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2006年9月16日 (土)

恐怖心~刑事裁判というもの~【松井】

1 
 先日、10か月ちかく審理が行われた刑事事件の判決言渡しがありました。起訴事実は強盗致傷という法定の量刑が最低でも懲役6年という重大犯罪です。
 私が弁護人を務めた被告人に対して、検察官は懲役6年を求刑していました。
 結果、裁判所はというと、懲役1年6か月、執行猶予3年というものでした。
 3人の強盗の共犯事件として起訴されていたのですが、強盗の共謀について皆、否認し、裁判所も強盗の共謀は、事前においても、現場においても認めるに足る証拠はないとして、検察官の主張を容れなかったものです。
 しかしながら、傷害の幇助、窃盗という点では犯罪が成立するものとして上記の判決となったものです。


2 
 判決の理由の読み上げを聞く限り、裁判所は、捜査段階における被告人らのいわゆる自白調書、検察官が作成した調書について、その信用性を認めませんでした。
 事後に判明している状況をもとに「理詰め」で行われた取調べによる結果、被告人は、当時の自己の内心について任意に述べたものであるが、その他の事情も勘案し、その自白に信用性はないとしたものです。
 被告人らには捜査段階では弁護人は付いていませんでした。
 私や他の弁護人は、起訴されてから就いたものです。検察官から提出された被告人らの調書を見て驚きました。自白調書がしっかりと作られていました。しかし被告人から直接に事情を聞く限り、当時の内心はどうも違います。
 なぜ、このような調書が作られたのか。
 被告人に尋ねると、取調官から、●●なら△△でないとおかしい、△△のはずだと理詰めでの取調べを受けると、いや違う、□□なんですと説明しても分かってもらえない、自分でもうまく説明できない、結果、根負けするようなかたちで△△という自白調書に署名して指印をしたのですという。

 

 公判廷においては、被告人の本当の言い分、□□なんですということを尋問し、なぜ△△という調書ができたのか、しかしその△△という調書の中身はいかに他の証拠と矛盾するのかを反証、弁論していきました。
 もちろん公判立会の検察官は、公判廷での□□という言い分が自己の刑責逃れの供述にすぎない、捜査段階の△△が信用性が高いのだということを立証していきます。

 そして裁判所は、自白調書の信用性を認めませんでした。



 もしこれが反対の結論だったら。

 被告人は、確かに一部犯罪を犯したかもしれない、しかし自身に問われる身の覚えのないより重大な犯罪を犯したものとして刑罰を受ける。
 その恐怖を考えたら、出た結果に安堵すると共に判決言い渡し後、それまで緊張で突っ張っていたものの支えがはずれ重い何かに全身を押しつぶされるような感覚に襲われました。

 被告人が適切な弁護を受ける機会がいかに重要か。もしこの権利が保障されていなかったら。裁判官の理由の朗読を聞いていて、「死刑台のエレベーター」という映画を思い出しました。

 日本国憲法の37条3項では次のように定められています。
 「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」
 
 松本智津夫被告人の死刑が昨日、確定したという。

 控訴審の弁護人はなぜ控訴趣意書を期限に提出しなかったのか。その判断の是非を判断するだけの情報を私は持っていないし、弁護人として難しい判断を強いられた状況であったと考えますが、量刑はともかくとして、この死刑判決確定に至る手続きそのものは刑事裁判としてはあるべき姿ではないと感じます。
 
 犯罪は憎むべきものであり許せませんが、犯罪者を裁く手続きにおいてはその手続きに関わる者において、まさに人が人を裁く手続きなんだという畏怖の気持ちがなくなったら単なるセレモニーになってしまいます。
 
 今、ウッディ=アレンの「マッチポイント」という映画が上映されています。テニスのネット上のボールが、向こう側に転がるか、こちらに転がるか。それは全くの運。
 自分は今、こちら側にいるけど、何かの間違いであちら側にいくかもしれない。この畏れの気持ちがあれば、このような手続きでの判決確定について違和感をぬぐいさることはできません。

 また、まもなく「カポーティ」という「冷血」を書いたトルーマン=カポーティの映画も上映されます。その映画の台詞で次のような台詞があるそうです。「僕と彼(一家殺害犯人)は同じ家の子どもだ。違いは、僕は玄関から出て行き、彼は裏口から出て行ったということだ。」
 
 カポーティの「冷血」を読み直そうと思います。
  
(おわり)

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