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2006年12月 1日 (金)

「取引のまとめ屋さん」たち~節税スキームで皆がハッピー?~【松井】

1 
 日本語文庫版は2003年11月に出た古い本だし、元は1997年6月にアメリカで出版された本だけど、今改めて「クルーグマン教授の経済入門」(ポール=クルーグマン、訳山形浩生、日本経済新聞社)を読んでいる。
 10年以上前のアメリカの経済を分析した本だけど、なかなか面白い。というのも読んでいると、まさに日本がアメリカの状況の10年遅れなのかなといったことを実感するから。

2 
 例えば、「企業ファイナンス」の章。アメリカではこの章は第三版からは削除されているとのこと。訳注では、「最近はアメリカでじゃLBOとか下火だからだろうと思う」と書いてある。まさにそのとおり。しかし続いてこう書いてある。
 

「でも、ヨーロッパでは今LBOとか買収が増えてきてる。たぶん、日本にそれが飛び火するのも時間の問題だろう。21世紀初頭ってとこじゃない?金利も安いし、株が暴落してるし、そろそろやりやすい時期だと思うよ。それに某お役所は、M&Aを促進しよう!なんてことをマジに言い出しているし。」

 そして、最後、「くわばらくわばら」と(前281頁)。
 
 またアメリカの財政赤字と貿易赤字の問題について。日本に関しては、特に財政赤字について考えるとなかなか興味深い。
 40年ものの国債なんかを発行しようとしているようだけど、まさに「先送り」??? アメリカで、いろいろな問題を先送りした結果がどうなったかなどが書かれている。たとえば、責任のない自由を意味した「規制緩和」によってどんなことが起こったか。
 古い本だけど、読み直しても興味が尽きない。
 

 そんな中出てきた言葉が、「取引きのまとめ屋さんたち」(前282頁)。
 
「80年代は、企業ファイナンスですさまじい財産が築かれた時代だった。この時代の英雄は、アップルのスティーブ・ジョブスとか、ロータスのミッチ・ケイパーとかいった事業家たちだった。でもホントにでかい金をかっさらったのは、取引のまとめ屋さんたちのほう。19世紀末は強盗貴族たちの時代だったけど、80年代はそれ以上の意味でファイナンスの魔術師どもの時代だった。」(前同)。

 思い出したのは、今年の判例時報7月11日号(1929号)で紹介されていた法人税法に関する最高裁判決だった(最判三平成18年1月24日判決、法人税更正処分取消等請求事件)。

 判決文によれば事実関係は、ざっとこんな感じ。

Photo_2


 始めにメリルリンチさんが、不動産業者さんにこの取引き、スキームの勧誘を行った。節税になるよって。利用するのは、法人税法の31条、減価償却費の損金算入。映画は固定資産と扱われるけど、減価償却期間は2年。そこで、多額の黒字が出た事業年度において、減価償却費の損金算入を行い、利益を圧縮して法人税を節税しようとするもの。

 出来たスキームはどんなもんか?
 1 日本の投資家から、26億円を集める。
   こでれ「エンペリオン」という民法上の組合を作る。
 2 エンペリオンは、オランダ銀行から63億円を借り入れる。
 3 エンペリオンは借入金と合わせた金額のうち、85億円をジェネシスという海外の会社に支払い、
  映画を購入。
 4 このとき、エンペリオンは、オランダ銀行とメリルリンチさんに合計4億円あまりを手数料としてお支払い。
 5 そしてエンペリオンは、これまた海外の映画配給会社IFDというところに映画配給権を付与する。
 6 もちろんこれで終わりではなくって、エンペリオンは、IFDとの配給契約の際、「本件映画につき、
  題名を選択し又は変更すること、編集すること、全世界で封切りすること、ビデオテープ等を作成すること、
  広告宣伝をすること、著作権侵害に対する措置を執ることなどの権利を与えており、
  このようなIFDの本件映画に関する権利は、本件配給契約の解除、終了等により影響を受けず、
  IFDは、この契約上の地位等を譲渡することができ、また、本件映画に関する権利を取得することができる
  購入選択権を有するとされ、
  他方、本件組合は、IFDが本件配給契約上の義務に違反したとしても、IFDが有する上記の権利を
  制限したり、本件配給契約を解除することはできず、また、本件映画に関する権利をIFDの権利に
  悪影響を与えるように第三者に譲渡することはできないとされ」といったものだった。
 7 またエンペリオンとIFDとの間におけるIFDのエンペリオンに対する支払債務については、
  なんとこれまた海外のHBU銀行が保証してくれている!

  これはどういうことか!?
 

 「本件組合は、本件売買契約により本件映画に関する所有権その他の権利を取得したとしても、本件映画に関する権利のほとんどは、本件売買契約と同じ日付で締結された本件配給契約によりIFDに移転しているのであって、実質的には、本件映画についての使用収益権限及び処分権限を失っているべきである。」
と最高裁は判断してしまった。

 8 では、お金の流れはいかように?
 エンペリオンがジュネシスから86億円で買った映画は、CPIIという映画製作会社が制作するものであったけど、CPIIがジュネシス経由で86億円を受け取った。  
 そしてCPIIは、IFDとの間で本件映画に関する第二次配給契約を結んで、CPIIはIFDに対して、エンペリオンがオランダ銀行から借り入れた63億円相当額である6000万ドルを支払い、エンペリオンがIFDに許諾した映画配給権をCPIIが手に入れた。
 つまり、映画製作会社であるCPIIの手元に、86億円ー63億円=23億円が残った状況。そしてこのCPIIが自分が作った映画の配給も行う。
 IFDのもとに入った6000万ドルは、エンペリオンに対して、映画配給契約に基づくお金として支払ったもの。
 そして何と、

「本件組合が本件借入契約に基づいてオランダ銀行に返済すべき金額は、IFDが本件配給契約に基づいて購入選択権を行使した場合に本件映画の興行収入の大小を問わず本件組合に対して最低限支払うべきものとされる金額と合致し、また、IFDによる同金額の支払債務の大部分については、本件保証契約によりHBU銀行が保証しており」
という状況。

 こんなスキームを考えた、「取引のまとめ屋さん」メリルリンチさん、ご苦労様といった感想です。
 
 こんなスキームに対して、税務署のみならず最高裁の判断はというと、次のとおり。
 さっきの組合が映画の所有権を取得しているとはいえないという判断に続き、

 

「このことに、本件組合は本件映画の購入資金の約4分の3を占める本件借入金の返済について実質的な危険を負担しない地位にあり、本件組合に出資した組合員は本件映画の配給事業自体がもたらす収益についてはその出資額に相応する関心を抱いていたとはうかがわれないことをも併せて考慮すれば、
  本件映画は、本件組合の事業において収益を生む源泉であるとみることはできず、
  本件組合の事業の用に供しているものということはできないから、
  法人税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)31条1項にいう減価償却資産に当たるとは認められない。」

  ちゃんちゃん。
  
  「過ぎたるは猶及ばざるが如し」
  誰だ、こんなスキームを考えたのは?!
  で、誰が儲けたの?

(おわり)

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