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2007年7月19日 (木)

筆跡鑑定というものについて~これが裁判~【松井】

1 
 先日、相続問題が発展したかたちでの所有権確認訴訟の判決をもらいました。
 とある不動産が被相続人名義のままであったために、その不動産の本当の所有者は誰か、その不動産は遺産なのかどうかという争いです。

 判決結果は、こちらの全面勝訴ではあったのですが、相手方からは、こちらが提出した証拠書類に関して、「筆跡鑑定書」というものが証拠提出されていました。それも提出時期は尋問終了後の最終期日直前という噴飯ものの時機でした。。

 時機に後れた防御方法ということで証拠不採用を求めたのですが、裁判所はあっさりと採用しました。
 ただ、代理人弁護士としては、裁判所がこちらに反論の機会を与えずにあっさりと証拠採用した時点で、この筆跡鑑定書を大した証拠とは捉えていないことが十分推測されました。
 ただ、こういった裁判所の動きをどう読むのかという点については、依頼者の方に説明してもなかなか理解を得られないことがあります。このときも、裁判所はなぜ今頃出された「鑑定書」を証拠として採用するのか、重視しているからじゃないのか、先生はなぜもっと反論しないのかと言われたりしていました。説明をさせていただくと、納得していただけましたが。

2 
 判決書の理由では、一応、この「筆跡鑑定書」なるものについて触れられていました。 つい最近においても、裁判所における「筆跡鑑定」なるものの捉え方はこういうものだという参考までに記しておきます。判決書ではわざわざ括弧書きにより記されていました。

 

「(なお、一般に筆跡の鑑定は、十分な科学的検証を経ていないという性質上、その証明力には限界があるというべきであるから、その結果のみに基づいて事実を認定するのは相当でない。そして、本件証拠関係によれば、原告らが亡●●から本件各土地を買い受けたとの事実を認めることができることは、既に認定説示したとおりである。)」

 つまり、「筆跡鑑定書」なるものの結論を裁判所が鵜呑みにすることはまずありませんよ、ということです。「本件証拠関係によれば」とあるように、周辺事情、他の証拠等によって総合的に事実を認定しています。


 これが裁判所における筆跡鑑定書の位置づけです。
 筆跡鑑定書だけでことの白黒がつくなんてことはまずありません。
 偽造か否かといったことが問題となった場合、大事なのは、作成時期やその当時の作成者と関係者との人間関係、作成動機の可能性といった事柄になります。
 また、裁判においては裁判所の動きをどう読むのか、といったことも訴訟遂行上、非常に重要な意味を持ちます。裁判官の心証を推測して見合った活動をしないと代理人の訴訟活動は単なる自己満足で終わります。結果に結びつく活動をしないと無意味です。

 これは、以前、刑事事件で失敗した経験からの実感です。執行猶予がつくか付かないか、非常に微妙な事案でした。結審したのは夏前でした。法廷で裁判官は裁判所が夏期休廷に入る前に判決言い渡しをする旨を宣言しました。しかしその後、裁判所から電話があり、一夏考えたいので判決言い渡し期日を延期したいという申し入れがありました。拒みました。依頼者であった若者が非常に不安定な心理状態に陥っており、一日も早い判決を望んでいたからです。結果は、実刑判決でした。裁判所を急かしてもいいことは何もないと実感出来ました。

 このときの出来事からの教訓です。訴訟進行は裁判所の動きを読み、これに合わせよう、というのは。
 上記のケースでも、間違いなく時機に後れた証拠書類の提出だったのですが、裁判所が、証拠採用したことに対して強く異議を申し立てませんでした。そのとき、法廷にいた依頼者からは、なぜもっと反対しないのかと思われていたことでしょう。しかしその後、裁判所の動きをどう読むかということを説明し、理解を得ました。
 結果は、予想どおり、採用した鑑定書について裁判所は信用性を認めはしなかったのです。

 ただ、こういったことも裁判所に対する信頼があるからこそなのかと思います。そもそも裁判所に対する信頼、適切な訴訟指揮活動を行うはずだ、反論の機会等を公平に確保するはずだという思いがなければ、時機におくれた証拠の採用に対しても許せない!と思ったことだろうと思います。
 裁判所を信頼することはおめでたいことなのか。
 裁判・裁判所なんて、国民からの信頼だけで成り立っている制度です。
 勝ったからというものありますが、今回の判決書は、見事に信頼に答えてくれました。
 交渉の成功、紛争の解決も嬉しい瞬間ですが、理不尽な反論をする相手方に対する訴訟で全面勝訴判決を得たときの感情は、嬉しい瞬間でもあるのですが、むしろ裁判・裁判所に対する信頼が確保されたという安堵感の方が大きいのが正直なところです。肩の荷が下りたような感じです。 
 ただ、一審判決は決して終局的な解決ではありません。この事件も相手方から控訴されました。
 控訴審が始まります。控訴審で判決がひっくりかえる可能性は統計的には約25%くらいだそうです。気をひきしめねば。

(おわり)

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