法律は、作られる、変えられる~相続税の連帯納付義務~【松井】
1 以前、会社のことは株主総会で何でも出来るというようなことを書きました。それは国政についてもある意味、いえることです。法律については国民が作ろうと思えば作れて、変えようと思えば変えられるのです、ある意味。
2 相談を受けたとき、そんな条文があるのかと驚き、おかしいんじゃないのかと思っていた条文があります。
相続税法(連帯納付の義務)第34条 同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる。
相続人は「互いに連帯納付の責めに任ずる」のです。自分は支払ったけど、他の相続人で支払わない者がいるとき、その者の分についても責任が生じて支払わないといけないのです。
変だと思いませんか。
この条文については確か、裁判で争っているグループがあったはずです。大阪高裁では敗訴したようですが、その後の最高裁の判断はどうなっているのでしょうか。
3 日本弁護士連合会では、先日、この条文について「廃止すべき」との意見書を発表しました。
この動きがもっと大きくなり、条文廃止につながればと願っています。
4 おかしな法律、条文があるとき、確かに一つは裁判で争うという方法があります。最終的には違憲判決をもらうことになります。しかしそもそも法律って、国民の代表者である国会議員からなる議会で作られたものです。
いったん作っておかしかったら、そこでまた修正するなりしたらいいじゃんというのが基本だと思います。
国会、議員を動かすのです。そのために必要なもの。それがいわゆる世論です。世論を形成するために必要なもの。それが言論です。
でも実際のところ、いわゆるロビー活動だったりするのですが。
さらに議員を動かすのに手っ取り早い手段だと金銭を渡すとこれはまさに犯罪となります。
5 適当な法律を作る、作ってもおかしければ直す、あるいは削除する、これが基本だと思います。
現在、平成12年に施行された消費者保護法の改正作業が進められています。いよいよ団体訴権制度が導入されます。これがうまく機能するのか否か。改正の法案だけを見ていると、まさに消費者団体規制法のようですが、実は使える条文があるのかもしれません。 法律、条文は使われてこそでしょう。
ちなみに、最近聞いた話では、平成16年施行で改正された民事執行法の内覧制度について、大阪地裁レベルでは申立があったのはこの2年間でたったの1件だったそうです。まさに制度を用意したけど市場にそっぽをむかれた制度です。
また大改正としては、いよいよ「会社法」がこの5月から施行されます。弁護士も準備におおあらわというのが実態かと思います。
inputの勉強を疎かにする弁護士も市場からそっぽをむかれてしまうことでしょう。条文を使えない弁護士は、まさに「使えない弁護士」ってことですかねぇ・・・。
孫引きですが。加藤雅信教授が紹介している言葉です(判例タイムズ1197,25)
「法律学は、
『実現すべき理想の攻究』を伴はざる限り盲目であり、
『法律中心の実有的攻究』を伴はざる限り空虚であり、
『法律的構成』を伴はざる限り無力である」
(我妻榮「近代法における債権の優越的地位」(有斐閣、1953))
「理想の攻究」がなければ、連帯納付の条文も受け入れちゃうんでしょうねぇ。また改正された消費者保護法や新設の会社法の「理想」は何なのか。
おわり
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