「それって何の役に立つの?」~何のための著作権~【松井】
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総論ばっかりで各論を記しておかないと意味がないといえば意味がないのですが、漠然と感じたことなどをメモ代わりにアップしておきます。いつかどこかで思わぬ時に、漠然とした思いが具体的な閃きとなって各論で役に立つことがあるので。
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「デジタル時代においては、情報の複写は呼吸と同じくらい自然なことだ。現行制度は複製のたびに著作権が問題になる。文化を発展させるという、制度本来の目的に照らしてみた場合、著作権法は時代遅れだ。」。2006年5月15日付け日経新聞でのローレンス=レッシグ教授の言葉です。
「十六日にメンバーの意見が一致したのは、NHKが持つ五十万本を超える過去の番組をネットで公開すること。受信料で作成した番組は公共性が高く、過去の番組を自由に見たいという消費者の声は強い。しかし、現在は番組の出演者などから個別に許可を得なければネットで配信できないことが制約となり、ほとんど公開されていない。」(同年5月17日付け日経新聞「NHK、ネットで過去番組」「配信の仕組み整備一致 通信・放送懇)。
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いつのどの新聞記事だったのかメモをとっていなかったので不明確ですが、つい最近の新聞記事で、絵本の読み聞かせについて、これは著作権違反、この場合はOKという一覧表を絵本関係の団体が作成し、公表したといった記事を見かけました。
記事を読んだときの感想としては、「あほちゃうか。」というものでした。
絵本を作った著作権者は、ありとあらゆる場面で著作権違反の場合について、それを問題視する、規制したい、著作権侵害で損害賠償したいといったことを思っているのでしょうか。
大規模な違法複製等によって著作者の収入の機会が奪われるのは確かに問題です。
しかし例えば、私立の保育園で、絵本の話を変えて読み聞かせをしたりといったような場合はどうなのでしょうか。いわゆる「目くじら」を立てるのでしょうか。
「お目こぼし」というとちょっとニュアンスが違って、語弊がありますが、そういった観念はないのでしょうか。
騒音や悪臭と言った生活圏侵害の問題の場合、裁判例は「受忍限度論」といったものを展開しています。
人と人が日常生活において関わって生きていかざるを得ない環境においては、多少の迷惑行為といえるものがあったとしても、「受忍限度」を超えない限り、違法とは言えないという議論です。ある程度は、「受忍」、しんぼうしなさいねというものです。「まぁまぁ、そう目くじらを立てなさんな」といったところです。
著作権の場合、著作者とその著作物の利用者との間で「お互い様」といえる関係には直には立たないかもしれません。もっとも、著作者において自己の著作物を全てにおいて完全にコントロール出来るわけではない、利用者における一定の自由を著作者に対する「受忍限度」として認めてもいいのではないかといった、荒っぽいですが、思いがあります。
NHKの過去の番組をネットで視聴できるようにという上記の記事では次のように記されています。
「著作権の制約が緩やかになれば、民放も自社の番組をネット経由で配信する新しいビジネスの機会が生まれる。」
これこそが、「文化の発展に寄与すること」に繋がるのではないでしょうか。
著作者等の権利について、砂を一粒一粒数えるように、全てを網羅・コントロールしようとする対応は、考えてみただけでも「息苦しい」思いがします。
レッシグ教授は言ったようです。
「デジタル時代においては、情報の複写は呼吸と同じくらい自然なことだ。」。
自分がデジタル時代に生きているからかどうかは分かりません。ただ、やはり絵本の読み聞かせについてコントロールしようとする姿勢を見て感じるのは、「呼吸」を他人にコントロールされるくらいの息苦しさを感じるということです。
著作権法という昭和46年に施行された法律が制定された目的は、「著作者等の権利の保護」ではありません。保護は手段であって、目的は、「文化の発展に寄与すること」(1条)です。
絵本の読み聞かせの規制、それって何の役に立つの?
素朴な疑問です。
(おわり)
追記
朝日新聞の記事
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200605120398.html
児童書四者懇談会作成 手引き
http://www.jbpa.or.jp/ohanasikai-tebiki.htm
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