怖いのは、出版物でのフォローでは間に合わないことがあるということです。
出版社による出版物はそれなりに編集作業がほどこされているので情報の精度は信頼できるのですが、スピードがネットに遅れることがあります。
弁護士も、まずはネットで検索する必要があります。そして文献でチェック。また人のネットワークも重要です。経験者の方に教えてもらうのは早いし確実です。
ネットの検索は、当然、開設者によって掲載情報の信頼性がまったく異なるのでこの点が注意ですけど。
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「外国人の遺言」は、上記のとおり、被相続人が韓国籍の方のものについては比較的なじみがあるのですが、それ以外の国の方のものについては、アメリカといった何となくポピュラーな国籍の方のものであっても、経験している弁護士はなかなか少ないのではないかと思います。
私自身も数えるほどしかありません。
今回の講演の本間佳子弁護士も、アメリカ国籍の方のものは10件程度だと仰っていました。
その際のポイントとしてレジュメで挙げておられたことをメモしておきます。
外国人の遺言作成上知っておきたいこと
⑴ 遺言の方式
⑵ 遺言の成立と効果
⑶ 遺言の内容
⑷ 遺言執行者の指定と権限
⑸ 外国法に基づく他の遺言との関係
その他の留意点
⑴ 相続税
⑵ 遺言執行時の問題(相続人の確定、検認など)
約90分の講演でのお話は、私にとっては一応、確認作業になり、安堵するものでした。
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講師の弁護士が何度も強調されていたのは、ニーズはあるのだということでした。
また、最後に仰ったのは、日本での外国人の遺言作成についてはニーズがあり、しかもやりがいがあるということでした。
遺言を作成しようとする外国人、アメリカ国籍の方の多くの意識としては、自分の死後、遺された配偶者や家族の方を守るという意識で行動されていることが多く、そのことに弁護士としてサポートし、サポートをしていくなかで信頼をうけるといった点、仕事としてもやりがいを感じると仰っていました。
講演を聞きながら、1人激しく共感していました。
日本国籍の方が普通に日本で遺言を作成しようとする場合、確かに、子ども達が紛争にならないように、あるいはこの子には多くを相続させようといった意味で、相続人を守ろうという意識が確かにあります。
ただ、たまたま今、日本で暮らしているという外国籍の方の場合、もっと切実な思いがあるように思います。
本間弁護士が仰っていたのは、自身も、アメリカで暮らしたり、立法支援活動としてカンボジアで2年ほど暮らしたことがあるが、言葉に不自由しなかったとしてもやはり異国の地では何かと不安で、心細い思いは常にある、だからこそ、日本で暮らしている外国人が日本で遺言を作っておこうという気持ちは、よく分かる、それは自分の死後、自分の家族に対し出来る限りのことをして守りたいという意識が余計に働くのだろう、ということでした。
そのとおりだと思います。
弁護士として不慣れな点はあるかもしれないが、それでも訪ねてもらった以上、弁護士として出来る限りのことをしてサポートしたい、愛する家族を守りたいという思いに応えたいという意識に突き動かされるのだと思います。
自分が外国で暮らしていたら、同じような思いになるだろうなと思います。そんなときやはり力を貸してくれる、信頼できるプロフェッショナルが欲しい。
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ただ、アメリカでは、Estate Planning の一環として遺言を作り、さらには信託制度が発展しているので、財産の一部に信託(Trust)を設定することにより、相続税対策が可能という面もあるようです、遺言が利用される理由の一つとして。
数年前、相続特集で、日本テレビの「思いッきりテレビ」に出演させていただいたとき、ゲストだったダニエル・カールさんが仰っていました。毎年、遺言を作っていると。遺言を作成するというのは、ごく普通のことだったと。そんなもんかと聞いていたのですが、たぶんそうなのでしょう。
ネットサーフィンをしていると、西海岸にEstate Planning 専門の弁護士のサイトもありました。
ただ、これも以前、アメリカの信託制度に詳しい元金融マンで、現在教授をされている方とお話をしていたときに聞いたのでは、アメリカでは、信託制度といっても個々に非常に詳しい内容の契約を交わしているので、信託制度が発展しているというよりも、契約文化が発展しているのであるといったことでした。
日本の信託法は、最近、事業承継などとからんで改正、注目されてはいますが、税務上は、やはり信託制度の利用による課税逃れといったことがらはなかなか出来ないような仕組みになっているようで、今後、信託法としてどうこうというよりも、おそらく、ニーズに対応した契約内容、超超超具体的な内容の、ごっつい、分厚い信託契約書を作成するくらいでないとなかなか相続関連については信託制度は使えないのかなという気もしています。
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講師の弁護士は、アメリカ留学もされておりニューヨーク州の弁護士資格も持っておられて、英語には不自由しない弁護士のようでしたので、その点、非常に羨ましく思いました。
以前、ニューヨーク州法の相続関連の内容を調べようとしたのですがうまく文献にたどり着けず、同じくニューヨーク州の弁護士資格をお持ちの大阪の弁護士にお世話になりました。
ああ。
せめて読みに不自由しない程度に英語の勉強をしたいと思います。
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