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2007年8月17日 (金)

準備書面作成 手順~裁判制度~【松井】

Photo_2
1  ファイルからまた出て来ました。自分用のメモ。
 修習生のときの研修所の教科書か、あるいは判例タイムズなどでの裁判官か弁護士による記事の中から抜き書きしたものだと思います。いかんせん、出典をメモしておらず。



「準備書面作成手順」


事実と評価の区別。
証拠。

① 当事者の関係を図にする(概念図作成)。
② 時間的に生じた事実をリストアップする(時系列表)。
  上記の事実抽出にあたり当事者間に争いのあるものと争いのないものを明確にする。
③ 大ブロックを作る。

 以上の事実から攻撃防御方法の流れを作成し、ブロックごとの要件を記入する。

④ ブロックごとの要件のうち要件事実が存在するものと、その認否を記入する。
⑤ 要件事実が存在しないものは、間接事実、再間接事実を拾い出す。
⑥ ④⑤の事実の証拠を検討する。
⑦ 各ブロックの要件事実、間接事実に対する不利な事実を抽出し、その証拠の存在を確かめる。
⑧ 自己に有利な事実、証拠にしたがった事実の流れをストーリーとして仮定する。
⑨ 上記の事実の流れを阻害する事実、証拠に対する反論を行う。
⑩ 自己に有利にも不利にも評価される間接事実の評価を行う。



 訴訟、裁判は、手続きです。先日、元公認会計士で現在はロースクール3年生となり弁護士を目指している方と民事訴訟法について話をする機会がありました。
 民事裁判は、判決理由中の判断について原則、既判力がない(拘束力がない)という趣旨について、彼は理解に苦しんでいました。
 事実・真実はどうでもいいのか?!と。

 例えば、被告に対して、ある不動産の登記移転を求める訴えを起こしたとする。その際の理由、請求原因事実は、原告が所有権を有することだとします。そして所有権取得の原因は、相続だとする。
 これに対する被告の反論としては、いやその物件はそもそも被相続人が買ったのではなくて、自分が買ったのだという反論があり得ます。
 しかし、他の反論として、仮に、被相続人が買った物件だとしても、被相続人は亡くなる前、相続前に、自分にその物件を贈与してくらたのだという反論があり得ます。
 いずれにしても、被相続人が亡くなった時、当該物件は被相続人の所有物ではなかった、よって、相続によっても原告が当該物件の所有権を取得していることはない、よって、原告の訴えに理由はない、請求棄却となるというものです。

 裁判上は、被告は、自分が買ったと主張してもいいし、自分が買ったのではないけど自分がもらったんだと主張してもOKです。

 これが普通の感覚からすれば、「買ったのか、もらったのか、どっちなのだ!?真実は一つだろ!」ということで理解しがたいようです。確かに。

 ただ、裁判所からしたら紛争を解決するためには、買ったのであろうが、もらったのであろうが、相続時に被相続人に所有権がなければ、いずれにしろ原告の訴えは認められません。
 原告は、相続時、被相続人が当該物件の所有権者であったことを立証する責任を負います。すなわち、裁判官の心証として、かかる事実があったというように印象づけない限り、当該事実はなかったものとして扱われ、結局、原告の不利益になるということです。



 準備書面は、このような裁判手続きのための書面です。言いたいことを書きつづれば事たれりというものではありません。
 常に、訴訟物、請求原因事実、立証責任、証拠との関係、つまり「要件事実」というものを念頭において作成しない限り、無価値の書面となってしまいます。

 代理人弁護士をつけずに、ご本人で審判、あるいは訴訟をされる方がいます。数回ですが私自身も本人訴訟の方が相手方であったことがありました。
 訴訟上、自己に不利益なことをそうとは自覚せずに主張されていました。
 これを逆手にとったところ、さすがに裁判所が職権を発動し、本人に対して、一度弁護士に相談するようにと助言しました。その後の期日で、本人は従前の主張を一部撤回してきたことがありました。しかし実は主要事実に関する自白は撤回できません。まぁ、その裁判はその後、和解が成立したので特に声を荒げることもなかったのですが。

 裁判官は、大体、訴訟進行に応じて、自分用の手控えというものをメモしています。その手控えメモには、大体、上記の要件事実、当事者の主張、該当する証拠などがメモされています。
 裁判官としてもおそらく、要件事実に関係のない事柄、間接事実にもならない、単なる相手方に対する罵詈雑言が書かれているだけの書面は読むに耐えないものと思っていると思います。
 
 最後に。瀬木比呂志裁判官の著書「民事訴訟実務と制度の焦点」(判例タイムズ社)より(216頁)。
 「相手方の主張について、些末な反論を、的確な根拠もなく言葉だけは盛大に行う揚げ足取り的な主張は、弱いものであることが多い(ことに、感情的な言葉を安易に用いる主張は、劣勢であることを自白しているようなものである。)。自分の準備書面を見直してもしも揚げ足取りに終始するような傾向がみえてきたら、頭を冷やして攻防の計画を立て直した方がよいであろう。」
 
 提出された書面を読んで、げんなりした気分になり、裁判がバカバカしくなった経験もつ弁護士、裁判官は少なくないと思う。
 
 「裁判」に対する真摯な気持ちを失わないように。

あ、そうそう。ついでに。瀬木裁判官が著書で強調していること。「何度も書くが、日本の裁判官は非常に多数の事件を並行審理していることも忘れないで頂きたい。」
書面も、長ければいいってものではないということ。

「準備書面は、長編小説ではなく、体系書でも論文でもなく、専門知識を有する裁判官という読者に対して、ある限定的な事項の内容を、明確かつ正確に伝える書面なのである。」(225頁)
準備書面の読者は、相手方本人でもなく、相手方弁護士でもなく、依頼者でもなく、裁判官であるということか。

(おわり)
 

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