類推適用~割賦販売法を考える~【松井】
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割賦販売法という法律があります。クレジットカードを利用して、クレジットカードで買い物をするということは、通常、割賦販売法上の総合割賦購入あっせん(2条3項1号)に該当します。
ということは、たとえば、クレジットカードを利用して洗濯機を買ったけど、その洗濯機がはじめから設計ミスで欠陥品で使い物にならなかったような場合、クレジットカードへ会社から支払い請求が来たとしても、支払を拒めることになります。
これは昭和59年の割販法の改正で、30条の4という規定がおかれ、抗弁権の接続として、販売店に対して主張できることは、信販業者に対しても支払の拒絶というかたちで主張できるものとされたことによります(ただ、まあこの規定が創設規定なのか、確認規定なのかはおいておくとして)。
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ただ、割賦販売法には2条の定義規定があり、適用となる割賦販売とは、「二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領すること」とされています。
つまり、クレジットカードを利用して同じ洗濯機を買っても、1回払いだと、たとえ欠陥品であったとしても1か月ほど後にくるクレジットカード会社からの請求に対して、30条の4の直接適用はないということになります。一方で、3回払いだったら、同条が適用され、支払を拒めるのです。
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どうでしょ?このような結論の違いは。結論、保護される消費者と保護されない消費者という差が出ることは、果たして合理的な理由があるのか。
ありうるのは、現金払いだったら、どうしようもないじゃないかという議論でしょう。 となると、1回払いの人について、現金払いの人とと比較するのか、3回払いの人と比較するのかという問題になります。
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この点、以下のように考えてみました。
超アクロバティックで、裁判所で主張したとしたら裁判所が採用してくれるのか。もうとんでもなくこの人が可哀想で、救済しないという結論はどう考えてもおかしいという価値観を導く状況があれば、どうでしょう。
もっとも簡単なのは、法改正ですけど。1回払い、2回払いを除外している、現行の規定を変えればいいだけです。
1回払いであったために泣いている、被害者といえる人々が大勢いるという立法事実があれば、改正は理論的には可能であるとは思います。
*朝、我が事務所前で自転車を降りる不審な人、発見。
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問題点:
契約の形式は、総合割賦購入あつせん(2条3項1号)。
売買取引に問題があれば、要件を満たす限り、抗弁の接続でクレジット会社に対しても対抗し(30条の4)、クレジット会社への支払を拒めるはず。
しかし、割販法2条「二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領すること」を要件としいる。
よって、一括払いの場合、割販法上の「総合割賦購入あつせん」にはあたらず、抗弁の接続・対抗も出来ない結果と形式上、なる。
それでいいのか。
以下、松井私見です。
考え方:
そもそも割販法上の定義規定につき、割賦販売の定義を敢えて狭くした要件を付したものにすぎない。一回払いも、割賦販売の定義に含まれる余地はあり、今後、改正の可能性もないとはいえない。30条の4抗弁権の接続の趣旨は、一回払いにおいても当然、妥当するものである。類推適用の余地が全くないとまではいえない。
道筋:
1 割販法等の目的
1条 「この法律は、割賦販売等に係る取引を公正にし、その健全な発展を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を円滑にし、もって国民経済の発展に寄与すること」
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保護対象となる取引形態たる「割賦販売」につき、本質的に、「二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領すること」という要件が導きだされるものなのか?
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NO。
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「割賦販売のもっとも基本的な仕組みは、モノの引き渡しとカネの支払時期が分離し分割されていることである。割賦販売は前金売買、掛売買などとともに信用取引の一種として、売買契約の特殊な形態となっている。」(5頁「新訂版クレジット販売関係法の解説」一橋出版)。
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一回払いであっても、モノの引き渡しとカネの支払時期が分離し分割されている。さらには割賦購入あっせんにおいては、売買当事者のみならず、信販会社が登場し、三者間の複雑な取引形態となっている。
なおさら、消費者が不当に不利益を受けることのないよう保護されるべき要請が強い。
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2条 「二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領すること」という要件のそもそもの趣旨
「これによって掛売り、手附金と残金との2回に分割して代金を受領する販売、短期間に何回かに分割して代金を受領する販売等を除外し、とかくトラブルの起こりやすい契約期間が2月以上にわたり、分割回数が3回以上にわたる割賦販売契約についてのみ本法を適用しようとするためである。」(33頁「平成16年版 割賦販売法の解説」経済産業省)
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単に、当時、信販利用の一回払いではトラブルが少なかったから規制対象からはずれたに過ぎない。
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昭和59年改正 30条の4 抗弁権の接続の趣旨
「割賦購入あっせんにおいては、商品等の売買と代金等の決済とで相手方が異なる別個の契約を締結することとなる。このため、商品に瑕疵がある場合、商品が引き渡されない場合、契約の意思表示に瑕疵がある場合等において、購入者が割賦購入あっせん業者に対して支払い請求を拒むことができないことに起因するトラブルが多発するに至った。
そこで第三十条の四及び第三十条の五においていわゆる抗弁権の接続の規定が設けられ、販売業者に対して生じている事由をもって割賦購入あっせん業者に対抗することができるー支払請求に対して拒絶の抗弁をなし得ることー旨が定められた。」(11頁「平成16年版 割賦販売法の解説」経済産業省)。
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一回払いであっても、事情は同じ。商品について、洗濯機が欠陥品であった場合、買い主消費者において、対割賦購入あっせん業者に対し、支払を拒めるようにすべき事情は同じ。そうでないと、消費者は、偽物を掴まされたにもかかわらず代金相当額を立替金として支払続けないといけない義務を負うというのは全く不合理。合理的な理由なし。あるか?!
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検討
以上に鑑みれば、本件ケースにおいて、割賦販売法30条の4につき、本件契約が1回払いであり「割賦購入あっせん」には現行規定上、該当しないので、直接適用は困難ではあるが、その趣旨が類推され、類推適用の余地はあるといえるのでは。
① 保護の必要性⇒
2回払いであろうが、1回払いであろうが、事情は変わらない。
② 保護の許容性⇒
2条の「二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領すること」の要件は、当時の法制定当時は、1回払いでのトラブルは少なかったという事情から、除外されたに過ぎず、「割賦販売」の本質的な要件ではない。
1回払いを利用させたうえでのトラブルが多いという事情に鑑みれば、同規定においても敢えてそのような場合にまで1回払いにつき「割賦販売法」の規制から積極的に除外するという趣旨までは認められない。
(おわり)
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