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2007年1月

2007年1月15日 (月)

コンプライアンスって何?~こうあるべきだということ~【松井】


 会社のコンプライアンス、法令遵守義務といった言葉が違和感なく新聞、雑誌等で使われるようになってきました。
 結局、当たり前と思われていたことが当たり前ではなかったという現実があり、「こうあるべき」ということが強く意識されるようになってきた結果かと思います。
 先日行われた独占禁止法に関しての大阪弁護士会での講義において、講師の白石忠志教授は、「ゾレン sollenn」と「ザイン sein」の議論から話を始められました。ドイツ語ですが、法律論においてよく出てくる話で、ゾレン、こうあるべき、といった視点とザイン、こうであるという現状追認的な視点を現します。



 裁判の世界、法律、法解釈の世界においても、最高裁判所においては「ゾレン」、こうあるべきといった視点でものごとを判断する傾向が強くなっているのかなという印象を受けます。

 
 少し古いものですが、判例時報18年9月21日号では、平成18年4月10日に出された、蛇の目ミシンの取締役に対する株主代表訴訟の判決が紹介されていました。
 ザイン、現状追認的に判断した一審判決、二審判決を覆し、取締役はこうあるべきだというゾレンの発想で、最高裁は、取締役の責任を認める逆転判決を出したものです(判時1936.27)。

 事案は簡略化すると次のようなものです。
 「グリーンメーラー」として著名な個人Aとその者が代取を勤める会社I社によって、同人らに筆頭株主になられてしまった蛇の目ミシンの当時の取締役らは、「大阪からヒットマンが二人来ている」などといったAによる脅迫に応じて、Aに対して300億円を迂回融資したといったものです。
 ちなみに判例解説によると「グリーンメーラー」の定義は、「株式を大量に取得し、高値で売り抜け又は発行会社にこれを高値で買い取らせて利益を得ようとする者」と記されています。
 
 一審、二審は、当時の取締役らには「外形的には、忠実義務違反、善管注意義務違反があったということができる。」と認定しながらも、「前記のごとき小谷のこうかつで暴力的な脅迫行為を前提とした場合、当時の一般的経営者として、被上告人らが上記のように判断したとしても、それは誠にやむを得ないことであった。」などとして、「取締役としての職務遂行上の過失があったとはいえず、被上告人らは商法266条1項5号の責任を負わない」と判示していました。

 まさに、当時、取締役の本人らがおかれた状況としてはやむ得ないよねという同情論に近いものを感じます。

 しかしこれに対して、最高裁は厳しい判断を示しました。
 「会社経営者としては、そのような株主から、株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には、法令に従った適切な対応をすべき義務を有するものと言うべきである。前記事実関係によれば、本件において、被上告人らは、小谷の言動に対して、警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできないから、小谷の理不尽な要求に従って約300億円という巨額の金員を光進に交付することを提案し又はこれに同意した被上告人らの行為について、やむ得なかったものとして過失を否定することはできないというべきである。」

 実際の当時の当事者の状況としては相当辛いものがあったであろうことは想像に難くありません。下級審では、「心労を重ね、冷静な判断ができない状況の中で」云々といった表現があります。
 
 ただ、そうであってもやはり、コンプライアンス、法令遵守、経営者たるもの、会社たるものこうあるべきという基準に従えば、現状追認ではなく、最高裁が判示するように、「警察に届け出るなどの適切な対応」がベストのあるべき選択肢だったことは否定できません。後からなら何とでもいえるという批判もあり得るでしょうが、経営責任というのはそれだけ厳しいものだということになるかと思います。



 「仕方ないよね」といった基準ではなく、「こうあるべきでしょう」といった基準に基づいた議論と意思決定が出来ない会社、取締役は、会社に損害を与えた場合、厳しくその経営判断の責任が追及されていきます。
 コンプライアンスも究極的には、取締役個人の価値観、行動基準に行き着くのでしょうが、注目を浴びているのが、組織的、体系的に法令遵守の有無をチェックできないかということかと思います。
 そこにおいては、会計的な視点と経営判断の適否といった視点が出てくるんでしょうか。
 蛇の目ミシンのホームページ(http://www.janome.co.jp/soshiki.htm)を除いてみると、組織図として、社長、取締役会のうえに株主総会が位置づけられています。そして、その間に監査役・監査役会が記され、社長の下には、「コンプライアンス委員会」が設置されています。
 
 日本軍の失策について研究した「失敗の本質」という名著がありますが、蛇の目ミシンはなぜこの件において、取締役らがザインの判断を行い、ゾレンの判断を行うことができなかったのか。
 世の中、コンプライアンスが語られる場合、失敗の研究に基づく、あるべき仕組みの研究がなされていることなのでしょう。他の会社がああしているからうちもその仕組みを真似てという程度では機能しなくって、各会社のそれぞれの過去の失敗事例を集めたうえで策を練らないと意味ないのではないかと思います。仏作って魂入れずかと。
 あなたの会社はどうですか? 
(おわり)

2007年1月 6日 (土)

「ん!?」~素朴な問題意識をもち、それを深めるということ~【松井】

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 いよいよ2007年が始まりました。
 新年の挨拶は大橋のブログに譲り、気持ちも新たに早速、新年初めてのブログの記事をアップしていきたいと思います。
 
