現場~五感を研ぎ澄ます~【松井】
1
交通事故の事件であってもその事故の現場に足を運ばない人がいるという。確かに、行く必要はないと判断できることもある。
しかしそれでも、行ってみる。行くと、行かなかった場合と比べてやはり何かが違う。
2
五感を研ぎ澄ます。視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚。
その出来事があったという現場に全身を置いてみると、何かが違う。
現場に行くのが好きだ。
事故の事件であったり、建物・不動産関係の事件であるならともかく、同族会社の経営権をめぐる争いであっても、その会社に足を運ぶと何かが違う。
この場所であのやりとりがあったのか、ここに彼は座っているのかなどと考えると、思考に拡がりが生じる。その場で彼が何を考え、どういう思いでいるのかということをよりいっそうリアルに想像できるようになる。
やはり現場を大事にしたい。
3
交渉の場合でも、相手方の本拠地に出向くのが好きだ。看板のデザイン、職員の対応、内装へのこだわり、部屋への現れ方。
松任谷由実の歌の歌詞で「目に映る全てのものがメッセージ」という歌詞があったけど、まさにそのとおり。目に映るもの、におい、手触り、出されたお茶の味。
全てのものが相手方に関するメッセージとなる。そしてこの受けとめた情報が思わぬところで結びついて決定的な役に立つことがある。
中学生のころ、剣道部に所属していた。他校との試合のとき、団体戦で自分が対戦する相手方を目で探し、試合前の軽い稽古を行うその相手をじっと見つめていた。竹刀の振り下ろしの動作をじっと見ていると、脇が甘いことに気づいた。試合のとき、胴を狙っていった。胴が決まった。
試合の前に試合は始まっている。
現場に身をおき、じっと五感を研ぎ澄ます。すると答えが見えてくる、ことがある。
(おわり)
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