交通事故の示談交渉【松井】
1
大学時代からの親しい友人が去年、交通事故に遭いました。信号のない横断歩道を歩いていたところ、曲がってきたバンにはねられたということでした。
はねとばされて頭を打ち、意識不明で救急車で病院に運ばれた、気づいたら病院のベッドにいたということでした。
その後、幸い2日ほどで退院となりましたがしばらく自宅で静養し、様子を見て、人手不足であったこともありほどなく仕事を再開したということです。
病院から事故の一報があったときは驚いたのですが、退院したということでひとまず安心していました。
2
その友人からまた先日、連絡がありました。
友人 「明日、相手方の担当者と示談交渉があるんだけど、何か気を付けた方がいいこと、ある?」
松井 「ないよ、特に。最初でしょ?だったら、まずは相手の言い分、提示額とその根拠をしっかりと訊いて確認したらいいよ。
だって、どうせ最初はかなり低い提示額のことが多いから。まずは聴くことだよ。で、ペーパーで提案をもらってね。それをうちにファックスしてくれたら見るから。相手の言い分を聴いてから、それに対する形でこちらの反論なりをしたほうがいいよ。
ただ、まあ、参考までに、損害として賠償が認められる項目はどんなものがあるか、相場額についての定番本もあるからそれをファックスで送っとくわ。」
翌々日。
友人 「提示してもらった。紙ももらったけど、金額が滅茶苦茶低いような気がする。ファックスで送るから、見て。」
松井 「はあい。」
事務所でファックスを受け取る。
やはり!
3
分かっていたけど、こういのは本当にヒドイ話だと思います。
友人が何も知らなければ、提示された額が相当な金額であると信じ、これを受け入れていたかと思うと。
ものには相場というものがあります。
ごまかされやすいのが「慰謝料」です。
交通事故の場合の「傷害」を受けたことに関する「慰謝料」については、通常、入通院慰謝料という形で、通院期間、入院期間、さらには実通院日数といった要素により、おおよその相場の金額があります。
これは、つまり、裁判で訴えて請求したら、裁判所がいくら認めてくれるのかという相場です。
ただ、これももちろん機械的に決まるわけではなく、個々具体的な事情によってもちろん増減額されます。
が、しかし。それでも。
ものには相場というものがあります。
友人が提示された額は、事務所でたまたま後ろの席にいた大橋にも一緒に見てもらい、事故の状況、その後の状況もざくっと話したうえでざくっと検討しても、え!?一桁間違っている?そうやんなぁ、この表で見て、増減額して、このくらいの金額でどうかという金額と照らし合わせても、一桁違うよねぇ、と2人でうなずき合うような金額でした。
加害者の運転手は業務上の運転による事故であり、金額は保険会社の担当者ではなく、会社の担当者が出てきて提示してきたとのことなので、担当者もそれなりに「相場」は知っているはずです。
世の中、こういうことでいっぱいです。消費者被害事件の悪徳業者とおんなじ思考回路に行動パターン。
相手の情報不足、交渉能力のなさ、経験のなさ等につけこみ、自己の利益のみを図る。 フェアじゃないわ。
確かに、示談交渉であって、商売とは違うけど、根本は同じ。あさましい。
4
消費者契約法には次のように記されています。
1条「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者の利益の擁護及び増進に関し、消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念を定め、国、地方公共団体及び事業者の責務等を明らかにするとともに、・・・もつて国民の消費生活の安定及び向上を確保することを目的とする。」
まさに損害賠償に関する「情報の質及び量並びに交渉力等の格差」が存在し、業者になめられている。
許せん!分かってはいたけど。
5
ということで、友人と晩、対策協議をすることとなりました。弁護士として代理人交渉するか否か。
交通事故の示談交渉で、正直なところあまりいい気がしないのが、実際問題、代理人として弁護士が就いて交渉すると、業者の態度が変わるだけでなく、提示金額が変わること。
だったら初めからちゃんとした対応をすべきだと思うんだけど、この業界もなかなか変わらない。
ネットで検索すると、行政書士の方々のサイトの情報が非常に充実していることに驚きます。
示談交渉については、相手方からの提示金額やその根拠について、納得を得られないときは、お近くの弁護士会、市役所等で、弁護士に相談されることをおすすめします。依頼しなくても、相談だけでも。
交通事故は、事件が多数あることから処理も定型的な面がないわけではありませんが、個々具体的な事案によって異なります。
ネット相談ではなく、会って話して対面で具体的な事情を専門家に聞いてもらい、対応すべきだと思います。
「情報の質及び量並びに交渉力等の格差」が存在する以上、それをどこでどう補うか。本当は、業者がその格差を縮める努力、情報提供義務を尽くすべきだとは思うのですが、そうはいかない実際がある以上、自分の身は自分で守っていく努力が個々人にも必要です。
(おわり)
以下、つぶやき。
弁護士に相談しに行くってやはり、敷居が高いのでしょうか。
もっと早く、先にこちらに相談に来てくれていたら間に合ったのにといったケースがたまにあります。
大阪府知事になってしまったタレントの橋下弁護士ではないけど、敷居を低くしようとの一貫でこのブログを始めました。
普段、こんなことを考えている、こんな思いで仕事をしているという、見えざるベールを少しずつ、チラミででも剥がせたらと。
今は、弁護士ブログもいっぱいできています。真面目な感じのものが多く、お馬鹿なものはまださすがに見かけないのですが、うちのブログや事務所も模索中。
個人的には、肩の力の抜けた、シニカルなお笑いが好きです。ぶつぶつぶつ。
あ、そうそう。弁護士による代理人交渉がそうじゃない場合と何が違うかというと、弁護士の場合、交渉が決裂したら、次には提訴があるということです。訴訟代理人として裁判所に提訴し、訴訟遂行をして、判決をもらうということが控えている蓋然性が高い点、交渉の重みが違ってきます。裁判になったらどういう結論がありうるかをある程度わかっているということ。
弁護士法72条。非弁護士の法律事務の取り扱いの禁止を定めた規定。
この規定がなかったら?
個人的にはなくってもいいんじゃないかと。誰が淘汰されていくのか。三百代言の跳梁跋扈の防止が趣旨とは言われていますが、どうなんだろう。それこそ利用者・消費者の選択の幅を広げてみるという余地もあるのではないかと。
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