 ところで、大橋の今年のキーワードは「シャープ」だそうです。私のキーワードは、「ぴかぴか」です。単純に、昨年末、流行の「おそうじ本」を読んだ影響です。磨かないといろいろと駄目になっていきますよね。
 ちなみに、ブログについて私個人のテーマとしては、「日々、あれこれ」といったものから進化し、自分の考えを記録し、まとめていくという点に重点が移っています。自分の考えについて整理するきっかけであると同時に、外部記憶装置といった位置づけです。なのでそれなりの分量をと意識的にしています。自分が面白い、興味深いと思って定期的にチェックするブログもそういったものが多かったので。これらについては、それこそまた改めて「日々、あれこれ」としてアップしたいと思っています。こういったことは日々、目前の業務においても絶対的にプラスになるものと信じています。「緊急ではないけど大切なこと」として実行していきたいと思っています。


2 
 さて、年末から気になっていたのは、12月28日の新聞記事です。「ネット出店料 一方的値上げなら 公取委 『独禁法抵触も』」(朝日新聞)
というものです。

 

「公正取引委員会は27日、楽天やヤフーなどインターネット商店街の大手運営業者が、出店業者に不当な手数料の引き上げなどを一方的に押しつけた場合、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)にあたる恐れがあるなどと指摘した調査報告書を発表した。これに対し、最大手の楽天は「現状の運営は独禁法に抵触しない」と述べ、ヤフーも「指摘のような運用はしていない」とのコメントを出した。」(
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200612270326.html)
 
 調査報告書 http://www.jftc.go.jp/pressrelease/06.december/06122702.pdf


 すっかり記憶力が衰え、何で読んだのか定かではないのですが、楽天が今ほど成長したきっかけは、当時、ネットのモールに出店するには何十万円という多額の出店料を要していた業界において、革新的に数万円という従前にくらべれば格安の出店料を設定した点が大きいという指摘をなるほどと思ったことがありました。
 数万円という出店料を魅力に思い、多数の店が楽天に出店し、出店数の拡大が利用者の拡大につながり、従前のネットモールを圧倒したという単純な流れで説明されていました。
 思ったのは、なぜそれまでのモールは数十万円に出店料を設定していたのか、なぜに楽天は「格安」での値段設定が可能だったのかということでした。ただ、記事の流し読みで敢えて自分でさらに突き詰めるといったことはしていません。



 そういう記事の記憶があったところ、ネットモールの業界で圧倒的なシェアを獲得した楽天が、「満を持して」といった様子で、安くしていた出店料を一方的に全体的に引き上げる行為をとったという記事を、また雑誌だか新聞だかで読むことがありました。
 この記事を読んだときの私の印象はまさに「満を持して」でした。値段を安くして顧客となる出店業者を誘引し、業界において圧倒的シェア、地位を確率して、出店業者の出店先の選択肢が限られたところ、自社への依存度を高めたところで、出店料を引き上げる。 単純な感想として、「えげつないなぁ」というものでした。



 といったおぼろげな記憶があったところで、冒頭の「ネット出店料 一方的値上げなら 公取委 『独禁法抵触も』」という昨年末の記事です。
 
 早速、調査報告書をネットで斜め読みしてみました(便利な時代です)。
 
 優越的な地位の濫用とは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)の2条9項の5です。
 「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること」

 これは「不公正な取引方法」とされ、公正取引委員会は、「当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を明ずることができる」(20条排除措置)とされています。
 またさらには、不正な取引方法によって利益を侵害されたり、されるおそれのある者は、差し止め請求を行えるし(24条)、損害をうければ、損害賠償請求も出来るとされています(25条)。
 
 ちなみに、優越的地位、自己の取引上の地位が相手方に優越していること(一般指定14項)とは、「A(相手方)にとってY(自己)との取引必要性があるということ」(取引必要性)をもって判断されると考えられています(49頁 白石忠志「独禁法講義 第3版」平成17年7月、有斐閣)。取引必要性とは、「Aにとって選択肢が狭まっており、2条4項にいう競争が制約されることを意味している」「2条4項にいう競争が十分におこなわれているか否かに着目しようというわけである」(同)とされています。
 
 また、濫用とは、「Aが負うべき合理的理由がない負担をYがAに負わせていると言えるか否かが、判断基準となる。」(上記50頁)とされています。

 公正取引委員会からの指摘に対する楽天の反論の根拠としては、1)優越的地位にあるわけではない、出店業者には他に選択肢もある、また2)出店料の値上げには合理的理由があるといったことの具体論になるのでしょう。
 実際には、例えば現状において司法で争われた場合、どのような判断となるのか興味深いところではあります。



 ところで、以上を踏まえて思ったのは、もっと自分の「素朴な疑問」を突き詰めていかないと駄目だなということです。まさに磨かれない・・・。
 「ん!?」と思ったことについて、それはどのように法的には分析できるのか、どのような具体的対処法がありうるのかを深めていかないと磨かれないままだとつくづく思いました。
 またこれは、自分のこうした「ん!?」という感覚も養っていかなければならないと危機感を抱いています。
 司法試験合格後、弁護士登録前の2年間の修習中、検察教官が言っていた言葉で印象深いものがあります。「問題解決能力よりも問題発見能力の方が大事だ。」といった言葉です。問題は、発見できれば、解決法は他の多くの知恵を借りて何らかの解決方法を見つけ出すことはできるが、そもそも問題を発見できなければ問題はそのままであるといったことです。

 素朴な疑問、「ん!?」については、自分の気づきだけでなく、相談者・依頼者の方の「ん!?」についても、理解・共有できなければ、そもそも弁護士として解決策も提案できません。
 問題発見能力、問題解決能力について、さらにぴかぴかに磨きをかけるべく、精進したいと思います。日々、反省です。


*写真は今年の干支、「猪」です。神社にぶら下がっていました。飛び出せ、猪!

(おわり)

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