契約書の作成について~最高裁の補足意見~【松井】
1
最高裁第2小法廷で平成19年6月11日、二審破棄、高裁へ差し戻しを命じる判決が出ました。
セブン・イレブン・ジャパンのフランチャイズチェーン(FC)加盟店が本部に払うロイヤルティーの計算方法に関する契約の解釈を巡っての争いです。
最高裁は、「契約」内容そのものについては「契約書」などを手がかりにして会社し、セブン・イレブンの言い分を認めました。
が、しかし。差戻審の高裁においては、事実審理を尽くしたうえで、
「場合によっては、本件条項が錯誤により無効となることも生じうるのである。」と補足意見は指摘し、結局は同社の敗訴になる可能性があることを指摘しています。
2
消費者関係の事件を担当していると、いわゆる大会社が用意した契約書に呆れることがたまにあります。契約当事者のチカラの強弱は明かであり、自社にのみ一方的に有利な契約が堂々と明記されていることがあります。あるいは、異議が出そうな事柄については敢えて目立たないように紛れ込ませてあったり。
この最高裁判決は補足意見に注目です。せっかくなのでここに引用します(下線部は、松井)。
大会社の方はぜひ注意して欲しいと思います。ただ、まあ、ずっと問題となっているNOVAの契約書やこのセブン・イレブンのFCの契約書もそうですが、いちおう弁護士のチェックは入っていると思うのですが。そういえば、鈴木あみの裁判でも契約書の難が指摘されていました。
裁判所で通用する、公正といえる契約、契約書か否か、各社、改めてチェックして欲しいと思います。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官今井功,同中川了滋の補足意見がある。
裁判官今井功,同中川了滋の補足意見は,次のとおりである。
私たちは,本件条項に定めるチャージの算定方法の解釈については,法廷意見の
とおりと考えるが,本件条項の定め方が,明確性を欠き,疑義を入れる余地のあっ
たことが,本件のような紛争を招いたことにかんがみ,このような契約条項の定め
の在り方について,意見を述べておきたい。
そもそもやはり契約書の記載そのものが明確性に欠けるという指摘です。
その上で。
チャージを定めた本件条項は,「乙は,甲に対して,A店経営に関する対価として,各会計期間ごとに,その末日に,売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの。)にたいし,付属明細書(ニ)の第3項に定める率を乗じた額(以下,A・チャージという。)をオープンアカウントを通じ支払う。」と規定している。これによれば,チャージは,売上総利益の一定割合であること,売上総利益は,売上高から売上商品原価を差し引いたものであることが規定されているが,「売上商品原価」についてはこれを定義するところはなく,本件契約書中の他の条項においても,「売上商品原価」の定義規定はない。そして,「売上商品原価」という言葉は,企業会計上一般にいわれている売上原価と解することもできるし,売り上げた商品の原価と解することもでき,「廃棄ロス原価」及び「棚卸ロス原価」がこれに含まれるか否かが本件で争われたのである。
本件においては,本件契約書18条1項において引用されている付属明細書(ホ)2項には,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が営業費となることが定められていること,上告人の担当者が被上告人に対し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を営業費として会計処理すべきこと,それらは加盟店経営者の負担であることを説明したこと,加盟店店舗に備え付けられていたシステムマニュアルの損益計算書についての項目に,「売上総利益」は売上高から「純売上原価」を差し引いたものであること,「純売上原価」は「総売上原価」から「仕入値引高」,「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されることが記載されていたこと等法廷意見記載のような諸事情を考慮して,本件条項所定の「売上商品原価」には,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価は含まれないと判断されたものである。
まず確定すべき契約内容として、かろうじてセブン・イレブンの主張する解釈が認められたというに過ぎません。
