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2006年7月26日 (水)

遺産分割事件 ~どこでもめるかで5年、10年~【松井】


 判例タイムズ1207(2006.6.15)号に、岡部喜代子教授の「遺産分割事件の職分管轄に関する一試案」というものが掲載されていました。
 今、なぜこの時期に一試案なのかというのも不思議な気がしたけど、代理人としてこの問題に身をおいて、事態を切実にとらえられるようになっていたので興味深く読みました。

 この一試案は、端的には、

従前より、遺産分割事件が家庭裁判所に、遺産分割関連訴訟事件が地方裁判所に係属することによる不都合、不便が指摘されてきた。本稿は、この問題を、地方裁判所に遺産分割関連訴訟が提起された場合に遺産分割事件(寄与分を含む)を附帯申立てとして申し立てることを許すという制度によって、改善する方法を提案するものである。(同39頁)
というものです。

 なるほど、確かに実効性のありそうな一試案だと思いました。



 遺産分割申立、寄与分を定める処分の申立の事件で、家庭裁判所が審判をだすとだいたい次のような様子で、事柄、項目を摘示されます。

【主文】

遺産に対する寄与分を○○円と定める

○○は遺産である○○を取得する。

○○は、○○に、遺産取得の代償として、金○○円を支払え。

手続費用のうち、鑑定人に支払った分は、これを○分し、○○負担とし、その余の手続費用を各自の負担とする。


【理由】
 一件記録、審問の結果、証言、鑑定の結果に基づく
 当裁判所の事実認定及び法的判断


①相続の開始
②相続人
③相続分


④遺産
 遺産として預貯金、株式、現金も幾らか存在した旨の主張をしているが、具体的な事実を認めるに足りる証拠はない。


⑤遺産の評価

相続時
審判時


⑥遺産に対する寄与分

 審問の結果、贈与したことが認められる。
 しかし、寄与の時から相続開始時までに相当の年月が経過していることなどを考慮すると、寄与と残存する遺産内容との因果関係は不明確であり、遺産に対する寄与分は、これを認めないのが相当である。


⑦特別受益

 以上の事情を総合し、生計の資本として金○○円程度の贈与を受けたものと推認する。 結局のところ、特別受益の金額を○○円と認める。

 特別受益にあたる金銭贈与の持戻しの場合には、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価しなければならない(最高裁判所昭和51年3月18日民集第30巻2号111頁)。


⑧本来的相続分の算定

 遺産の相続開始時における評価額合計は○○円である。
 特別受益は○○円
 寄与分は○○円


 みなし相続財産の価額は、○○円+○○円ー○○円=○○円となる。

 法定相続分は○○であるから、各人の本来的相続分は、次のとおりである。

 ●円
 ●円
 ●円


⑨具体的相続分

 遺産の審判時の評価額合計は○○円であり、本来的相続分の合計金額は○○円であるから、各人の具体的相続分は、次のとおりである。

 ▼円
 ▼円
 ▼円


⑩当裁判所の定める分割方法
 遺産の性質、遺産取得者の生活状況等を考慮し、○○。

以上


3 
 審判に不服があれば、高等裁判所に即時抗告できます。
 上記のように、一応、家庭裁判所は遺産の範囲などについても審判書において判断をすることは出来ます。
 しかし、その判断に「既判力」はないとされています。
 「既判力」とは、地方裁判所の判決などには認められています。どういうものかというと、字に現れたごとく、既に判断したことについては争えない効力です。

 この既判力が審判書にないということは、審判手続きにおいて、遺産の範囲について争って裁判所が判断したとしても、文句のある当事者は、改めて地方裁判所に遺産の範囲の確認を求める訴えを提起して、地方裁判所は異なる判断が出来るということです。

 なので、普通は、遺産の範囲に争いがあるとなれば、地方裁判所、高等裁判所で争って判断をもらってきてください、その判断を前提に、改めて家庭裁判所で遺産分割協議をしなさいということになります。二度手間を避けるためです。

 とはいえ、これでは当事者は、地方裁判所で遺産の範囲だけを争い、その結果が出てから改めて一から遺産分割協議を行うことになります。
 これが、先に述べられた「不都合、不便」です。
 
 争点は、遺産の範囲だけではありません。誰が相続人かといったことについて問題となったときも同様です。
 法律上は、訴訟事項、つまり家庭裁判所ではなく、地方裁判所等で通常の一般民事事件として争われるべき事柄は訴訟で解決するのが本筋ですよというものがあり、これについては全て同様です。

4 
 以上のような不便さ、不都合について、岡部教授は、地方裁判所で争われたなら、そのときに遺産分割協議の前提問題だけでなく、「附帯申立」というかたちで遺産分割協議そのものについても一気に地方裁判所で解決したらどうですかと提案するものです。
 
 岡部教授は記します。
 

遺産関係紛争は、多くの一般国民が直面する紛争であり、それは、かなり困難な事件となることがあり、一般国民が最も悩み心痛する事件であろうことは想像に難くない。このような事件について、長期に及び、また、紛争解決の困難性をそのまま放置することは、司法制度としてやはり何らかの欠陥があると思われてしまうのではなかろうか。司法改革の一環として人事訴訟はじめ、多くの改革がなされ、司法が国民により身近に、より使いやすいものになった。遺産関連紛争が従前どおり地裁と家裁で分離しているということは制度上の問題があると指摘されてもやむを得まい。

 
 相続問題が続くなかで自身が関わった弁護士あるいは裁判官に対する不信感を口にされる相談者、依頼者の方々に何人もお会いしました。
 担当した弁護士が知識不十分なのか、説明不足なのか、裁判官が記録を読まないのか、当事者の声に耳を傾けないのか、あるいはまさに制度上やむを得ないことなのか、証拠上、法律上、やむを得ないことなのか、理由はいろいろとあるかとは思います。
 が、理由はともかく、ただただその場に置かれた当事者の方の「心痛」を思うと、こちらも胸が痛む思いがし、なんともいえないやるせない気分になってしまうのです。相続事件で5年も10年も争わざるをえなかった方々の声を聞くと。
 トライ&エラーであっても、この制度上の問題は早急に手を打たれるべき問題だと考えています。
(おわり)

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