でた!最高裁の「信義則」!〜民事再生法の不認可事由〜【松井】
1
私は会社の代表者。息子二人も取締役。
会社の資産はテナントビル一棟。これで不動産賃貸業を営み収益を得ているわ。
でも、バブルの平成元年ころ、富士銀行から4億円を借りたの。
もちろん担保は差し出したわ。そうよ、このビルよ。
根抵当権を設定したの。極度額4億円。
それと私は、もうひとつ会社を経営しているの。
この会社も、ABCキャビたる有限会社からお金を借りてるワ。
で、私の会社が連帯保証をしているの。
2
事業は順調だった、はず。
だけど、平成11年、株式投資に失敗してしまったの。
こまったわ。
債権者は富士銀行だったけど、いつのまにかあの整理回収機構になってしまったわ。
返済の話し合いをするけど、まとまらない。厳しい!
ああ、どうしたらいいのかしら。
そうだわ!
民事再生法という法律が出来たワ。
事業を継続させるためにはこのビルが必要なのよ!ということであれば、
抵当権を消滅させてくれるわ、裁判所の許可があれば。
そうよ、この制度を使って立ち直るのよ。
このままでは、ビルを取られて、会社を潰すしかない。
でも、民事再生法なら・・・。
3
あら、再生計画案の可決の要件とやらがあるわ。
えっと。
民事再生法172条の3 第1項。
1号ね。 議決権者の過半数の同意。
そして、2号。 議決権者の議決権の総額二分の一以上の議決権を有する者の同意。
えっと。
債権者は、1 整理回収機構でしょ、2 ビルのテナントさん。これは保証金返還債権ね。3それともう1社、テナントさん。
あとはあ。 4 私個人でしょ。 5 そして、私のもう一つの会社。 6 あ、この会社の連帯保証をした分で、ABCキャピタルね。
きっと、整理回収機構にテナントさんらは反対する。
すると、あら!「議決権者の過半数の同意」は得られないわ。
他の3社で、債権総額の2分の1以上はあるのに!
きーっっ。どうしましょ、どうしましょ。
このままではビルを取られて、会社も潰れるワ。
4
そうだわ!閃いたわ!
冴えてるわ!私。
頭数が足りないなら、増やせばいいのよ。
債権者数を増やすといえば。
らん、らん、らん、らん。
息子、息子。息子甲男、ABCキャピタルさんから債権をもらっておいで。
ABCキャピタルさんに損になる話はできないだろうから、うまく交渉するのよ。
母さん、母さん、債権をもらってきたよ。
じゃあ、あなた、その債権の一部を息子の乙男に譲りなさい。
はーい。
はい、どうぞ。
これで、債権者ABCキャピタルだけだったのが、息子甲男に、息子乙男と増えたワ。
債権者、RCCにテナント2社の3者 VS 私、私の会社、息子甲男に、そして息子乙男の4者。
そうよ、3対4 !
これで過半数を超えるわ!
ふふふふ。民事再生法よ!
そして、甲男と乙男が債権者となってから1ヵ月後、民事再生の申立てをしました。
5
こんな事案に対して、最高裁は。
同様の事案に対する判断が、平成20年3月13日最高裁第1小法廷の決定としてありました。
(判例時報7月1号)
不認可事由が定められた民事再生法174条2項3号所定の
「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」に、
再生計画案が信義則に反する行為に基づいて可決されたときが含まれるとし、
本件のような事案は、
民事再生法172条の3、1項1号の趣旨を潜脱し信義則に反する再生債務者らの行為に基づいて再生計画案が可決されたとして、不認可事由にあたるとされました。
法172条の3、第1項1号の頭数要件は、少額債権者保護をその趣旨としています。
上記のようなケースで怒ったのは、RCCとテナント債権者でした。
再生計画案が可決され、再生裁判所はその日に、不認可事由はないとして認可したのですが、怒った債権者らが即時抗告をしたのです。
そしてこの最高裁の決定となりました。
社長の目論みははかなくも崩れ去りました。
再生申立てをしたあと、この会社は、有限会社XYZインベストメントから2億円の融資を受け、再生債権額の1%を弁済すると再生計画案を出していました。
でも、RCCらにしたら、破産してもらったほうがより一層、回収できた場合でした。
ある意味、正面突破を狙い、見事に砕け散りました。
法の間隙を狙うような姑息とも言える表面的なやり方では、最高裁までは突破できないというケースではないかと思います。ワイルドサイドを歩いても、ダークサイドには近寄らないのがベター。結局、損する。粘る、ということも大事なときはあるけど。
(おわり)
ランチタイム。そば屋で窓の外を眺めながら侘び寂びを考える。
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