しかし,本件条項の解釈として,上記のように解釈することが相当であるとはいうものの,本件契約書におけるチャージの算定方法についての規定ぶりについては,明確性を欠き,疑義を入れる余地があって,問題があるといわなければならない。
本件契約である加盟店基本契約は,上告人が一方的に定めたものであって,加盟店となるには,これを承諾するしかなく,これを承諾することによって,加盟店契約が締結されるものであるところ,チャージがいかにして算出されるかについては,加盟店の関心の最も強いところであるから,契約書上それが加盟店となる者に明確に認識できるような規定であることが望ましいことはいうまでもなく,また,そのような規定を設けることが困難であるという事情もうかがうことができない。
契約当事者の立場の違いに鑑み、上の強い立場の方は、相手方の関心についても注意を払えといっています。
チャージは,加盟店に対する店舗経営に関するサービス等に対して支払われる対価であることから,加盟店としては,店舗経営により生じた利益の一定割合をチャージとして支払うというのが,一般的な理解であり,認識でもあると考えられるのである。ところが,廃棄ロスや棚卸ロスは,加盟店の利益ではないから,これが営業費として加盟店の負担となることは当然としても,本件契約書においては,これらの費用についてまでチャージを支払わなければならないということが契約書上一義的に明確ではなく,被上告人のような理解をする者があることも肯けるのであり,場合によっては,本件条項が錯誤により無効となることも生じ得るのである。
本件では、差戻審でやはりセブン・イレブン敗訴があり得るという指摘です。
加盟店の多くは個人商店であり,上告人と加盟店の間の企業会計に関する知識,経験に著しい較差があることを考慮すれば,詳細かつ大部な付属明細書やマニュアルの記載を参照しなければ契約条項の意味が明確にならないというのは,不適切であるといわざるを得ない。それでも,上告人担当者から明確な説明があればまだしも,廃棄ロスや棚卸ロスについてチャージが課せられる旨の直接の説明はなく,これらが営業費に含まれ,かつ,営業費は加盟店の負担となるとの間接的な説明があったにすぎないというのである。上告人の一方的な作成になる本件契約書におけるチャージの算定方法に関する記載には,問題があり,契約書上明確にその意味が読み取れるような規定ぶりに改善することが望まれるところである。
契約書の作成にあたっての立場の違いに鑑みた、一種の注意義務を認めるともいえる補足意見だと思います。私は賛成です。
一方的に極端に有利、あるいは不当な条項が紛れ込まされているような不誠実な契約書を見ると怒りを覚えます。何事も公明正大に。
ビジネスは「三方よし」じゃないと長続きはしないよ。
自身が企業側で契約書作成のアドバイスを行うとき、あるいは作成しようとするときも、裁判所で争われたらかえって不利なこともあるとして、有利な条項を紛れ込ませることや、あまりにも一方的に有利な条項は設けないようにしています。
まさに、無効とされたり、錯誤無効を主張をされ、その言い分が通ったりするから。
(おわり)
« 異業種の舞台裏~生テレビ番組に出演して~【松井】 | トップページ | 「遺言など信託業務、開放」だって【松井】 »
「02 松井」カテゴリの記事
- 契約書の作成について~最高裁の補足意見~【松井】(2007.06.12)
- 「遺言など信託業務、開放」だって【松井】(2007.06.20)
- Listen Without Prejudice【松井】(2007.07.05)
- 金融商品取引法、「内部統制の理論と実践」~八田進二教授の講演~【松井】(2007.07.13)
- 筆跡鑑定というものについて~これが裁判~【松井】(2007.07.19)
「03 契約・契約書」カテゴリの記事
- 契約書の作成について~最高裁の補足意見~【松井】(2007.06.12)
- スズケン対小林製薬の仮処分~今後の行方~【松井】(2007.11.15)
- 仁義なき自由との戦い。子会社株式って、やっぱりリスキー?(2007.11.22)
- 電気室、再び〜分譲マンションの電気代〜【松井】(2008.05.21)
- 戦う契約書〜結局、紛争拡大?〜【松井】(2008.07.07)
この記事へのコメントは終了しました。
« 異業種の舞台裏~生テレビ番組に出演して~【松井】 | トップページ | 「遺言など信託業務、開放」だって【松井】 »
コメント