尋問手続~BTTB~【松井】
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先日、今年初めての尋問手続がありました。テレビドラマの法廷場面でよく出てくる、尋問です。
座っている証言・供述者に対し、質問者が立って質問をし、証言・供述者はその質問に答えるという、あのやりとりです。
13時15分から16時30分まで。4人。
相手方主尋問2人、こちらの主尋問2人。
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終わるとどっと疲れます。準備に時間をかけます。主尋問については、リハーサルを重ね、その人の特徴を踏まえた構成を考えます。
そして準備段階で、ここ数年心がけていることは。
ぎょうせいから出版されている「民事尋問技術」という本にさっと目を通すことです。
BTTB。バック・トゥー・ザ・ベーシック。
裁判官の加藤新太郎さんが編著者の本です。ちなみに加藤裁判官は、私が司法修習生だったとき、司法研修所の長官でした。うわさですが聞いたところでは、司法研修所の図書室にとある小説が入荷されたとき、一番に借りていたのが加藤裁判官だったということで、本業で無茶苦茶忙しいはずなのにその趣味の広さ、好奇心の旺盛さに驚いたことを思い出します。
この本で書かれていることを今回また改めて読み替えし、ハッとした箇所。
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第5章 反対尋問の章で、五 反対尋問の準備とあります。
そこで、2 普段の心がけ として記されていること。
「1 訴訟手続に精通し、証拠法則を理解しておくこと」、まぁ、これは当たり前のこと。
「2 経験則をたくさん仕入れておくこと」として、「経験則をたくさんもっていると、主要事実に関連する間接事実を発見することが容易となる」として、「そのためには、人と会って色々な話を聞くこと、自分と違う生き方があると知ること、何にでも関心を持つこと、事件をたくさん経験することである。」とありました。
そして、
「3 人間心理に関する洞察力を身につけること」として、「このためには、文学、心理学など人の心理、行動に関する知識が必要である。」と記されています。
「人と会って色々な話を聞くこと」「何にでも関心を持つこと」
これらが仕事に生きてくる、これらが人の役に立つ。
だから、この仕事は興味深いと思えるのだと思います。
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ところで、尋問の出来はというと、こればっかりは分かりません。
なぜなら、自分で出来た、成功したと思っていても、それには何の根拠もなく、裁判官が受ける評価、印象と異なることが十分、あり得るから。
なぜこんなことを考えるかというと、司法修習で裁判所修習をしていたときの経験からです。尋問傍聴が終わってから、担当された弁護士とエレベーターで一緒になってしまい、依頼者に話をしている内容が聞こえました。
尋問する側と尋問を聞いて判決を作成しようとする裁判所側とで、考えているポイントがずれているこということが残念ながらあって、そのズレは、対照してズレをズレとして認識できることは残念ながら永遠にありません。ズレていても結果オーライのときもあります。
なので、尋問が成功したかどうかということを考えても無意味であって、「ブロック・ダイヤグラムを作り、主要事実、間接事実を把握」し、それにそった尋問事項を考え、予定どおりのことが出来たらよし、と思うしかないのではないかと考えています。
独りよがり、見当違いがあっても、裁判官は教えてはくれません。
なぜなら。当事者主義、だから。
よっぽどひどいとき、また当事者に代理人弁護士がついていない本人訴訟のときは、裁判所にも求釈明の義務が生じて、示唆されることもあるのでしょうが、基本は、当事者主義です。
極端な話し、時効主張をすれば勝てる可能性があるのに、代理人が時効の主張をしないとき、裁判所は教えてはくれません。実際、そういう代理人が時効主張を失念しているケースがないわけではありません。
多くの人と接し、学び、考え続けて、自己研鑽を積み続けるしかありません。
自分のエネルギー、能力からすれば、今のようなかたちでこの仕事をし続けられるのは50歳くらいまでかなと考えたりすることがないわけではありません。スポーツ選手のように最盛期といったかたちで寿命があるような気がしたりしています。あくまで私の場合に限ってですけど。
(おわり)
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