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2007年11月14日 (水)

ロバート=メイプルソープ氏の写真集【松井】

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*大橋仁氏の「いま」。蛍光灯が二本、表紙に反射しています・・・。
1 
 11月14日付けの日経新聞朝刊を見て、あらびっくり。
 小見出しは、「『わいせつ』見直しへ 最高裁、来年1月弁論」とのこと。
 
 ちなみにネットでは、このような形で報道を発見。
 

(2007年11月13日22時48分 読売新聞)
「メイプルソープのヌード写真、輸入禁止判決見直しか
 米国の写真家、ロバート・メイプルソープ氏(1946~89年)の写真集がわいせつ物に当たるとして、東京税関が国内への持ち込みを禁じたのは不当だとして、東京都の映画配給会社社長、浅井隆さん(52)が、国に輸入禁止処分の取り消しなどを求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は13日、口頭弁論を来年1月22日に開くことを決めた。」
「1、2審判決によると、浅井さんは1994年以降、男性のヌード写真などが収められた写真集「MAPPLETHORPE」を翻訳・出版し、国内の書店などで販売していた。99年、自分で写真集を持って帰国した際、成田空港の税関から関税定率法で輸入が禁じられた「風俗を害すべき書籍」に当たるとして、持ち込みを禁じられた。
 1審・東京地裁は「写真集は芸術的な書籍として流通しており、健全な風俗への影響はない」として、国側に処分の取り消しと70万円の賠償を命じたが、2審は2003年3月、原告逆転敗訴の判決を言い渡していた。


 そうか。知らなかった。こんなことが未だに裁判で争われていたとは。

 現在、関税法で輸入してはならない貨物が定められています。
 http://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm

 同法69条の11、1項7号
 「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、・・・」
 
 同法3項では、
 「税関長は、この章に定めるところに従い輸入されようとする貨物のうちに第1項7号又は8号に掲げる貨物に該当すると認めるのに相当の理由がある貨物があるときは、当該貨物を輸入しようとする者に対し、その旨を通知しなければならない。」とされています。
 この通知に対しては、同法89条で「異議申立て」が出来るとされています。
 また、審査請求に対する裁決を経た後、「通知の取消しの訴え」が出来るとされています(同法93条)。
 また、罰則としては、同法109条2項で、「第69条の11第1項7号から第10号までに掲げる貨物を輸入した者は、7年以下の懲役若しくは700万円以下の罰金に処し、これを併科する。」と定められています。


 問題は、「風俗を害すべき図画」とは何か。どのように判断するのか。ロバート=メイプルソープ氏の写真集はこれに該当するのか。
 その前に、そもそも関税法という法律で「風俗を害すべき図画」なるものを輸入禁止とすることは憲法上、許されるのか。許されるとしても、規制の仕方はこのような定め方でいいのか、不明確ではないのか。
 
 司法試験受験生のときは、試験科目で憲法があったこともあり憲法をよく勉強していました。事例問題で答案を書いたりするのですが、好きな科目でした。
 しかし実際に働き始めると、紛争解決あるいは予防のための道具として「憲法」を使うことはまずほとんどありません。憲法の精神は個別具体的な法律に実現化されていることが多く、当該問題にもっとも近い法律を使うのがもっぱらです。
 しかしその当の法律そのものがおかしいのではないかといったとき、憲法を用います。国会で作られた法律が、憲法に違反していて無効だとしてその判断を裁判所に求めます。これが憲法で認められた裁判所の違憲立法審査権です。
 国会は国民から選挙で選出された国会議員によって法律を作ります。
 一方、裁判所は裁判官からなりますが、この裁判官は選挙で選ばれたりはしていません。言ってみれば単に司法試験に受かり、最高裁判所に採用されたに過ぎない人々です。そんな裁判官が、国会で作られた法律に対して、こんなの効力ないよ、認められないよという権限を持っているのです。これはスゴイこと!
 だから憲法でも、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律のみに拘束される。」と規定されています(76条3項)。つまり、多数決の国民の意思には拘束されないということ。多数決によって侵害されるかもしれない守るべき少数者の権利を憲法の価値観によってたち救済する「最後の砦」といわれる所以です。 ただ、そうはいっても裁判所、裁判官が国民の価値観から遠く離れたところで裁判をしてしまっていては国民は、「裁判所なんて使えない!」ということになり、信頼されなくなってしまいます。究極は、憲法を改正し、裁判官も民意に拘束されるべきだ!という方向になりかねません。難しいところです。
 裁判のときは、裁判所もその用いる判断基準としては、その時代の健全な社会通念に照らしてといったことを基準として用いたりしています。まぁ、それが「曖昧」だということなんですけど。ブラックボックスですね。


 関税法で「風俗を害すべき図画」を輸入禁止とすることによって守ろうとする利益は何なのか。一方で、これを輸入禁止とされることにより侵害される利益は何なのか。
 また、保護法益が認められるとしても、その規制の仕方は、「風俗を害すべき図画」といった曖昧な定め方でいいのか、もっと判断基準として明確にすべきではないのか。
 ちなみに刑法では、175条で「わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの者を所持した者も、同様とする。」とあります。これは、単に所持しているに過ぎない場合は犯罪ではないということです。

 今回のロバート=メイプルソーブ氏の写真集、輸入禁止の裁判について最高裁の判断が注目されます。
 法律論を抜きにして個人的に素朴に思うところは、「風俗」というものそれ自体が誰にも目に見えないものであって、その定義もそもそも不明確なのに、それを「害する」か否かってどうやって判断するんだろうということと、仮に「風俗を害するもの」の判断基準が明かであったとしても、いわゆる芸術って、そういう既存の価値観などに衝撃を与えるものであって、「風俗を害する」ことにある意味、価値があるのであって、この規制文言は工夫の余地があるのではないかということ。
 「わいせつ」も同じ問題をはらむけど、じゃあ一切、規制なんてなければいいやとも言い難い。
 これも素朴な考えとして、例えば、暗い地下通路の隅っこでこれみよがしに露出している男性や、老若男女が通行する商店街で真っ裸の女性が歩き、それを撮影している行為などが野放しにされるのはどうかと思います。感情以外の実害ないじゃん!として我慢すべき?
 
 でも今回、何よりも!
 ロバート=メイプルソープの写真集を輸入禁止にしちゃうなんて、税関職員さん、知らなさすぎじゃないの!?え、これが1999年の出来事!?という驚きの感想です。無知の知、謙虚さがあれば、こんなことにならずに済んだのではと残念。
 ちなみに、私は、大橋仁氏の「いま」という写真集を持っていますが、子どもがまさに母体から出る場面が撮影されたりしています。これを持って海外に出て、また日本に持ち帰ったら「風俗を害する」として税関職員さんからの輸入禁止といわれそうな気がします(これを萎縮効果という!)。
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(おわり)

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