契約締結交渉~相手の望みを考える想像力~【松井】
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ここ数ヶ月、契約の締結、つまり合意形成について考えさせられる事件がいくつかありました。
例えば、支払金額以外のことは何もわからないという「工事請負契約書」という名の「契約書」(いったいどんな建物作るっちゅうねん!)。そしてもう一つはありふれたともいえるはずの立退交渉における家主側の交渉の拙さ。
それぞれ、結局は合意を形成する過程の「交渉」の拙さ(まずさ)が諸悪の根元だと感じました。
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交渉の拙さ。それは例えば、極端には次のような話。
相続が発生し、もう何年も音信不通だった遠方の親戚が法定相続人にあたることがわかり、現に暮らしている被相続人名義の土地建物を取得したいと望んだとき、法定相続人全員との「合意」が形成されないと希望した結果を得ることはできません。
このように関係者から合意を取り付けないといけない場面で、最悪なのは、「私は、全てを●●さんに譲ります」といった書面を作って、これに署名、押印してくれと送りつけることでしょう。
このようなやり方で合意が得られるのか、結果はちょっとした想像力があればすぐに分かるはずです。
しかし不思議なことに、このようなやり方をされているのを目にすることがあります。 ある日突然、何の説明、情報開示もなく、これにハンコ押してと言われたら、人にどのような感情がわき起こるか。
通常、「怒り」でしょう。あるいは、不信感、猜疑心。いずれにしても、この人と前向きに協議しようといったプラスの感情が生まれる訳がありません。
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交渉の拙さというのは、結局、相手方に不信感を生じさせることだと思います。このために、一歩進むのもまさに石橋を叩く状態、最悪は渡たりかけた橋から引き帰えされるという流れです。
そこで当たり前に考えれば明かなことはただ一つ、交渉をうまく成立させ、こちらが望む結果を得るためには、
1 関連する事実、こちらの希望等をまずは相手に詳細に説明する。
2 そのうえで、相手の希望を聞く。
3 双方の希望に差がある場合、これをいかに縮めるのかという作業を行う。
至極当然のことですが、これに尽きるかと思います。これを一言で言うと、以前の羽賀研二(「誠意大将軍」を名乗っていた。)ではありませんが、「誠意」なのだと思います。
相手方が交渉に失敗し、依頼者が弁護士のもとに駆け込むとき、相手方にこの「誠意」が欠けていたということがほとんどです。
自ら「不信感」を植え付ける言動をとっているのです。
そして結局、弁護士が登場し、時間も労力もかかってしまう、しかも望んだ結果が得られないという事態にもなりうるのです。
労を惜しまず、初めから、交渉相手の言い分に耳を貸し、情報公開、情報提供(例えそれが、指摘を受けてからの事後の対応であろうとも迅速に)などを行っていれば、芽生えた不信感も払拭され、事柄がスムースに進むこともあるはずです。
数々の交渉をこなしてるであろう業者でありながら、全く不慣れな様子、何ら交渉のノウハウがないのを目の当たりにし、人ごとながら大丈夫だろうかこの会社はと心配したりして。社内教育が疎かにされているんだろうとしか思えません。
そういえば管財事件においても、担当者がもう少しうまく対応してくれていれば、こちらは訴訟を起こさなくても済んだのにという事件もよくあります。
訴訟に要するコストを考えたら、交渉担当者の交渉マニュアルの作成、教育の方がはるかに安上がりだと思うのですが。
どんな仕事であれ人間相手ですから、人間相手ということは、感情なく常に経済的合理性だけで行動意思決定がなされるわけではなく、「感情」が大きな要素を占める、無視できないということ、例えば相手の希望、ときには面子といったものにも配慮しないと事はスムースにはいかないということ。
当たり前のことのように思うんですが、なぜこれを相手方が出来ないんだろうか・・・。いつも不思議です。
日産のゴーン社長が大事に考え、実践していることは、「相手の話をよく聞く」ということだそうです。真理かと。
裁判も、双方の言い分をよく聞く裁判官の判決あるいは和解案には皆、納得することが多いです。
(おわり)
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