「楽しさ増幅装置」【松井】
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愚痴みたいなことばかり書いていても気分が暗くなるだけなのでと、最近、読んでいて、うんうん、法律ってそうだよね、と明るい気分になる記事を見かけたのでそのことについて。法律が万能じゃないんだよ、当たり前のことだけど。
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著作権法を専門とする塩澤一洋教授のエッセイです。掲載紙は、「マック・ピープル」9月号。ちなみに私はマック使いではありません。なのになぜ「マック・ピープル」を買っているのか。バーチャル・マック・ユーザーです。
エッセイは、「Creating Reed, Creating Mass」というタイトルで、マックは「楽しさ増幅装置」と評しています。
続いて、著作権法に触れ、このように定義づけています。
「著作権法はその究極の目的を、『文化の発展』に据えている(第1条)。すなわち、人々の創作を尊重し、多用な作品が生み出されることによって、豊かな文化が育まれることを願う法律なのだ。」
「願う法律」という点、そもそも法律は、人の血肉の結晶として国会で成立したものであることを思い出させます。空から勝手に振ってきて嫌々従わされている、それが法律というわけではありません。皆、何らかの「願い」(立法趣旨)があってこの世に誕生しています。
著作権法の役割として、「鑑賞と創作のサイクルを鈍らせることがあってはならないと同時に、そのサイクルを回すチカラとなることもない。期待されているのは文化を発展させるためのインフラとしての役割なのである。」「著作権法も司法秩序の一要素である限り、抑制的であることが要請されるのだ。創作するかしないかは個人の自由なのである。」
そうだ、そうだ。
著作権をこう位置づけたうえで、このサイクルを循環させる原動力は何か、法律ではありえないとしています。
そして原動力、それは「『楽しさ』」だと言っています。「『楽しさ』を原動力として回る仕組み」だとし、学校での学習の楽しさの重要性を指摘しています。「学校」がマックと同じように、「楽しさ増幅装置」であるべきことを指摘しています。「法制度はあくまでインフラであって、それ自体がサイクルを回す原動力にはなり得ない」と。
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イヤなこともあるし、腹が立つことももちろんあるけど、楽しいことがあるからやっていられる。ワクワクすることがあるからやっていられる。
先日、ある交渉事件の相談、依頼を受けたところ、相手方は以前、別の件でも相手方であった企業と分かり、相談の中身としてもこちらに理のある至極まっとうなことがらであって、ワクワク感を感じている自分に笑ってしまいました。また、別の相続事件でも新たに交渉が始まります。どのように交渉しようかと考えているとき、楽しいです。
さらに来週は法廷での尋問があります。どういう点を反対尋問で突こうかと考えるとワクワクします(と言いながら、依頼者の方が相手の弁護士から反対尋問を受ける緊張感もあり胃が痛む思いもするのですが。)。
法律や法廷もまた、弁護士にとっては「楽しさ増幅装置」なのかも。だからこそ弁護士をやっているのか。目に輝きがなくなったら辞めるときだな。
(おわり)
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