じんわりと、喜びを噛みしめる~弁護士冥利~【松井】
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弁護士1年目のときから関わり担当させていただいている相続に関する一連の紛争の一つについて、先日、高裁判決をもらいました。
一審は全面勝訴、そして相手方が控訴。勝つだろうと思いつつ、でも裁判は最後まで分からないとの実感があり、不安な気持ちでいました。
控訴棄却。勝ちました。最高裁でひっくりかえることはまずないかと。
2
依頼者の方には判決書きをFAXし、すぐに電話で連絡を入れました。
「おめでとうございます。」
この言葉を依頼者の方に言える喜びをじんわりと噛みしめました。
いろいろなことが起こっているこの一連の紛争。
ようやく一つ、階段を上り、最終的な解決に近づいたという実感を得られました。
この判決が確定しても、終わりではありません。あくまで一歩。
でも大事な一歩。
3
事務所を出たあと帰路の電車の中で、窓の外の景色を眺めながら、あぁ本当に良かったなと実感しました。
勝ったことそのものよりも、依頼者の方と一緒に喜べること、それを実感できることにじんわりとした喜びを噛みしめ、幸せだと思いました。
客観的には「勝訴」の判決あるいは和解であっても、依頼者の方が納得していないことがあります。
例えば、青色発光ダイオードの高裁和解。
何億円という和解を勝ち取り、何億円あるいは何千万円という報酬をもらったとしても、依頼者の方が納得しておられず、「あれは敗訴だ。日本の司法に絶望した。」と言ったようなことをコメントされていたら、代理人としては何ともやるせない気分になるのではないかと想像します。
それに対して、たとえ「100万円支払え」という判決であっても、勝訴判決であり、こちらの言い分が認められたという、私も弁護団に加えていただいていた兵庫県などを相手としていた阪神淡路大震災の被災者自立支援金訴訟の一審、高裁判決のように、勝ち取ったという喜びを依頼者やその支援者の方々と喜び合える訴訟もあります。
報酬は雲泥の差ですが、代理人としてはおそらく、後者の方が幸せを感じるのではないだろうか。
違いは何かというと、いかなる結果であろうと、依頼者の方とその結果について共有できるかどうかなんだろうなとぼんやりと考えていました。共に戦ったという連帯感の違いでしょうか。
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あるテレビ局のディレクターが言っていました。私の仕事はお客さんの顔が見えない、視聴者の顔が見えない、見えるのは視聴率という数字だけだ、その点、弁護士は依頼者の方と関係を切り結ぶことになり、嬉しいことも、イヤなこともあるだろうけど、羨ましい面があると。
一つ事件が終わったとき、依頼者、担当者の方とお互い笑顔で別れられるとき、この仕事をしていて良かったなとじんわりと感じます。
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ただまぁ、もちろん良いことばかりではなく、方針の違いが生じ、埋めきれず、信頼関係が構築できない、あるいは壊れる場合も残念ながらあります。
そのようなときは、依頼を受けていた場合、辞任せざるを得ません。
私も実際、途中で辞任させていただいたことがあります。お互い、時間と労力を費やした分、不幸な結果です。
このようなことを極力回避するために、事件の受任を最初からお断りさせていただくことももちろんあります。
弁護士の仕事に対し、正当な費用を支払うという意思をどうももたれていないと思われる方は論外ですが、自分の「代理人」ではなく、自分の「お使い」のように弁護士を思われているような方についても、依頼を受けるとこじれることが目に見えているのでお断りしています。「弁護士を雇う」という言い方もありますが、委任契約関係なので決して、「雇われている」わけではありません。雇用関係だと、指揮従属関係ですが、職業専門家として弁護士は依頼者から独立した立場にあります。
弁護士を自分の言いなりにしたいだけであるなら、弁護士に依頼する必要はありません。
訴訟、法律、紛争に関する専門知識と経験をもとに、依頼者の方に対して、専門家として、適切と考える助言を行い、代理人活動を行うのが弁護士です。依頼者の言いなりに動くのが弁護士ではありません。この点をご理解いただけない方については、お断りせざるを得ないのです。貴方の意向にあう別の弁護士をお捜し下さいとしか言えません。
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依頼者と代理人弁護士において、良い関係を築き、結果を勝ち取り、喜びを分かち合う。
今回の判決は、長年関わっている案件であるだけに、久しぶりに大きな喜びを感じると共に、あぁ、この仕事はいい仕事だなあと幸せを感じました。
仕事はどんな仕事でもそうなんだろうけど、周りの人が喜んでくれるというのが多分一番嬉しいのではないかと思います。
自分は役に立っているということを実感できるから。
笑顔で「ありがとうございました」と言われるのが一番の報酬。喜んでもらえて良かった、と思います。
まぁ本当に一番いいのは、訴訟にならないこと、交渉で解決することだと私は考えています。裁判なんてするものじゃない、と。
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蛇足ですが。思い出したのは、昔、合気道の昇段試験を受けたときのこと。身長152センチの私の相手に、師範は、身長190センチはあるイギリス人を指名しました。「嫌がらせ?」と思いつつ、やらねばなりません。
相手をこちらに合わさせるよう必死に動きました。規定の技の披露が一通り終わり、礼をして、皆が見守る列に下がると、別の外国人の方がニコニコと満面の笑みで近寄ってきて声を掛けてきました。「グッジョブ!」
自分の昇段試験なんだけど、喜んでもらえたようで良かったと、良いことをしたような気分になり、妙に嬉しくなったことを思い出します。
「グッジョブ」を積み重ねられるよう、がんばらねば。
昇段試験を受けたときは確かまだ23歳。プライベートも仕事もあれからいろいろとありました。今36歳で、こうして何とか無事に働いていられるのも、たくさんの人々に出会い、支えられてきたお陰。
皆さま、ありがとうございます。
うーん。・・・久しぶりに殊勝な気持ちになりました。
(おわり)
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