頭の中のまついちゃん【松井】
1
たったったっ、たったったっ。
まついちゃん1号が時速5キロほどで軽快に走り続ける。
その横をまついちゃん2号が時速10キロほどのスピードで通り過ぎていく。
顔は苦痛で歪んでいるが、風を切り続けて、何かに終われるように走り抜けていく。
はるか後ろではまついちゃん3号がまついちゃん4号と肩を並べ、楽しそうにしゃべりながら散歩するかのようい歩いている。新しい情報が得られた模様。
その前ではまついちゃん5号が、時速13キロで走り終えたところで、両手を両膝について、苦しそうに立ち止まって肩で息をしている。
まついちゃん6号は皆からちょっとはなれたところでベンチに座り、調べものか分厚い辞書のような本を膝の上にのせて覗き込んでいる。
まついちゃん7号は走りたくても走れない状態で泣きそうな顔であたりをきょろきょろとしている。履くつもりだった靴が片方、見当たらないよう。
あちらこちらで、まついちゃんが何かをしている。
頭の中の「まついちゃん」。
2
依頼者の方の事件ごと、それぞれに「まついちゃん」がついている。
常にまついちゃんは動いている、誰かが何かをしている。
時速13キロで最初から最後まで走り抜けることもあれば、走ったかと思うとときどき水分補給をしたり、あるいは栄養補給とバナナを食べたり、あるいは体力温存とベンチで休憩したり、あるいは情報収集にと人と接したり、本を読みふけったり。
頭の中にいる最大50人のまついちゃんは常に動いている。本体のまついちゃんが眠っていようが、頭の中のまついちゃんは常に誰かが何かをしている。布団の中で夢を見ているとき、朝トイレの便器に腰掛けているとき、電車の中でドアにもたれ揺られているとき、いつでもどこでも。
だから頭の中のまついちゃんには限りがある。100人のまついちゃんを受入れることは、無理。本体がきっと死んでしまう。100人のまついちゃんがいても、そのうち50人、いつも誰かが眠っているなら100人のまついちゃんもOKだ。でも、それは本体が許さない。
なぜなら。なまけぐせのまついちゃんが生まれてしまうから。なまけることを覚えたら、きっと頭の中のまついちゃんはどこまでも、どこまでも堕ちていく。だから頭の中のまついちゃんは、全員が常に時速15キロで走り続けることは出来ないけど、それでも、いつも誰かが、何人かが、全力で走っている状態でありたい。
だから。
弁護士は体を壊すのか。
頭の中のまついちゃんが一斉休養するときを作る。プールで1500メートルを泳いでいるとき、ランニングマシーンの上で10キロ走るとき、頭の中のまついちゃん達は一斉に失神する。
そして次に覚醒したとき、皆すっきりと生まれたてのまついちゃんとして新たにその活動を始める。
これが今の健康管理法。
3
大阪の裁判官の頭の中には100人以上のジャッジちゃんが暮らしている。
この100人全員が常に、全力疾走、覚醒状態であることを求めるのは無茶というもの。裁判官の過労死が増えるだけだろう。だから、裁判官の頭の中のジャッジちゃんの様子を観察することが大事。
今は、休憩中なのか、それとも猛ダッシュの前の準備運動中なのか、あるいは猛ダッシュ中なのか。
裁判官の頭の中のジャッジちゃんと頭の中のまついちゃんが並んで走れるようになれば、いい感じ。
まついちゃんは競争相手に勝ってゴールを決められる。
4
がんばれ、私の頭の中のまついちゃん達。
働けよ。今日も、明日も。
(おわり)
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