相続税の脱税事件~刑事判決の読み方~ 【松井】
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相続税を脱税したということで逮捕された大阪のトモエタクシーの元社長に対する大阪地裁の判決が3月22日、出たようです。
日経ネットの記事から。
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/39018.html
【2007年3月22日】 相続税巨額脱税でトモエタクシー元社長に懲役4年・罰金7億円──地裁判決(3月22日) 実父の遺産を海外口座に隠し相続税約24億9000万円を免れたとして相続税法違反(脱税)罪に問われたタクシー会社「トモエタクシー」(大阪府守口市)元社長、西井良夫被告(62)の判決で、大阪地裁の川合昌幸裁判長は22日、懲役4年、罰金7億円(求刑懲役5年、罰金10億円)の実刑を言い渡した。相続税の脱税事件の罰金としては過去最高とみられる。川合裁判長は「極めて巧妙、計画的犯行で反省もしていない」と指摘した。西井被告側は即日控訴した。西井被告側は公判で「海外送金は父の指示で、脱税の意図はなかった」と無罪を主張していた。川合裁判長は、海外送金は西井被告が主導して行ったと認定。他の相続人にも海外口座の存在を隠していたことなどから「脱税目的の財産隠しだった」と述べた。
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相続税法68条によれば、「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」とあります。そして同条2項によれば、「前項の免れた相続税額又は贈与税額が五百万円を超えるときは、情状により、同項の罰金は、五百万円を超えてその免れた相続税額又は贈与税額に相当する金額以下とすることができる。」とあります。
この法定刑にてらしてみれば、懲役4年の実刑判決は法定刑の5年に近い量刑であり、相当重いといえます。
ただ、罰金刑については、相続税法によれば「免れた相続税額・・・に相当する金額以下とすることができる」とあるので、裁判所はしようと思えば、免れたといわれる「相続税約24億9000万円」に近い金額を罰金と課すことも出来たはずです。
なぜ、免れた相続税額の約3割強の罰金刑なのか。
公訴事実に対して否認して争っていたようですが、有罪判決でした。
報道を見る限りでは、亡父に言われるがままの海外送金であって脱税の認識、故意にかけるので無罪という主張を行っていたのではないでしょうか。
ただ、間接事実としては、亡父が意識を喪失した後も新たに送金を行っていること、他の相続人にも海外口座の存在を秘していたこと、申告にあたり税理士からの助言にもかかわらず海外口座を申告しなかったことといった事実から、故意、違法性を意識しうる事実の認識はあったと認定されたようです。
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刑事弁護人は、どのように争ったのでしょうか。客観的証拠を十分に検討できていたのでしょうか。客観的証拠からすれば有罪の事実認定は無理だといえる場合はともかく、証拠は十分だと思える場合、依頼者である刑事被告人にはその旨の危険性を当然、説明します。ただ、そうであっても本人が故意の不存在、無罪を主張する場合は、最大限の力を振り絞って戦います。
控訴審でいったいどのように争うのか。おそらく親族の証言、税理士の証言などが証拠としてもあったことでしょう。おそらくこの点の事実認定を争っていたのだと思います。
報道で注意しないといけないのは、有罪の場合、もっともらしく、「●●といった事実から有罪が認定された」と報道され、この事実認定の●●には疑問の余地はない当然のことだと思いがちです。しかし、刑事事件で争う場合、まさに●●の事実認定が証拠でどのようになされるのか、証人の証言は信用性があるのか否か、物証に検察官が主張するような信用性があるのかといったところが争われるのです。
トモエタクシーの元社長の相続税脱税事件についても控訴審でひっくりかえるかもしれません。
有罪判決は、確定するまで有罪ではありません。
一審判決の当不当は判決全文を読まない限り、分かりません。
ライブドアの堀江社長らに対する判決も、同じでしょう。
判決文の全文を読まずに、判決の中身、事実認定について当不当の意見を述べることは、弁護士ならしないと思います。
(おわり)
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