電気室、再び〜分譲マンションの電気代〜【松井】
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いわゆる電力自由化によって、電気供給契約において、関西電力、東京電力といった既存の電力会社以外の会社が関与できるようになっているようです。
このような状況の中、新しい会社がどういった契約システムで営業をしているのか知る機会がありました。
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例えば、私が知っているのは次のような事例。
分譲マンションの管理組合に対して営業をかける。
セールスポイントはというと、今、各戸が関西電力に支払っている電力が最大10%お得になりますよ。
そのシステムはというと。
分譲マンションには、6000Vの電気を一般家庭でつかえる100Vに変換する変電設備が必ずどこかにあります。
いわゆる「電力会社の借室問題」というのは、この変電設備が関電の所有する設備であるにも関わらず、消費者であるマンション所有者らがその敷地、空間を関電に提供して、電気の供給を受けている、しかも提供は無償であるという点です。
何がおかしいのか。
一戸建て住宅と比較した場合、マンション所有者らが同じ一般消費者であり低圧電力での契約をしているという点で同じである。一戸建て住宅の場合は、この高圧を低圧にする関電の変電設備は電柱にとりつけてあって、一戸建て所有者である消費者は電気の供給を受けるにあたって特別な負担はありません。ところが、マンション所有者らの場合は、上記のように無償で敷地、空間を関電の設備のために提供させられているという点で、余計な負担を負わせられているということです。
新築の分譲マンションにおいては、工事段階で、デベロッパーと関電とで、変電設備のための空間を無償で提供するという合意書が取り交わされていたりするようです。
このような状況において、新しい会社は分譲マンションの管理組合に営業をかけるわけです。
つまり、各戸は、低圧電力での契約をしているところ、事業者用の高圧電力での契約に変更させるわけです。
事業者向けの高圧電力で関電と契約すれば、単価が安くなるので、マンション各戸あたりの電気代も当然に安くなるのです。
ただ、この場合、管理責任者を用意したりしないといけないという、一般家庭の低圧電力での契約とは異なる負担が生じます。
この点を、新しい会社が、関電に代わって、管理組合、各住戸に代わって提供しようというのです。
電気料金の差額のところで、利益を得るわけです。
ただ、このようにシステムを変更するには、関電の設備である既存の変電設備を撤去して、新たに変電設備を設置しないといけないようです。関電の設備をそのまま譲り受けるといったことは出来ないようです。
すると、この新たな変電設備は誰のものなのか。
管理組合が購入するのか?
それでは新たな設備投資を管理組合が負担することとなり、参入障壁は高いものとなります。
この新たな変電設備は、新しい会社が投入するわけです。それが、自社所有なのか、リースなのかはともかくとして(たぶん、リース)。
このような状況から、新しい会社と管理組合との間の契約スタイルが導かれます。
すなわち、
契約期間は、10年!
長っ。
新しい会社は、この長期にわたる契約期間でもって管理組合を拘束することにより、設備投資の費用を回収するシステムです。
変電設備がいくらのものかまでは、まだ分かりませんが、10年をもって回収せざるを得ないような金額ということでしょうか。
あるいは、ただ単に、長期拘束して儲けを確保しようとしているだけなのか。だとしたら、欲がすぎるかと。
すると、管理組合が検討しないといけないことは明らかです。
この新しい会社は、10年間、潰れないのかどうか。
仮にもし、契約期間中に事業廃止、倒産等に至った場合、管理組合には最悪、どれだけの出費が発生せざるを得ないのか。
新しい会社が破産した場合、その会社所有の変電設備であれば、マンション管理組合に買い取るように打診があるでしょう。価値があるにもかかわらず、管理組合が買い取らないのであれば撤去して売却します。あるいはリースであっても、同じです。
撤去される可能性があります。
電力の供給自体は関西電力に法的な義務が有る以上、マンションの各戸は新たに元通りに関西電力と契約すればいいだけでしょう。
ただ、変電設備について、新たに関西電力が無料で設置してくれるのでしょうか。そんなわけはないかと思います。
だとすれば、いずれにしても最悪、管理組合、マンション住人らは、新たに変電設備を設置しないといけない、その費用負担のリスクが発生するのです。
これがいくらなのかというのがリスク計算の大事なところだとは思います。
常に最悪の事態に備える。
新しい会社が、例えば、自社が倒産あるいは事業撤退した場合、承継企業がこの費用負担をしますといっていても、そんな言葉に承継企業が拘束される法的根拠は、当然、ありません。
パンフレットの謳い文句を無防備に信じる人々がほとんどかと思いますが、常に疑ってかかってください。
常に疑ってかかることが、消費者被害を防ぐ術、自身を守る術となります。
この会社は10年の長期契約を求めてきているけど、10年経づして潰れたらどうなるのか。
まず、潰れる可能性はどうなのかの確認。
潰れる可能性としては、信用できないものである可能性も高いけど、まずは財務状況を確認する必要があります。
営業をかけてきた会社に対して、過去数年の財務諸表の提出を要求してください。
そしてのその財務諸表を信頼できる人、財務諸表を読み解く能力のある専門家に見せて、意見を聞いてみてください。
そもそも財務諸表を出せないという会社は、その時点で、見せられない会社の資産状況なんだと判断すべきでしょう。
つまり、10年の契約を結んでも、10年もたない可能性が高いといえる。低いとする根拠は何もない、ということです。
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分譲マンションにお住まいの方々。
疑い深く、最悪の状態を考えてください。
例えば、連帯保証債務を請求された方は皆さん、こういいます。
「絶対、迷惑はかけないといわれたから、契約書にサインしたのに。」
人の言葉ではなく、法律と数字をチェックしてください。ウラをとってください。
利益に比して、それはハイ・リスクなのか、ロー・リスクなのか。
日常のベースとなる住居に関する事柄については、ハイ・リスク、ハイ・リターンの商品を買う必要はないとわたしは思います。
(おわり)
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