弁護士の品格と戦略【松井】
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11月28日付けの日経夕刊「法化社会日本を創る」で紹介されていたエピソードでは、先日和解した旧UFJホールディングスと住友信託銀行との事業売却交渉決裂を巡っての訴訟の控訴審第1回期日でのこと、裁判所は住信側に言ったそうである。
「また大風呂敷を広げましたね。一流企業なら品格があるでしょうから、主張をしぼってください。」
住信側は一審で敗訴し、控訴にあたり賠償請求額を数百億円まで引き下げていたにもかかわらずということである。
同じく日経夕刊の追想録では、10月に亡くなられた、東京の大手弁護士事務所西村ときわ法律事務所の創業者の西村利郎弁護士の言葉を紹介している。
「知識が豊富でミスがないのは当たり前。重要なのは戦略があるかどうか。」
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先日、C型肝炎集団訴訟の弁護団に加わっている友人の弁護士から、大阪地方裁判所での一部勝訴に至る訴訟活動の内容について聞くことがあった。
まさに「品格と戦略」を感じさせる訴訟活動と評価されるべきものだったんだろうとの印象を受けた。
自省の意味を込めて思うことは、弁護士としての業務活動において、時に、いったい何を目的としているのか、着地点をどのように考えているのか掴めない場当たり的とも思われるような活動、あるいはまさに単なる罵詈雑言、口にした言葉に責任を感じていないとしか思えない言動があるといったことを見聞きすることがある。その弁護士が相手方となったとき、決して信用されることはない振る舞い。そのことでどれだけの利益を失っていることか。
弁護士1年目のとき、裁判所の弁論準備室において、相手方の弁護士が足早に部屋を去ったあと、ぽつんと残された裁判官が私に対して、怒りを抑えつつ呟くように言った言葉。「私はもうあの弁護士を信用しませんから。」この経験があったから、信用されるに足る振る舞いがいかに重要なのかということ、逆にいかに多くのものを弁護士として失うことにつながるのかを身に染みて分かった。悪い例は人のふり見て我がふり直せではないけど、分かりやすい。
しかし、品格と戦略を兼ね備えた弁護士活動とはいかなるものか、これも当然、「見て真似よ」しかあり得ないが、真似するのは本当に難しいと思う。
なぜなら、自分のことは自分ではなかなかよく見えないから。
相手方の弁護士の準備書面あるいは、法廷での振る舞い、あるいは和解での振る舞いを見て、感動したことはもちろん何度もある。
ある弁護士は、法廷から出て行くとき、誰も見ていなくても常に「法廷」に敬意を表し一礼をしていた。
またある弁護士は、手形訴訟での反対尋問において、証人に対してくらいつき、事細かに質問を重ね、証人が言葉をはぐらかさざるを得ないようにもっていき、その信用性をぐらつかせることに成功し、見事に和解にもっていった。なるほど、手形訴訟ではこのような尋問が効くのかと非常に勉強になった。
またある弁護士は、にこやかに反対尋問を行い、証人を油断させつつ、見事にその矛盾点を法廷でさらけ出させた。
当たり前だけど、自身が学ばないといけないこと、反省しないことはまだまだいっぱいある。
自分の準備書面はいたずらに言葉を浪費しているだけではないか、選んだ証拠は適切だろうか、相手方に対する反論は「罵詈雑言」に終わっていないだろうか。
こちらの弱点、相手の弱点を「鳥の視点」をもって検討出来ているのだろうか。依頼者の言い分を繰り返しているに過ぎないのではないか。効果的な活動、裁判官を説得するに足る活動が出来ているのか。
買ってまだ読んでいなかった「民事訴訟実務と制度の焦点ー実務家、研究者、法科大学院生と市民のためにー」(判例タイムズ社)という現役裁判官の瀬木比呂志判事が判例タイムズに連載していたものをまとめた本を読んでいる。
第10章 事実をどのように把握するか?
一 当事者本人の話をどのように聴くか?
二 距離をとって事実をみること(鳥の視点、虫の視点)
三 相手方の視点から事実をみること
四 主観的な確信の検証、法律家の常識・社会的常識との各照合
第11章 準備書面の書き方等
一 書面と口頭のプレゼンテーション、また、法廷におけるやりとりのわかりにくさについて
二 一般的な主張のあり方
三 準備書面作成のあり方
1 一般的留意事項
2 っまとめ準備書面の効用と最終準備書面
四 裁判官の主張整序のあり方と手控えの作成方法
意識しないと、何の根拠もない「経験」だけで仕事をしてしまいがちなところ、改めて自身を「検証」したいと思う。
(おわり)
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